異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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ちょっとだけやってみたかったインタビュー会話劇形式


#96 とある魔術士の取材記録

 ――【鋼鉄】級冒険者、34歳男性の吐露。

 

『あーアイツラね……かなり前の話になるが覚えてるよ』

「ささやかなことでもいいのでお願いしまっす」

 

『冒険者パーティとしては、まあ少し珍しい程度だった』

「少し珍しい……ですか」

 

『若い四人組でリーダー格は男だろうな。あとの三人の女は、全員ソイツの(れこ)かも知んねえ』

「ははー全員若かったんですね」

 

『おう。でも嬢ちゃんも若そうじゃねえか』

「いやーそうなんですよー、この仕事は結構長いんですけど」

 

『ふーん、まあ冒険者の詳しい説明聞いてたから、アイツらが初心者(トーシロ)なのは明らかだった』

「ということは……冒険者ギルドにも初めて来たわけ、と」

 

『だろうな。つっても装備(モノ)傍目(はため)にもかなり良かった。どっかの金持ち(ボンボン)だとすぐに思ったね』

「――どんな格好だったか覚えてます?」

 

『全員が色は違えど、おんなじような外套(ローブ)にフードを被ってた。男のだけ足元に届くほど長かったなあ』

「それでそれで?」

 

『下に身につけていたものもチラッと見えたが、真新しく充実していたよ。よくわからん代物(シロモノ)もあった』

「本当に出てきたばかりの、若者ということですか」

 

『だろうよ。アイツらは窓口としばらく話した後に、冒険者登録を済ませた」

「であれば新米の証である【石】級のタグプレート?」

 

『あぁ。その後は、(たば)になってる賞金首のリストを熱心に眺めてた』

「探索や収集や狩猟よりも、対人か犯罪者に重きを置く冒険者志望――と」

 

『だからまあ……オレらは少し世間の厳しさってもんを、教えてやろうと思ったわけよ』

「具体的には?」

 

『少しだけ悶着を起こすか、連中を囮にして恩を売るか、あわよくば横取るとかよ』

「ほうほう……」

 

『一つ判断を誤れば、死ぬこともある商売だからな。オレたちもウマいし、連中も学べる』

「あくまで若い新人冒険者たちの為だと?」

 

『まっ最悪、見殺しにして……得た情報を売っちまうのも考えていたがね』

「容赦がないですねー」

 

『結局は我が身大事だからな、利益がなきゃお節介も出さねえよ』

「しかし実際にお節介は焼けずじまいだったと?」

 

『そうさ、しばらくしてから――オレらも連中が熱心に眺めてた賞金首がいると思しき場所に向かった。

 まあ算段は色々あったわけよ、頃合を見計らって向かったつもりだった。ただオレらが着いた時には……」

 

「着いた時には?」

 

『――(おびただ)しいほどの血の(あと)しか残ってなかったよ』

 

 

 

 

 ――冒険者ギルド受付窓口担当、年齢非公開女性の述懐。

 

『はい、懇切丁寧に説明した新人の方々なので覚えています』

「それで――早々に賞金首を討ち取ったんですねー」

 

『"使いツバメ"による定期連絡にも書かれていましたので、確かですね』

「彼らは次の街で、報酬を受け取ったわけです?」

 

『そうなります、検分にも疑いなし。有望な冒険者は喜ばしいことです』

「賞金首の危険等級からすると、これで彼らは最低でも【銅】級冒険者並――ということでしょうか」

 

『実力的にはそうかも知れませんね。【銅】級に上がるのであれば、まだ実績が重ねねばなりませんが』

「実際はそれ以上の可能性もあると」

 

『ただ――あまり頓着(とんちゃく)はなさそうでした』

「……つまり?」

 

『"依頼型"には興味を示さず、ただ換金に必要だから冒険者登録をしたということです』

「賞金首の多くは制限がありませんもんね」

 

『【白銀】や【金】級でないと秘匿される情報もありますけど――』

「ということはもしかしたら、今後頭角を現してくる可能性も?」

 

『えぇ……もっとも賞金首については、市民にも周知しておく事柄ですから。本当に極一部です』

「そこまで狙うつもりなら、ということですかー。ちなみに年齢や名前は――」

 

『そういった情報は、特別の事情がない限り教えることはできません』

「あっはい、ですよねー」

 

『そもそもあなたは何故、このようなお調べを?』

「これが仕事なんですよぉ。彼ら以外にも色々調べています」

 

『はぁ……お仕事、ですか』

「しがない情報屋風情でしてー」

 

『既にギルド所属の冒険者ですので、くれぐれも強引なことは控えてくださいね』

「もちろんです」

 

 

 

 

 ――【銅】級冒険者、29歳男性の告白。

 

『我々は隠れて偵察をしていた。賞金首を狩る際には、状況を見るのが鉄則だからな』

「基本に徹していたわけですかー」

 

『賞金首どもも馬鹿じゃない。一定の行動拠点を持つ連中は罠を張っているし、一癖ある実力者揃いだ。

 大規模な討伐隊が組織されるギリギリの(ライン)、それを越えるようなことは決してしてこない。

 さらに近くの街へ顔の割れてない奴を使いに出して、実力者がいないかなど監視だってしている』

 

「確かに今回の賞金首も、かなり長期間リストになっていたようですねー」

『その通りだ、それゆえにこっちも万全と慎重を期して事にあたっていた』

 

「それで……状況の詳細お願いします。ささやかですが謝礼はいたしますので」

『連中は音もなく現れた。唐突に声を掛けられ、思わず大声をあげそうになってしまったよ』

 

「あなたがたは慎重に隠れ潜み、偵察していたハズなのに……?」

『そうなんだ……簡単に見つけられただけでなく、我々に悟られずに近付いていた』

 

「それで彼らはどうしたのですか?」

『連中は言った。協力するか、そうでなければ先に仕掛けても構わないか――とね」

 

「協力は断ったわけですねー」

『あぁ。我々が生きる冒険者の世界――確かに若くても優秀な奴は、いくらでもいるさ。

 こちらの場所をあっさり特定し、接触をはかってきたことが何よりの実力の証明だった』

 

「それで彼らは自分たちだけで討伐に向かったと」

『賞金首も一筋縄でいく相手ではない。我々は止めたが、聞く耳はあってもうなずかなかった。

 "相互不可侵"も大事なのがこの手の仕事だ。だから連中を必要以上に説き伏せる真似もしなかった』

 

「あわよくば"威力偵察"にでもなれば……ということですかー」

『そうだ。冷酷ではあるがそれで付け入る隙ができるのであれば、我らも安全に事を為せる。

 若き冒険者たちには気の毒であったが、やはり自分の仲間たちの生命が最優先される』

 

「されど結果は違ったわけと――」

『最初は何かを話しているようだった。下卑た笑い声も聞こえた。そうしてすぐに賊どもは集まり――』

 

「多勢に無勢ですね」

『賞金首である敵首魁の魔術士は、かなりの実力者だったはずだ……だが一方的に蹴散らされた。

 魔術も直撃していたように見えたが意に介さず、何度か鳴った破裂音(・・・)と共に賊どもはうずくまった。

 本当にあっという間に……しかも殺さず(・・・)に、次々と賊どもを制圧してしまった』

 

「別の(かた)から"血の痕"が残されていたと、お聞きしたのですが――」

『あぁ……残ったのは血だけだ』

 

「しかしあなたのお話だと――」

『そうだ、我々が戦慄したのはそこからだ』

 

「はぁー……――」

『一人だけ後方で戦わぬ者がいた……。事態が概ね終結し、他の者たちが拠点を探索している(あいだ)

 その人物がゆっくりと人間を解体し始めたのだ。()()()()()体を切り開いて、内部を(いじく)り回していた』

 

「賊たちを……つまり人間を、ですか?」

『我々は動けなくなった。四肢を切断した後に、また繋ぎ合わせたり――理解の埒外(らちがい)だった』

 

「だから血だけが残った……と――」

『地面に染み込むより先に溜まっていった……。何人か死んでしまった者は埋められていた』

 

「繋ぎ合わせたということはつまり……回復魔術の使い手? ということでしょうか」

『改めて今思えばそうなのだろうな、人体を使って実験をしていたんだ』

 

「興味深い。相手が賊だからこそやれる無法ですねー」

 

『我々は全員、連中が去っていくまで……ただただ見入ることしかできなかった。

 動けば我々も同じにようにされてしまう――そんな気分にさせられたのだよ、失礼な話かも知れんがな』

 

 

 

 

 ――連邦西部方面・33号調査員より、案件17番・第三次報告――

 

 二次報告書において記載した資料に、さらに情報を追加します。

 詳細については別記参照のこと。引き続き調査にて報告予定。

 帝国方面への異動申請の受理をお願いします。以下私見――

 

 現段階でもかなりの実力者と見受けられ、将来性も良好のように見られます。

 分別はあるようですが……彼らの行動の節々を見るに、接触は慎重を要する可能性有り。

 

 冒険者ギルドとは別に、何らかの後ろ盾ないし組織に属している可能性が高い。

 同時に懸念材料にもなりえるので、注意度の引き上げ検討も視野かと思われます。

 

 




幕間はこれにて終了、次回から第三部です。

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