異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
当事者の一人である幽鬼のような男が起きるまで、カエジウスとの会話に興じる。
「――にしても喰えぬ奴らよ。しかしなんだ、これは誰ぞの入れ知恵か?」
「いやぁ彼女の発案です。人を救って目的も果たす、なんと
「
俺とハルミアの言葉に一つだけ溜息を吐いたカエジウス。
彼はふんぞり返ったまま、髭に覆われた口を開く。
「こうして会うことは果たせても、答えるわけがなかろうて」
「そいつはまっこと残念なことです。尋ねたいことは山ほどあるんですが――」
「まずは制覇してからにせい、できるものならな」
「じゃ、
「挑戦的なその態度……貴様らのような恐れを知らぬ者たちも、昔はよくおったものなあ」
想起に
「もしかして"ゲイル・オーラム"?」
「名指しか。ああ、確かにトンデモなく暴れん坊な連中だった。修繕も時間が掛かったものよ。
だが制覇したことは素直に賞賛に値する。まったく最近の
(老害みてぇだな……)
いわゆる「近頃の若い者は――」と
はたしてそれは事実なのかも知れないが……言い回しはまさに、である。
人の振り見て我が振り直せ。
俺自身、転生前は古い感性に囚われ、意欲をなくし、そういう気質があったことは否定しない。
改めて
彼は
モノは違えど、己の欲得ずくと、趣味でやっていくことに……大きな違いはない。
基本骨子が似通っているのであれば、良くも悪くも参考にすべき点は多いだろう。
「にしても、知り合いがおってもわざわざ問いに来たとは……それもそのはず。
まして二十年かそこら前の話となれば、昔とは全くの別物である。聞いたところで得るものは無いに決まってるでな」
「いやまぁ制覇者だと知ったのは、つい
俺は正直に言うと同時に、少し余裕を見せながら煽るように言う。
「情報なぞ所詮
「なるほど……真に得られるべきは、自らの眼で
「そうだ。こんなことを続けていても――貴様らの寿命を、いくら費やしたとて制覇などできん」
「でもゲイル・オーラムが制覇したのは……俺たちとそう変わらない年の頃ですよねぇ」
もっとも俺の精神年齢は、さらに30年ほどプラスされるが……。
(なんにせよ目標としては悪くない)
今度オーラム
「キサマらとヤツらとでは大いに違う。キサマらでは何年掛かったものか」
「かの御一行はどのくらいでした? 直接聞けば遅かれ早かれです。それくらいは教えてくれませんかね」
「あやつらは、たしか二季……いや準備も含めれば三季ほどか」
(
三季となるとおよそ240日に及ぶ。一年以上潜ってる連中から考えれば、それは破格のスピードではあるが……
さしあたり
しかし
「あの時よりさらに洗練させ、凝った作りにしている。最低でも2年は覚悟してもらおうか」
(……なんつーか、こじらせてねぇか?)
五英傑と呼ばれても、俗物的な面があるのは――ある意味で厄介でもあるが、安心もできる。
何もかもを超越した理解できぬ精神性で、無茶苦茶やられるのが一番困る事態なのだから。
いずれにしても、これは意地でもクリアしてやりたいという気持ちが
"簡単にクリアされたら悔しい"精神のクリエイターの、度肝を抜いてやろうじゃあないかと。
「――
「ないない、好きなようにやるがいい。自由に狩って、罠も破壊したって咎めることはない」
「ゴリ押しでの攻略もあり、だと」
「
「徹底的に逃げ、隠れ、最下層まで到達しても?」
「逃げられるものならば、やってみるがいい」
ニタリと笑ったカエジウスは、目を細めながら
「しかし街全体の法として、同じ攻略者を害する目的で事に及べば……奴隷の仲間入りを心しておけ」
「それは大丈夫です、他者を蹴落とすまでもない」
「ほんに言いよるわ」
ぐぐっとにわかに動き始める物体に、全員の視線が注がれる。
床に寝かされていた男が、両の
「お……おぉ、我が
「えっ……はい!?」
もはや幽鬼とは言えなくなった男は、土下座するように膝を折ったままハルミアを見て叫ぶ。
「
ハルミアに接近した男を俺は止める。
俺ですらそういうアレではまだなのに、こんなのに近付かせてなるものかと。
「おっごがぁ……」
右手の平で覆うように、俺は男の顔面を掴んで大人しくさせる。
「あーーー……これで名実共に嫌疑も晴れたということで、よろしいですか?」
「そのようだ、以後も穏便に済ませよ」
「おっふぅ……これは失礼した」
起き抜けのテンションが落ち着いた男を離し、扉へと誘導して先行させる。
「そうそう、これだけ聞いておきたいんですけど。死んだ生物を召喚契約できるってのは……?」
「後々詐欺だと訴えられても困るから答えてやるが……尾ひれのついた話だ。
大概のことは叶えてやるが、あくまでこちらの趣味であるということを忘れるな」
「ご丁寧にどうも。それでは存分に観光させてもらいますよ――
◇
きちんと条件付けされているのか、警備奴隷がいなくても庭の魔物は襲ってくることはなかった。
襲ってきても返り討ちにはできるだろうが、治療された男は戦々恐々と後ろをついてくる。
「んで、どーすんのさ? ベイリル」
「もちろん攻略する」
「でも時間……結構掛かりそうですよねぇ」
「オマエらは寿命長いからよくても、アタシはあんま乗り気になれんな」
「大丈夫だ、
「どういうこった?」
「攻略のやり方に対する
疑問符を浮かべる3人に、俺はほくそ笑むようにして言葉を紡ぐ。
「"テクノロジー"で攻略する――厳密には併せ技だがな」
最下層に何が待つかはわからないが、そこだけは真っ向勝負するしかない。
まさかカエジウス本人が出てきて、ラスボス気取る――なんてことはないと思いたい。
いやそれならそれでも、どうにかどうして、やりぬきやってやる……しかないだろう。
「一応は慎重に事を運ぶ必要がある。中途で取り締まられて、新たにルール追加されても困るし」
「今攻略と言ったか? キミたち」
庭を抜けて街中へと差し掛かろうとすると、幽鬼のようだった男が話し掛けてくる。
「えぇまぁ……でも部外者に聞かせることではないんで」
そう切って捨てようとすると、男は深く頭を下げて懇願するのだった。
「ならば頼む! 私を加えてはくれまいか!?」