異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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幕間
#94 なぜなにシールフ


「三、二、一、どっか~ん!」

「わ~い」

 

 商会の敷地内に一堂を介した中で、シールフとプラタの師弟コンビがテンションを上げる。

 

「卒業おめでとうございます! それではみなさーん、"なぜなにシールフ"の時間ですよー」

「今日は私が特別に、直々に魔導コース講義で開催しちゃいます」

 

 これからフリーマギエンスの面々は、それぞれの道を()く。

 その前に思い出作りも意味合いも含めて、ベイリルがシールフに講義を依頼したのだった。

 

 単位制の学園では、ついぞみんなであつまって授業を受ける機会などなかった。

 早めに卒業した面子はいないものの、さしあたり同季卒業メンバー内で最後のイベントである。

 

「はいっ! シールフお師さま――もといおねいさん!」

「なんでしょうプラタ」

「"魔導"ってなんですか?」

「そこを説明するにはまず魔術からいきましょう。みなさん大なり小なり使えますね」

 

 シールフはゆっくりと、丁寧な口調でもって講義を続けていく。

 

 

「では魔術で大事なのことはなんでしょう? それじゃあ――」

 

「はいはーい」

「リーティアちゃん、どうぞ」

「想像力!」

 

 元気よく手を挙げて答えたリーティアに、ヘリオが口を挟む。

 

「魔力だろ」

「想像のが大事!」

「いやいや魔力ぶっ込んだほうが火力出るし」

「想像力あったほうがいろんなことできる!」

 

「はーいそこまで! どっちも大事ですが、正解は――"認識"です」

「認識……ですか?」

 

 持っている知識とは少し違った答えに、思わずジェーンが聞き返す。

 するとシールフは魔術によって、岩壁を大きくせり上がらせた。

 

 

「この壁の裏に標的を十個ほど用意しました。全部にピタリ当てられるかな?」

「余裕だな――」

「ベイリルはダメ~、あなたは裏の(マト)を感覚強化で認識(・・)してるでしょ」

「あーそういうことか」

 

 説明で思い当たることがあったのか、ベイリルはあっさり引き下がる。

 

「見えない的だけ(・・)を正確に撃ち抜ける人~、いないよね?」

「クロアーネもできるんじゃないか? 嗅覚で」

 

 続けてベイリルがそう話を振ると、クロアーネは澄ました顔で言う。

 

「……造作もないでしょうが、話の腰を折るつもりはありません」

「いいこと言うね~クロアーネちゃん、ベイリルは黙ってなさい」

「これは失敬、シールフおねいさん」

 

 

 かつて学園で講師していた時と同じように、シールフは一つ一つ段階を踏んでいく。

 とはいっても淡々とやっていたあの頃と違い、ウルトラハイテンションな違いがあった。

 

「さてさて、改めて"認識"の一側面。見えないものをイメージすることはできません」

「なるほど……確かに私も、内臓損傷を治す場合は皮膚組織を開いてみないと無理ですねぇ」

 

 ハルミアがポンッと、拳で手の平を叩きながら得心する。

 

「そういうことです。知ること(・・・・)が魔術でも第一歩であり、その延長線上に魔導があります」

 

「なぁよー、まとめて破壊しちゃダメなのか?」

「キャシーさぁ、脳筋すぎるってば」

「でも結果は同じじゃん、つーかフラウこそよくやってることじゃん」

「シールフおねいさーんよろ~」

 

 キャシーの疑問に一度は突っ込んだフラウは、シールフへと解説を丸投げる。

 

 

「たしかに漠然と壁裏を丸ごと潰しちゃえばいい、これならかなり容易になります。

 ただイメージとして認識すること、魔力の流れと放出を認識すること。ここが(かなめ)なのです」

 

 範囲魔術となれば、それだけ魔力の消費も大きくなる。

 そういったイメージと魔力のトレードオフに、認識が関わってくる。

 

「通信系の魔術が活用できないのも、そこらへんが小さくない障害(ボトルネック)なんだな」

 

 ベイリルは元世界と異世界との差異を、頭の中で比較しながらそう口にする。

 異世界における通信手段は、手紙をくくりつけた"使いツバメ"による拠点間交信が基本となる。

 

 戦場でも狼煙(のろし)や手旗、望遠や音暗号こそあれ――直接的な通信はほとんど見られない。

 "無線通信"などが実現すれば、それだけで確実に優位に立てるテクノロジーなのだ。

 

 

「そう……あの人にこの想いを伝えたい、伝わったらいいな。そういう部分はイメージしやすいんです。

 でも伝えたいと思うと同時に、知られたくないという心が、無意識に抑制(リミッター)を掛けてしまう」

 

 この手の話は、"読心の魔導"たるシールフにとって専門分野であった。

 人の心の在り様を語らせれば、彼女の右に出る者は存在しない。

 

「自分の頭の中が筒抜けだったら怖いよね? しかも遠く離れた相手に、的確に伝えるなんてとっても大変」

「確かに見知らぬ誰かに届いたらって思うと、すっごいイヤでござるねえ」

 

「そうです嫌なんです、だから意思伝達魔術というのは使い手が非っ常ぉ~に少ないのです」

「拙者ら一族もついぞ苦戦してたと、聞いたことあるでござるねえ」

 

 スズがうんうんと頷く後ろで、挙がる手があった。

 

 

「質問いいっすか~? シールフおねいさん」

「どうぞ~ティータちゃん」

声だけ(・・・)を届けるってのは無理なんすか?」

 

「職人らしい着眼点ですが、これも同様に相互の位置関係が問題になります。

 所在不明な特定個人へ届かせるというのは、至難なことに変わりありません」

 

「場所を固定したとしたらどうなんっす?」

「すっごく近くであれば可能でしょう。でも遠隔だと正確さが失われ、収束できない声はだだ漏れです」

 

 コホンッとシールフは咳払いを一つしてから、人差し指を立てる。

 

「だから通信魔術を扱うには、中継地点が必要になります」

「わたしら鳥人族の出番だ!」

 

 ルビディアがニヤリと笑って、シールフの答えを先回りする。

 

「正解~。地上から空中、空中から地上と橋渡しすることで、劇的に現実味を帯びます」

「見える相手に届けるから、認識できるってわけっすか」

 

「そうですがしかし、鳥人族と言えど魔力による身体強化や、魔術補助なしの飛行はほぼ不可能です」

「たしかにきっついですわ~。人一人抱えて飛ぶだけでも地味にきついもの」

 

 やや棒読み気味のルビディアの言葉に、一人だけ表情をしかめる者がいたが……。

 シールフは気にすることなく、補足するように講義を続ける。

 

 

「ただでさえ覚えにくい通信魔術を、飛行しながらの並列処理(マルチタスク)。さらには――」

「敵からの対空攻撃にも備えなくちゃいけないわけだな」

 

「グナーシャくん、Exactry(そのとおり)!! 中継の鳥人族は真っ先に狙われちゃいます」

 

 ずばり正解したことに、グナーシャは腕を組んで満足そうにうなずく。

 

「悠長に信号送ってるの見たら、わたしも火矢で狙っちゃうね」

 

 リンは指先から四色の炎を出して弄びつつ、話を聞き続ける。

 

「せんせー、魔術具は使えないん?」

「おねいさんですよリーティアちゃん。実は大魔技師と七人の高弟が使っていた、という話です」

 

 

「そこ! それ! 詳しく聞かせてくれ! あーいや、聞かせてください」

 

 それまで静かに耳を傾けていたゼノが、唐突に食い付いた。

 そうしたわかりやすい反応に、シールフはやり甲斐を見せながら解説を重ねていく。

 

「これは私の"恩人"が、大昔の知り合いから聞いたそうですが――魔力には()があるとか」

「色……?」

 

「魔力を他人に譲渡できないのは、その色が付いてしまうのが原因だそうです。

 体内に取り込んだ時点で個々人の色に染まり、個人でしか使えない魔力となる」

 

「あぁおれ、その学説聞いたことあるわ。たしか王国のだったっけかな」

「私も……魔領で割と信じられていたと記憶しています」

 

 ゼノの曖昧な記憶に、ハルミアが話を重ね、改めてシールフは首肯(しゅこう)する。

 

 

「わたしも長年の経験則からすると、多分間違ってはいないように思えるね、うん」

「……そんでどう大魔技師に話が繋がるんですか?」

「その魔力の色を、捕捉・検知・判別する魔術具を作ったのが大魔技師だそうです」

 

「おおう、ますます有力になってくるな色説」

「少なくとも魔力を何がしかの形で、個人単位で認識できていたことには間違いない」

 

 ゼノのテンションがどんどん上がっていき、周りは少し取り残される。

 

 

「それを使って各国へ派遣した高弟と連絡を取っていたらしいですが――」

「らしいが?」

「構造を知り、造れたのは大魔技師本人のみ。高弟にも受け継がれず、技術は失われました」

 

「現物は!?」

「さあ? きっと高弟が再現する為に解体しちゃったんじゃない?」

「くぅっ……おれも中身を見たい」

 

 

 ゼノの悔しさを他所(ヨソ)に、スズがあっけらかんと質問する。

 

「――で、結局どう認識すれば魔導に至れるでござるか?」

「それはぁ……個人の資質です」

 

「なんの参考にもならないでござるぅ」

「身も蓋もないないっすね」

 

 口々に不満と落胆が見て取れるが、シールフは紀にした様子もなく続ける。

 

「わたしが魔導を覚えたのは、あなたたちくらいの年の頃でした。そんなもんです。

 世知辛いですが、持たざる者はその分だけ努力を重ねましょう。何事もそれが基本で、始まりです」

 

 シールフは遠い過去を思い出しながら、空を一度見つめてから視線を元へと戻した。

 

「魔導コースの講義は、いつもこんな感じ。長く教鞭は取ったけど、至った人は……いたのかな?」

 

 あっけらかんとした答えに、講義を聴いている全員が沈黙する。

 

「まぁまぁ結局のところ魔導は狂信的妄想の具象化であり、想像だけの魔術とは一線を画すもの。

 魔法は拡大解釈にまで至る、超すっごいやつ。ただしどれも"認識"という共通項だけ覚えといてね」

 

 あくまで講師として教えてはいたが、突き詰めれば才能と努力の結果。

 

「では実践授業でもしましょうか。特別に一人一人見ていって指摘してあげましょう――」

 

 

 いずれこの中から魔導師が出たとしたら。この講義がほんの一助になれたなら。

 まぁそれはそれで――ほんの戯れにすぎないが気分転換には丁度良い。

 

 未来ある若者達に祝福あらんことを願いつつ、シールフは久しぶりの講師を思うサマ楽しんだのだった。

 

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