承女救済セイヴァーズ   作:B・R

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主人公に闇はないさ(大嘘)



第七話 父

コウとリンゼは、WayMark司令部の地下に造られている訓練用ルームにて、スポーツウェアを着て木刀を構え向かい合っていた。

 

「さて、特に問題もなければ、始めよう」

「はい!」

 

一昨日の二人の戦いをみて、己の力の無さを理解したコウは、昨日今日と放課後に、こうしてリンゼと武器の扱い方を訓練しているのである。

 

「昨日の打ち合いで分かったが、コウの太刀筋にはキレがない。セイヴァーギアを纏った状態であれば、キレがなかろうと多少は戦えるだろう。だが、そんな力任せな戦い方では、また血を吐くだけだ」

「⋯⋯」

 

あのコウの吐血は、力任せに扱ったセイヴァーギアの出力に、コウの身体が耐えられなかったから、そういうことで一応の完結を見た。

実際、そうだったのだから、コウも特に反論しなかったし、それで、もっと力を手に入れたいと考え始めたのだから、結果的には明日へ続く怪我だったのだろう。

 

「だから、最低限の力で私を殺すつもりで来い」

「⋯⋯ッ!はぁあ!!」

 

コウは、木刀を構えてリンゼから言われたことを噛み締めながら、突貫する。

最低限の力で、リンゼを殺すつもりで行く。今の、自分にかけている効率。

 

「まだ、無駄が多い⋯⋯!」

「ぐうっ!」

 

リンゼは、コウの一撃を上体を逸らすだけで避け、手加減しながらコウの身体を蹴り飛ばす。

そのまま、それなりに硬さのある床に叩き付けられたコウ。しかし、すぐさま立ち上がり、もう一度木刀を構える。

 

「⋯⋯はぁっ!!」

「足りないな⋯⋯今度は、力が足りていない! それで、私を殺せるものか!」

 

柄の底で木刀を握るコウの右腕を殴打し、後ろ回し蹴りを加える。

衝撃で、吹き飛ばされたコウは、後少しで壁にぶつかるというところで、誰かに受け止められた。

 

「おっと⋯⋯コウ少女、少し軽すぎるんじゃないか?」

「⋯⋯練宮さん?」

「おう。リンゼ少女も、元気そうでなによりだ」

「司令⋯⋯」

 

その人物は、少し前から司令部を留守にしていた練宮省吾であった。

彼は、二人の様子から何をやっていたのかを察して、朗らかに笑った。

 

「ははは⋯⋯訓練とは精が出るな、二人共」

「僕がリンゼに師事して⋯⋯」

 

そう言うと、省吾は目を丸くしてリンゼとコウとの間に視線を行き来させた。

 

「まさか、リンゼ少女が? ⋯⋯それは⋯⋯良いことだな。リンゼ少女も、とうとう先輩らしくなってきたな」

「⋯⋯いえ、エクスカリバーを託した者、先達として当然の義務を果たしているまでです」

 

「そういうのを、先輩らしいって言うんだよ」、そう言って省吾はリンゼの頭を、その大きな手で撫ぜた。

 

「⋯⋯それで、司令はいつお帰りに?」

「ああ、ついさっきだ。コウ少女のことと、リンゼ少女のことで上といろいろあってだな。なに、心配することは無い。私の方で、全てやっておいた」

 

いろいろ、と言うのはコウの参戦と、コウとリンゼの間での、エクスカリバーの引き継ぎのことだろう。

 

「それと、リンゼ少女。上から許可をもらって、『FollowSign』に置いていた、前のセイヴァーギアを送ってもらえるよう、打診してもらった。再来月くらいには届くだろうさ」

「カリバーンですか!?」

「ああ、そうだ。カリバーンで間違いない」

 

カリバーン、その名前は、アーサー王が、今だ王でなかった時に引き抜いたとされる王選定の剣。

つまりリンゼは、カリバーン、エクスカリバーと続けて適合した、アーサー王みたいな存在なのか、とコウはなんとなしに考えた。

あれ以来、パーフェクトセイヴァーギアとなった影響からか、リンゼが触ろうとも、エクスカリバーはうんともすんとも言わなくなってしまった。

だからこそ、リンゼは己に何かできないかとオペレーターを引き受けるようになったのだ。そして、新たな剣を手に入れる、ということは彼女はもう一度戦場に戻れるという事にほかならない。それが、良いことなのか悪いことなのかは分からないが。

そんなことを考えていると、省吾は、スーツのジャケットを脱ぎ捨てて、立て掛けてある木刀を手に取る。

 

「どれ、私が二人同時に相手しよう。たまには身体を動かさねば、鈍ってしまうからな」

「練宮さん⋯⋯」

「行きます、司令!」

 

「ああ、来い!」そう言って、木刀を構える姿は、まるで勇ましい剣豪のようである。

事実、コウと相対している時と違い、リンゼの顔には確かな緊張があった。

 

「司令は、私の師匠なんだ。連携の取れない私達二人で掛かっても勝てる見込みはない。先に私が行く!」

「⋯⋯了解!」

 

そう言うと、リンゼは木刀を下段に駆け出した。

それに追従するようにコウも動き出す。

 

「はぁ!!」

「疾ッ!!」

 

省吾はリンゼの木刀の軌道を逸らすと、柄でリンゼの腹を殴り付ける。それだけで、大きく吹き飛ばされるリンゼ。コウは、自分を容易く倒せるリンゼを、容易く吹き飛ばす目の前の巨漢に困惑した。

まだ、セイヴァーギアを纏ってのことであれば、分かる。だが、生身でそれというのは⋯⋯明らかにおかしい。

 

「さあ、コウ少女も来い!」

「⋯⋯ッ! ぁぁああ!!」

 

だが、こんなところで立ち止まるわけには行かない。

そんな、コウの決意を乗せた一撃は、省吾によって意図も容易く受け流され、返しの一撃で、コウの意識は暗転した。

 

 

気を失って倒れ伏す二人の少女を見て、省吾はポリポリと頭を搔いた。その顔には、後悔が滲んでいた。

 

「いや⋯⋯手加減足りなかったかなぁ⋯⋯」

「明らかにそうだろ。それ以外にあんのかよ」

 

いつの間にか訓練ルームに訪れていたレンカが、ため息を吐きながら、省吾を諌める。

 

「⋯⋯はぁ、私もまだまだ、だな」

「いや、あんたは、人の身であんなこと出来るのがおかしいんだって」

 

そう言って、レンカは省吾の木刀を指差す。

 

「なんで、あんな派手に振り回したのに、木刀にヒビひとつ入ってねえんだよ」

「これは、技術だ。誰だって、出来るさ。若さがあれば尚更、な」

「いや、出来ねえよ! なんで、木刀一本でリンゼがあんな派手に空飛んでんだよ! あんた、生身の人間だろ!?」

 

「いやぁ、あれは受け流し過ぎた」事も無げにそう言う省吾は、本当にそう考えている様子であった。

レンカは、呆れ混じりにため息を吐く。

 

「ったく。リンゼ達は、オレが運んでおくから、あんたはさっさと居なかった分の仕事してこい。書類、溜まってるぞ」

「ああ、すまないな、レンカ少女。いつも、私達を支えてくれてありがとう。大人は、出来ること、君達が安心して戦えるよう、仕事を全うするとしよう。では、行ってくる」

 

スーツを引っ掴んで背中に垂らすと、スーツを掴んでいない方の手で後ろ背に手を振って歩き出す。

その後ろ姿に、レンカはムスッとした。

 

「カッコつけやがって⋯⋯カッコいいなぁ、もう!」

 

吐き捨てると、レンカは、コウとリンゼの二人を脇に抱えて訓練ルームを後にした。

 

 

「うう⋯⋯ん」

 

コウが目を覚ますと、そこは、WayMarkに来てから何度かお世話になっている医務室であった。

辺りを見回すと、隣のベッドでは、リンゼが制服を着ていた。

そこで、コウは己がどうして医務室で寝ていたのかを思い出した。そして、痛むであろう腹部を確認して、欠片も痛みがないことに目を見開く。

手加減、されたのだろう。それも、極限まで。

そのことに、悔しさを覚えると共に、憧れを覚える。自らも、あれだけ強ければ、選択肢も増えるだろう。

そんなことを考えながら、机の上に畳んであった制服を取ると、丁度着替え終わったリンゼと目が合った。

 

「起きたか、コウ」

「うん」

 

そう言うリンゼの顔には、気まずさのようなものが滲んでいた。

 

「コウの師匠になったというのに、司令に一太刀も与えられずじまいだった⋯⋯自分が情けないよ。なんなら、司令に頼んだ方が⋯⋯」

 

悲しげに顔を歪めたリンゼ。

コウは、そんなリンゼの肩に手を置いた。

 

「僕は、君に師事したんだ。だから、君以外に僕の師匠はいない」

「⋯⋯コウ⋯⋯」

「だから、これからもよろしく」

 

そこまで言い切って、コウは妙な気恥しさに襲われた。

だが、リンゼが可笑しそうに笑うと、それも吹き飛んだ。

 

「ああ、分かった。不甲斐ない師匠だが、よろしく頼む」

「よろしく、師匠」

 

二人は、握手して爽やかに微笑んだ。

 

 

すっかり暗くなってしまった夜道を帰路に着き、コウは自宅であるマンションに帰宅した。

鍵は開いており、電気もついている。なんらかの食べ物の匂いもする為、父親はもう帰宅しているのだろう。

コウの父は、家に居たり居なかったりとまちまちであり、こうして帰ってくる日は、二人で晩御飯を食べる約束なのだ。

 

「父さん、ただいま」

「おう、お帰りコウ」

 

無さすぎるくらいに何も無いリビング。テレビとソファに、絨毯。そして、仏壇。

最近、父さん、また痩せたな。ほっそりとした父親を見て、コウは心配する気持ちを覚える。

 

「母さんも、ただ今って言ってるぞ」

「ああ、うん。ただ今」

 

仏壇に抱き着いて宣う父の姿を見て、コウはすうっと何かが沈んでいくのを感じる。

 

「じゃあ、手洗いうがいしておいで。父さんは、ご飯の用意するから」

「うん」

 

そうして、キッチンに行く父親の姿を見送り、洗面所に向かう。

手を洗い、うがいをして鏡を見る。

そして、そこに映る顔を見て、コウは苦笑せざるを得なかった。

 

「はっ、ひっどい顔だね⋯⋯」

 

顔を冷水で洗い、務めて普段通りを意識する。

父親は好きだ。それこそ、ミキやリオとは違うベクトルであり、当たり前だがWayMarkの面々へ向ける友好とは違う。

血肉を分けた肉親へ向ける好意である。

それでも、駄目なのだ。コウは、今の父親を大手を振って好きとは言えない。

コウは、気分転換に頬を叩き、制服から着替える為に自室へ向かう。

 

「⋯⋯」

 

無言で制服を脱ぎ、ハンガーにかけ、無難な私服に着替える。気まぐれに部屋を見回してみれば、十三歳という年頃の少女にしては、どう考えてもおかしいと言える、無味乾燥、殺風景な部屋が広がっていた。

頭を振って、気を紛らわし、そんな部屋を後にする。

リビングに行けば、料理を並べ終わった父が椅子に座ってコウを待っていた。

定位置である向かい側の椅子に座って、手を合わせる。

 

「いただきます」

「召し上がれ」

 

そう言う父からは、慈愛のようなものが感じられた。そこは、母親と似たり寄ったりで心地好い。口に運んだ煮物は、優しい味がした。父親は、あの日からおかしくなったが、こうして料理をし始めたのは良いことだと思えた。実際、母の作るものをイメージしているからか、とても口に合う。

だが、そんな父親の行為の中でも、一つだけ許せないことがあった。

 

「はい、お母さん⋯⋯あーん⋯⋯」

「⋯⋯っ!!」

「あ、おい! どうした!?」

 

母親の遺影に食べさせるような仕草、そして食べ物を擦り付けられた遺影は汚れる。我に帰っていれば、こんなことはしないのだが、今日はこの日だったらしい。

コウは、するまいと誓っていた舌打ちをすると、晩御飯にほとんど手をつけずにリビングを後にし、自室に戻る。父親の困惑の声も聞こえなかった。

 

「⋯⋯くそ⋯⋯だから、嫌なんだ⋯⋯」

 

コウは、苛立ちを感じながら、布団に入った。リビングからは、怒鳴り声と何かが割れる音が聞こえた。

今日は、寝てしまえそうな気がした。

 

 

そして、深夜、コウは扉の前に誰かの気配を感じて目を覚ます。

「ああ、またか」そう呟いて、コウはもう一度目を瞑る。

父親の啜り泣く声と、悔いる謝罪の言葉が聞こえてきた。

 

 

「ごめん⋯⋯ごめんよ⋯⋯コウ⋯⋯ユウ⋯⋯こんな、お父さんでごめん⋯⋯」

 

 

亡き母と、己の名を呼びながら、父親は泣いていた。

父は、母と己を重ねているのだ。確かに、薄明かりに照らされた部屋の写真立てに飾られる母と己の写真に映る二人は、瓜二つ、コウが成長した姿が母、想語ユウであり、母の幼い姿がコウそのものであった。

 

 

「お父さん、もっと、まともな人間に、二人に顔向け出来るような人間になるから⋯⋯! だから、僕を捨てないでくれ⋯⋯お願いだ、ユウ⋯⋯!」

 

「僕は、母さんじゃないよ⋯⋯父さん⋯⋯」

 

謝罪を聞き届け、コウは、己の頬に雫が伝うのを感じた。

 

 

翌日。父親はもう既に出立しており、家にはおらず、コウはラップのかけられた朝食を食べて、身支度をして家を出た。

そして、コウは、駅前でミキとリオの二人を待っていた。

今日は土曜日、二人とは前々からすき焼きを食べる約束をしていたのである。

時間を見ればちょうど待ち合わせ時刻。コウは、駅前の広場を見回すと、少し離れたところからこちらに駆け寄ってくる二人の人影が見えた。

 

「コ〜ウ!」

「お待たせ」

「ううん。全然待ってないよ」

 

事実、駅前に着いてから、まだ三分と経っていない。コウは、時間ピッタリよりも誤差程度に少し前に来るタイプであった。

 

「ささ! いざ! 激安すき焼きに行かん!」

 

楽しそうに笑い、歩き出したミキの姿に、コウは昨日の鬱々としてモヤモヤとした気持ちが晴れていくのを感じた。




ほら、主人公には闇なんてないだろ?
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