異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
終わりなき雷の暴風に晒されながら、俺は脳みそをフル回転させる。
結局はオーラムに
(魔力量には……まだ余裕はある)
ハルミアの治癒魔術に、自己回復魔術を重ねたおかげで体も十二分に動く。
あとはどう倒すかという選択なのだが……それこそが問題であった。
あの雷撃範囲内でもう一度、繊細なポリ窒素を結合させることは不可能。
キャシーには雷霆を司るドラゴン相手に、直接的にダメージを通す手段はない。
ハルミアも場所を選んで突き通すことができるだけで、決定打にはほど遠い。
フラウの
指定領域を歪曲させて直接削り取る"
"
そもそもほぼノータイムで発生し続ける雷霆の出力に、近付くことが自殺行為である。
仮にそんな中でまともに当てることがてきても、ドラゴンの一部が消せるのみでしかない。
(だが……――)
ブラックホールを形成する瞬間は、フラウの重力魔術が作用している一定範囲を圧縮にかける。
今の彼女の実力では、ドラゴンの巨体まで引き寄せることは不可能だが――
「なぁフラウ、雷撃を一瞬だけ消せるか?」
「それって"
作戦を考えているとキャシーから、心の底よりの声が漏れ出る。
「あーダメだ、もう魔力切れるわ」
「えっちょ……わたしだけじゃムリだってば!」
「キャシーちゃん!」
「お前が生命線なんだぞ!?」
退却しようにも、入口は実際に見えている距離以上に遠く見える。
今この瞬間キャシーが倒れられたら、全滅必至であった。
「わかってるっての、やり方を変える。ハルミア頼む」
「はい……? 私ですか?」
「気合で耐えるから回復し続けてくれ」
「ぇえ!?」
言うやいなや、キャシーは雷撃を放つのをやめて別の集中を開始する。
自らを避雷針にするように、両手を突き出して雷を一身に受け止めた。
「ぐっぁあああああああああッ!!」
咆哮とも絶叫とも知れぬそれを肺から絞り出すキャシーに、俺は意志を固める。
もはや
「其は空にして冥、天にして烈。我その一端を
――
もはや後先を考えず全力全開。防御を捨てて攻勢へと極振りする。
ハルミアの魔力がなくなってキャシーが倒れる前に、決めきるしかない。
「"旋風疾走"で
「おっけぃ!」
俺はフラウへそれだけを伝えるとすぐに理解し、彼女は応じるように集中する。
作戦の
「斬
それは風の剣というには、あまりにも大きすぎた。
黄竜の巨体と変わらぬほど大きく、ぶ厚く、そして繊細すぎた。
それはまさに極限まで研ぎ澄ませた風の塊であった。
しかし、それだけでは終わらせない。
追い詰められた状況でこそ、開眼できることがあるのは身をもって知っている。
言わば黄竜は踏み台だ。俺の為に律儀に用意された、成長材料を見なせ。
かねてより思い描き、修練し続けていたそれを――今、完成させるのだ。
("手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に")
術同士を強固に結合する。技同士を鎖のように繋ぎ、渾然一体に混ぜていく。
過去何度か味わった極度集中を今一度、俺自身に刻みつけろ。
圧縮固化空気による微細な刃と、真空の層による圧差をチェーンソーのように回転させる。
さらに超音圧振動波を混ぜて、強引に切れ味を超増強した荒術技。
基本の"風太刀"に、"風鋸"仕様と"音空波"機関を搭載させる。
音空波が内部破壊ならば、音圧振動はその応用となる外部破壊。
(もう、一歩――ッ!)
黄竜の鱗に通じさせる為に……さらにもう一つだけ欲張る。
状況が状況であるからこそ、己の限界を超越し、事を
"風太刀"を形成できているわずかの数瞬。
フラウの"
そして直前に
「我が一太刀は気に先んじて
ただただ全てのタイミングを合わせ、
ここまで積み上げてきた自分自身の強さ。"俺が信じる俺を信じる"。
頭と心に思い描く"最適の俺"に、俺自身を重ねて動くだけだ。
最高の"機"を確実に掴み、決して離してしまうことなどありえないと……狂えるほどに盲信していた。
俺はあらん限りに
「"
フラウの重力魔術によって、小型中性子星ごと雷の嵐が一気に
同時に俺は超音圧振動波を宿した風鋸太刀を
最下層は一瞬の静寂を帯び、プラズマを内包した風太刀がエリア内を煌めき照らした。
超加速を得た俺自身と共に、刃と黄竜とが交差する。
風刃を高速回転させて、共振増幅する音圧振動波を纏わせる。
電撃を取り込んで内部をプラズマ化したエネルギーと共に、肉体ごと超音速突破。
たった一人で連結合一させた――ドラゴン
フラウとタイミングを
その一撃は、黄竜の翼をもぎとり、肩口から鱗を引き裂き、胴体から右腕部までを、斬断した。
「空華夢想流・合戦礼法が秘奥義――"
手の中から消えた風と共に、俺はその余韻を噛み締める。
「
◇
「ギリっギリでした! 本当にもう死ぬところだったんですよ!?」
珍しくハルミアが……しかも怪我人相手に声を張り上げる。
治療が済んでしばらく休んでからであったが、怒りと心配の入り混じる言葉。
キャシーはまだボーっとした意識のままで、けだるそうに口にする。
「あーもうわかったってぇ、信じてたんだよ。それに
「ハルミアさん、俺もキャシーと同感だ。結果オーライ、もちろん教訓は次へ活かすつもりだ」
「ぜったい嘘です! それが必要と思い込んだらベイリルくんもキャシーちゃんも、無茶しないわけがないんです!!」
ぷんすかと息を荒げる彼女の姿も愛おしく、また魅力的に感じられた。
普段見られない姿というのも、なんというか乙なものである。
それにこうして叱られるのも……なんだろう、すっごく悪くない。
心地良さを確かめながら、俺は最下層エリアを改めて見渡す。
破壊痕が戦闘の苛烈さを物語っていて、同じく黄竜との決戦は終着を見た。すなわち俺達の大勝利。
(オーラム
飛行もできないワームの体内という狭い空間で、"
危うき場面も多かったものの――それでもあの"七色竜"の一柱を打ち倒すに至った。
「ハルっちハルっち、あーしは?」
「フラウちゃんも何しでかすかわからなくて危なっかしいです!」
「えーーー……」
フラウがやんわりと抗議のうめきをあげ、ハルミアは大きく溜息を吐いた。
「はぁ……まったくもう、結局は私がもっともっと医療魔術を高めるしか……」
『緊張感のないことだ』
"打ち倒した黄竜"の口から、呆れたような声が聞こえる。
「なに、強者ってのは常に余裕を見せるもんさ」
『たしかに美事だった。名乗るがいい、強き人族よ』
「ベイリルだ」
「フラウ~」
「ハルミアです」
「キャシー」
『覚えておこう。ベイリル、フラウ、ハルミア、キャシー』
「なぁよぉ……偉そうにしてるとこ悪いんだが、オマエ死なないの?」
キャシーが素朴な疑問を口にする。
黄竜は左肩から斜めに向かって胴体が泣き別れとなり、右腕も切断されている。
生きて喋っているのが不思議なほどに、通常どうあがいても死は
『腕や翼は"人族で言うところの一週間"もあれば十分、肉体もそう掛からん』
「さすがは完全生命種たるドラゴンの最上位ですねぇ――う~ん、興味深い」
ハルミアの目が鋭くなる。解剖したい欲が、やんわりとにじみ出ていた。
「でもさでもさぁ、トロルだったら多分すぐに再生してるよね?」
「さすがにありゃ例外すぎる」
フラウの耳打ちに、俺も黄竜には聞こえないように返す。
首だけでもまだまだ戦えそうな、地上最強の種族に恥じぬ純血種のドラゴン。
全員が魔力をほぼ切らした俺達には、もはや戦闘の再開なぞ不可能である。
この期に及んでブチギレることもないとは思うが、機嫌は損ねないに越したことはなかった。
『切断した部位は、おまえたちの戦果だ。自由に持って帰るがいい』
太っ腹なのか、無頓着なのか……。黄竜はあっさりと言う。
しかしながら胴体の大部分を持ち帰るには、とてつもない骨が折れそうであった。
「あー……地上までの直通転移装置、みたいなのはなかったり?」
『なんだそれは?』
「いやほらカエジウス
『知らんな、過去のものたちも自らの足で帰っていったが――』
実に気さくに話してくる黄竜の言葉には、真実しか含まれていないようだった。
(まじかよ……
限定的であっても空間転移ともなれば、最低でも魔術を超えし魔導級のシロモノ。
五英傑なのだからそれくらいとは思っていたが、事実はそう甘くはなく所詮は希望的観測に過ぎなかった。
『我が一部を運ぶのなら弱い魔物は寄っては来まい、戻りはそう苦難にはならんだろう』
「あっはい」
黄竜からすれば、何もおかしいことは言っていない。
だがテクノロジーチートで、最下層までショートカットした自分達には少々耳が痛い純粋な
最下層以外にも恐らく凶悪な魔物がいるだろう。
そういった厄介な魔物を道中で倒しているのなら――
実際に攻略して内部構造を直で知っているのなら――
帰りの途も黄竜の部位を魔除け代わりに、比較的容易に戻れるのは確かなのだろう。
『奴が修復するとしてもお前たちが去った後の
「カエジウス
『知らぬ』
「――さいですか」
(まぁなんにせよ超伝導物質っぽいし、意地でも持って帰るしかないな――)
隣の休息エリアへ続く内壁扉や、最下層近くまで掘り抜いた穴の大きさを考えると……細かく解体していく必要がある。
正直なるべく大きいまま、極力傷つけないようにしたいがそこらへんは仕方ない。
『ちなみにあの穴は利用しないほうがいい』
黄竜の言葉にドキリとする――が、その目線の動きを見て数瞬を置いて理解する。
残像で回避した時の……黄竜が放ったあの、極太雷ビームでぶち抜いた穴のことを言っているようだった。
『あれを使えば地上まで直通だろう、しかし奴はその手のものはすぐに塞ぎに掛かる』
「まぁ当然っちゃ当然ですね」
そう話を合わせるように肯定しながら、俺の心中でなんとはない不安の種が芽吹く。
(いやまさか……な――)
「ちょっとだけ失礼」
俺一人は最下層から戻って人工庭園への内壁扉を潜り、空気を歪ませて"遠視"を試みる。
ハーフエルフの視力と魔術を組み合わせれば、地平線に立つ人間だって判別できる。
「……無い、ないナイNAI――」
その双瞳に"映るはずのモノ"が映っていない。芽吹いた不安は満開に咲き散った。
探しても探しても――ワイヤーで垂れ下がっているはずの"魔術機械"がなかった。
それどころか掘り抜いて通ってきた穴も、天井内壁には一切見当たらない。
『やられた……やられたやられたやられたやられた――あんっのジジイぃ!!』
思わず俺は残りわずかな魔力を振り絞り、音圧最大の怨嗟を人工庭園に響き渡らせたのだった。