異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#115 制覇特典 II

 二つ目の願いに召喚契約を考えていたところで、キャシーがカエジウスへと告げる。

 

「"黄竜"と契約しようぜ! もう再生してんだろ? アレと契約で丁度いいじゃんか」

 

「キャシー、そんなに気に入ってたのか」

「まっ()()()()()大きな世話になったからな」

「確かに結果的にとはいえ、俺()得られるものがあったが――」

「アイツに乗って暴れるなら……うん、なかなかいいかも」

 

 彼女なりに自分が乗っている姿を想像して、なにやら笑みを浮かべる。

 

「それは叶えられんな、迷宮(ダンジョン)(ヌシ)の代替を連れてくるなら考えぬでもないがな」

「えっ……ちぇッ、そうかよ」

 

 一瞬どん底へ落とされたような表情を浮かべ、すぐに舌打ちをしてキャシーは諦める。

 黄竜の代替などそれこそ"七色竜"にしか務まるまい。

 そんなのを探して、捕獲して、まして連れてくるなど不可能である。

 

竜を駆る騎士(ドラゴンライダー)か――」

 

 キャシーのように実際に想像してみると……なかなかどうして()かれるものがある。

 変則的ながらも飛行を成し遂げている今、飛行生物は別に欲していなかった。

 

 しかしドラゴンとはファンタジーの王道にして、強さの象徴でもある。

 

(その威光を利用して、竜信仰を取り込む――なんてこともできるかも知れんし)

 

 

「二つ目の願い決めました」

「なにか」

「この世界で"一番珍しい竜種"と契約したい」

()()()()()ドラゴンか、二つ目はそれでよいのだな?」

「お願いします」

「よかろう、しばし待て」

 

 そう言うとカエジウスはその場から消える。

 玉座の後ろの扉から背後――ワーム迷宮(ダンジョン)内へ入っていく。

 

「……どこ行ったんだ?」

 

 キャシーが腕を組み疑問を呈すが、全員が肩をすくめて首をかしげた。

 

「どっかに契約しにいったんですかね?」

「しばしって言ってたけど、もしかして何日もあーしら待たされるん?」

 

 しかし玉座の後ろの扉は構造を考えると、隣のワーム内に繋がってるように思える。

 

「ところでなぜ、"一番珍しい"という条件をつけたんです?」

「あぁ、まぁ単なるR(レア)よりもSSRのほうがいいかなって」

「えすえ……なんですか?」

「凄まじく限定的な専門用語だから気にしなくていいです。まぁより価値のあるモノをってことで」

 

「一番珍しいってーとなんだろ、"七色竜"は当然無理だよねぇ?」

「ったりめえだろ、そんなら黄竜の代わりなるし黄竜と契約でいいじゃんか」

「まっそれに次ぐくらいのを、連れてきてくれるとありがたいと思って言ってみたわけだが……」

 

 炎熱を司る"赤竜"とその眷属(けんぞく)のドラゴン達は、帝国の竜騎士と契約して軍団を作っているという話。

 そういうありふれた眷属竜ではなく、希少(レア)な竜種のほうが欲しい。

 

(個人的には同じ空属同士として"緑竜"に近しいか、その眷属――)

 

 キャシーと同じく、やはり同属というのは共感性(シンパシー)を感じざるを得ない。

 

 

 しばらく待っていると、ようやくカエジウスが扉を開けて戻ってくる。

 

「ほれ」

 

 突然ぽいっと投げてよこされた物体を、反射的にキャッチしてみると思ったよりも重かった。

 はたしてそれは丸っこく、頭くらいに大きい石のような物質。

 

「……? なんですこれ」

「二つ目の願いは叶えた、三つ目を言え」

「はっえ、叶えた!? じゃあこれって……もしかして竜の、卵?」

「世にも珍しい純血種同士の卵よの」

 

 そう言われてみるとオーラを感じる……ということも別段なかった。

 黒と白のマダラ模様の石を、綺麗に成形して研磨したような感じ。

 ナイアブに頼めば半日と掛からず、ほぼ同じものを作ってくれるのではないだろうか。

 

 横から石卵を覗き込むフラウが、カエジウスへと質問する。

 

「"純血種"同士って……つまり"七色竜"同士?」

「いかにも、世界でたった一匹の存在に相違なし」

「七色竜の誰だ? 黄竜か!?」

 

 少しテンション高めのキャシーだったが、返ってきた言葉は彼女の期待には応えない。

 

「黄竜ではないが、まあ産まれればわかるから楽しみにせい」

「いつごろ産まれるんでしょうか?」

「わからん。ただ()()()()()()()()()()というだけだ」

 

 場が沈黙する、それはつまり――

 

 

「こ……これが本物だという証拠は?」

「産んだ本人から"奪った"もの――紛れもない本物だ」

「ひっど」

 

 "七色竜"と契約してこき使うばかりか、卵を奪ってくるとかとんでもない。

 そういうワガママが許される強者こそが、五英傑なのだと思い知らされる。

 

「一向に(かえ)る様子がないのでな」

「じゃー実質ただの飾りじゃねえか!」

「詐欺だ!」

 

 フラウとキャシーが抗議の声を上げるものの、カエジウスにはどこ吹く風であった。

 

 俺はハルミアへと卵を渡すと、乾いた笑いを浮かべる。

 

「――俺らが抜け道を利用した……意趣返しってとこですか」

「さてな……ただ嘘はついていない。間違いなく"一番珍しい竜"ということだ」

「内容は契約なんですけど?」

「産まれた時にしてやろう」

 

 食えない爺さんだった。とはいえ甘んじて受け入れるしかないだろう。

 あまり誠実でない攻略法を先にしてしまったのは、紛れもなくこちらである。

 

 それに卵というだけでも、取り込むべき竜教団にとって価値は大いにあるに違いない。

 

(本物だと信じ込ませるのには……骨が折れそうだが)

 

 どのみち"採掘権"という一番欲しい願いは叶えられた。

 なんなら三つの願い全てを集約させてでも、押し通そうと思った願いである。

 

 だからこれはおまけと思えばなんてことのない。

 ゲイル・オーラムへの土産話に、物質的なお土産も付属したというだけだ。

 

 

「了解、これはこれで頂いておきますよっと」

「いさぎよし。では最後の願いを言え」

 

 俺は少しだけ()を置いてから、提案するように投げかける。

 

「三つ目の願いは保留にしておくのもアリですか?」

「新たにドラゴン契約を所望せんのか」

 

 煽るようにカエジウスは問うてくる。

 確かに二度目の願いはスカされたが、三度目は細かく条件を付ければ問題ないということだ。

 改めてどこぞのドラゴンと契約してもいいが、俺は淡白に答える。

 

「正直なところ――特段(あせ)ることもないんで」

「まあ……前例はないが構わん。同等以上の最下層の(ヌシ)を用意してくるのであればそれもよし」

 

「まじっ!? 黄竜と契約!!」

「すまん、その為に保留したわけじゃない」

「っんだよー」

「まぁキャシー個人で捕まえて、叶えてもらう分には別にいいよ」

「むぅぅうう」

 

 難題に唇を尖らせて肩を落とすキャシーをよそに、俺はもう一つ疑問を聞いてみる。

 

「ちなみにもう一回迷宮(ダンジョン)を制覇したら――」

「二度目はまかりならん」

「さいですか」

 

 もう一度黄竜と戦う気はなかったが、もっと強くなったら――とも思った。

 しかし流石にそこまでは許されていない。結局は"無二たる"カエジウスの道楽なのだ。

 

「あとそれとですね――」

「いい加減にしろ、多少は許したが……叶える願いが思いつかないのならばとっとと()ね」

 

 聞きたいことは山ほどあったが、釘を刺された俺は閉口せざるをえなかった。

 かと言って、"質問に答えてくれ"というのを、残る一つの願いで叶えてもらうのも……いささかもったいない。

 

「キサマらが地上へ戻るまでに荒らした部分を修繕せねばならぬでな、話は以上だ」

 

 やや邪険気味だろうか、俺達は追い払われるように広間を後にする。

 どうせ残る一つの願いを叶えてもらう口実で、カエジウスと自由に謁見できる。

 彼の機嫌がもっと落ち着いてからでも遅くはない。

 

 俺は立ち止まると(きびす)を返して最後に1つだけ、願いに関わる形で問い掛ける。

 

「あぁ……そうそう、この土地が欲しいと言ったら?」

「当然叶えられぬ願いよの。()()()()なら、好きにするといい」

「いえいえ、過言で失言でした。それでは失礼します」

 

 威嚇するような笑みを俺はさらりと風に流し、部屋を出て扉を閉めた。

 

 いずれこの領地も、なんらかの形で頂戴する日が来るだろう。

 その時は――彼と闘り合うか、暗殺するか、老衰するのならそれまで待つか、それとも何か別の……。

 

(なんにせよもしも準備するなら、早め早めに……か)

 


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