異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
『強さとは、生きる
『そっすね』
『強さとは、
『うんうん』
『強さとは、己を高める不屈たる意志の結晶である』
『なるほど』
『今ここに立つは……たかが学園、されど学園最強の二人』
『もうすぐ
『激戦に次ぐ熱戦続きな闘技祭は最終戦。レド選手とフラウ選手が入場します!!』
『どっちも消耗感じさせない』
『ゼノさんは、"おれには荷が重い"と決勝の解説を辞退しましたが……代わりに来てくれたのはこの人。
彼女の造るモノは、もはや学園でも入手困難。職人芸はどこまでいく!? "
『自分としてもあまり語れないと思うんすけど、どーぞよろしくっす』
それぞれ東と西より、闘技場の中央へと相対する二人。
出場者達の中で比較すれば、どちらも華奢と言える少女。
魔術戦闘において、体格差は絶対のものではないという証左でもあろう。
「やっほ~レドっち」
「おーっす、フラウ」
ベイリルと共に調理科によく顔を出すフラウ。
先輩であるファンランと違って、年の近いレドは気心知れる友人同士。
多くのボードゲームなども一緒にやった仲である。
「まさかレドっちと決勝で
「ボクの強さに驚いたか」
「まっねぇ~」
へらへらと闘争の空気もなく、マイペースな会話が展開される。
ともするとレドはパンッと手を叩き、ニヤリと笑って目を細めた。
「そうそう、ボクが勝ったらフラウは次期魔王軍の"軍将"にでもなってもらおうかな」
「えー……めんど」
「これまでの戦いっぷりを見て思ったんだ。確かに決勝進出も納得の強さだった。
ハーフヴァンパイアなら半分とはいえ、魔族に類するから体面も十分。うん、そうしよう」
「"ダンピール"ね」
「んあ?」
「ハーフヴァンパイアじゃなくて、ダンピール」
「なにそれ」
「ベイリルが言う、ハーフヴァンパイアの別名。だから名乗る時はそうしてる」
「ふーん、なんでもいいけど。ボクの配下として――」
レドの言葉を遮るように、フラウは
「でもさ、レドっちじゃあーしには勝てんよ?」
「言ってくれるなあ?」
レドは筋肉と関節を鳴らすように、手をギチリと開いてから拳を握る。
「だってさぁ……」
そう言うとフラウは手を上方へと振り上げる――
『おっとぉ、レド選手が宙へ浮いたあ!!』
『あれは……フラウちゃんの術中っすね』
「おっ? えっ?」
――
さらに任意の方向に重力を発生させることで、縦横無尽に翻弄する。
「これまでの戦いっぷりを見て思った。たーしかに、次期魔王を自称するだけあって強いよ?
けどレドっちは空中移動も、遠隔攻撃もないっしょ? だから浮かされたら抗いようがない」
「……あっ――」
レドは言われてからはたと気付き、何かを察したかのような声を漏らす。
ヘリオであれば爆炎噴射、ベイリルは疑似飛行や圧縮固化空気足場。
ファンランは水場利用、ジェーンは氷結足場を作り、それぞれ空中で機動力を確保できる。
しかし現状
「で、でもボクの"全振り耐久力"を抜けなければあれだ! 千日手だっけ? ってやつ!」
「それがあるんだよねー」
フラウは指を曲げた左手の平を、宙に浮かぶレドへと向けた。
そしてゆっくりと内側へ
「うっげぁ……」
レドの呻き声と共に、その右肩口が回転するように
――
あとはそのまま掌握することで、完全に削り取ってしまう絶対攻撃。
空間座標をゆっくりと捻じ曲げる為に、通常の攻防では使いにくく範囲も狭い魔術。
しかし相手が動けず、為す
「あーしとは相性が悪すぎるよ、ま~じで」
「うぐぐ……手も足も出ない。バーカ! バーカ!」
「口を出されても痛くないよ~」
フラウはそう返しながらも、あっさりと重力干渉を解いてしまう。
地に着地したレドは怪訝な眼で、フラウを睨むように見つめた。
「どういうつもり? ボクは降参など死んでもするつもりないんだけど」
「勝とうと思えば勝てる。でもこんなんで勝っても、"決勝戦"には相応しくないし」
「あーーーっ! さーてーはー、三決に影響されたな!!」
「そうかも。観客を興醒めさせるわけにはいかないもんね~」
レドは頭より高く両手を大きく広げて、明確な戦闘態勢を取る。
フラウは重心を下にするように腰を落とし、全身を脱力させる。
「まっなんにせよ本気だったら、既にレドっちの負けだから勧誘は諦めてね」
「てかさ、なんかずっこくない? ボクはフラウの魔術がよくわかんないんだけど!!」
「理解させるのもめっちゃ時間掛かりそうだし、対処できないんじゃどのみち意味ないってばさ」
「むぅ……でもいずれキミのほうから、次期魔王軍に入れてくれって言わせてやろう」
「レドっちのそういうトコ、好きだよ」
獰猛な笑顔を交わし合い、地を蹴ろうとするレドの出鼻をフラウが
スッとかざしたフラウの左手に――レドの体が吸い寄せられていた。
そのままフラウの左拳を顔面にもらって、さらには反発するようにぶっ飛ばされる。
「ぬあーーーぁあ!!」
凄まじい勢いで結界壁際に叩き付けられ、思わずレドは叫んでいた。
瞬間的に耐久力に全振りしている為に、ダメージはないものの衝撃は残る。
「ッあれェ――!?」
レドはすぐに見やるも既にフラウは視界内におらず、ゾクリと悪寒のようなものが首筋に走る。
導かれるように空を見上げれば――軽やかに浮かんでいる影……それが
落下と共にフラウの右手刀が、レドの肩口から
自重を瞬間的に倍増させ叩き込む、
恐るべき速度と重さ、大地は砕け散り土礫が舞い上がる。
「レドっちとは違うけど、あーしもちょっとだけ似たようなことはできる」
――"重闘術"。重力魔術を全て自分に集約させる、白兵専用の
引力・斥力・重力を同時に使い分けるそれは、フラウだけの我流闘法。
瞬間的な判断と調節・切替により、攻撃と防御に転じ利用するサマ。
それはレドの"存在の足し引き"に近い部分があった。
『フラウ選手の左ストレートからの、右墜ち下ろし! まともに喰ったかあ!!』
『いや……それでも、
「クックク、カーハッハハハハッハハハァ!!」
レドは自らの肉体と衝撃でクレーターを作りながらも、フラウの左足首をドサクサで掴んでいた。
「うあっ――」
レドはボロ布を振り回すが如く、フラウの体を結界壁に叩き付ける。
さらに地面へと叩き付けたところで、握っていた部分が斥力によって弾かれた。
「っぶな……いまひとつ出力足りなかったら、握り潰されるとこだったなぁ」
ふよふよと浮かびながらフラウは距離を空けて着地し、左つま先でトントンと地面を叩く。
一方でレドはズチャズチャと足音を立てて、クレーターから地上へと上がってきていた。
「はぁーーーあっははははは!! もうなりふり構っちゃらんないなあ!!」
「なんか
「どうせ最後だ、派手にやる。ボクに付き合わせやるからな!!」
「しょうがないにゃあ……いいよ」
既に間合いは詰まっている。言葉と同時にお互いの拳が飛び、眼前で交差した。
しかしフラウの拳は外れ、レドの拳だけが左頬に突き刺さる。
斥力場の膜をぶち抜きながら、なお勢いと威力を残すストレート。
フラウは殴られながら、足場が不安定にされていたことに気付く。
レドは踏み込みと同時に、
狂い開き直ったと見せ掛けてその
重力を操作し踏ん張りながら、今度はフラウがレドの
瞬時に耐久力へ振っていても、なお深く突き刺さる一撃。
呼吸に喘ぐのを
『決勝も壮絶な殴り合い!!』
『みんな
ただただ持てるものを出し切る。
ベイリルとファンランのような、高次元のやり取りはどのみち無理である。
双方――己を顧みない、単純極まる打撃の交換……上等であった。
レドの左打ち下ろしをもらいながら、フラウは右アッパーを返す。
顎を打ち抜かれながらも、レドは強引に右フックを放つ。
喰らう勢いを利用し
返しの
フラウは
『一歩も引かない泥臭い応酬! そして応酬!!』
『豪快な意地の張り合いっすねえ、返して返されての繰り返し――』
「ぐはぁ……」
「っむむむぅ――」
一撃ごとにレドもフラウも、防御より攻撃へと偏らせていった。
それゆえに均衡は崩れ、遂にはそれ以上の攻勢が同時に止まってしまう。
「っはぁ――次で終わりかな? レドっち」
「ぜェ……ふぅ、ボクじゃなくフラウがね」
肩で息をしながらもゆっくりと呼吸と魔力を整え、レドは万感込めるように口を開く。
「せっかくだから披露してしんぜよう、フラウ。ボクには理想とする究極攻撃がある」
「へぇ~どんなん?」
「足の指の先から拳まで、一動作の流れを完璧に割り振ったならどうなるか」
「……なんかすごそう」
「高まった今のボクなら、やれるという確信がある」
「じゃっ、あーしも次の一撃に全てを込めよう」
レドとフラウはそれぞれ左足を前に、右腕を引き、腰を落として
図らずも同じ構えであり、互いにその状態から出せるのは、中段右突きのみ。
『これは……最後ですかね?』
『――っすね』
一息。聞こえるか聞こえないかの呼吸と共に、レドとフラウは同時に動く。
「"超魔王パンチ"!!」
「"
レドの右拳をフラウの右掌底が包み止めるように衝突し――ついに勝負は決した。
「……正しい打撃とは、たゆまぬ反復によって染み込ませるものだよ~レドっち」
そんなフラウの言葉と共に、レドの右腕はダランと垂れ下がる。
右拳から肩まで
「できる、と思ったんだけどなあ……」
レド曰く究極の攻撃は、不発に終わってしまっていた。
再生力に振って食い下がれば、まだまだ戦えても……地力の差を思い知らされた。
フラウにもまだ余裕を感じるし、そもそも本気なら浮かされた時点で負けている。
であれば……これ以上は足掻かない。そこまで
「まぁほらあれだレドっち、"敗北の味がいつか大きな財産になる"ってやつだよ」
「ちぇっ……課題はまだまだ多いってことか」
「そいじゃ一応、
「っしゃー、こい!」
言うやいなやフラウは、
レドの顎を殴り付けるように、しかして実際は殴らず、斥力で体ごと上空へと押し出す。
勢いよく、華々しく、これ以上ないほど高く……高く。
オーバーリアクションにも見えるほど打ち上げられ、吹き飛んでいくレドの体躯。
結界で囲われた吹き抜けを超えて壁の外へ――そのまま地面まで落ちて、レドは大の字に倒れた。
フラウは振り上げた左拳はそのままに、己の勝利を観ている者全てに示す。
『優勝ぉおぉオオ決定ぇぇェェええい!! 頂点を制し輝いたのはフラウ選手ぅぅゥうう!!』
『決勝もさることながら、出場選手みんな美事っしたねー』
歓声と拍手は止む気配を見せず、いつまでも喝采に包まれていたい――
ガラではないのにそんなことを胸裏でほんの少しだけ思いつつ……。
フラウはその余韻に身を任せ続けた。