異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#86 一回戦 II

 ベイリルとヘリオが退場する中で、オックスは興奮を存分に発散する。

 

『なんというかそう! もうあれですね!!』

『あれ?』

 

『初戦からまるで決勝戦もかくや! な内容でした』

『確かにベイリル兄ィとヘリオ凄かったねぇ~』

『あれで燃えなきゃ男じゃねえ』

『でも勝者は一人』

 

『それが残念です、ヘリオ選手のさらなる活躍も見たかった』

『まーウチから見れば順当な勝敗。でもいつかヘリオが勝つ日も来るかもねぇ』

『お互いに高めあうライバル関係、非っ常~に羨ましくもあります』

『次の選手出てきたよ~』

 

 入場に気付いた解説のリーティアの言葉に、オックスは実況を再開する。

 

 

『さあさあ! 一回戦は第二試合。グナーシャ選手対レド・プラマバ選手!!』

『読みにくい対戦札(カード)だねぇ』

 

『ベイリル、ヘリオ、グナーシャ選手と、男が偏ってしまった左ブロック唯一の女性。

 というか八人中五人が女性って、この学園の女性がめっちゃ強いよね? ね?』

 

『世は男女平等だよ、オックスかいちょー。ウチも戦えば強いし』

『ほほぅ……ではなにゆえ、ここでこうして解説を?』

 

『予選に割ける時間がなかった』

『確かに色々と、承認の判を押した気がするな。製造科の出し物も、是非見てって下さい!』

 

『宣伝ありがと!』

 

 

 実況と解説の中で入場し、軽い跳躍(ステップ)を繰り返しながら……グナーシャはレドを見つめる。

 体格差で言えば大会屈指の組み合わせであり、そのリーチ差を測っていた。

 

 闘技祭には試合開始の合図も、審判役もいない。

 闘いを始めるのも、勝敗を決めるのも――たとえ実況が先走ろうと、全て当人同士のみで完結する。

 

「我としては消耗戦は好ましいところではない、一撃全力で片を付けさせてもらおうか」

 

 グナーシャはそう告げる。この場でヘリオとも改めて闘いたかった。

 しかしそれを倒したベイリルとも、是非()り合いたい。

 あれほどの熱戦の直後――否が応でもテンションは最高潮にある。

 

「あっははは、ボクはどっちでもいいけどね。でもそれならボクも一撃で粉砕してみせよっか」

 

 

 グナーシャは左膝を深めに曲げ、右足を後方へ指先で大地を掴む。

 トンファーを持った左手を前へ伸ばし、右腕を曲げトンファーを回した。

 魔術具"衝撃双棍"は回転のたびに、衝撃波を許容限界まで溜め込み続ける。

 

 レドは両足を開き、頭より高く両腕を大きく広げ、拳を握らぬまま迎撃の態勢をとった。

 

『さァ双方構えをとる! グナーシャ選手も高回転型の戦士で、一瞬たりとも見逃せない!!』

『レドの戦うとこ、初めて見るなぁ……』

 

 グナーシャは隻眼でギロリと眼と牙を剥き、気勢をもトンファーへ込める。

 

「ぬんッ――」

 

 狼人の盛り上がった肉は、太腿から爪先まで余すこと無く(ちから)を伝えゆく。

 持久と瞬発を兼ね備えた筋肉から、全身運動を乗せて繰り出される右トンファー。

 

 一瞬にして詰まる間合い――これ以上無いほどの一撃、という実感が肉体を打った。

 

 

「なん……だと……?」

 

 しかし突進と共に放たれた重衝撃はあっさりと……。

 何事もないかのように、小さき少女の左手で止められていた。

 体重差や運動エネルギーも関係なく、ただただピタリと。

 

「ふっはっ甘いよぉ!」

 

 レドが放った右拳を、グナーシャは左トンファーでなんとかいなす。

 それだけで腕が痺れて動かなくなるのではというほど、重い一撃であった。

 

 そして次の瞬間には、グナーシャは地面を転がり倒れ込んでしまっていた。

 受け流した直後にレドの右蹴りが、吸い込まれるように腹筋を貫いていたのだった。

 双棍は手から離れ、鍛え抜いた筋肉はピクリとも動こうともしなかった。

 

「前言撤回、二撃で粉砕!!」

 

『こっこれはぁァァア――ッ!?』

『予想外の早期決着……レド、恐るべし』

 

 

 しかしその次の瞬間であった、ギヂリッと()り切れるような……。

 やにはに総毛伸び立つグナーシャの体毛。

 さらに筋骨は変形するかのように膨張していく。

 

 隻眼には新たな色を宿し、狼そのもののような鼻先と、裂けるような口と大きな牙。

 

「へぇ……そんな隠し札があったとは――」

 

『グナーシャ選手、変身だあ!! これは珍しい!!』

『進退窮まっての奥の手っぽい?』

 

 

 ――"獣身変化"。

 己の中の獣を呼び出し顕現化させる、獣人種特有の技にして(カルマ)

 かつて神族が魔力の暴走を押し留められず、魔族を超えて魔物となってしまうように……。

 

 獣人種も行き過ぎれば――完全な獣と成り果ててしまう。

 ともすればそれを技法(・・)として確立させ、自由に操る者も一定数存在する。

 

 選ばれし者が、高潔かつ強靭な精神をもって、修練の果てに得られる(ちから)

 野生を解き放ち、理性と本能の均衡を保つことで、獣身変化は完全なモノとなる。

 

 しかしてそのバランスが崩れれば、たちまち身を滅ぼす諸刃の剣ともなりかねない技。

 

 

 半獣化したグナーシャは、四足で大地に爪を立てるように飛び出す。

 そこには思考も感情も存在しなかった……。

 ただ中途半端な暴力の化身としての姿。

 

 未だ練度不足の身でありながら発動させたのは、"次も戦いたい"という一心。

 だがそれはグナーシャ自身を灼いてしまう、不完全な業。

 

 

 目を見開いて笑ったままのレドは、右腕を真上へと伸ばす。

 

「知恵なき獣など、ボクの敵じゃないッ!!」

 

 一閃。突進してきた巨体を、レドは一撃の(もと)に切って落とした。

 振り下ろされた手刀は頭から背までを打ち据え、グナーシャの意識は完全に途絶える。

 

 そうして中途で終わった獣身変化も、人間の状態へと戻っていく。

 今度こそグナーシャに次は訪れず、試合は決着を見たのだった。

 

 

 

 

 医務室にて――勝者が敗者に対し、通常かける言葉などない。

 しかしレド・プラマバという少女にとって、そんな機微など全く関係ないことだった。

 

「いやー脳天叩き割ったかと思ったけど、案外丈夫そうでなにより」

「すまぬ……我が身の不徳であった、未熟極まる醜態を晒してしまった」

 

 体毛も多く残り、爪牙も長いままで喋りにくそうなものの……グナーシャは謝罪する。

 怪我と治療で未だ朦朧した意識は晴れていないが、それでも誠心誠意――

 

 

「別にいいよ、どっちにしろボクの相手じゃなかった」

 

 容赦ない言葉に悔しい気持ちもある……。

 しかし反射的に会得に至ってない"獣身変化"を使ってしまった負い目。

 レドが早々に片を付けてくれなければ、二度と精神が戻ってこれなかったかも知れない。

 

 そういう意味で感謝すべきであるし、なにより野生の本能だけで戦ってしまった。

 それはグナーシャにとって、闘争それ自体を(けが)したとすら思える行為であった。

 

「まっ死んでなきゃ別にいいんだ。それじゃぁボクは失礼するよ」

 

 そう言うとレドはさっさと出て行ってしまった。

 傲岸不遜な少女――しかし次期魔王と、自称するのには得心させられるものがある。

 

 

「うちの男どもはだらしないでござるねぇ」

「うっせェぞスズ」

 

 ハルミアの補助(サポート)として治療班にいるスズが、パーティ面子に向かって言い放つ。

 それを近くのベッドにて、まだ療養中のヘリオが突っ込んだ。

 

「言ったでござるね、ヘリオ。拙者の"調香"技術なかったら、その吊った左腕も痛いでござるよ~」

「きたないぞ、予選にも出なかったニンジャめ」

 

「隠密が自身の技を大衆に披露するなど、愚の骨頂でござる」

「あぁそうだな、そうだ。お前はほんっとすげーシノビだよ」

 

 

 そうヘリオがすんなり言うと、スズは不満そうな表情を浮かべた。

 

「むぅ、言い返してこないと張り合いがない……」

「んなことより、もっと痛み止めよこせ。最低でも四試合目からは観なきゃなんねェんだ」

「我もどうにか――」

 

「はいはーい、ヘリオ殿(どの)はともかくグナーシャ殿(どの)は大人しく寝るでござる。敗北者の治療は後回しゆえ」

 

 緊急性を要する負傷でなければ、次の試合へ出場する勝者が優先される。

 レドには怪我がなかったので、ハルミアはまだ別室でベイリルの治療へと専念していた。

 

 

「なぁセンパイよォ、誰が勝つと思う?」

「んんっぬぅ……皆が皆、実力者だ。予想しかねるが――」

 

「まっオレとしちゃやっぱベイリルだな」

 

 一回戦負けとはいえ、それが優勝者であったなら面目は保たれる。

 そんな打算もなきにしもあらずだし、身内贔屓な部分も否定はできない。

 それでも冷静に見て、ベイリルが勝つとヘリオは思っていた。

 

「敢えて言わせてもらうなら、レド・プラマバ……彼女は底がまるで知れぬ」

 

 恐怖とはまた違う――言い知れぬ予感のようなものがあった。

 それはきっと実際に対峙した者にしかわからないナニカとでも言えばいいのか。

 

 

「二人とも……自分に勝った相手を持ち上げるのは如何(いかが)なものでござろう」

 

 苦言を呈するスズ。とはいえ実際に戦った相手しか、実力は測りようがない。

 二人がそれぞれ贔屓しようとするのも、いささか無理からぬことであった。

 

「あ? じゃあスズは誰だと思うんだ?」

 

「拙者が思うに……優勝者なし! でござるかな」

「それじゃ運営が決勝戦の掛け金総取りじゃねーか」

 

「ぬっははは、正直なところ拙者の卓越した眼から見ても予想はつかぬゆえ」

「卓越ね……手前ェで言ってちゃ世話ねーぜ」

 

 スズに介抱されつつ、ヘリオとグナーシャは様々な想いが胸中を駆ける。

 

 惜しむらくは、どっちらけな終わりではなく――しかと学園最強たる優勝者をと。

 

 

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