「Half Excalibur Start-up!!」
コウが、その言葉を叫んだ瞬間、彼女の身体を光が包み込む。
眩さに目を瞑る。そして、ゆっくりと開いた時、
「⋯⋯これは⋯⋯」
コウの身体を、先程、少女が纏っていたものと同じ空色の鎧が包んでいた。だが、胸元と、両肩、両足の膝下に装着されたそれは、少女の纏っていたそれよりも幾分か輝きを増しているように思える。
そして、その右手には黄金の剣が握られていた。
コウに抱かれていた少女は、驚きに目を見開いてコウを見つめていた。
「貴女も、適合者なのか⋯⋯?」
「⋯⋯適合者?」
その言葉に首を傾げるコウ。少女は、説明しようとして、そんな時間などくれるはずもないヴォーティガンの姿に、コウへと要件を伝える。
「貴女には、後で付き合ってもらう。だけど今は、その力、セイヴァーギア、エクスカリバーで
「⋯⋯ッ!!」
その力で、世界を救う。
その言葉は、驚く程にあっさりと、コウの中に収まった。
「⋯⋯分かった。僕が、この世界を救う⋯⋯!」
そうして、コウは少女を地面にゆっくりと寝かせて、後ろで気絶してしまっている幼い少女と女性を一瞥する。
救いたいと、想ったのだ。だから、救う。それだけのこと。世界を救うとまで言ったのだから、当たり前だろう。
黄金の剣『エクスカリバー』を両手で構えた。
「アンノウン!! これから先は、僕が相手をしよう!」
『GAAA!』
その言葉に、応えるかのように、ヴォーティガンは火の混じる吐息を吐いた。
それだけで、こちらにも熱が伝わってくる。
はっきり言って、怖い。そんなことを、コウは考える。
いつもは物怖じせず、誰かを救う為に動ける人間、それが想語コウという少女であったが、今回ばかりはそういうわけでもないらしい。
笑うかのようにガクガクと震える膝に力を込めて、割れたアスファルトの大地を踏み締める。
「⋯⋯行くぞ!」
少女は、エクスカリバーを片手にアスファルトを踏み砕きながら、走り出した。
ヴォーティガンは大振りに腕を振るうことで、愚かな救世者見習いを潰そうとする。
それを、胸のざわつきによって間一髪のところで横に飛び退くことで回避。すかさず、腕にエクスカリバーを突き立てる。
『GYyyyy!』
「まだッだァ!! 『エクス・バースト』ォ!!」
そして、突き立てた状態で、無理やりエクスカリバーを開き、赤い閃光を解き放つ。
その閃光は、爆煙を生み出し、煙が晴れたそこには⋯⋯
『GYAAAAaaaa!?』
「片手はもらった⋯⋯!」
半ばから吹き飛んだヴォーティガンの右腕と、輝きを損なわぬ聖剣の姿があった。
苦悶の声を上げるヴォーティガンを他所に、コウはまた走り出す。留まれば、怒り狂うヴォーティガンの凶刃と炎は己を死に至らしめると、彼女は理解していた。
「次は、その翼をもらう!!」
『GAAAAAAAA!!』
ヴォーティガンは、今度は空に飛翔し、住宅街に存在するものを吹き飛ばしながら、距離を取ろうとする。住宅街の屋根の上に飛び上がったコウは、そうはさせまいと、もう一度エクスカリバーを展開しようとする。だが、それは飛来する数個の火球によって中断されてしまった。
「空を飛ぶのは、ずるくないかい?」
『GAAAYAAAA!!』
そんなことは知らないと、ヴォーティガンはさらに距離をとり、火球を撃ち出し続ける。
「⋯⋯撃ち落とす⋯⋯『エクス・バースト』!!」
自らに当たる火球を、エクス・バーストによる閃光で撃ち落とし、着々と距離を詰めていく。
だが、ヴォーティガンは、その程度で倒せるような生温いアンノウンではなかった。
『AAAAA!!』
「なっ!?」
コウの表情が、驚愕に歪む。
その火球に混じっていた威力の高い爆炎が、コウを襲った。
直撃を受け、コウの鎧に、先程の少女の時と同じようなヒビが入る。
そして、ヴォーティガンにより薙ぎ払われた尾による追撃によって、コウの意識は途絶えた。
◇
次にコウが目を覚ましたのは、先程まで戦っていた廃墟と化しつつあった住宅街とは掛け離れた空間。
花弁が舞い、光が溢れ、温かな風が頬を撫ぜる。まるで、幻想の世界。
「⋯⋯ここは?」
誰に問うわけでもなく、口をついて出た言葉。
しかし、この空間には、それに答える存在がいた。
『我がエクスカリバーの担い手よ。ここは、救世者の夢想世界である』
「!? 誰だい!?」
その声は、コウの質問にしばらく逡巡した様子を見せる。
『私はアーサー・ペンドラゴン。エクスカリバーの初代担い手であり、今、想語コウと共にある存在である』
「アーサー・ペンドラゴン⋯⋯僕と共に?」
『うむ。よもや、一時間足らずでここまで来るとは思わなかったが、な』
その言葉には、呆れとも取れる感情が込められていた。
『だが、其方と相対することで理解した。其方には、元よりエクスカリバーの
「エクスカリバーの、源物?」
『次に目が覚めた時、其方は得ることができよう。叫ぶのだ、その想いのままに』
「ま⋯⋯っ!?」
「待ってくれ」、そう言おうとして引っ張られるような感覚に襲われる。
少女は、そこで、もう一度意識を手放した。
◇
「⋯⋯い! おき⋯⋯!」
誰かが、己を呼ぶ。だが、それよりも強くナニカが己の脳に叫ぶのだ。
薄く覚醒した意識で、その言葉を聞き取った。もう、この言葉は、忘れない。
「うう⋯⋯ん」
「起きたんだな! 逃げるぞ! そろそろ、他のセイヴァーズが増援に来る! あの二人も助かるだろう。貴女はよく頑張った!」
早口に捲し立てられて、コウは混乱する。辺りを見回せば、半分ほど抉れた住居の中に寝かされていることを理解出来た。
何となく逃げようとしていることを理解し、立ち上がる。
だから、それは、できない。
「⋯⋯僕は、まだ、やれます⋯⋯!」
「無理だ!セイヴァーギアだって、機能停止して⋯⋯嘘っ!?」
彼女が、コウの手のひらの中にあった指輪を見て驚きを示す。
最初は空色であった指輪のラインが、虹色に輝いていた。
それは、コウにも今の少女にも理解できないことであったが、指輪、セイヴァーギアに、セイヴァーギアの源であるレジェンダリーエナジーが漲っている証拠であった。
これなら、やれる。
漠然とした直感を胸に、コウは、小さく頷くと徐に立ち上がる。
そして、指輪を握り締めて、握り締めた拳を上に突き出した。
唱えるは、あの瞬間、脳に焼き付いた忘れ得ぬ言葉。完全を意味する、力強い詠唱。
「───Perfect Excalibur Start-up!!」
最初の光とは比にならないほどの眩い光が彼女を包む。
今度は、安心して身を任せられた。
「その姿は⋯⋯」
少女の身体を、空色の軽装甲が覆い、その上から先程まではなかった赤い外套が出現する。そして、エクスカリバーの黄金の刀身は、白で紋様が刻まれ、赤いラインはさらに鮮やかに光る。
その姿は、正しくエクスカリバーを担う聖なる騎士。
「そう。貴女は、私よりもエクスカリバーを担うに相応しいと。そういうことなのだな」
「⋯⋯」
少女は落胆が隠せない様子であった。何かを言おうとして、言い淀むコウ。しかし、少女は俯かせた顔を、再度コウに向けてキッパリと言い放つ。
「セイヴァーギアを、エクスカリバーを引き継いだのだから、貴女は当然、世界を救うのだろう? じゃないと、私が馬鹿みたいではないか」
自嘲げに、そう言うその姿には未練などなかった。
ただ、コウからの嘘偽りない答えを求める意思だけがあった。
ならば、その問いは、愚問であるとしか言い様が無いだろう。
何せ、この少女は、世界などという突拍子もない言葉が飛び交おうと───
「もちろん。貴女に代わって、僕が世界を救ってみせる」
───二つ返事で了承するような、善行バカなのだから。
彼女と出会ってからの時間はあまり多くないが、それでも、少女はコウがそういう人間であると薄々理解出来ていた。
「私は、
「僕は、想語コウ」
二人は、握手を交わす。
それは、友誼ではなく、誓いのソレ。自らの為ではなく、世界の為に、約束を違えることは、許されない。
そうして、コウは未だに住宅街を破壊しながら、シェルターの方角へと進むヴォーティガンへと向き直り、そちらへと先程よりも速く駆け抜ける。
「待てッヴォーティガン!! 僕は、ここにいるッ!!」
『⋯⋯GAa? GAAAAAaAAAa!!!!』
少女の叫びに、ヴォーティガンは怪訝そうに向き直り、そして、己の右腕を奪った怨敵の姿を視界に収めた。
『GAAA!!』
「斬ッ!!」
咆哮と共に撃ち放たれた挨拶がわりの火球を、事も無げに両断してみせる。
「貫け!」
その一言と共に、少女の背ではためく外套が、まるで意志を持ったかのように蠢き、槍のように先を尖らせヴォーティガンへと襲い掛かる。
先程まで無かったものだが、使い方が手に取るようにわかった。
『GAAAAGUUU!?』
それは、ヴォーティガンの左翼の付け根を貫き、ヴォーティガンを墜落させるに至る。飛ぶことが出来なくなった邪龍は、商店街の建物に激突しもがき苦しんだ。
そして、怯み動けないヴォーティガンへと加速度的に肉薄。飛びかかりざまにエクスカリバーを一閃し、左腕を斬り飛ばす。
「はぁっ!!」
『gAa!?』
急ブレーキすることで、コンクリートを削りながら止まり、もう一度斬り掛かる。
ヴォーティガンも、やられるだけではないと、口腔から焔を覗かせるが、それを無視してさらに距離を詰め、残る右翼を斬り捨てた。
「これで、後は首だけ、だね」
『GAAAAAAAAAAA!!!!』
ヴォーティガンは、荒れ狂い怒りのままにいくつもの火球と、火炎の吐息を吐き出す。
それは、前の少女とエクスカリバーでは、為す術もなく殺されていただろう。
───だが、今の彼女は違う。
外套が形を変えて、火球を斬り裂き、その手に持ったエクスカリバーで火炎を両断する。
そして、全ての火球を斬り捨てた外套が、今度はヴォーティガンの首に巻き付き邪龍を拘束した。
ヴォーティガンの名を持つ、エクスカリバーと浅からぬ縁を持つ邪龍は、英雄の如く全てを乗り越え、今まさに己を殺そうとするその姿に誰かを見て───
「───『カリバァ⋯⋯ストラァイク』ッ!!!!」
頭から両断され、爆発四散した。
◇
ボロボロになった商店街へと降り立つ。
すると、再三、コウを光が包み込み、セイヴァーギアの装着が解除される。レジェンダリーエナジーの供給が、戦意の消失により終了したのだ。
今日何度目かの安堵のため息を漏らした。
「⋯⋯ふう⋯⋯」
「あっさり倒してくれる⋯⋯まあ、史上初のパーフェクトセイヴァーギアの装着者なのだからな。これくらいしてくれなくては、困るというもの」
どっと、コウの身体を疲れが包み込む。瞼が重く、今にも、眠気に身を任せてしまいそうだ。外からの情報を次々に遮断し始めた脳を、なんとか踏みとどまらせて、リンゼの言葉に耳を傾ける。
「⋯⋯何はともあれ、感謝する。コウ、ありがとう」
「⋯⋯う、ん⋯⋯」
だが、その言葉だけは鮮明にコウの耳に届いた。
コウは、温かな気持ちに包まれ、そして、温かさで意識を失った。
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