というか、クリスマスにこれを投稿する私凄い()
第一話 出逢い
桜が舞う。
学生達は、新たな世界に期待を持ち、もう既にその世界の住人である在校生達は、新しい学年に上がることに緊張する季節。
そして、そんな学生達が門を潜る、モダンな雰囲気のコンクリート造りのこの私立義浦中学校も、例外なく彼ら彼女らを迎え入れていた。
そんな学生達の中に、少女は居た。
ボブカットにした黒髪を揺らしながら、舞い散る桜を水色、空色の眼で見つめる。まだ慣れぬブレザーに袖を通した新入生の少女の名前は、
この私立義浦中学校に通い始めた新一年生である。
「⋯⋯僕も、中学生か」
感慨深げに零した彼女の姿は、落ち着いていて、一か月前まで小学校最高学年であった少女とは思えない。しかし、その瞳には、何かへの熱意が宿っているのは確か。そして、新しい生活への期待を胸に宿しているのも確かである。
そんなともすれば黄昏れる彼女に、人影が後ろから飛び付いた。
「コ〜ウっ!」
「ひゃっ!? ⋯⋯って、なんだ。ミキか」
コウの返しに、後ろから飛び付いた茶髪の快活そうな少女、
「なんだとはなんだ。なんだとは〜!」
「ふふふ」
「ごめんごめん。リオもおはよう」
頬を膨らませるミキに笑みを零した黒髪の冷静そうな少女、
彼女達三人は、幼稚園、小学校と同じ所に通った、言わば幼馴染というやつである。
二人の姿に、コウは堪らず笑みを零した。
その笑みに、ミキとリオの二人は疑問符を浮かべる。
「いや、小学校と変わらないなって」
「まーねー」
「それは、確かに。でも、人ってそう簡単に変わらないもの、でしょ?」
「それもそうか」
納得した様子のコウを見て、リオはまた「ふふふ」と笑った。それに釣られて、ミキも笑い、コウも笑う。
下駄箱を過ぎ、教室まで続く廊下で、ミキは二人に提案した。
「ねね、後でカラオケ行かない?」
「うーん⋯⋯良いよ。特に予定もなかったはずだし」
「私も大丈夫」
「じゃ、決まり! 今から、楽しみだなぁ!」
まだ、入学式も終わっていないと言うのに、楽しそうにするミキを見て、コウとリオは顔を見合わせて苦笑した。
◇
そして、入学式も終わった帰り道。
少女達は、小学生時代からよく行くカラオケ屋に向かって、商店街を歩いていた。
「にしても、校長の話長かったよねぇ」
「確かに、僕もそう思うよ」
「小学校の時と、言ってることほとんど一緒だしね」
入学式の長さに不満を零すのは、年相応の少女らしいと言える。
取り留めもない話が、少女達の間で続く。それは、ニュースの話であったり、バラエティ番組の話であったり、身内の話であったりと、様々だが、少女達からすれば、それくらいがちょうど良いのだ。
そんな時である。
彼女らの耳に、唐突にサイレンの音が届いた。
『
平々凡々の、やや活気づいた午後の商店街に、けたたましくサイレンの音と警報が鳴り響く。
商店街の人間達は、その警報に弾かれるかのように駆け足でシェルターのある方角に向かっていく。
そんな、見慣れた光景に、三人組の少女は予定がキャンセルされたことに溜息を吐いた。
ミキは、辺りを一瞥しながら、隣を歩くコウに話しかける。
「だってさ、コウ。入学式終わりだってのに、タイミング最低だよね。カラオケ行けなくなっちゃったけど、どうする?」
「そりゃ、避難するよ。僕だって、死にたくないし。だけど⋯⋯」
コウの言い淀む姿に、「やっぱり」と言ってリオはゆっくりとコウの方を向いた。その顔には、心配の色が見える。
「まあ、私達は先に避難してるから、コウもさっさと避難しなよ?」
「てことで、見回りガンバ!」
「ありがとう、ミキ、リオ。じゃ、また後で!」
そう言って、シェルターの方に歩き出した二人に手を振って、コウは避難する市民の波に逆らうように走り出した。
目指すは、三年前より全世界に突如として現れた特殊指定災害『アンノウン』、その発生地点と思われる方角。いや、正確には逃げ遅れた可能性のある人々がいる方角である。
◇
まだアンノウンによる破壊を免れている住宅街。
コウは、注意深く辺りを見回しながら、誰かが逃げ遅れていないかを確認し続ける。
これは、彼女の生来の性格であり、彼女自身、どうしようもないほどに人助けを優先してしまう。
それを、彼女は悪いことだと思ってはいないし、正しいことだとすら思っている。だが、彼女を心配してくれている人間が、少なくとも家族と友人二人がいることは事実で、それが、彼女の自己犠牲の精神に歯止めを掛けていた。
「⋯⋯いない、みたいだね。じゃあ、僕も⋯⋯」
そうして、いつも通り、見回りを終えて、自分もシェルターまで避難しようとしたその時である。
コウの耳は、誰かの助けを求める声を、聡く聞き取った。
「どこだ! どこにいるんだい!?」
その声の聞こえた方、飛来した市営バスによって廃墟と化した一つの家へと、コウは駆け込んだ。
そして、頭から血を流し気絶している母親と思しき女性と、その傍で泣きじゃくる一人の幼い少女を見つける。
「君、大丈夫かい!?」
「お姉ちゃん⋯⋯お母さんが⋯⋯お母さんがぁ⋯⋯!!」
今の少女では、真面に会話も出来ないだろうことを理解し、コウは少女の母親の様子を確認する。
「⋯⋯酷いな。早くしないと、間に合わない⋯⋯」
コウは、同年代の中でも恵まれた体格に感謝して、よろけながらも女性を背に負う。そして、未だ泣き止まぬ少女の手を掴んで、その場からシェルターの方まで歩き出した。
数十メートル進んだ所で、少女の様子を確認すれば、未だ混乱はしているものの、幾分か冷静さを取り戻しつつあった。その姿に、コウは安堵のため息を漏らす。
体力は人並み以上にはある自負があったが、人を背負っている状況ではそれも誤差でしかなく。コウは、息も絶え絶えに進み始める。
その時、少し汚れたコウの制服の裾を少女が引っ張った。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なんだい?」
「なんで、助けに来てくれたの?」
少女のその質問に、コウはすぐには答えられなかった。
いや、答えならばある。だが、それが万人に受け入れられるものでは無いことも、今までの経験から理解していたのだ。
しかし、少女はそれを聞くまでてこでも動きそうにない。渋々、コウは質問に答えることにした。
「僕はね。誰かを救えるような人間になりたいんだ」
「誰かって、誰でも?」
「そう。誰でも。悪人であれ、善人であれ、僕は僕の手の平で救える命を救いたい。⋯⋯ごめんね、ちょっと難しい話だったよね」
コウの言葉に、最初は理解が及ばないと言った顔をしていた少女であったが、不安そうにするコウを見て、笑顔を見せた。
「ううん! お姉ちゃんのお陰で、わたしもお母さんも助かったの! だから、お姉ちゃんは良い人だよ!」
「⋯⋯ありがとう」
「どういたしまして」、そう言って歩き出した少女を見て、コウは何か温かいものを感じた。
そうして、歩き出そうとした時である。
コウは、遠くからこちらに迫る何かの音、ザワつく胸の音を聞き付ける。
「⋯⋯ッ! 危ないっ!!」
「え?」
咄嗟の判断であったが、それは幸をそうした。
母親を傷付けないようにしながら、少女を庇い、空から
住宅街のコンクリートを削り飛ばし、電柱は少女達の真隣に着地する。
コウは、少女の母親を下ろし、少女に安否を尋ねる。
「大丈夫?怪我はない?」
「う、うん。ありがと、お姉ちゃ⋯⋯お姉ちゃん!後ろ!?」
「え?」
コウが後ろを向いた時、そこには空を羽ばたく黒いシルエット、巨大な龍を象ったナニカがコウ達の方を見つめていた。
「⋯⋯アン、ノウン⋯⋯」
「どうしよう⋯⋯お姉ちゃん、どうするの!?」
混乱する少女を他所に、初めて見るアンノウンの姿に、コウは困惑を隠せなかった。
そんなコウの姿を知ってか知らずか、少女はコウの腕を引っ張る。
「⋯⋯どうすれば⋯⋯」
それに我に帰るものの、この窮地を脱することの出来る冴えた方法があるわけでもない。
万事休す。こちらへと火炎迸る開いた口腔を向けるアンノウン。それを見つめ、何故か冷静な思考で、コウはそんな漠然としたことを考えていた。
「⋯⋯まだ、終われない。まだ、助けていないぞ! 僕は!!」
叫ぶ。想いのままに。
彼女にとって、誰かを救うことこそ、彼女の渇きを満たすものであり、全ては自己満足のため。だが、偽善であろうと彼女の救いたいという一途な想いは本物であると、そう自負している。
だが、アンノウンに慈悲はない。彼女のような偽善にして無償の慈悲すらも、存在しはしない。
「───なら、私がその想いを引き継ぐ」
否、
アンノウンとコウ達との間に立ち塞がったその飛翔する人影は、空のように澄んだ色をした鎧を身体に装着した少女。右手には、赤いラインの入った金色の西洋剣を持ち、アンノウンへと逸らすことなく向けている。
いつか小説で読んだ、烏の濡れ羽色をした髪というのはこれを言うんだろう。
どうしてか、そんなことを考えていた。
それ程までに、長い黒髪を振り払い、アンノウンを睨み付けるその姿は、美しかった。
「⋯⋯行くぞ、『ヴォーティガン』!今日こそ、お前を殲滅する!」
『GaaaAaa!!!』
コウ達へと向けて放とうとしていた火炎を、『ヴォーティガン』と呼ばれた巨龍型アンノウンは、現れた少女へと解き放った。
少女は、それを一瞥し手に持った剣を掲げ、一閃する。
「うぁあ!」
それは、焔を切り裂き、風を巻き起こす。風は、気を裂き、ヴォーティガンの体勢を崩す程。
ヴォーティガンは、ならばとばかりにもう一度火炎を吐き出す。それすらも意に介さず、少女は黄金の剣で斬り捨てた。
さながら、夢物語、神話を見ているかのような突拍子もない体験。コウは、知らず知らずの内に言葉を漏らしていた。
「凄い⋯⋯」
『GAaaaa!!』
大気が揺れる。今度は、先程までの、火炎とは威力が違うと、素人目にも簡単に分かった。
そして、それを迎え撃つ少女も、先程までとは違った動きをする。
彼女が黄金の剣を振り払うと、ソレは、刀身を先から二つに分ける。そして、彼女は柄を両手で握りこんだ。
『GuAaaa!!!』
「『エクス⋯⋯ッバースト』ォ!!!」
ヴォーティガンから放たれた巨大な火球と、突き出された黄金の剣から放たれた赤い閃光が、衝突する。
住宅街のありとあらゆるものを吹き飛ばしながら、それは拮抗する。しかし、コウの眼には焔が幾分か優勢なように見えた。
「く⋯⋯うッ!?」
『GAAAAAAA!!!!』
少女の整った顔が苦悶に歪む。
それと同時に、彼女の身体に纏われている鎧に、小さくないヒビが入る。
それを理解しているのであろう少女の顔に、焦りが見えた。
そして⋯⋯
『GYyAaaaaa!!』
「ぅぁぁあ!!!」
パキッという小さな音が辺りに響く。それを皮切りにして、少女の鎧にヒビが入っていく。
それは、とうとう少女の鎧を破砕させるに至った。鎧が砕け散り、糸が切れたかのように脱力して空から落ちる少女を光が包む。
光が晴れたそこには、学生服に身を包む少女の姿があった。
先程の鎧姿であれば兎も角、今のあの姿では地面に叩きつけられれば間違いなく死んでしまう。
それを一瞬の内に理解したコウは、一も二もなく駆け出していた。
「間にッ合えええ!!」
その努力は、間に合った。
体勢を崩しながらも、コウは両手で少女をしっかりと受け止めた。
足と腕に鈍い痛みが走るが、それよりも彼女を救うことが出来たことに安堵する。
だが、そんな努力と成果を嘲笑うように、ヴォーティガンはもう一度口腔を開いた。
今度こそ終わり。
轟音と共に解き放たれた焔を眺め、そんな言葉が脳裏を過った時、少女の着けていた銀の指輪にコウの手が触れ───
「───Half Excalibur Start-up⋯⋯!」
コウは空色の眼を見開き、唐突に頭に浮かび上がった
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