異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
SF要素などが含まれていますが用語などもほとんどが一発ネタで、本編は中・近世風の異世界ファンタジーです。
#0 遠い未来の物語
夜空に大きく浮かぶ、長きをすごしたその惑星を仰ぎ見る。
ゆったりとした動作で俺は視線を地上へ落とすと、原風景を見るような心地にさせられた。
俺はこの星の大気の肺いっぱいに満たしてから、ゆっくりと感情を吐き出していく。
「ああ素晴らしきかな」
シンボルマークの描かれた旗を中心に、基礎となる区画を
「最適の立地。最優の都市計画。最高の技術者たち──」
"純血"を
瞳に映る雛形となる土台は、完成風景までも頭の中で投影させるようだった。
先駆の開拓者にしか味わえないその感覚は、いまだかつてない昂奮を覚えさせる。
「
俺は織り交ぜの感情に、どうしようもなく心身を震わせた。
伝統を重んじ、名誉を讃えよう。
美学を推進し、商業を振興すべし。
合理主義に生きる、秩序ある社会を。
そうやって進歩と発展を繰り返して、ここまでやってきた。
途方もない積算と、"財団"の心血が注がれた……教義成就の一つの形。
もはや数え切れないほど遂げられてきた大事業。その全てがこれから詰まっていく。
「──新たに始まるわけだ?」
「そうだ、ここからまた踏みしめていく」
左隣に寄り添うように立つ者と、噛みしめるように会話に興じる。
かつて遥か彼方の理想にして、夢想と思えた──歓喜と苦難に、
魔導と科学の融合。未知なる未来を見る──"文明回華"。
それでも世界の拡がりは果てしなく。
人の進化と文明の躍動も、また尽きることがない。
「思えば遠くへ来たもんだ」
「ほんとにね、長かったねぇ~……」
我が身のことながら、随分と感傷的になることが多くなってきた。
数多くを得て、そして数多くを失った。それでも自分はまだこうしてここに立っている。
過去も、現在も、そして未来も……大きな流れであると同時に、強固に繋がっている。
夢の続きは終わらない──いつまでも新鮮味を忘れずに、人生を歩んでいきたい。
想起に
「どうした、緊急か?」
『第一種指定災害が発生しました。特級危険生物"ワーム"です』
入植最初期に観測だけはされていた存在──
全長にして5km近くに及ぶ、多体節円筒状の極限環境超生物。
通称"星喰い"。普段は地中奥深くにて暴食し、その姿を見ることは滅多にない。
しかしひとたび地上へと現れれば、巨大な山岳すら呑み込み消化する厄災。
その巨躯が通った道は川となり、掘りながら喰い進んだ場所は湖どころか海ともなる。
動いている姿は実際に見たことはないが、伝承や体験談からよく知っている。
「こっちで
『
「なるほどな、確かにあそこは栄養たっぷりだ」
『なにぶん巨体でして、進路上の"
「現在の対応状況は?」
『稼働可能な"
いずれも最大火力制圧を敢行しましたが、有効なダメージを確認することができず──」
俺は眉をひそめながら、ゆっくりと息を吐き出していく。
「ふゥー……それで進退
『しかもワームは産卵しているようで、
ただでさえ厄介なワームが増えるなど、あまり想像したくない光景であった。
『戦術核の使用許可を願います。他からは既に同意を得ていますので、あとは貴方の口頭承認で最終可決されます』
「判断が早いな、結構なことだ──」
"
となれば惑星中間に位置する
核融合反応であるし、今の"魔導科学"であれば放射性物質もなんとかできる。
とはいえコストに見合わないし地形も変わってしまう。
衝撃余波による二次被害も、決して看過できるものではない。
「だが却下だ、かわりに俺が出撃する」
『了解しました、各方面にはお伝えしておきます』
「聞き分けがいいな」
『半分ほどはそう答えることを予想していましたので、HiTEK装備も既に準備が完了しています』
『くっはは、バッチリ織り込み済みか。それじゃあ"
『はい、射出後
『無論だ、こっちも
勝手知ったるオペレーターに、俺はふっと笑みを浮かべながら通信を切った。
「トラブル? 一緒に行く?」
「いや俺一人で充分だよ。お前だと
「そっか、それじゃ──いってらっしゃい」
「あぁ
俺は転送されてきたデータ位置を確認して、既に五体へと纏った風と共に大空へと飛び出した。
◇
飛行しながら地上を眺めつつ加速を重ねていたが、行動予測進路の途中で俺は急制動をかける。
「星喰いワームの幼体……もう
眼前にはどこぞの群生相のような黒色で、覆い尽くすような巨大な影があった。
ウネウネと形を変えながら、上空高く昇るように伸びていく。
数万匹は下るまいその異様。一匹一匹は人の頭よりも大きいだろうか。
二対の
もはや数え切れないほどの人生経験を積んできた俺でも、思わず眉をひそめてしまっていた。
奴らは宇宙へ飛び出し、新たな星へと無数に漂着し、成長していくに違いない。
「確かに
数百年か数千年か……はたまた数万、数十万年か。恐らくはそういう周期単位での繁殖行動。
超々硬度キチン質の外殻は、並の重火器や"魔術"では易々と通らないだろう。
それが成体ワーム並か、それ以上の大きさに膨れ上がる影となっている。
しかしながら……既に孵化して空中にいるのは、逆に好都合であった。
(地上を傷つけずに済むからな──)
領域を広げる幼体群のさらに上空を陣取って、俺は肉体を循環せし胎動に集中して詠唱に入る。
「システム起動──連結──最大出力」
肉体の目前──その中心に力場のようなものが形成され、膨大なエネルギーが集約していく。
発動の準備が整ったところで、横に開いていた両の拳を胸元のエネルギー中心部で突き合わせた。
指向性を持たせた光が、視界全てを染めていき満たしゆく。
数瞬して収まれば……幼体ワームの群体は、もはや跡形もなくなっていた。
原子ごと分解し滅却する"天の魔術"。塵どころか、存在そのものを消失させたに等しい。
虚無と化した空間へ強烈な大気の移動が巻き起こるが、周囲に纏った風が全て受け流す。
「さて本命は──」
地平線に映り見える巨体へと、俺は風を駆って追いすがる。
産卵して消耗した肉体のエネルギーを補充する為に、目的地まで突き進んでいるのだろうか。
山岳のような威容の成体ワームは我関せずと言った様子で、その地響きを止めることはなかった。
同じ魔術で大地ごと消し飛ばすこともできたが、それは正直"もったいない"。
あの生物もまた貴重な資源であり、あれほど巨大さがあればまさに宝庫と成り得る。
違う形で手に入れる生物資源は──新たなテクノロジーの進歩を促すに違いない。
「よーしよし、いいタイミングだ」
強化された感覚で
俺は飛行の勢いを止めぬまま同期を開始し、"
上半身を肩から両腕まで羽織る強化外装。"
自身の上半身よりも一回りほど大きいシルエットは、魔導と科学の融合した現行最高峰の
「"
プシュッという音と共に体内へと染み込んだそれは、肉体へと一時的にブーストと回復効果を及ぼす。
「"相転移エンジン"──起動」
心身の充実させた俺は魔粒子を加速してぶつけると、真空を相転移させて得たエネルギーが自身の魔力の色へと変換される。
左手をかざしてクンッと指を振り上げると、局所的な暴嵐は上昇気流を伴う極大の渦を巻いた。
指向性を持った超弩級竜巻は、さながら昇り竜がごとく星喰いワームの巨体を遥か上空へ巻き上げていく。
そのまま大気圏をも超えて、宇宙空間へと放り出された天災級の極限環境超生物。
俺は空壁突破の衝撃波や大気摩擦をものともせず、第二宇宙速度を超えて追従し相対した。
肉体に
「
俺は右手と左手にそれぞれ具象化した、極安定させた魔力を宿し、両手を組み合わせて融合した。
指を開いて両手をゆっくりと離していくと、掌の中に莫大な奔流を感じ入る。
「斬星──"太刀風"」
見えない左手の鞘から抜くように、右掌中に形成されたそれは……振れば玉散る風の刃。
内部では電離を繰り返し、不可視の刃はプラズマを纏って煌めきだす。
はたしてその刃渡りは何十キロメートルにも及ぶ、超長大な
余剰エネルギーを余すことなく内包・集約させ、風の超太刀を両手で構える。
宇宙空間へ己にのみ聞こえた風切り音だけを残し──
ただの一振りで星喰いワームを斬断し、事態は終結した。
輝く恒星と人々の住まう
俺は背中を向けて
五感で染み入った全てのことを……胸裏に刻み込むように──
「お楽しみはこれから
惜しむような心地と共に手を伸ばして、続く
"未知なる未来を"──俺の想像を超越していく世界は、この煌めく星々の数だけ存在するのだろうと。
これまでを既知としてきた長き半生に。
これからも未知を求めていく長き人生に。
色
第0話を読んでくださりありがとうございます。
かなりの長編になると思いますが、何か感じ入るところがあったなら是非お付き合い下さい。
お気に入り・評価・感想・レビューなども頂けるとモチベが上がり喜びます。