「はぁあ!! 死ねぇ!!」
『dAAA!?』
赤い剣閃が、アンノウンを容易く屠る。瓦礫や血溜まりがそこかしこに見られる住宅街。先程まで、そこを埋めつくしていたアンノウンは、今ので全てが消滅した。
事も無げにそれを為した本人、カノンは、赤のローブを翻しながら、次の目的地へと向かう為にその場から跳躍。着地と同時にまた跳躍を繰り返し、時に地面を疾駆して移動を開始した。
『カノン少女、次の目的地には、Sレートアンノウンが一体アメミットがいる。カノン少女の力だけで倒せるかは難しいところだが、一人でSレートを討伐することも、セイヴァーギアなら前例がある! 理論上は可能、そういうことだ。記録を打ち破る気持ちでやってやれ! 君ならできる、健闘を祈る!』
「⋯⋯はい!」
省吾の激励を受けて、カノンはその速度を一段階引き上げた。
そもそも、やるやらないかで言えば、やる以外に選択肢のない今回。レンカは中国で発生したアンノウンを討伐する為、中国までテレポート。コウとユウヒも司令室へと向かっているらしいが、それでもまだ到着はしていない。なればこそ、今戦える自分が、アンノウンを討伐すれば良い。誰かに必要としてもらうためにセイヴァーズとなったのだ。
だから、カノンは、相手が何であろうと引き下がることは元から頭に無い。
『くれぐれも無理はするなよ!』
「分かってます⋯⋯」
省吾の心配の声に、小さく苦笑を零す。
そして、遠くに見える硝煙を視界に収め、風に乗る怒号と悲鳴を聞き届けた。自然と鋭くなった視線が、鰐の顔で吠える巨大なライオンもどきを捉える。
昨日の今日で、Sレートとの連戦だが、文句などは無かった。
だが、ゴルゴーンにすら、今の彼女では、同じセイヴァーズ四人がかりでも勝つことが出来なかったことは、それなり以上に彼女の不安を煽っていたのも事実である。それは、偏に彼女が弱かっただけではなく、全員のチームワークの欠如や、一人一人の弱さが原因ではあった。とはいえ、彼女からすれば、アンノウンの強さなどは問題では無いのだが。
彼女が戦うのは、一言に言ってしまえば、自分の為であった。誰かの為に己を張り、誰かに必要とされること。誰かに認められること。そうすることで、彼女の承認欲求は満たされ、自己満足に浸れる。
彼女自身、誰かを救いたいという気持ちに嘘はなくとも、セイヴァーズとしてアンノウンを屠るのは、それが道の一つであるからに過ぎず。
その態度は、言ってしまえば偽善であるし、彼女も、それを理解していた。
だとしても、欲望の方が強いのは人の性。抗い難い
彼女達セイヴァーズは、人々を、ひいては世界を守るという大役を任されてはいるが、一人の人間の少女でしかないのだから。
『カノン少女、アメミットが君を捕捉した! 最悪、他のメンバーが来るまで、耐えてく「私が、倒してみせます」カノン少女!?』
『ァァァァァァ!!!』
憎き救済者を認めた、複合した異形の者が吠える。
その怨嗟の咆哮に晒されながら、しかして、カノンはキッと目を見開いて、割け、閃光を迸らせるダーインスレイブを振るった。
呼応するかのように、アメミットも飛びかかり⋯⋯
『ァァア!!』
「『デッド・バースト』ッ!!」
偽善の救済者と、魂の裁定者の戦いが、ここに始まった。
◇
「⋯⋯ユウヒちゃん⋯⋯行くのね」
「はい。私は、十分過ぎる程に、力をもらってました。それが、分かったから。私は、戦います⋯⋯!」
心配を眼に浮かべる紗栄子を見据え、ユウヒは決意で以て、彼女の良心を退けた。
それは、拒絶ではない。
ただ、必要が無いのだ。
セイヴァーズとして、また戦える。まだ、拳を握ることが出来る。故に、その良心は、今の彼女には必要のないものであると、そういうことである。
「私、この役目から、目を背けない。私なりの本音で、向き合ってみようと、そう思うんです!」
「そう。なら、私から言うことは、もう無いわ。貴女の本音で、ぶつかっていくの。全て抱え込むことが、必ずしも正しい訳では無いと、私は思うから」
そう言う紗栄子の顔には、何故か、心配の色は微塵も無かった。
彼女も理解している、今のユウヒがこれ以上無いくらいに、強い状態だと。
その時、紗栄子が目を丸くして、ユウヒの指元、リングを指さした。
「ユウヒちゃん⋯⋯ギアが⋯⋯」
「え、あれ? 本当だ⋯⋯どうして?」
ユウヒのギア、それの茜色に輝いていたラインが、いつかのコウのそれと同じように、虹色に強く輝きを放っていた。
ユウヒは、それについて知らなかったが、それでも、何かを感じとったのは確かで。
「⋯⋯どうしてか分からないけど⋯⋯今なら、俄然負けない気がする」
「⋯⋯そうね。今のユウヒちゃんは、無敵よ。アンノウンなんて、倒してきてちょうだい」
紗栄子の頼みに、力強く頷き、ユウヒは夕日が差し込み始めた墓場を後にした。
慌ただしい彼女の後ろ姿をしばらく眺めて、紗栄子はふふふと自嘲げに笑った。
「ふふ⋯⋯私も、これくらい貴女にしてあげられてたら⋯⋯良かったのかもしれないわね⋯⋯そうでしょ? ⋯⋯アオイ」
その声を聞くものは、誰もいなかった。
◇
「⋯⋯ったく、数だけやたらと多いじゃねえか」
中国に赴いていたレンカは、ダークブルーの装甲アメノハバキリを纏い、黒い刀身の太刀を構えて、アンノウン群を見据える。
その中には、Bレートもチラホラと見受けられたが、数の多さ以外は取るに足らないこと。
その数の多さが厄介ではあるのだが。
「⋯⋯さっさと終わらせちまうか。『火刃!』」
やはりと言うべきか、このアンノウン達は囮であり、本命は向こうなのだろう。インカムにも、司令部から情報が入ってきていた。
本当なら、今すぐにでも戻って、現状不安定なWayMarkを支えたいところだが、そうは行かない。こいつらを放っておけば、こっちの人間に被害が及ぶ。それだけは、国家特務機関の所属とか、世界の救済者であるとか、そういうもの以前に、彼女の性分からして嫌であった。
ならば、するべきことはひとつ。
「オレの、道を、拒むんじゃねぇ!!!」
蒼炎が、大地を焦がす。
◇
アンノウンの出現で、全員がシェルターに逃げ込んだ為に、人の気配が存在しない商店街。
そこで、対面するように、栗林ミキと想語コウは対峙していた。
「⋯⋯もう来たんだ」
「もう来たよ。ミキ」
眠るリオを抱えるミキに、コウは視線を鋭くする。
どうして、ミキがこのようなことをするのか、とか、リオをどうするつもりか、とか。そういった事よりも、彼女が何らかの目的があれど、人々を殺したことに、コウは義憤していた。
それと同時に、自分に出来るなら、彼女を救いたいとも。
「ミキ、どうしてこんなこ「分からないの? 私は、コウとリオを守りたいんだ。だから、こうせざるを得なかった。それだけの事だよ?」⋯⋯ッ!」
悪びれもせずそう宣うミキに、コウは歯噛みする。
その言葉に、嘘偽りは感じられなかった。
「あの時、Sレートの召喚実験で、まさかコウが重傷を負うとは思わなかったけど。でも、こうして、生きてる! だから、私は正しいんだ!」
「⋯⋯そんなわけ、あるか⋯⋯!」
「あるよ。だって、私が正しくないなら、コウは死んで、私も自殺するからね。でも、そうはなってない。だから、私は正しいの」
「そんなわけ、ないだろ⋯⋯!!」
「なら、私を倒して止めるつもり?」
何を言っても、彼女は聞かないだろう。
だから、戦うしか、ないのか。
それこそ、そんなわけ、あるか。
「僕は、ミキとは戦わない」
「⋯⋯コウらしい、ね」
「ああ。だけど、ミキを見逃すつもりもない。もっと言えば、ミキを救うつもりだ」
「⋯⋯どうやって?」
「考える」
真顔でそんなことを言うコウに、ミキは苛立った。
まさか、ここまで来て、そんなことを言うとは思わなかったのだ。衝撃以上に、こうせざるを得なかった自分と対比するようで、ミキは苛立ちを覚える。
「そうやって、人ばっかり助けて、コウはどうなの!? コウが助けられたことなんて、ほとんど⋯⋯」
「それは言わない約束だよ。僕は、人を救うだけで良いんだから。見返りを求めて、誰かを救えるものか」
「⋯⋯ッ! ⋯⋯コウ、らしいよ、そういうところ⋯⋯ッ!!」
そう言って、ミキはコウをキッと睨み付ける。
そのまま、ポケットから何らかの
「⋯⋯ミキ⋯⋯」
「あの人が言うには、私にはコウとリオを助け、二人だけの為の救世主になる才能があるらしいから。これは、その為の力」
「⋯⋯戦うしかないのか⋯⋯?」
「勿論。コウが、他を捨てて、私達と共に生きてくれるなら別だけど」
少しばかりの期待を込めて送られた誘い。
それは、コウにとってすれば、何の解決にもならないモノ。三人で生き残る、受け取り方からすれば美徳かもしれないが、そこに自らの席はいらない。
故に、大の為に
「断る。僕は、ミキもリオも救って、災いに晒される人々も救う」
「⋯⋯都合の良い人だよね、本当に!!」
ミキの腕輪が赤黒く灯りを灯す。
それを見て、コウも空色の灯りを灯す指輪に手を翳した。
「───Witchcraft Nemealeon's fur Start-up!」
「───Perfect Excalibur Start-up!」
二人をほぼ同時に光が包み込む。
方や、光り輝く真製の光、方や、青く鈍く光る偽製の光。
一足先に、エクスカリバーへと変身を終えたコウが目撃したのは、赤い体毛に身を包み、胸や股、肩などに黒の装甲を施されたミキの姿。
「⋯⋯この力があれば、コウだって救える!!」
「⋯⋯行くよ」
コウは、黄金の剣を。ミキは、虚空より生成した棍棒のようなものを構える。
「絶対に、救ってみせる」
「私こそ、コウのこと、救ってみせるんだから⋯⋯!」
幼馴染であり、友人であり、親友である二人は、こうして互いに武器を向けあった。
◆
「⋯⋯ソロモンの指輪の性能も上々。まさか、ここで使うとは思わなかったけど、ネメアの獅子の毛皮も形にはなっているみたいだね」
男は、誰も聞いていないことを把握した上で、そう呟き、目の前のモニターを見詰めた。
そこには、対峙する二人の少女の姿が映っている。
一人は、WayMark所属の新人セイヴァーズにして、パーフェクトセイヴァーギアの纏い手である想語コウ。
そして、もう一人は男の所属する組織の尖兵として、想いの丈を誘導してやった栗林ミキ。
どちらが勝つにしろ、道具の改良点が見つかる上に、パーフェクトセイヴァーギアに勝ったのであれば、ネメアの獅子の毛皮の有用性は確実なものとなる。逆であっても、パーフェクトセイヴァーギアの唯一性と特異性、強さが際立ち、組織の面々もパーフェクトセイヴァーギアを欲するようになる。そうなれば、こちらにもチャンスは回ってくるのは確実。
『ぁぁぁぁあ!!!』
栗林ミキの棍棒の一撃が想語コウを強打し怯ませる。
『ミィキィィ!!!』
負けじと想語コウのエクスカリバーが振るわれ、しかし、ネメアの獅子の体毛に弾かれるだけで致命打とはなりえない。
この調子であれば、勝つのはネメアの獅子なのは明白。だが、エクスカリバーがそう簡単に終わるとも思えない。
面白い。
男は、少女達の戦いを目撃し、その行く末を予想してほくそ笑んだ。
感想、誤字脱字報告等々お待ちしてます。感想は力なり。