承女救済セイヴァーズ   作:B・R

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初の他のギアの戦闘シーンです。


第五話 力量

アンノウン出現の報せに、コウは一目散に基地から地上まで駆けた。

悠長にしている間に、人が死んでしまうことは、アンノウンの恐ろしさを知っていれば誰でも分かる。

 

『こちら、司令室。コウちゃん、聞こえているかい?』

「はい、聞こえてます」

 

出る際に渡され、耳につけたインカムから聞こえる、忠尚の声に返答する。

これで、司令室といつでも通信することが可能だとか。戦闘中に壊れたりすることも多々あるらしい為、大事に扱おうとコウは考えた。

 

『アンノウンの出現場所は、世田谷区付近。大田区からなら、ギアを纏った状態で全力疾走すれば、十分で着く。ユウヒちゃんにも援護を要請してある。だが、コウちゃんの方が早いだろう』

「了解」

 

なんでも、レンカはセイヴァーギアのメンテナンスで、一度司令部まで取りに来なくてはならない。ユウヒは、特に問題も無かった為、駆け付けられるとのことらしいが、それでも、出力の問題や距離的な問題で言えば、コウのパーフェクトセイヴァーギアの方が早い。

ならば、悠長にしている暇はない。

コウは、空色のラインが入った指輪、セイヴァーギアを嵌めた右手を胸元に、起動式を詠唱する。

 

「Perfect Excalibur Start-up!」

 

瞬間、あの時のように、コウの全身を光が包み込む。

そして、晴れたところには⋯⋯

 

『最短ルート上の民間人は一人も居ない。安心して駆け抜けて良いよ』

「想語コウ、行くよ!」

 

黒いインナーの上から、空色のボディーアーマーを纏い、右手に金色の剣を装備するあの時の姿。赤いマントを靡かせながら、光の沈んだ夜空の下、少女は疾駆した。

 

 

夜の街を疾走しながら、コウは辺りを見回す。

明かりは灯る街には活気がない。不自然な程に人が居ない。いや、事実、一人もいないのだから活気が無いのも当たり前か。

 

「確かに、誰も居ないですね⋯⋯」

『自衛隊に協力してもらったからね。色々とあるんだけど、こういう時には協力してくれるし、なんだかんだ言って皆、人の命を大切に思ってくれてるんだろう』

「⋯⋯なるほど」

 

自衛隊の名前を出した時の、彼の声音には疲れのようなものが滲み出ていたが、それでも、彼らを信頼しているというのも伝わってきた。

この、戦わない国日本だからこそ、セイヴァーギアの所持というのは色々とあるのだろう。自衛隊との折り合いも悪いのかもしれない。

閑話休題。

 

「そろそろ、目的地に到着します」

『了解。敵は、数十のCレートと四体のBレート。まだ戦い慣れていないだろうけど、コウちゃんとセイヴァーギアの力なら大丈夫だ!頑張れ!』

「⋯⋯はい!」

 

Cレートのアンノウンは、無名かつ数が多いだけで単体の戦力は低い。Bレートのアンノウンは、同じく無名ではあるが、単体の戦力はそれなりに高い。だが、数は少ない為、各個撃破を意識すれば問題ないと、昨日、省吾から聞いていたコウは、それを踏まえて戦場に乗り込んだ。

 

パーフェクトセイヴァーギアであろうと油断はできるわけがない。セイヴァーギアの個々の戦闘力は、平均すれば皆ほとんど等しく、HL、半分(Half)ならば出力は高くとも装着者への負荷の大きさから継戦力は低く、FM、欠片(fragment)は逆に出力が低い代わりに継戦力が高くなっている。そして、PF、完全(Perfect)がどの程度の強さなのかは未だに未知ではあるが、それでも飛び抜けた力を持つ訳では無いだろうというのが、現状の見解であった。

 

コウは、目的地である大きな公園に、進軍するアンノウンの群れを見つけると、勢いを付けて飛びかかる。

 

『『KYRrrrrrrrr!!』』

「はぁ!!」

 

狼や鼠のような個体から、人型や完全な異形まで、全て真っ黒なシルエットのようなCレートアンノウンの中に正面から突っ込み、エクスカリバーを一閃。

そのまま、緑の芝生に転がるように着地する。

外敵の存在を認識したアンノウン達は、コウを取り囲むように集まった。

 

『KUAAAAaaa!!』

「分かっているよ!」

 

横から襲いくる鼠型のアンノウンを斬り捨て、粒子に帰すと、今度は、後ろから来る人型を振り向きざまに斬り払う。

その動きには、技術はなくとも切れの良さがあった。

 

「案外数が多いね⋯⋯」

 

アンノウンの数の多さに、時間がかかり過ぎることを理解したコウは、エクスカリバーの持ち手を握り込む。

すると、エクスカリバーの黄金の刀身が割れ、赤いライン、レジェンダリーエナジーが流れるように、剣の根元に集中する。

 

「行くぞ、アンノウン! 『エクス⋯⋯」

 

そして、赤い電光が迸り始めたエクスカリバーをアンノウンに向けて勢い良く突き出す。

 

 

「⋯⋯バースト』ォ!!!」

 

その瞬間、割れたエクスカリバーの刀身の間から赤い閃光が解き放たれる。それは、アンノウンを瞬く間に飲み込んだ。

 

「まだ、まだだね⋯⋯!」

 

コウは、もう一撃、エクス・バーストを放とうとしてエクスカリバーを構える。

そして唐突な脱力感と目眩、身体から走る激痛に膝をついた。

 

「うぐっ⋯⋯!? けほっけほっ⋯⋯血? なんで⋯⋯?」

 

咳き込むと、コウの口からは紛れもない血が吐き出された。それも、かなり多量の血液。鎧からは、昨日も聞いた何かが割れるような音が聞こえ始める。装甲の空色にも陰りが。レジェンダリーエナジーの供給が滞っているのだ。その原因は、予想が付く。

コウの顔から血の気が引いた。

 

『コウちゃん! バイタルが危険値に突入している! その身体では戦えない! いや、戦っちゃダメだ!』

「⋯⋯くそ、まだ、やれるんだ⋯⋯!」

 

コウは、エクスカリバーを芝生の地面に突き刺し、支え代わりにして立ち上がる。だが、その姿に覇気はなく、ふらふらとして今にも折れそうな雰囲気があった。

しかし、折れるわけにはいかない。誰かを救うという想いに、偽りは無いのだ。

 

『ダメだ! 撤退しろ! コウ!』

「リンゼとの約束を果たす為にも⋯⋯立ち上がらなきゃいけない。ああ、また戦える気がしてきた」

 

忠尚の代わりにコウに撤退を促すリンゼの声を聞いて、コウの眼には、また決意が漲った。

そう宣うコウの鎧には、確かに光が戻り、鎧のヒビも消えつつあった。セイヴァーギアの動力は、纏い手のなんらかの決意であり、それに種類は関係ない。約束を果たそうと決意すれば、それすらもセイヴァーギアは動力として取り込む。そして、力を与えるのだ。アンノウンを屠る為の、救済の力を。

だが、セイヴァーギアは、纏い手の傷を癒しはしない。装着者へ与えるのはあくまでも“力”のみであり、癒しは与えない。

 

 

「こふっ⋯⋯くそ、痛いじゃないか⋯⋯だけど⋯⋯まだやれ「いや、駄目だよコウちゃん。後は、私がやる」⋯⋯え⋯⋯?」

 

 

胸の痛みに顔を歪め、吐血するコウの前に、何者かが立ち塞がった。

 

その何者かは、茜色の髪の毛をポニーテールにした少女。コウの学校の先輩にして、セイヴァーズとしての先輩である鏑木ユウヒであった。服装は、制服ではなく、私服。走ってきたのか少し汗をかいていた。少女は、汗を腕で拭うと、アンノウンの方を向く。

そして、少女は茜色の光を灯す銀色の指輪、セイヴァーギアを掲げて宣言する。

 

 

「Half Durandal Start-up!!」

 

ユウヒの身体を、コウやリンゼと同じように光が包み込み、そして、一瞬でその形を露わにする。

そこに居たのは、インナーの上から下半身、胸から首、手元に茜色の軽装甲を纏ったユウヒ。それが、セイヴァーズとしての、デュランダルの担い手としての鏑木ユウヒの姿。

首元の装甲は頬まで包み込んでいるが、ユウヒは露出している部分である口を開く。

 

「コウちゃん、少し無理し過ぎだよ。まだ二回目なんだし、今回はそこで見てて」

「ユウヒ⋯⋯」

 

そう言うと、ユウヒはコウに親指を立てると、右手を横に振り払う仕草をする。

 

「サモン、デュランダル」

 

宣言と共に、虚空から滞空する十数本の、銀色の刀身に真中に青いラインが入った短剣を生み出した。

 

「シュート!」

『KUAAAA!?』

 

掛け声と共に、短剣が全てアンノウンに向けて射出される。

一本一本が、アンノウンを貫き倒す。圧倒的であった。

しかし、足の早い人型の個体がユウヒ目掛けて飛びかかる。短剣の射出も間に合わない。

走って間に合うかと、コウが足を動かすものの、それは杞憂であった。

 

『AAAAA!』

「⋯⋯せいやぁ!!」

 

腰を落とし、一瞬で力を溜めたユウヒによる茜色の装甲を纏った拳の一撃が、飛びかかるアンノウンに炸裂。アンノウンは、後ろにいた数体のアンノウン諸共一瞬にして粒子となった。

 

「凄い⋯⋯」

 

実際、Cレート相手とはいえ、それらに対して必殺技を使わず、容易く快進撃を繰り広げている辺り、己との練度の差を否が応でも感じさせられる。遠距離には召喚したデュランダルの射出で対処、近距離にはそのまま拳で。無理ならば、ギアの軽さも相まった身軽さで全てを回避する。

コウは、自然と漏れた感嘆の言葉に、それとは別の感情を覚える。

 

「まだまだあ!」

『WOOOO!』

 

そんなユウヒを止めんと、Cレートのアンノウンとは格の違いを感じさせる様な、そんな異形、四体のBレートアンノウンが立ちはだかった。

しかし、それを見ても、ユウヒは止まらない。それどころか、不敵な笑みを浮かべる始末。

 

「サモン、デュランダル!」

 

そうしてユウヒは、もう一度デュランダルを召喚する。

そして、先程と同じように射出した。

 

「シュート!」

『AAAAA!!』

 

だが、Cレートのように一瞬で消えるほどヤワではなく、Bレートアンノウンは硬い表皮で、デュランダルの貫通を防いだ。

だが、ユウヒの狙いは、ソレ(・・)であったのだ。

 

「必殺、『デュラン・カーネイジ』!!」

『AAAAAAA!?』

 

アンノウンの苦悶の声が聞こえた。

その宣言で、深く突き刺さったデュランダルから生え出るようにして、同じようにデュランダルが生み出されたのだ。それが、アンノウンの身体を、内側から貫いたのである。

それによって、四体のBレートアンノウンは、レジェンダリーエナジーの粒子へと帰った。

 

「あと少し、辛抱しててね、コウちゃん!」

 

ユウヒは、コウにウィンクすると、残ったCレートに向き直り、構えを取った。

 

 

最後の一体を粒子に帰し、ユウヒは変身を解いて、元の私服姿に戻る。

苦しさなど欠片も見受けられず、己と違って余裕のある姿に、コウは、誰かを救いたいと言うだけで、力を満足に振るえぬ己が情けなくなった。

 

「終わったよ。さ、帰ろうかコウちゃん」

「⋯⋯うん」

 

セイヴァーギアの負荷によるダメージとはまた違った意味で、元気の無いコウの様子に、思い当たる節のないユウヒは首を傾げる。

 

「どうかしたの?」

「⋯⋯いや、ユウヒは強いんだなって⋯⋯」

 

コウの言葉に、ユウヒは困ったように苦笑した。

 

「別に、私は強くないよ」

「だけど、僕なんかよりも迅速且つ効率良く、アンノウンを撃滅したじゃないか」

 

実際、コウがそこにいたことによって、襲ってきたアンノウンからコウを守る為に時間を割かなければ、本来ならもっと早くに倒せていたはずだ。

コウからは、それを悔いる雰囲気がありありと感じられた。

 

「うーん⋯⋯コウちゃんはさ、強くなりたいんだよね?」

「⋯⋯ああ」

 

ユウヒは、変身が解けて脱力感から公園のベンチに寝転がるコウの隣に座って、ライトに照らされながら話を続ける。

 

「ならさ、自分を大事にしなきゃ」

「自分を大事に? みんなが困っているのに、戦える僕がそんなことを言っていても良いのかい?」

 

不思議そうに首を傾げるコウを見て、ユウヒは苦笑を零さざるを得なかった。まさか、なんで自分を大事にしなきゃいけないんだ?みたいな返答が返ってくるとはおもいもしなかったのだ。

 

「そう。自分を大事にしないと、継続的に皆を守れなくなっちゃうじゃん?」

「⋯⋯まあ、確かにそれは一理あるかも、ね。そうだとして、でも、僕が強くなるならないとは話は別だ」

 

頑なな姿勢を崩そうともしないコウ。

そこで、ユウヒはある提案をする。

 

「それならさ、リンゼちゃんに頼りなよ」

「リンゼに?」

 

ユウヒは、その真意を語る。

リンゼであれば、直剣を使い慣れているから、戦い方の教えを乞うことが出来ること。リンゼはそれなりに戦場を戦い抜けてきた歴戦のセイヴァーズ、だから、経験も豊富なこと。

そして、何より、今やコウのセイヴァーギアとなったエクスカリバーの、元纏い手である(・・・・・・・)ということ。

 

「⋯⋯なるほど⋯⋯良いかもね。ありがとう、リンゼに聞いてみるよ」

「うんうん。それじゃあ、司令部に帰ろうか」

 

少しは納得した様子のコウを見て、満足そうに頷いたユウヒは、苦しげに寝転がるコウを一瞥する。

そして⋯⋯

 

「よっこらせっと⋯⋯あれー? コウちゃんって、案外軽いんだねー?」

「わひゃっ!? お、重いだろ!? 下ろしてくれ!」

「だーめ。怪我人は無理しないの」

 

身長がコウよりもそれなりに低いにも関わらず、持ち上げ、背負うことが出来たことに、ユウヒは驚きを示す。対するコウはと言えば、突然の行動に目を丸くして慌てた。

驚きの声を上げるコウを他所に、ユウヒは駅に向かって歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

「にしても、本当に軽いね⋯⋯私の三分の二くらい?」

「あまり、肉がつかないから、鍛えてもそんなに筋肉が付かなくてね⋯⋯」

 

深刻そうに話すコウに、ユウヒは笑みを零した。




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