承女救済セイヴァーズ   作:B・R

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色々悩んでいたら、遅れました()
殴り合いは、また今度の展開に取っておこうかな()


第十三話 急展

「あら、その手紙は?」

「あ、いえ⋯⋯」

 

紗栄子が手続きを済ませて墓石の前まで来ると、そこには、涙を流して手紙を見詰めるユウヒの姿があった。

 

「⋯⋯なるほどね。あの子の手紙⋯⋯あの子らしいわ」

「?」

 

一人納得した紗栄子の様子に疑問符を浮かべるユウヒを他所に、紗栄子は優しく微笑んで、手提げの中からお供え物を取り出して、墓に供えていく。

ユウヒは、慌てて手伝おうとして、手紙をそっと墓の上に置こうとする。だが、紗栄子は、それをやんわりと手で制した。

 

「て、手伝」

「いいの。貴女は、その手紙を大事にして」

 

そう言われてしまっては、ユウヒも引き下がるしか無かった。

何より、手紙を読んで、忘れていた何かを思い出した余韻に、不躾ながらも浸っていたかった。

すると、紗栄子がお供え物を取り出す中、徐に口を開く。

 

「⋯⋯私ね、最初は、貴女のことが、ほんの少し、ほんの少しだけ恨めしかったの」

「⋯⋯」

 

悲しげに、自嘲するようにそう言う紗栄子は、本当にその時の己を嘲っているらしかった。

だけれども。ユウヒは、それを咎めることも、何かを言うことすらも出来はしない。

 

「息子と、その嫁を失って、アオイを引き取って。二人の遺産と私の年金で、大事に育ててきた」

「⋯⋯っ」

 

泣き出しそうだった。

俯いて肩を震わせる紗栄子だけではない。ユウヒも、心がはち切れそうな想いに、目尻に涙を溜めていた。

 

「そんなアオイを奪った貴女を、怨み、憎々しい貴女を、私は、どうしてか許せてしまった。なんでだと思う?」

「⋯⋯わかりま⋯⋯せん」

 

分からない。その言葉に、偽りはなかった。本当に、分からないのだ。

自分は、恨まれ、憎まれるようなことをしこそすれ、彼女から許しを得られるような、そんなことをした覚えはなかった。いや、出来なかった。

混乱し、呼吸が荒くなるユウヒを落ち着かせるように。紗栄子は、ユウヒの頭を撫でながら、己の胸の内を語る。

その声音と、撫でる手からは、慈しみが感じられた。

 

「⋯⋯だけどね。毎日の様に家にまで来て、泣きながら謝って、夜になっても謝り続ける貴女を見て、次第に、私が一番、どうしようもなくて憎まれるような奴なんじゃないかって、そう思ったの」

「どうしてですか⋯⋯!? だって⋯⋯「ううん。事実、そうなんだと思うわ」」

 

ユウヒの抗議を遮って、紗栄子は涙を零しながら、しかし悠然と語り続けた。

 

「⋯⋯アオイの気持ちも分かってやれないで、あの子を孤独にして⋯⋯そんなアオイが“護りたい”、“死んででも救いたい”って思えるような、そんな素敵なお友達に、苦しい思いをさせ続けた。醜い人間よね、私⋯⋯」

「そんな⋯⋯」

 

紗栄子の、有無を言わせない雰囲気に、その先を紡ぐことが出来ない。

悪いのは、あの時、彼女の足手纏いになった自分なのであって、自分が罵られ蔑まれこそすれ、貴女が自責の念に駆られる必要は無い。

だが、それを言おうとすれば、多分、紗栄子はそれを否定するのだろう。そんな確信があった。

 

「貴女は、背負い込み過ぎる人間よ。だけどね。全部が全部、貴女が悪いというわけじゃない」

「そんなこと⋯⋯ないですよ⋯⋯」

 

なんとか否定するユウヒの頭を抱く紗栄子。

突然のことに、目を開き、驚きを露わにするも、次の瞬間、紗栄子がかけた言葉に、ユウヒは膝をつくこととなる。

 

 

「もう、良いのよ。貴女は、十分背負った。貴女だけが苦しむ必要なんて、無いの。だって、貴女は、私の、私達の⋯⋯何より、アオイの───

 

 

 

 

───救済者(セイヴァー)なんだから」

 

 

その言葉に、ユウヒは、もう己の涙を抑えることが出来なかった。

 

「うっ⋯⋯うう⋯⋯うああああ!!」

「よく、頑張ったわ。偉い。偉いわよ、ユウヒちゃん⋯⋯だから、もう溜め込まなくて、良いの」

 

嗚咽を漏らしながら、声を上げて泣く。こうして、誰かの胸を借りて、吐き出すように泣いたのは、久しぶりのことだった。

紗栄子は、抱くユウヒの背中を摩りながら、声をかけ続けた。

 

 

 

 

そんなユウヒと紗栄子の様子を見守るようにして、私服に身を包んだ少女、コウは、墓の入り口に立っていた。

 

「⋯⋯僕の力は、必要無いみたい⋯⋯だね」

 

ユウヒが、その心が救われたことに嬉しさを覚える反面、自分の手で救うことが出来なかったことに、複雑な気持ちを抱いてしまう。

そんな醜い己を叱責するように、コウは両の手のひらで頬を叩くと、その場を後にしようとする。

自分には、まだ救うべき人が居た。今のユウヒなら、己がどうこうする必要も無いだろう。そう考えてのことだった。

 

そんな時だった。

そうして歩きだそうとして、コウは墓石の陰に人影を見つける。

その人影は、何事かをぶつぶつと呟いて、二人の様子を眺めているようであった。

 

「⋯⋯やっぱ、私にこんな役目は無理かな⋯⋯いや、んな事僕には分からないけど⋯⋯あの人に頼まれたことだし⋯⋯」

「⋯⋯君、どうしたんだい?」

「ッ!? 貴様は、少女K!」

 

突然話し掛けてきたことに動転してか、慌てふためきながらコウを指さす白髪混じりの紅い長髪の少女。黒い右目と、カラーコンタクトであろうか、黄色い左目の、左右違う色合いがコウを正面から見詰める。

少女Kとは、どういうことか。Kというのは、コウのアルファベット綴りから取っているのか。そんなことを考えながら、もう一度、件の少女に意識を向け、そして、今度はコウが驚きに目を開いた。

 

「何処に、行ったんだ?」

 

目を逸らしたのはほんの一瞬であった。しかし、そこに先程までの少女の姿はない。

コウは、首を傾げながらも、辺りを見回して、少女の姿が無いことを確かめると、仕方なしと判断。当初の予定通り、その場を後にした。

 

 

コウが起きてすぐに出て行ったことに一時、騒然となったWayMark司令室であったが、彼女から事情を聞いていた榊原涼からの説明により、今ではいつも通りとなっていた。

 

司令官である省吾は、手元の書類を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

その書類とは、現状、ソロモンの指輪を奪取しその力を振り翳しているとされる、指名手配ヒューマノイド、コードJこと、栗林ミキの情報が記されているもの。今は、リンゼに頼んで尾行をしてもらっているが、大した動きは無いという旨の連絡しか入ってきていない。

何かが、省吾の胸につっかえていた。何かが、おかしいのだ。

この少女が、WayMarkが誇る気鋭のエージェントの尽くを、なんの躊躇いもなく殺すことが出来るようには思えなかった。

それだけではない。

情報を見れば見るほど、彼女とコードJが似つかなくなるのだ。

これでは、まるで彼女を意のままに操る誰かが居るかのようで⋯⋯。

そうして、省吾は、一人考えに耽っていた。

 

そんな司令室の全てのモニターに、アンノウンの出現を示すWARNINGの赤い文字が表示される。

冷や汗を流し、忠尚が省吾に報告。省吾は、資料を傍らに置いて、指示を出し始める。

 

「アンノウン、出現を感知しました!」

「何処だ!?」

「場所、中国、江西省です!」

 

中国、ということは、アジア支部であるWayMarkの管轄であった。

日本でない、ということは、今回の黒幕は関係ない可能性が高い。

省吾は、手早く考え、考察をまとめると、今動いてくれるであろうセイヴァーズを頭に浮かべた。

 

「⋯⋯ユウヒ少女は⋯⋯今は、駄目だな。コウ少女も、ここで止めてやるわけにはいかない。⋯⋯ここは、レンカ少女に頼むとしよう。連絡を頼む」

「了解です」

 

頷くと、忠尚が亜希に目配せをする。彼女は、コンソールを操作し、すぐさまレンカに繋いだ。

幸いなことに、レンカは基地の近くにいた為、すぐに基地に向かうとだけ言って彼女は電話を切る。

 

「⋯⋯どう動く、コードJ⋯⋯いや、ミキ少女⋯⋯!」

 

省吾は、少女の顔を脳裏に浮かべ、その行動を待った。

 

 

件の少女、栗林ミキはといえば、三橋リオを伴って人気のないカフェの外に設置された椅子に座り、コーヒーを片手に休憩をしていた。

 

「⋯⋯ミキ、どうしたの?」

「リオ⋯⋯コウは、生きていると、思うよね?」

 

ミキからのその質問に、リオは「当然よ」と答えて、やや温くなったコーヒーを啜った。

二人は、昨日から連絡が取れず、行方も知れない親友を探して、街中を歩き回っていた。

そうして、歩き回ること数時間。彼女らはめぼしい手がかりを手に入れることも出来ず、こうしてカフェで休憩するに至った、というわけである。

 

「コウが、そう簡単に死ぬような子に思う?」

「⋯⋯ううん」

「そう。だから、私達が疑っちゃ駄目」

 

リオの言葉は、少なからずミキの心を揺すった。親友であるはずの自分が、コウが生きていることを疑うなど、やってはいけないことだ。親友と言うからには、コウが見つかるその時まで、彼女を信じ続けなければいけないだろう。少なくとも、二人はそう思っていた。

 

「⋯⋯なら、コウもリオも私が殺させない⋯⋯。私が⋯⋯」

「え⋯⋯?」

 

ミキは、そう言うと、リオの口元に布を当てる。不意を突かれたリオは、驚きに目を見開き、そして、意識を失ってしまった。

何らかの睡眠薬の類か。渡された物の効果に懐疑心を抱きながらも、そっとリオを長椅子に寝かせて、ミキは立ち上がる。

 

「⋯⋯起動せよ、ソロモンの指輪⋯⋯我が命に従い、悪鬼神仏を我が手中に⋯⋯!」

 

ミキの右手、人差し指に嵌められた黒いリングが、妖しく輝く。

すると、彼女の目の前に、数十体のアンノウンと、それらとは一線を画す雰囲気を纏った二体のアンノウンが召喚された。

 

ゴルゴーン(・・・・・)アメミット(・・・・・)。汝らを、今解き放たん⋯⋯!」

 

『ァァァァァァア!!!』

『殺ス⋯殺ス殺ス!!』

 

先日、セイヴァーズを襲い三人を戦闘不能にまで追い込んだ蛇の髪の毛を持つSレートアンノウン、『ゴルゴーン』。そして、ワニの頭部にライオンの上半身、まるで鎧を纏っているかのような下半身を持った異形のアンノウン、Sレートに分類される『アメミット』は、呪詛を吐き出しながら、怨嗟の炎を燃やしながら、大地を踏みしめた。

 

「さあ、行け!想語コウ以外のセイヴァーズを、全て始末しろ!」

『ァァァ!! ァァァア!』

『待ッテイロ、セイヴァーズ!!』

 

午後五時の鐘が、鳴り響く。それは、何かを暗示しているようで⋯⋯。

そうして、解き放たれた者達は、突然の事態に逃げ惑う人々を殺しながら、進軍を開始した。

 

「⋯⋯不味いな」

 

そして、その一部始終を目撃していた黒髪黒目の少女、宮野リンゼは、この事態をどうにかするべく、司令室への道を急いだ。

 

 

「⋯⋯了解しました」

『悪いな』

「いえ。これも、セイヴァーズとしての責務なので」

 

そこまで言うと、カノンは、電話を切る。そして、黄色い眼を瞬きさせて、目の前の装置を見上げた。

 

「⋯⋯テレポーター⋯⋯本当に作動するのかな?」

「大丈夫です。ちゃんと作動することは確認済み。安心して、アンノウンを倒してきてください」

 

カノンの隣でキーボードを叩いて作業をしていた作業員の一人が、カノンに安心するような笑みを浮かべる。

 

「これは、WayMark本部にあるような、アジア全域に送ることが出来るテレポーターとは違って、WayMark本部のみにしか転送できない。だけど、その分、短時間で再使用可能になるので。君も、すぐにこっちまで帰ってこられますから」

「帰りは心配してないですけど⋯⋯分かりました。転送、始めてください」

 

溜息を吐いて、瞑目したカノンに了承の意を示し、作業員は、テレポーターを起動させた。それと同時に、テレポーターが重機械が作動するような音を響かせ始める。

 

「聞いてるとは思いますけど、対象は、大田区、目黒区、品川区、港区、世田谷区を襲うアンノウン群です。その中には、この前貴女達が対峙したゴルゴーンを含む二体のSレートが混ざっています。正直言って、レンカちゃんも欠けている今だと、少し不安ではあるけど⋯⋯」

「いえ、私が殺ります。⋯⋯それくらいしか、私に出来ることは無いから⋯⋯」

「⋯⋯本当に、ありがとうございます。貴女達に、僕達の全てをかけているようで⋯⋯情けない限りです」

 

カノンは、顔を伏せた作業員に「そんなことないですよ」と微笑みかけ、そして、テレポーターが発する光に目を瞑った。

 

「⋯⋯アンノウンを殺して、みんなに必要とされる⋯⋯絶対に⋯⋯!!」

 

複雑な感情を孕んだその言葉は、誰にも聞かれることはなかった。




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