異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#135 王国軍陣

 ――王国軍中央、総大将が野営の居を構える天幕内。

 

「以上が報告だ」

「なるほど、その暗殺者の所為(せい)で、下位級とはいえ統率する立場の者たちもいくらか殺されてしまった。

 おかげで……ただでさえ略奪も難航するこの土地で、行軍の為にかなり時間を浪費してしまっている――」

 

 用意された椅子には座らず、立ったまま報告した男は(さえぎ)るように告げる。

 

「我が領分ではない」

「……少しばかり愚痴となりましたこと、申しわけない」

「これ以上聞かされぬのであれば、別に構わん」

 

「改めて感謝を、"テオドール"どの。円卓の魔術師である第二席のあなた自らご足労いただき――」

「かしこまった口上など不要だ、我が興味からやったまでのこと。それに立場は上でも、戦場における指揮権は貴殿にある」

 

 慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度の第二席に対し、王国軍の総大将、"岩徹(がんてつ)"のゴダールは中途の言葉を呑み込んだ。

 大きな肉体に相応しい鎧をまとい、歴戦の様相が顔面にも強く表れている。

 ゴダールは格上の存在を相手にも気圧されることなく、責任を瞳に宿して真っすぐに見据えた。

 

「……指揮権を理解した上で、こちらの要請を無視してでも"(くだん)の暗殺者"を待つと?」

「無論。彼奴(きゃつ)は我が剣の(かて)(あたい)する」

「御弟子の方々(かたがた)は――」

「こちらの標的を遂げた後に、我が監督の(もと)で動員するつもりだ」

 

 ――円卓の魔術士、第二席。王国"筆頭魔剣士"テオドールには直下の門弟(もんてい)が存在する。

 総大将である岩徹であっても、完全な私兵たる彼らを自由に命令できる立場にはない。

 それでも第二席を含めて軍全体にとって貴重な戦力であり、"伝家の宝魔剣"には違いなかった。

 

 暗殺者の噂にわざわざ後方から前線まで来て、一般兵にまで(ふん)して迎撃したことだけでもありがたいほど。

 であるならばこれ以上引き留めるのは、さらに心象まで悪くすることになりかねない。

 

 

「存分に意を果たされるよう……」

「雑事は任せる」

 

 円卓の魔術士本人も含めて、それらを遊ばせておく余裕は正直あまりなかった。

 それでも()が強く気まぐれな国家直属の重鎮の一人に……命令を強制すればどうなるかはわかりきっている。

 強力であるが扱いにくい――戦争においては面倒極まりない駒であるが、"岩徹"としても初めてのことではない。

 

 数多くの戦場経験は決して伊達(だて)ではなく、遠征軍に相応しいだけの実力を備えている。

 こういった状況をきっちりと含んだ上での、戦争のやり方はしかと心得ていた。

 

「もし暗殺者の風貌をお教え頂ければ、こちらでも――」

()らぬ世話だ」

 

 実際のところ暗闇と魔術とフードによって、よく見えていなかったというのが一つ。

 しかし仮に見えていたとしても、テオドールは己の獲物の特徴を教えるつもりはなかった。

 

「あなたがそこまで意思を固めているのであれば……これ以上言えることはありません。

 どのみち厄介な敵へは、王国軍としても分相応の戦力を充当せねばなりませんから」

 

 総大将でありながら中間管理職のような役回りを甘んじるのも、全ては国家と戦友と家族と己自身の為。

 こういった厄介な事案も上手く転化し、大いに利用してこその軍属で上に立つ者としての器量であった。

 

「失礼する」

 

 "筆頭魔剣士"テオドールはそう言うと、一瞥(いちべつ)もくれずに天幕を去ったのだった。

 

 

 

 

「おぉーーー……これはこれは、第二席どの、ご機嫌(うるわ)しゅう」

 

 テオドールが天幕から出てからそう時間も経たず現れたのは、一人の紅い魔術士用ローブを纏いし男。

 

「何用だ、貴殿に(とき)()く価値があるだけのことか?」

「はははっまあ、そう邪険になさらぬことです。この"火葬士"、いずれは同じ円卓へ座る身ですゆえ」

 

 そうのたまうは王国魔術部士隊3000人の長である、火葬士と呼ばれる将軍級魔術士。

 派手な火属魔術を操るその男は戦場における花形であり、戦場経験も豊富な叩き上げ。

 頬から首下まで続く痛ましい火傷の痕は、体中を(おお)っているのだろうと容易に想像させた。

 

「貴殿は戦争が好きなのだと思っていたがな」

「たしかに円卓なぞに納まってしまえば、(いくさ)の機会も少なくなってしまう」

 

 火葬士は薄気味悪い笑みを浮かべながら、腕を組んで悩むような仕草を見せる。

 

「ただ円卓の方々(かたがた)が持つ数々の特権は捨てがたく、また命令系統に囚われぬ軍事行動も魅力的です」

(いか)れが……――」

()なことをおっしゃる、それはあなた()そうなのでは?」

「我は試しの場を欲するだけに過ぎん」

「ならばわたくしも似たようなものです。己の限界を超え、戦場を華やかにしているだけですから」

 

 

 テオドールは鋭く冷やかな色をした双眸を、対面の男へと向ける。

 

「ふんっ、二つ名(・・・)に偽りなしか」

「それが何か? 火葬は素晴らしい処理方法です。生物は軽い軽ぅ~い灰と化し、(やまい)を生むこともない」

「たとえ()()()()()()でもか?」

「手間を(はぶ)いてやってるに過ぎません。それに火とともにその魂は、ディアマ様のもとへゆくことでしょう」

 

 火葬士は大仰(おおぎょう)に手を広げて、その正しさを説くように言い放った。

 後半の言葉に対し、目を細めたテオドールは問いただすように口を開く。

 

「貴殿は――三代神王"ディアマ"信仰か」

「そう言うあなたはやはり魔王崇拝ですか? まさか邪教(・・)や竜教団はないですよね?」

「いや……(はなは)だ不愉快なことだが」

「ん、おぉ!! これはこれは意外な共通点、いやしかしなるほどそうか、魔剣(・・)ならば確かにそれも納得です」

 

 三代神王ディアマは火属魔法のみならず、"永劫魔剣"という魔法具を用いた剣士でもあったという伝承。

 戦争をその象徴とする彼女(・・)は、大陸を斬断した結果として極東が切り離されたという事実が残る。

 

 "筆頭魔剣士"よばれる者の使う技は、実際に同じものかは定かではないものの……それに近しいものはあろう。

 となればディアマ信仰もうなずける話で、はからずも同じ神王教ディアマ派という信徒同士となる。

 

 

「はてさて同じ話題で語り合いたいところですが、どうやら諸将(しょしょう)もお着きのようで――」

 

 火傷によって敏感となった肌を通じて感じ取った気配に、火葬士は肩をすくめた。

 

「円卓の方々(かたがた)は軍議には参加しないのですかな?」

「雑事は貴殿らの領分だ」

「雑事、ですか……」

 

 そう一言だけ繰り返し、火葬士は天幕のほうへと歩いて行った。

 筆頭魔剣士も自陣へ戻るべく移動を開始すると、すぐに次々と諸将とすれ違っていく。

 

 隣領ベルナール領主にして、同領地軍の将軍――"ベルナール卿"。

 全身鎧に身を包む大男――精鋭魔術騎士隊の"大隊長"。

 戦場(いくさば)に似つかわしくない――実験魔術具隊の統括、名も知らぬ"王立魔法研究員"。

 他にも正規軍の"岩徹"直下に命令系統に属する、上位級指揮官が幾人(いくにん)も。

 

 

 だがいずれにも興味は湧かない。テオドールにとって相手すべきは――

 

『あらぁ? 魔剣士ちゃんはゴキゲンななめぇ?』

 

「黙るがよい」

()()()()()()()()として、これくらいの会話はいいんじゃなぁい?』

 

 そう唐突に現れて両脇から同時に喋るのは、"二人の同じ顔をした女"であった。

 

「貴殿らの声は聞いていてかなわん」

『えーっ?』

 

「そうぅ?」

「かしらぁ?」

 

 それまで同調して喋っていた女二人は、あえて分割して疑問符をつけた。

 ――円卓の魔術士、第十席。二人にして一人たる"双術士"。

 実年齢よりも若々しく見えると同時に、内包する(つや)めきは特殊な魔術と魔力あってのもの。

 

『少し前までは、なーんか淡々としてたのにどうしたのぉ?』

「わかるまい」

『というか実はけっこう乗り気ぃ?』

「……」

 

 黙ったままのテオドールの態度にも気にすることなく……。

 歩く速度を落とさぬまま、双術士はまとわり離れずついていく。

 

『それにしてもぉ、持ち回りとはいえ兵役義務があるのは面倒ねぇ』

「承知で円卓に座ったのだろうが」

『たしかに。でも今回は()()()()()()()()が見られるからいいかしらぁ』

「"魔術騎士隊"か――」

『まあわたしには足元にも及ばないだろうけど、少しだけ興味があるわぁ』

「結構なことだ」

 

 ふとテオドールは、少しだけ双術士の話に付き合うことにする。

 彼女らの魔術には見るべきところがあり、魔術騎士隊の有用性が証明されたのならば……。

 弟子達にも一部応用・流用が可能なのかも知れないと。

 

 

『ただなんかインメル領軍が、地味にやる気マンマンみたいなのが気になるよねぇ』

「一個軍など、所詮は有象無象に過ぎん」

『でも番狂わせってやつぅ? これはきっと何かの陰謀を感じるわぁ』

「聞きかじった程度で戦術を語るな。戦争などほぼほぼ順当に始まり、順当に終わるのみ」

 

()()()()、でしょぉ? 例外だってないわけじゃないんでしょぉ?』

 

 すると双術士は顔を見合せてから、自問自答するように同時に発した。

 

「もしかしたらぁ?」

「もしかするかもぉ!」

 

 パンッと二人の女は両手でそれぞれの両手を、鏡合わせのように叩く。

 その一挙手一投足が、統一された動きを二人は常に(おこな)っていた。

 

(つゆ)ほどにも思ってないだろうに、薄ら寒い小芝居はやめろ」

『そっかなー、あははははっ! でもぉ暗殺者ってのは、その"例外"なんじゃなぁい?』

「……彼奴(きゃつ)ともし出会っても、手を出してくれるなよ双術士」

『んっんっん~? もしかしてそれが気分が揺れてる理由かなぁ?』

 

 ぐるりと回り込むように、覗き込んでくる双術士を気にも留めずテオドールは再度勧告する。

 

「その時は我が手で貴様を斬る」

 

 そうして立ち止まりながら、ゆるりと剣の柄に手を掛けるような仕草を見せる。

 

『円卓同士の争いはご法度(はっと)じゃなぁい?』

「それでも、だ」

 

『うわぁコレ本気のやつぅ。別に興味ないからいいけどぉ――』

「それで良い、余計なことをするな」

 

『はいはーい、こじらせると大変ねぇ』

 

 ひらひらと躱すようにそう言い残すと"双術士"は姿を消した。

 一方でテオドールは嘆息を一つだけ吐いて、歩みを戻したのだった。

 

 

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