後、住んでる所が違うと出しにくいですね()
翌日、コウは一人、通学路を歩いていた。
新品であったはずのドロドロの制服を、夜なべして、出来うる限り綺麗にしたコウ。そのせいか、目の下には小さくクマが出来ていたが、それよりも、肌に貼られたかなりの数の絆創膏が周囲の目を引いた。
それによる奇異の視線に晒されながら、しかして、それらを意にも介さず、歩き続けるコウが考えていたのは、他でもない昨日の出来事。
昔から人助けに憧れ、己の出来る範囲ではあったものの、やれるだけのことを人に施してきた。そんな彼女は、三年前、アンノウンが現れたあの日から、警報後の見回りをするようになる。実は、人を救ったのは、昨日が初めではない。それこそ、数えてはいないが、何人も助けてきた覚えはある。その度に、幾度も死にそうになったことも。
事実、行き過ぎた偽善だと理解してはいるが、それでもやりたいと、少しでも人を助けたいと考えてしまったのであるから、仕方が無いとコウ自身も諦めていた。
とはいえ、それが、このような非現実的なことに巻き込まれるきっかけになろうとは、彼女自身考えられるはずもなかったのだが。
「⋯⋯まさか、僕が⋯⋯こうなるとは、ね」
一人、呆れのため息と共に言葉を漏らしたコウ。
そんな彼女に声をかける存在がいた。
「あれ? もしかして、コウちゃん?」
「あれ、ユウヒ? どうしてここに?」
未だ桜の舞う校舎の前でコウとユウヒはばったりと出会した。
コウは、ユウヒの纏う、己と似たネクタイの色の違う制服を見て、納得した。
「にしても、まさかコウちゃんと同じ学校だなんて驚きだよ」
「そうだね、先輩」
「もー、先輩だなんて⋯⋯まあ、嫌いじゃないよ」
満更でもないらしい。というより、後輩に先輩と呼ばれて嬉しくない人間もそういるものでもないだろう。
だが、どうしてだろうかと、コウはユウヒと会話し始めてから増えた視線に違和感を感じた。
「⋯⋯何でもない、よね」
「どうかしたー?」
首を傾げて問うユウヒに、「なんでもない」と答えて、コウは校門をくぐった。
◇
階段でユウヒと別れ、綺麗な白いコンクリートの廊下をクラスの教室に向かって歩いていると、コウにとって見知った二つの影が見えた。
それは、向こうも同じであったようで、コウの姿を認めると、コウに向かって手を振りながら、走って向かってくる。
「コウ!」
「おはよう、ミキ。おはよう、リオ」
「おはよ」
ミキとリオの二人は、なんだかんだ言っていつも通りである。コウからすれば、それは嬉しいことであった。
ミキは、絆創膏だらけのコウの手足を見て、いつもは快活な笑顔を浮かべる表情を心配そうに曇らせる。
「ほんとに、心配したんだよー!?」
「ごめんごめん。悪いと思ってるってミキ」
苦笑するコウと、コウに詰寄るミキを見るだけであったリオも、ため息を吐く。
「ミキ、そろそろやめなって。それと、コウもコウだよ。私達、シェルターで本当に心配したんだから⋯⋯」
「⋯⋯うん」
普段、クールで冷静、平静さを失わないリオ。そんな彼女すらも、心配そうに表情を歪めている。
「ああ、これは相当心配させたな」、コウは二人を心配させたことに申し訳なく思うと同時に、自分をここまで心配してくれる二人に、心が温まる感覚を覚えた。
「じゃあ、コウさんや」
「なんだい、そんな年寄り臭い喋り方して⋯⋯」
「ふふふ。そうね、ミキには、そういうキャラは似合わないわよ」
「もー! 二人して、そんなところにツッコまないで!」
頬をふくらませて怒る仕草をするミキを見て、コウとリオは笑い合った。
だが、気を取り直したミキは、二人にある提案をする。
「今週の土曜日。暇なら、皆ですき焼き食べに行かない?」
「すき焼き?」
「そそ。今度新しくオープンするすき焼き屋さんが、馬鹿安いって、開店前から噂になっててさ! 一人1000円プラス税とかなんとか!」
すき焼きの相場がいくらかは知らないが、流石にそれは安すぎではないか?コウは、そんなことを考えながら、今度の土曜日に予定がないことを脳内で確かめる。
「うん、良いよ。急用でも入らない限りは暇だ」
「私も良いわよー。ただ、今月ちょっぴりピンチだから、2000円超えるようならキャンセルするから」
「だいじょぶ、だいじょーぶ! 私の情報網に抜かりはない!安心したまえ!」
ミキの言葉に、漠然とした不安を覚えるリオを見て、そして、いつも通りな日常に、コウは自然と微笑んだ。
この日常は、守らなければ、僕は僕を認められない。そんな、純粋で在り来りな想いを抱き、コウは教室に向かった。
◇
そして、授業も終わった放課後。
コウは、一人、カモフラージュとして工業団地の方に設置されたWayMark司令部へ向かって、少し寂しげな住宅街を歩いていた。
そんな折、コウの後ろ姿に気が付き声をかける存在がいた。
「あ、コウ!」
「レンカ?」
今日はやたらと知人に会う日だ。そんなことを考える程には、今日のコウは呼び止められている。
彼女を呼び止めたレンカは、両手に何かの入った袋を提げて、口に何らかのお菓子を咥えている。ラフな男物の服を着ているのは、彼女らしいと言ったところか。
彼女の両手の荷物が気になったコウは、レンカに質問することに。
「んー?これか?」
コウの質問に、右手の袋を小さく掲げて首を傾げるレンカ。コウが袋の中を覗き込むと、そこには古いティーカップなどの調度品があった。
「?」
「オレの趣味さ。こうして、アンティークもん買って眺めたりすんのが好きなんだ」
「⋯⋯なるほど、ね」
アンティーク、コウにとってはほとんど縁のないものだが、確かに雰囲気は嫌いじゃない。
頷くコウに、今度はレンカが質問を返す。
「コウは、これからWayMarkに出るのか?」
「練宮さんに呼び出されてるからね」
「そっか」、と納得したレンカは踵を返してコウとは逆の方へと歩いていく。そして、数歩歩いた所で、立ち止まりコウに口を開いた。
「まあ、なんだ。オレの方が先輩なんだし、困ってることがあったらオレに頼れよ。オレ、学校無い日は暇だし、さ」
「⋯⋯ありがとう、レンカ」
「そんだけ!」と言って早歩きで去っていくレンカの後ろ姿を見つめて、コウは微笑んだ。
そうして、目的地へと歩きだそうとして⋯⋯
「貴女が、新しいセイヴァーズの人⋯⋯ですか?」
「⋯⋯君は?」
唐突に現れ、コウに問うた黒髪の少女は、コウの質問返しに黄色の眼を開きハッとした顔になる。
そして、慌てて一礼をした。
「私は、
「僕は、想語コウ。同じく、WayMark所属のセイヴァーズだ。若輩者だが、よろしくお願いする」
現世カノンと名乗った少女は、コウが己をセイヴァーズだと宣った瞬間、安堵して胸を撫で下ろした。
対するコウは、カノンという名前に聞き覚えがあった。
それは、昨日司令室に行った時、レンカが零した名前。
「貴女も、司令部に行くんですか? ⋯⋯それなら、もしよろしければご同行しても?」
「うん、良いよ」
ありがとうございます、と感謝の言葉を述べるカノンを見つめて、コウは何故か、これまでにも救われてきた、胸のざわつきを感じるのであった。
◇
コウとカノンは、二人して他愛もない話で談笑しながら、司令室を目指して、司令部基地内の廊下を歩いていた。
最初は、控えめでポツポツとした話さなかったカノン達であったが、コウが何回か話しかけるうちに打ち解けられたらしく、それなりには会話も弾んでいた。
「想語さんって、まだ中一なんだね⋯⋯身長高いなぁ⋯⋯。私なんて、高一になってからはもう伸びる気配もしないのに⋯⋯」
「まあ、身長高いねとかは、よく言われるよ。まだ伸びてるけど⋯⋯そろそろ止まって欲しいなぁとか思ったり、ね」
ため息を吐くコウに、カノンは「贅沢な悩みだなぁ」と若干恨めしげに零す。
そうこうしている内に、二人は司令室に到着する。
そして、それぞれ指に嵌めたセイヴァーギアの指輪を、扉に備え付けられているスキャナーに翳した。
「現世カノン、到着しました」
「想語コウ、到着しました」
うっすらと青い照明に照らされた司令室に入り、義務である到着報告を行うと、いつかの優しげな雰囲気の男性、
「宮野さん、吉岡さん、こんにちは」
「リンゼ、吉岡さん、こんにちは」
「ああ、二人ともよく来たな」
「こんにちは、二人共。コーヒー入れてくるから、待ってておくれ」
コーヒーを入れると言って席を外した吉岡と代わるように、二人はリンゼの反対側のソファに座った。
「あの、練宮さんは?」
コウは、己を呼び出した人物が、見回してもいないことに疑問を覚え、恐らく知っていそうなリンゼに問い質す。
リンゼは、その質問に申し訳なさそうな顔をして答えた。
「司令は、急な会議が入って、今日は来れないそうだ」
「⋯⋯急な会議⋯⋯」
省吾はWayMarkの、特殊指定災害対策部のリーダーであるのだから、そういうこともある。コウは、納得して、なら、これからどうしようかと考えに耽った。
そんな様子のコウを置いて、リンゼはカノンに話し掛ける。
「カノンは今日はどうしてここに?」
「えっと⋯⋯医療班班長の鈴木さんに呼ばれて⋯⋯」
「ああ、今日は健康診断の日だったか⋯⋯」
カノンは、コウやリンゼ、ユウヒやレンカ達と違って東京ではなく、栃木県に住み、栃木県の高校に通っているため、他の面々とは健康診断の日程がズレているのだ。
「そろそろ、時間なので私は行きますね」
「ああ」
カノンは一礼をして、司令室を去っていった。
その時、丁度忠尚がカップの二つ載せられたトレーを持って二人の元へとやってくる。
「あれ、カノンちゃんは何処に?」
「あはは⋯⋯健康診断らしい、です」
「コーヒーは私がもらおう」
忠尚は、二人にコーヒーを渡し、「じゃあ、そろそろ仕事に戻るね」と言ってモニターデスクへと向かっていった。
コウとリンゼ、忠尚と他の職員数人以外に、人が居ない為、今日の司令室はやけに閑散としていた。
そんな時である。
司令室のモニターの全てに、けたたましいサイレンと赤いWARNINGの文字と何らかの座標を示した地図が表示された。それが、意味することはただ一つのみ。
「コウちゃん、せっかく来てもらったのに申し訳ないんだけど、
「⋯⋯はい!!」
忠尚の要請に、コウは力強く頷いた。
リンゼはセイヴァーギアを持たず、カノンは直ぐには来られないだろう。
コウは、一人で戦うという状況、二日連続での実戦に気を引き締めた。
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