異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

1 / 488
このプロローグはいわゆる雰囲気を知っていただく為のアバンタイトルとなります。
SF要素などが含まれていますが用語などもほとんどが一発ネタで、本編は中・近世風の異世界ファンタジーです。


プロローグ
#0 遠い未来の物語


 

 夜空に大きく浮かぶ、長きをすごしたその惑星を仰ぎ見る。

 ゆったりとした動作で俺は視線を地上へ落とすと、原風景を見るような心地にさせられた。

 俺はこの星の大気の肺いっぱいに満たしてから、ゆっくりと感情を吐き出していく。

 

「ああ素晴らしきかな」

 

 シンボルマークの描かれた旗を中心に、基礎となる区画を鳥瞰(ちょうかん)する。

 

「最適の立地。最優の都市計画。最高の技術者たち──」

 

 "純血"を(たっと)び、"至高"を(むね)に、"調和"を(はか)る。

 

 瞳に映る雛形となる土台は、完成風景までも頭の中で投影させるようだった。

 先駆の開拓者にしか味わえないその感覚は、いまだかつてない昂奮を覚えさせる。

 

 

(おおむ)ねまっさらな……この土地で」

 

 俺は織り交ぜの感情に、どうしようもなく心身を震わせた。

 

 伝統を重んじ、名誉を讃えよう。

 美学を推進し、商業を振興すべし。

 合理主義に生きる、秩序ある社会を。

 

 そうやって進歩と発展を繰り返して、ここまでやってきた。

 途方もない積算と、"財団"の心血が注がれた……教義成就の一つの形。

 

 もはや数え切れないほど遂げられてきた大事業。その全てがこれから詰まっていく。

 

 

「──新たに始まるわけだ?」

「そうだ、ここからまた踏みしめていく」

 

 左隣に寄り添うように立つ者と、噛みしめるように会話に興じる。

 かつて遥か彼方の理想にして、夢想と思えた──歓喜と苦難に、未知満(みちみ)ちた長い長い旅路(たびじ)

 

 魔導と科学の融合。未知なる未来を見る──"文明回華"。

 

 それでも世界の拡がりは果てしなく。

 人の進化と文明の躍動も、また尽きることがない。

 

 

「思えば遠くへ来たもんだ」

「ほんとにね、長かったねぇ~……」

 

 我が身のことながら、随分と感傷的になることが多くなってきた。

 数多くを得て、そして数多くを失った。それでも自分はまだこうしてここに立っている。

 

 過去も、現在も、そして未来も……大きな流れであると同時に、強固に繋がっている。

 夢の続きは終わらない──いつまでも新鮮味を忘れずに、人生を歩んでいきたい。

 

 

 想起に(ひた)っていると……右耳内部のイヤホンに着信を感じ、俺は手を当てて応答する。

 

「どうした、緊急か?」

『第一種指定災害が発生しました。特級危険生物"ワーム"です』

 

 入植最初期に観測だけはされていた存在──

 全長にして5km近くに及ぶ、多体節円筒状の極限環境超生物。

 通称"星喰い"。普段は地中奥深くにて暴食し、その姿を見ることは滅多にない。

 

 しかしひとたび地上へと現れれば、巨大な山岳すら呑み込み消化する厄災。

 その巨躯が通った道は川となり、掘りながら喰い進んだ場所は湖どころか海ともなる。

 

 動いている姿は実際に見たことはないが、伝承や体験談からよく知っている。

 

 

「こっちで()ついにきたか……して、被害状況は?」

磁気線路(マグレール)の一部を寸断し進行中。進路予測では"原星生物保護区"と思われ……」

 

「なるほどな、確かにあそこは栄養たっぷりだ」

『なにぶん巨体でして、進路上の"生物工学的(バイオプラン)栽培農園(テーション)"や建造途中の"遺伝子貯蔵庫(はこぶね)"も危険です』

 

「現在の対応状況は?」

『稼働可能な"装甲魔導機兵(パンツァー・ゴーレム)"が四機と、"サーボ機構強化兵"の一個大隊を可及的速やかに派遣。

 いずれも最大火力制圧を敢行しましたが、有効なダメージを確認することができず──」

 

 

 俺は眉をひそめながら、ゆっくりと息を吐き出していく。

 

「ふゥー……それで進退(きわ)まって俺に、か」

『しかもワームは産卵しているようで、温度遷移索敵(サーマルサーチ)によると近く孵化(ふか)しかねません』

 

 ただでさえ厄介なワームが増えるなど、あまり想像したくない光景であった。

 

『戦術核の使用許可を願います。他からは既に同意を得ていますので、あとは貴方の口頭承認で最終可決されます』

「判断が早いな、結構なことだ──」

 

 

 "衛星穿孔砲(サテライトレーザー)"はまだ打ち上げ段階にない。

 となれば惑星中間に位置する宇宙軌道(テラフロートフォ)要塞(ートレス)からの、熱核兵器しか有効打になりえまい。

 

 核融合反応であるし、今の"魔導科学"であれば放射性物質もなんとかできる。

 とはいえコストに見合わないし地形も変わってしまう。

 衝撃余波による二次被害も、決して看過できるものではない。

 

「だが却下だ、かわりに俺が出撃する」

『了解しました、各方面にはお伝えしておきます』

「聞き分けがいいな」

『半分ほどはそう答えることを予想していましたので、HiTEK装備も既に準備が完了しています』

 

『くっはは、バッチリ織り込み済みか。それじゃあ"特効兵装(エフェクター)"を目標地点へ、すぐに送ってくれ』

『はい、射出後早急(さっきゅう)座標(ポイント)を送ります。ご武運を』

『無論だ、こっちも(こた)えないとだな』

 

 

 勝手知ったるオペレーターに、俺はふっと笑みを浮かべながら通信を切った。

 

「トラブル? 一緒に行く?」

「いや俺一人で充分だよ。お前だと()()()()()だろうし」

 

「そっか、それじゃ──いってらっしゃい」

「あぁ()ってくる」

 

 俺は転送されてきたデータ位置を確認して、既に五体へと纏った風と共に大空へと飛び出した。

 

 

 

 

 飛行しながら地上を眺めつつ加速を重ねていたが、行動予測進路の途中で俺は急制動をかける。

 

「星喰いワームの幼体……もう()まれたか」

 

 眼前にはどこぞの群生相のような黒色で、覆い尽くすような巨大な影があった。

 ウネウネと形を変えながら、上空高く昇るように伸びていく。

 

 数万匹は下るまいその異様。一匹一匹は人の頭よりも大きいだろうか。

 二対の(ハネ)の生えた黒い連節状蠕虫(ぜんちゅう)の醜悪さたるや……。

 もはや数え切れないほどの人生経験を積んできた俺でも、思わず眉をひそめてしまっていた。

 

 奴らは宇宙へ飛び出し、新たな星へと無数に漂着し、成長していくに違いない。

 

「確かに既存(きそん)兵器じゃ対処が難しいな──」

 

 数百年か数千年か……はたまた数万、数十万年か。恐らくはそういう周期単位での繁殖行動。

 超々硬度キチン質の外殻は、並の重火器や"魔術"では易々と通らないだろう。

 

 それが成体ワーム並か、それ以上の大きさに膨れ上がる影となっている。

 しかしながら……既に孵化して空中にいるのは、逆に好都合であった。

 

 

(地上を傷つけずに済むからな──)

  

 領域を広げる幼体群のさらに上空を陣取って、俺は肉体を循環せし胎動に集中して詠唱に入る。

 

「システム起動──連結──最大出力」

 

 肉体の目前──その中心に力場のようなものが形成され、膨大なエネルギーが集約していく。

 発動の準備が整ったところで、横に開いていた両の拳を胸元のエネルギー中心部で突き合わせた。

 

 指向性を持たせた光が、視界全てを染めていき満たしゆく。

 数瞬して収まれば……幼体ワームの群体は、もはや跡形もなくなっていた。

 原子ごと分解し滅却する"天の魔術"。塵どころか、存在そのものを消失させたに等しい。

 

 虚無と化した空間へ強烈な大気の移動が巻き起こるが、周囲に纏った風が全て受け流す。

 

 

「さて本命は──」 

 

 地平線に映り見える巨体へと、俺は風を駆って追いすがる。

 

 産卵して消耗した肉体のエネルギーを補充する為に、目的地まで突き進んでいるのだろうか。

 山岳のような威容の成体ワームは我関せずと言った様子で、その地響きを止めることはなかった。

 

 同じ魔術で大地ごと消し飛ばすこともできたが、それは正直"もったいない"。

 あの生物もまた貴重な資源であり、あれほど巨大さがあればまさに宝庫と成り得る。

 

 ()()()()()ことのあるワームが、実際にそうであったように。

 違う形で手に入れる生物資源は──新たなテクノロジーの進歩を促すに違いない。

 

 

「よーしよし、いいタイミングだ」

 

 強化された感覚で(とら)えた"それ"よりも少し遅れて、右耳から接近の電子音が鳴る。

 俺は飛行の勢いを止めぬまま同期を開始し、"特効兵装(エフェクター)"を空中で合体・装着を完了すした。

 

 上半身を肩から両腕まで羽織る強化外装。"推進制御補助機構(スラスター・サーボ)"を兼ねた六枚翼は生身の動きを妨げないような構造。

 自身の上半身よりも一回りほど大きいシルエットは、魔導と科学の融合した現行最高峰の専用(ワンオフ)兵装。

 

 

「"応急活性魔薬(スティム・スライム)"──白黒混合・使用、一本」

 

 プシュッという音と共に体内へと染み込んだそれは、肉体へと一時的にブーストと回復効果を及ぼす。

 

「"相転移エンジン"──起動」

 

 心身の充実させた俺は魔粒子を加速してぶつけると、真空を相転移させて得たエネルギーが自身の魔力の色へと変換される。

 

 左手をかざしてクンッと指を振り上げると、局所的な暴嵐は上昇気流を伴う極大の渦を巻いた。

 指向性を持った超弩級竜巻は、さながら昇り竜がごとく星喰いワームの巨体を遥か上空へ巻き上げていく。

 

 そのまま大気圏をも超えて、宇宙空間へと放り出された天災級の極限環境超生物。

 俺は空壁突破の衝撃波や大気摩擦をものともせず、第二宇宙速度を超えて追従し相対した。

 肉体に(まと)う魔術と魔導科学の(すい)は、熱や宇宙線を遮断し、視覚や気圧差、呼吸をも含めて快適に保つ。

 

 

魔力安定器(マジカルバラスト)──同調完了」

 

 俺は右手と左手にそれぞれ具象化した、極安定させた魔力を宿し、両手を組み合わせて融合した。

 指を開いて両手をゆっくりと離していくと、掌の中に莫大な奔流を感じ入る。

 

「斬星──"太刀風"」

 

 見えない左手の鞘から抜くように、右掌中に形成されたそれは……振れば玉散る風の刃。

 内部では電離を繰り返し、不可視の刃はプラズマを纏って煌めきだす。

 

 はたしてその刃渡りは何十キロメートルにも及ぶ、超長大な(つるぎ)

 余剰エネルギーを余すことなく内包・集約させ、風の超太刀を両手で構える。

 

 宇宙空間へ己にのみ聞こえた風切り音だけを残し──

 ただの一振りで星喰いワームを斬断し、事態は終結した。

 

 

 輝く恒星と人々の住まう(ふた)つの惑星を全景に。

 俺は背中を向けて(たい)を預けるように、星の重力へと身を任せる。

 

 五感で染み入った全てのことを……胸裏に刻み込むように──

 

「お楽しみはこれから()、だ」

 

 惜しむような心地と共に手を伸ばして、続く宇宙(そら)をギュッと掴んだ。

 "未知なる未来を"──俺の想像を超越していく世界は、この煌めく星々の数だけ存在するのだろうと。

 

 これまでを既知としてきた長き半生に。

 これからも未知を求めていく長き人生に。

 

 色()せぬ栄光と、惜しみなき喝采(かっさい)と、無垢なる感動のあらんことを願って──

 

【挿絵表示】

 

 




第0話を読んでくださりありがとうございます。
かなりの長編になると思いますが、何か感じ入るところがあったなら是非お付き合い下さい。
お気に入り・評価・感想・レビューなども頂けるとモチベが上がり喜びます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。