異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「さて、そろそろだが──むっ!?」
「これは……」
セイマールとアーセンは、木々を抜けてすぐさま異変に気付く。
"魔術具"を用いて作り上げた土牢は無惨に破壊されていて、近くには少年が一人横たわっていた。
「セイマール先生、まさか予定の内なのですか?」
「いや違う、バカな……一帯は調査した
疑問を
「おい、きみ! 無事か!!」
「っ……ぁあ、たす──けて」
馬上から降り立ち様子を
顔を上げた黒灰銀の髪に蒼碧眼のハーフエルフの顔はひどく汚れ、衰弱しきっていた。
それ自体は予定通りのはずだったのだが……。
「少年よ、大丈夫かね」
「あっ……ぁぁああああああ!!」
泣きじゃくり、顔をうずめてくる。
どうやら"精神汚染の浄化"に関しては、無事
「セイマール先生ッ! あっちに足跡と薙ぎ倒された後のようなものが!」
「なるほど、そうか……すまないがアーセン、少し調べてきてくれ。周囲の警戒もくれぐれも
「御意に」
馬上のアーセンは足跡を辿るように、調査を開始する。
一方でセイマールは泣き止んできた少年に、革袋に入った水を飲ませてから優しい声音で問い掛ける。
「何があったのか、聞かせてくれるかね?」
「ぅ──ん、すっごくくらくて、それで……かいぶつが──」
「怪物か、それで?」
「おっきくて……こわくて、みんなでにげて……それで、かくれて……」
奴隷商の話でも、かなり頭が回り、よく喋るとのことだったが本当にしっかりとしている。
「みんな? 他にもいるのか?」
少年はコクリと
セイマールは少年をそのままにして立ち上がり、中途半端に破壊されている土牢の中を覗き込む。
そこには残る3人、髪色からしても間違いなく自分が買った子供達が、身を寄せ合うようにして眠っていた。
「先生! とりあえず周辺は問題ありません。足跡は大きさと形から判断すると、小型の陸竜のようです」
「ありがとう、アーセン。どうやらきみの後輩となるべき子たちは、みな無事なようだ」
「そうでしたか。一応、他の土牢も調べてきます」
「よろしく頼む」
セイマールはたまたま"本部"へ戻ってきていた、元教え子のアーセンを誇りに思う。
積もる
この4人の子らも、アーセンのようにしっかり教育し、崇高なる使命の為にその身を役立たせてほしいと、
「それにしても……」
陸竜にこうも破壊された
しかしこれもまた
「おじちゃん、みんなはだいじょうぶ?」
「ん? おぉ、安心したまえ。みんな生きている、ちゃんと心配できるなんて偉い子だ」
そう言ってセイマールは目線の位置を合わせるようにしゃがんで、ハーフエルフの少年の頭を撫でてやった。
まずは土牢にて汚染された精神を浄化し、次は我々の大義によって導いていく必要がある。
「ちょっとよろしいですか先生、実は
土牢を見て戻ってきたアーセンに対して、セイマールは首を横に振った。
あくまで自分達は
少年の前で何か繋がりそうなことを口走られ、疑念を植え付けてしまってはせっかくの浄化も台無しである。
「あ……失礼しました」
「いや、構わない。それよりすぐにでもこの子たちを保護して、ここを離れよう。手伝ってくれ」
どうやらセイマールはすぐにこちらの意図を察したらしく、
「
「はい……その、ありがとう、ござい──ます」
しっかりと敬語で応える少年に、セイマールはうんうんと
全ては大いなる使命の成就の為に──
◇
おあつらえ向きに用意されていた、
「今日はぐっすりと寝て、ゆっくりと考えるといい──」
巻き布で顔を隠して俺達を買い、閉じ込め、いけしゃあしゃあと素知らぬ顔で
タイミングの良さと、"こんな場所"まで連れてこられたことから判断しても……十中八九、間違いはない
ジェーン、ヘリオ、リーティアの3人にはよーく言い含めた。
穴だけ空けて原型を留めていた
結果としてとりあえずここまでは上手く誤魔化せて、無事保護されることはできた。
(セイマールと、アーセン……)
メガネを掛け先生と呼ばれていた年配の男と、生徒と思しき若い男によって俺達4人は"屋敷"へ連れてこられた。
深い山中に構えた、どこぞの貴族だか富豪が所有していた古い名残を買い取ったのだろうか。
全体的にくたびれているような印象を受けたが、外も内も綺麗にされていて庭を含めて相当な広さがあった。
セイマールに保護された時に言われた通り、汚れを洗い、清潔なローブに着替え、小さな傷も手当てされた。
さらに温かい食事を提供され、本屋敷とは別棟の子供部屋へと案内された。
そして──
過去の歴史において、暗黒時代を打破し魔王候補をも殺して回ったとされる"三代神王ディアマ"。
そのディアマを
教義の内容には疑問符をいくつか覚えたし……語る口振りと瞳は、
(
セイマールは助けたという
ここに残れば
そして断れば近くの村に送り届けるという
一見すれば良心的に見えるようでも、その
子供が4人、見知らぬ土地に投げ出されればどうなるかなど、火を見るより明らかである。
自分で選ばせることが、この際は重要なのだ。マジシャンの心理トリックと同じ。
(そもそもだ、この場所の存在を知った上に、買った費用を回収しないまま素直に解放するわけがない)
相手はこっちが奴隷として売られていた──のっぴきならない境遇であることを知っているのだから。
村に送り届けるなど方便に過ぎない。断っていたとすれば、どういう扱いになるかは……想像したくもない。
より直接的で強力に肉体・精神に訴えるか、薬物に
あるいはもう一度どこかへ売られるか、
(問題は"契約魔術"の
奴隷商が客に説明していた時の知識を思い出す限りでは──まず一方通行の"強制契約"は難度が高く、また必要な魔術具も必要の効果なのだとか。
成功しても脳の思考能力が欠如するなどの
さらには魔術適性が高い場合、契約効果そのものにも支障が出てしまう場合もあると言う。
それゆえに正常なまま
あくまで
(だからこそ
俺自身、契約魔術については聞きかじった程度しか知らないので、他にもなにか条件や制約があるのかも知れない。
(単純に準備が整ってないか、もしくは考え方が違うのか)
契約魔術を差っ引いても、どのみち
さしあたって教義に
(少なくとも俺は、だが──)
問題は同じ部屋で眠る、3人の罪のない無垢な子供達。
判断のつかない子供の精神では、教義に染まってしまうことは容易に想像できる。
(無明の闇黒からの刷り込みは、結果的に俺がしてしまった部分があるとはいえ……)
それでも実際的に保護し、衣食住を与えるのはセイマールとこのカルト教団だ。
洗脳教育が進んでいったなら、長命の俺には遠くない将来で……最悪、敵対することになる。
──その
(迷うまでもない、むしろ俺の新たな指針の為の
洗脳解体──どころか最初から洗脳させないよう立ち回る。
カルト教の
(そうだ、なんだったら俺が洗脳してやる)
先手先手で俺の持つ知識や文化で、染め上げてしまえばいい。
そうやって信頼を
(
今後共同生活を
リスクは低くない。3人の誰かから、
直接漏らすことはなくても、俺自身も含めて行動の中に疑念を持たれる機会も必然的に増えていってしまう。
(──まっ俺の大いなる野望の為には、
世界に変革をおこして文明を進歩させて、退屈しない人生──もといハーフエルフ
その過程で母ヴェリリアと幼馴染フラウとラディーアも見つけ、可能であれば故郷を焼かれた復讐も果たす。
心の奥深くに刻み込むように、決意を
自分に言い聞かせるように、自身に暗示を掛けるかのように。
まずは