承女救済セイヴァーズ   作:B・R

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いじめの描写、途中まで書いて、死ぬほどくだらない上に死ぬほど萎えたので、全消しした為、投稿遅くなりました()
熱い展開にそんなクソみたいなもの入れられるか。鬱物なら、鬱だけでいくらでも書くわ()


第十一話 悩み

どれだけ歩いたか。

雨に濡れながら、ゆったりとした足取りで、ユウヒは道を歩いていた。ただ、目的地も無く、歩きたかった。考え事に耽りたかった。ただ、それだけ。

『コウちゃんは大丈夫だろうか』『これから先、どうやって学校で生きていけば良いだろうか』『実家の経営は大丈夫だろうか』『こんな自分が、生きていても良いのか』

 

自分の油断のせいで、今も生死の境を彷徨っている想語コウという少女。明るく、良識的かつ後腐れない性格で、人たらしというのはああいうタイプなんだろうなと、直感的に理解出来た。

そんな彼女と過ごしたのは、ほんの少しだけだったが、それでもその関わりあいは思い出と呼んでも差し支えない。

何を大袈裟なと笑われるかもしれないが、今と対比して、彼女との語らいは輝いていた。

そして、今まさにそれは失われようとしている。

それは、自らの責任にほかならなかった。

 

学校では、いじめを受けていた。

どうして、そのようなことをされるのか。理由は思い浮かばないが、同級生の彼女達、その中でも生徒会の一人である少女が、私を指さして『生意気だから』と宣った時は、納得は出来なくても理解は出来た。だから、私はいじめを受けているんだろう。

殴る蹴るなどの暴力はない。だが、入学当初は良くしてくれていたクラスメイト達も、最近では冷たくなった。それに、ものが無くなったりというのも横行している。正直いって、辛かった。

だけど、それは全て、己の不注意。自業自得なのだと思えば、まだ笑顔を作れた。

 

実家である高知で両親の営んでいる定食屋についても、心配であった。

幼い自分に、心配をかけまいと振る舞う両親であったが、それでも子供目からしても、経営が苦しそうなのは目に見えていた。仕送りも必要十分以上は断って、WayMarkから支給されている相当な額の給料のようなものを、仕送りしようかとも考えた。だが、怪しまれるのは不味い。国家との制約で、WayMarkやセイヴァーズ関連について話すことは出来ないのだ。バイトと言う事も難しい。使い道のないお金だけが貯まるが、それを誰かのためには使えなかった。

 

こんな自分が、生きていても良いのか。

それが、ユウヒの脳内で、今までも幾度となく繰り返されてきた問い。だが、その問いは、毎回、あの人の代わりとなって世界を救う為に生き続けるという、そんな答えで無視してきた。

だが、今回はそうもいかない気がした。

もう、心が納得出来ないのだ。

 

ユウヒは、取り留めもなく頭の中を駆け巡るだけの考えや心配事を、今は、ただただ煩わしく思いながら、見覚えのある一軒家の前に立って、歩みを止めた。いつも、こうして思い耽りながら、歩いているとここに辿り着く。

 

「また、来ちゃったな⋯⋯迷惑じゃなかといいけんど⋯⋯」

 

ユウヒは、インターホンを押すと、ため息を吐きながら応答を待った。

すると、ドタドタという音が扉の向こうから聞こえ、次いでゆっくりと扉が開かれる。

 

「こんにちは⋯⋯十村さん」

「あら、ユウヒちゃん⋯⋯どうして傘を差していないの!? と、とにかく、中にお入り」

 

出迎えた老婆は、雨に濡れて俯くユウヒを見て驚き、ユウヒを家の中に招いた。

この老婆の名前は、十村(とむら)紗栄子(サエコ)。少し、いや、かなりユウヒと関係の深い人物。

木造の和風建築な家の中に案内される。これまでにも、好意に縋るように何度か訪れたことがある。ユウヒにとっては、東京に来てから、寮部屋と司令室の次には訪れた場所だ。

 

「これで、髪の毛拭いて、あとお着替えも⋯⋯あの子のは⋯⋯駄目よね⋯⋯じゃあ、私のお古で⋯⋯」

「べ、別に⋯⋯」

 

あの子、その言葉にユウヒが表情を強ばらせたのを見て、紗栄子は自らの部屋に向かい、古めかしい服をいくつか持ってきた。

 

「じゃあ、これに着替えて。お洋服も洗濯してあげるから」

「い、いえ⋯⋯服は良いで「何言ってるの、風邪ひいちゃうでしょ? 好意には甘えるものよ。ほら、早く」⋯⋯はい」

 

ユウヒは、彼女のこの言葉に弱かった。

どんな苦しみも自分の中に収めて、誰にも甘えず、自分の力で生きる。そんなことを考えていたとしても、甘えてしまう。

 

そうして、紗栄子がユウヒから受け取った服を洗濯機に入れて戻ってくると、ユウヒを居間の畳に置かれた座布団に座らせて、お茶を注いだ。

遠慮がちに受け取ったそれを一口含むと、冷えていた体が温まるようであった。

 

「⋯⋯それで?どうかしたの、ユウヒちゃん」

「⋯⋯話しても、良いんですか?」

 

伏せ目がちなユウヒの質問に、優しく微笑むと、紗栄子は口を開く。

 

「多方、WayMarkさんとか、アンノウンとか⋯⋯セイヴァーズのこと、でしょ?」

「⋯⋯はい」

「あの子が死んでから、もう一年と少し経つけど、こんなに塞いでる貴女は久しぶりよ。話してごらんなさい」

 

ユウヒは、ここ一週間の出来事を、語り始める。

それは、新しく入ってきた少女のことから始まり、小さな出来事から、昨日のSレートアンノウンのこと。そして、それによって傷を負ってしまったその少女のことまで、難しいことは噛み砕いて、全てを事細かに語った。

 

「⋯⋯なるほど、ねぇ⋯⋯通りで、ユウヒちゃんがこんなにも落ち込んでいるわけだわ」

「⋯⋯」

 

俯いて震えるその姿は、罰を待つ罪人のようであり、怯える少女そのものであった。

この老婆は、知っていた。

自らを影から身を張って守ってくれるセイヴァーズと呼ばれる存在が、彼女達のような未だ幼くいたいけで、弱くか細い少女達でしかないということを。

 

何より、自らの孫がそうであった(・・・・・・)、この老婆は、司令室の面々を含めた中でも、誰よりもそれを理解しているだろう。

 

「⋯⋯ユウヒちゃん、太陽が出てきたら、彼処、行きましょうか」

「⋯⋯」

 

あの日から毎日、欠かすことなく出向くあの場所。紗栄子は、いつもユウヒが来る度に、彼女をそこに誘っていた。

ユウヒは、その誘いに小さく頷いた。

 

 

ふわりと浮かび上がるような感覚に晒されて、コウは目を開いた。

視界に入ったのは、淡く虹色に蠢く世界。

 

「もしかして、死んだ?」

『死んでなんて、いないわ』

 

コウの質問に答えるように現れた女性のシルエット。コウは、それに言い様のない懐かしさを覚えた。

 

『だけどね、コウ。もう少し頑張らないと、貴女は死んでしまうの』

「僕が、死ぬのか。でも、ユウヒを助けられたんだ。誰かを庇って死ぬなら、僕の命も捨てたものじゃ」

 

捨てたものじゃない、そこまで言おうとして、コウの言葉は遮られた。シルエットが、コウの唇に人差し指を当てて、その先を止めたのだ。

 

『駄目。まだ、彼女は救われていないわ』

「え?」

『だって、ほら。彼女は、苦しみを抱えたまま。ミキちゃんだって、そう』

「ミキも?」

 

女性の言葉に合わせて、コウの目の前には、雨に濡れながら俯くユウヒの姿や、リオに背中を摩られて嗚咽を漏らすミキの姿が浮かんだ。

コウは、理解が追い付かず、膝をついて項垂れた。

 

「どう、して⋯⋯」

『どうして? お母さん、それも分からないような子供に育てた覚えはないんだけど⋯⋯』

「だって、母さん⋯⋯僕は、死ぬまで命を張ったんだよ? それでも、まだ救うのに、足りないの?」

『ええそう。貴女一人の命を張ったところで、問題を先延ばしにするか、新しい問題を生み出すくらいしか出来ないの』

 

その言葉は、深く、コウの胸を穿いた。

まるで、ゴルゴーンの手刀のように。

コウの胸へと、鋭さで痛みを伴わずに空虚な穴を開けた。

 

『だからね、コウ。貴女は、もう少しあとのことも考えなさい。貴女の救済は、まだまだ終わっていないのよ。ええ、それこそ、始まったばかりなの』

「⋯⋯まだ始まったばかり⋯⋯」

 

その言葉は、ストンと、コウの中に収まった。

まるで、その言葉こそが真理であったとでも言うかのように。

 

「⋯⋯ああ、なら、戻るとするよ」

 

そして、この想語コウという少女は、それを受け入れてしまう。

何故なら、救うことこそが、想語コウという少女の存在意義であり、与えられた呪いなのだから。

 

『そう。なら、これを持っていきなさい』

「これは?」

『これは、私の⋯⋯アーサー王の使っていたもの。持ち主を不死にするとまで言われる遺物。壊れてしまっているから、不死にする程ではないけれど、今の貴女には必要なもの』

 

シルエットが差し出したのは、皮と鉄で出来た何か。壊れてしまっていて、使えそうにも無いが、それでも、力を感じることが出来た。

 

「行ってきます、母さん」

『ええ、行ってらっしゃい。お母さん、応援してるわ』

 

その言葉と共に、コウの視界を光が包み込んだ。

 

 

今日も、医務室に訪れていたリンゼと省吾。

見詰めるのは、目を瞑ったまま横たわる少女の姿。

 

「⋯⋯コウ⋯⋯」

「う⋯⋯うぅ⋯⋯」

「ッ!? 榊原さん!」

 

コウの様子を注視していたリンゼは、初めて呻き声を上げたコウを確認して、傍で控えてモニターをチェックしていた涼に声をかけた。

涼は、コウの様子を確認し、モニターをもう一度チェックして、目を見開く。

 

「コウさん、バイタル戻りました!」

「何っ!?」

「皆に連絡を入れてくる」

 

コウのバイタルが回復した。その言葉に、省吾は驚きと喜びを隠せなかった。

リンゼは立ち上がり、コウが死を免れたことを他の面々に伝えようと、デスクの上に置いてあった携帯を引っ掴んで、医務室を出た。

ほぼ同時に、榊原がさらに驚きの声を上げる。

 

「それと、今この場に、源物(Origin)の反応を確認しました! 波形観測、アーサー王の鞘! コウさんの中からです!」

「何だと!?」

 

普通、セイヴァーギアの素材である遺物、源物は、遺跡などから発掘されることがしばしばあるが、誰かの体内から確認されるということは前例が少ない。それも、その前例というのは持ち主の子孫であったり縁者の子孫であったりと、少なくとも関係性があるはずなのだ。

だが、想語コウは、その血筋ではない。アーサー王の血筋、王家に名を連ねる者ではないと、断言する。

だからこそ、これは珍しいことであるのだ。

 

「⋯⋯史上初の、三つ目を持つオリジンホルダー⋯⋯」

「それも、まさか立て続けに同じ人物に縁のある物を持つなんて⋯⋯」

 

そうして、立て続けの驚愕の事実に驚きのやまない二人は、さらに驚愕することになる。

ベッドに横たわるコウの顔を覗き込んでいた榊原の眼と、空色の眼が、その視線を交じ合わせる。

 

「⋯⋯あ⋯⋯れ⋯⋯?」

「お、起きても大丈夫なのか!?」

「そ、そんなはず!? 嘘っ!? 傷が、全部癒えてる!?」

 

二人は、今日何度目かの驚愕に目を見開く。榊原がチラリと貫頭衣を捲ると、痛々しく残っていた傷が、跡形もなく消えているではないか。

 

「⋯⋯これが、不死の鞘の力⋯⋯」

「⋯⋯あの、僕の服は、ありますか?」

「あ、ああ」

 

ベッドに腰掛けたコウが、省吾に問い掛ける。

省吾は、デスクの上に畳んであったコウの服を取ると、コウに渡す。

受け取ったコウは、すぐさま着替え始めようとして、榊原に止められた。

 

「コ、コウさん!司令がいるのに、なんで着替え始めてるんですか!?」

「時間が惜しい⋯⋯着替えさせてください」

 

コウの眼から、揺るぎない意志を感じ取った榊原は、説得するのを諦め、ため息を吐いた。

こういうタイプが、セイヴァーズになりやすいんだろうな。そんなことを、考えながら、榊原は省吾の方を向く。

 

「⋯⋯もう。司令、少し出ていてください」

「お、おう」

 

退室を促された省吾は、おずおずと医務室を後にする。

コウは、榊原に礼を行って着替えを再開した。

 

「行っても良いですけど、絶対に無理はしないこと。どういう訳か血も戻ってるみたいだけど、絶対に無理をしないこと」

「分かってる。別に、戦いはしないよ」

 

「それなら良かった」そう言って優しく微笑んだ榊原に、もう一度、今度は心配してくれたことについて一言礼を告げる。

そうして、着替えを急いだ。




感想、誤字脱字報告等々お待ちしております。感想は、大正義。
次回で一山終わると良いなぁ⋯⋯。
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