異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「
まずは空間に満ちる大気の密度を歪ませて、一定範囲内の光の屈折を調整する。
これで周囲からは誰にも見えない、
「
続いて音の伝播を遮断する。これで内側から外へと音が漏れることがなくなった。
光学迷彩と遮音壁、二つの魔術を重ね併せることで、ここは完全なステルス領域となる。
不用意に近付かれない限りは、見つかることがない。
「それじゃぼちぼち始めるか」
全員の心身は充実している。装備品の要不要も選別し、戦闘準備は万端。
万が一に備えての、
"魔術機械"の起動と操作方法は昔に何度か見ていて、難しいこともない。
「
もう3年近く前ではあるが、ハルミアは覚えていた。
かつて地熱を発掘するという話で製造され、利用された魔術機械。
リーティアとゼノとティータの初の合作にして、魔導と科学の融合品。
「あれから魔改造されまくったんで、この"
テクノロジートリオの独創性が
とはいえ得たデータを叩き台にして、より安定した性能のモノが何基か作られたのも事実。
それらは商会の事業――掘削や採掘など――の為に、場所を選定して使われている。
「三人集まるとすごいよね~、ほんと」
「まったくだ」
三人寄らばなんとやら。卓抜した三人の親和性と、相互影響によってブーストされる。
そんなリーティアとゼノとティータが、さらに自由に創造性を発揮させた魔術機械。
それはとんでもない出力を誇ると同時に不安定さもぬぐえない為、学園に保管されっ放しだった試作品。
しかしこんなシロモノでも、場所を選ばないと掘り抜けないのがワーム
なにせワームの
それでも何度となく試行したソナー探査と攻略組からの情報を統合し、大まかな形は把握できた。
あとは最下層と思われる層節の部分まで、直通のトンネルをぶち抜いていく。
「名付けて――"掘って掘って掘り抜いて、突き抜けたなら俺らの大勝利"作戦」
見た目は奇抜さもあるが、マシンの構造それ自体はさほど複雑なものではなかった。
地上で収納および、引き上げ時の支え部分となる土台。
魔力を送り込む為の魔鋼棒が上部から突き出た、本体ドリル部。
そして引き上げ用のワイヤーと、巻取り用の装置である。
つまるところ地盤を固める作業は、人の手で
まともにやるのであれば時間を掛け、セメントや鉄管などで崩落しないよう組んでいくもの。
当然ながらそこまでの準備や輸送を許すだけの時間も、場所の確保も、材料の調達もできない。
しかしここは異世界であり――魔術がある。
学園時代では地属魔術の卓越したリーティアが、機器の運転と地盤固めの両方をこなしつつ時間を掛けた。
今回は魔力を充填したフラウが担当し、斥力場を使って穴を固めながら
「ベイリルよぉ、ホントに大丈夫なんだろうな?」
「まぁあーしは最悪生き埋めになっても、自力脱出できるけどねぃ」
「リーティア、ゼノ、ティータの共同力作の一つだ。個人的にはまったく心配していない。
空気供給は俺が責任を持つし、最悪壊れてもまぁ……"
燃費は悪いものの俺とフラウの魔術を併せれば、単独で掘り抜くことも恐らく不可能ではないだろう。
しかし最下層に"ラスボス"が待っているとするなら――魔力は温存しておくに限る。
(今のあいつらなら、さらに凄いの作れるだろうし……有効に使わせてもらおう)
どうせ学園で
壊す気はないが、最悪壊れてしまっても……その時は心の底から謝ろう。
「気をつけてくださいねフラウちゃん」
「あいよ~。そういやさ……合図はどうすんの?」
「声の伝達も全部俺が請け負うよ、方向がズレたりしたらこっちから連絡する」
うなずいたフラウは本体ドリル部の上に飛び移り、魔鋼棒を掴んだ。
「ほんじゃっ地底探索、いってきま~す」
フラウはビッと形だけの敬礼して魔力を込めると、ドリルが回転して地面を削っていく。
ゆっくりと土台部から切り離されたドリルは、フラウを載せたままゆっくりと沈んでいった。
◇
早朝より始めて昼に差し掛かりそうになると、声が穴の奥底から響いてくる。
『うおぉ~い、きていいよ~!!』
「おーう! そのまま待機なー!!」
『りょーかーい、まじすごいよーーーっ!!』
俺はそう頼んだ後に、ハルミアとキャシーへと向き直る。
「大事はないと思うけど、俺が
「よっしゃ、じゃっお先ィッ!」
「それでは私も失礼します」
言うやいなや跳んでワイヤーを掴み、一直線に落ちていくキャシー。
続くようにハルミアも、下を一度だけ覗き込むとすぐに
「んじゃニア先輩、すみません。後のことはもろもろ全て頼みます」
「えぇ、しかと請け負いました」
「遮音と迷彩は解けちゃうんで、誰かに問われたらてきとうに」
「わかっているわ――無事制覇することを祈ります」
俺はニィっと笑って、備蓄袋を背負うと落ちていく。
深く――暗く――長く――何キロメートル地下かわからないほど。
そうして――光がふっと見えた瞬間には、あっという間に広い空間へと出ていた。
「おっ……ほぉあああ――これが本当にワームの中なのか」
自然と配置された岩場からは滝が落ち、流れる川は大きな人工湖へと続いていた。
森があり、緑が生い茂り、草原の一角には花びらが舞っている。
領域を照らす謎の光源、僅かに吹き抜け香る風、さらには適温にまで保たれていた。
「やたらめったら凝った人工庭園だ……」
天井からワイヤーで垂れ下がる、ドリル機関部から俺は飛び降りる。
そして地上で既に立っている、3人のもとへと着地した。
「なあなあおいおい、ここが最下層か? すっげーいいとこじゃん」
「いーあ、ここは最下層じゃないよ」
「フラウの言う通り、最下層の一歩手前だな――そうだな、さしずめ"休憩所"のようなものか」
なかなか
魔物の気配も感じない、どういう技術で保っているのかもわからない。
流石は生涯の多くを
「でも英気を養う必要があるということは……最下層は覚悟しろってことでしょうねぇ」
「確かに体調万全で挑めということなんだろう」
俺は備蓄袋を地面に置くと、中から食料と水を並べていく。
「アタシはすぐにでも突っ込んでいいんだがな……フラウは疲れてんか?」
「充填分は
「うるせー、戦いは魔力だけじゃねえ」
「俺も思ったより消耗が激しかった。ここは素直に休息しよう」
「どんくらい? 一週間くらい
「そこまでニア先輩を放置したら申し訳なさすぎるわ。フラウは半日もあれば回復するか?」
「いや、その半分くらいでだいじょーぶダイジョーブ」
そう言うとフラウはトテトテと近付いてきて、左隣に座るとしなだれかかってくる。
「ふー……落ち着くねぇ」
小さな体躯を俺へと預け、ゆったりとリラックスする。
「ったく、二人でイチャつきやがって。そういうのは見えないトコで――」
「おっそうだねぇ、確かに二人だけじゃあねぇ……ほれ~ハルっちもおいでおいでー」
「えっ? んーっと……」
フラウはちょいちょいと手招きをし、ハルミアは少し遠慮がちに右隣へと寄り添った。
「……んあ? ハルミア? どういうこった」
キャシーは一人、わけがわからないと疑問符をいくつも浮かべ、首を大きく傾げる。
「フラウはいつも通りだが――ん? えっ、はああ!!?」
「その……まぁ、はい。そういうことです、キャシーちゃんのお察し通り」
やや照れながらもハルミアは、所有権を主張するように腕を絡めてくる。
「残るはキャシーだけだね~」
「あぁキャシーは
「こっちは願い下げだっつーのッ!!」
同じパーティ面子として何とも表現しにくい感情のまま、獅子の咆哮が人工庭園に響き渡ったのだった。