異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「さて、と――」
王国側の籠城に対するように、新たに造営された前線陣地の総司令部用天幕。
"素銅"のカプランは、イスに座ったまま"紙の束"を使って手遊びをし始める。
「あのぉ~"それ"ってなんなんですかー?」
ツバメの鳥人族テューレは、カプランの対面に座ってその様子を眺める。
「フリーマギエンスで作られた娯楽品の一つですよ」
「ははー……本当に色々作ってるんですねえ。あれも、そっちも――」
テューレは部屋にある様々なモノを順繰りに指差していく。
カプランの趣味で持ち込まれていた、一見して用途のわからない物品がいくつか並べられていた。
「ちなみにこれは"トランプ"と言います。さぁどうぞ一枚引いてください、僕には表側を見せないように」
「……? はい、わかりましたー」
カプランはテューレが引く
亡き妻や娘とも興じたものだが――この54枚の紙束で可能なゲームの多様性は、比較にならないほど多い。
さらにこれはシップスクラーク商会
弾力と耐久性のある紙質に、裏には上下左右対照的に簡易化された、二重螺旋の樹と根の紋章。
それは
「おおー綺麗ですねコレ」
「表を見たらまた裏を上にして、こちらへと戻してください」
テューレは言われる通りに、トランプをカプランの手札へと戻す。
するとカプランは慣れた手つきで、まとまった山札をシャッフルしてから置く。
「テューレさん、あなたが先ほど引いたのは……コレですね」
「いえ? 違う数字でしたけどー」
「なるほど、それはおかしいですねえ。よく見て触って確かめてください。本当に違いますか?」
テューレはカプランから手渡された札をもう一度見ると、それは確かに自分が引いた数字へと変わっていた。
「えっ、あれー? さっきは……んへぇ!?」
何度も持った
そんな素直な
端っこから一斉に表にしていくと、同じ数字と絵柄の組み合わせは何一つない。
確かにテューレが持っているものだけ。眼に自信がある彼女にも、いつ変わったのかまったくわからなかった。
「どうして……まさか心を読まれたー!?」
「僕はシールフさんはおろか、魔術も
シールフの読心と違って、自分が積み上げてきたのは単なる技術である。
それゆえに対象が意識しない部分ですら、読み取ることもできるのだ。
だからこそシールフの魔導でも不可能な己の特技であり、彼女に一目置かれる部分でもあった。
「あのー……どうやったんでしょうかー?」
「種も仕掛けもありません」
ベイリルから聞いた定型句で
理屈がわからずとも、そういうものなのだとすぐ納得した表情になった。
テューレはまた新たに何かをしようとしているカプランを眺め続ける。
ひとしきり
「これ誰ですー……?」
「"道化師"です。宮廷内や貴族を楽しませる専門家ですね」
「聞いたことはありますけど、これがそうなんですかー」
トランプで可能なゲームで
すなわち"黄金"ゲイル・オーラムと、"燻銀"シールフ・アルグロス。
自身と同じシップスクラーク商会の"三巨頭"の内の二人であり、実務能力のみならず戦闘力も逸脱している。
とはいえ、決して自由に切ることができる
1人は気まぐれな為に行動にムラがある。1人は
それでも2人の活躍あってこその部分は非常に大きい。
今現在もオーラムは主戦場とは別途展開される、インメル領の王国側広域の対処を
――と、目の前にいる連絡員テューレが、戦域の情報をもたらしてくれたばかりであった。
前線から離れた支配拠点というものは、侵略戦争に必要な場所でありながらも、命の危険は少ない。
高度な指揮も必要なく、
そういった者達を既に何人も
シールフは砲兵陣地へ襲撃してきた魔術騎士の精鋭部隊を撃滅した。
商会製カノン砲は決して奪われてはならないテクノロジーの1つである。
またそれを稼働させていた研究員や、信頼できる専属傭兵らもまた得難い人材。
戦闘を
しかしその後は、今度こそもう戦う気はないと後方へ
ただ"読心の魔導"によって、危急あらばそれを知らせるくらいのことはしてくれている――らしい。
なにせ今のところ何も音沙汰がない。ただ食っちゃ寝していると言われても信じてしまうだろう。
(彼女の反応がないということは、順調に戦争が展開されているという
カプランはそう己の中で思考を閉じ、新たに山札の上に手を伸ばす。
「これはー……王さまと女王さまみたいですね!」
上から順に引かれて並べられた二枚の
「正解です、
騎獣民族を率いる"荒れ果てる黒熊"バリスと、海賊艦隊を率いる"嵐の踊り子"ソディア・ナトゥール。
この二人の存在なくして、今回の戦争はなかったと言ってよい。
予備戦力に
王国軍の軍列を打ち砕いてから、個人的に先行して総大将まで迫って痛撃を与えたバリス。
それ自体は想定外の行動であったものの……結果的には問題のないものだった。
その後は一帯の掃討に駆けずり回り、恐れも疲れも知らぬ強靭さを見せている。
現在は彼自身が討ち漏らしてしまった王国軍総大将、"岩徹"のゴダールに備えていた。
騎獣兵団も主戦力が城塞周囲に展開して巡回しつつ、残りは小部隊に分かれて散兵を狩りにいっている。
"戦利品"として奴隷を奪い、兵士を捕えて帰陣しては、また出撃していくサマ。
おかげでこちらの糧秣が圧迫される始末なのだが、戦後のことを考えれば必要な出費である。
シップスクラーク商会の現物資産の大半を使い切るほどだったが、将来への投資と割り切る。
少なくとも奴隷に関しては、既に労働力として引き受ける取り決めが
兵士も身代金が取れそうな高級将校であれば、手酷く扱われぬよう配慮することになっていた。
蛮族だの
1度は従うことを容認したバリスを含めて、そこを譲歩させるのはなかなかに苦労した。
同時に彼らの風習を無視するに
そして海上輸送と封鎖を一手に引き受けてくれた豪の者達、ワーム海賊の首領であるソディア。
騎獣猟兵部隊を移送し、王国海軍を壊滅させ、現在も沿岸で海上封鎖を
海からの補給を
彼らは騎獣民族と比べればずっと俗物であり、同時に非常に即物的でわかりやすい。
いつ裏切るかわからない、悪い意味での自由さと気質を備えているが……。
少なくともソディア個人に関しては、カプラン自身も会って、話して、信用たりえると――
彼女が首領として統制している限り、ワーム海賊は商会にとって大きな利になると判断した。
海賊達がそれまでインメル領にも
その中には――当事者にとって、決して許されざる行為も含まれているだろう。
復讐を生きる目的にしているカプランにとっても、そういった被害者感情というのはよくよく理解できる。
しかして、背に腹は代えられないのも事実であるのが……今回の戦争である。
ましてやそういった
カプランとて大なり小なり……各国の法に囚われることなく、気の向くままにやってきた。
オーラムはかつての仕事柄、数多くの弱者を食い物にしてきたことをまったく
シールフも過去について多くを語ることはないものの、若い頃はあれで色々とやらかしたようだった。
ベイリルが語る"未知なる未来"の為には、彼自身も――良心を踏み砕くだけの意志で
なんにせよ、そうした
"文明回華"による"人類皆進化"。"未知なる未来を見る"果てなき
カプランは浮かべていた笑みの質を自嘲を含んだそれに変えつつ、
「うーんと……騎士、ですかー?」
「
されどその二枚が示すのはたった1人の獣人――"白き流星の剣虎"バルゥ。
騎獣猟兵部隊を率いているが、実質的には
王国軍兵站線の破壊作戦と、伴っていた奴隷の
その後は挟撃にて王国軍を追い散らし、前衛まで貫き進んで奴隷兵を扇動して回った。
特に研ぎ澄まされた眼と鼻は夜襲を得意とし、その
幾人か捕えられた王国兵士らは、夜ごと虎の唸り声に
次にカプランは山札の上から続けて三枚、
そこにはクラブ、ハート、ダイヤのエースが、それぞれ