異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#157 円卓二席 I

 標的の拠点を天空から視認した俺は、螺旋状に風を纏いながら軽やかに着地する。

 渦巻いた風は砂塵を巻き込むように小規模の竜巻を作り──

 

 それを一刀の(もと)に両断するは、王国円卓の魔術士第2席"筆頭魔剣士"テオドール。

 

(っぶ)なっ……」

「我が陣地へ侵入しておいてぬけぬけと(さえず)るな、暗殺者風情(ふぜい)

 

 斬り飛ばされた竜巻から、俺は約束した相手を見据える。

 

「確かにな。まっ約束通り、あんたともう一度闘いにきた」

「声が違うようだが……」

「あの時は正体を隠していたからな。今はあんたを確殺するって"漆黒の意思"の(あらわ)れとでも」

「そうか、しかし──いささか遅かった」

「うん……?」

 

 テオドールがその愛剣を鞘へと納めた音を合図に、周囲から複数の影が飛び出してくる。

 長い剣の紋章が記された統一衣装に身を包み、それぞれが剣を抜き放っていた。

 

「我が弟子たちだ、貴殿……いや貴様(・・)の相手には丁度いい」

「約束は反故(ほご)か? 俺を消耗させようって腹積もり、と……案外セコい真似をしてくれるんだな」

「貴様が勝手に言い残した約束だが……それはよい。真っ先に来れば相手してやったものを」

 

「つまり後回しにされたことにご立腹だと? 戦争なんだからそういう機微くらい理解してもらいたいもんだ」

 

 テオドールの弟子の数を把握する。24人を数える中所帯(ちゅうじょたい)

 既に完全な包囲網を形成し、隙を見出せないほどであった。

 彼らを相手にしてからテオドールを相手にするのは……さすがに俺も不利と見る。

 

 

「あーそうだ二席さん、三代神王ディアマの名の(もと)に"決闘"を申し込む。これでどうだ?」

 

 "イアモン宗道団(しゅうどうだん)"時代に習ったことを思い出す──武力を象徴する三代神王ディアマは決闘を好んだ。

 それゆえにどうしても譲れぬモノがあれば、その勝敗によって全てを委ねるという慣習がある。

 

「貴様はディアマ信仰なぞ()()()()()だと、あの明け朝に自らのたまっていただろうが」

「むぅ……そういえば、確かに。あれは失言にして過言だったな」

 

 決闘が通じるのはあくまでディアマ信仰者同士の話であって、(たが)えばその限りではない。

 筆頭魔剣士テオドールが言うことは、まさしくぐうの()も出ない言い分だった。

 

「まぁいい、俺が信仰するのは"自由な魔導科学(フリーマギエンス)"ただ一つ」

「聞いたことがないな」

「いずれ世界中が知ることになるさ、だがあんたはそれを見ることはない」

 

 口角を上げながら、轟然たる我が魔力の胎動を知覚する。

 

 

戯言(たわごと)は不要だ。本来弟子たちが経験すべきだった戦場経験、貴様の身をもって(あがな)ってもらう」

「手元に置いといたのはあんたの判断だろうが。経験なんて好きに積ませときゃいいものを──」

「師が実戦における弟子の剣筋を見ずして、いかに指導ができよう」

「ごもっともだが……意外だな。弟子なんざ()()()()()な"求道者"タイプかと思っていたよ」

「勝手をやらせて、我が境地に到達する者などいるものか」

 

 背を向けて歩き出すテオドールに、弟子達は道を空ける。

 すると一つ思い出したのか、首だけで振り返るように顔を向けて俺へと一言告げた。

 

「なぜだか配給が届かぬ落とし前も、ついでに(つぐな)ってもらおうか」

「そっちは戦術の一環なんだがな……まぁ飢餓ってのは理屈じゃないか」

 

 弟子の包囲から抜けたテオドールが鞘底(さやぞこ)で地面を叩くと、一斉に門弟達が動き出すのを肌で感じる。

 

 

(どうせなら剣で相手して──)

 

 風の太刀を形成しようとする()もなく、幾筋もの剣閃が俺を襲う。

 

「くっおぁ……」

 

 その口から驚愕が漏れ出ざるをえなかった。四方八方に全身をギリギリで揺らし続ける。

 回避一辺倒を強いられるほどの、苛烈だがそれでいて整然とした波状攻撃。

 感覚強化した俺自身、ほぼ死角はないものの……精密に繰り出される連係に反転攻勢する機が全くない。

 

(しかもこいつらッッ──)

 

 筆頭魔剣士たる門弟だけあって1人1人が魔鋼剣を持ち、魔力力場を体得しているようだった。

 練度から(かんが)みるに防御できないこともないのだが、それでも本来の防御効果は見込めない。

 魔術ごと斬り裂くそれを、まともに喰らってしまえば非常に危うく……空へ飛んで逃げる暇すらなかった。

 

(完全に見誤った)

 

 付け加えるのであれば、彼らはなによりも"多人数で戦う"ということに非常に慣れている。

 互いを邪魔することなく効果的に。獲物を追い立て、追い詰めるということに。

 逆に俺自身が、連係してくる部隊を単独で相手にすることに()()()()()()

 

 対人・対物は言うに及ばず。対部隊、対軍用の魔術こそあれ……。

 それらはあくまで砲台火力として、遠距離から奇襲含めてぶっ放す為のもの。

 

 迷宮逆走攻略においては敵が多い場面(ケース)もそれなりにはあった。

 しかしそういった時は必ず仲間がいたし、こんな極まった連係などもありえなかった。

 常に不利にならないよう立ち回り、圧倒的優位から速攻で決着(ケリ)をつけるのが基本だった。

 

 ゆえにこうした高度連係部隊を相手にした実戦経験は、皆無と言わざるを得ない。

 

 

 感覚強化と回避専念にリソースを割いていて、打開の為の魔術イメージすら固まらない。

 魔術力場の装甲を纏う24人からなる剣術部隊を相手に、一体何人打ち倒せば崩しうるのか。

 それまで敵の攻勢を凌ぎ切りながら、隙を突いていくという途方もない作業。

 

「──たしかに一人の強駒によって決着がつくこともある」

 

 テオドールの独り言のような、嫌みたらしい言葉を……強化聴覚は(いや)(おう)にも拾ってしまう。

 

「だが高度に洗練された部隊というものは、それを凌駕する。我が弟子たちの餌と散れ」

 

(暗殺任務もそうだったが……"数の有用性"ってものを改めて認識せざるをえないな──) 

 

 死の淵にありて延々と(かわ)し続けながらも……ハーフエルフの脳と肉体に、加速された魔力が循環する。

 それはさながら走馬灯のような──時間を切り刻み続けるがごとき感覚と、並列思考をもたらした。

 

 

(どんな人間でもつぶさに観察し続ければ、存在しない(クセ)が見えてくるもの──か)

 

 人心掌握に長けたカプランの──いつぞやに聞いたか思い出せない──そんな言葉が浮かぶ。

 ヘリオほどの才能もないが、多少なりと相手の拍子(リズム)だって読める。

 

 入れ替わり立ち替わり、刃を繰り出してくる個人は常に違えども──

 非常に高次元の連係攻撃だからこそ、それ自体を一人の剣士として見ることができる。

 総体としての一定の傾向のようなものがあり、利用するまでは至らずとも流れに自らを寄せることはできる。

   

 そしてさらに()()()()──修羅場にあってこそ、開眼できそうな直観めいた閃きを自覚する。

 しかし悠長にそれを許すほど、敵も甘くはない。彼らとて闘争の中で成長していく。

 連係した剣撃はこちらを確実に追い詰め、捕捉されつつあった。

 

(危なくなったら逃げりゃいい、などと──過言だったか……)

 

 もはや退却一択の状況ではあるが、それも確実な成功はまったくもって望めない。

 それどころか己の命を懸けるには……正直なところ、あまりに()の悪い賭けと言えた。

 

(生き残れたなら……今後の課題にする)

 

 撤退に転じる為の一手として、被弾覚悟で"スナップスタナー"を鳴らす──まさにその瞬間であった。

 

 

 展開していた何十もの影を塗り潰すように、さらなる影が覆いかぶさった。

 

 包囲をぶち破りながら突っ込んできたのは──遠近感が狂ったような片牙の折れた"巨大猪"。

 どこか見覚えがあるが……そんな些末(さまつ)なことなど、どうでもよくなほどの衝撃。

 

 青天の霹靂としか言いようのない、あまりにも()が奪い去られた異様な事態。

 

 さしもの門弟部隊も、自陣に最高速のまま突如現れた大質量の塊を相手にはどうしようもなく。

 それでも即座に衝突を避け、無傷のままで逃散し済ませているのは流石であった。

 

 巨大猪は勢いのままに走り抜けていき、進路上の天幕だけでなく岩や木々をも薙ぎ倒していった。

 それを目で追っていたテオドールのぽかんと開いた口を見ながら、俺は自身の開いた口を閉じる。

 すると背後で、どこか聞き覚えのある声がした。

 

 

「あーあ、行っちまった。まあでも迷わずに済んでよかったよかった!」

「全部あの子のおかげじゃん」

 

 乱入してきた巨大猪の背から、着地していた二人の闖入者(ちんにゅうしゃ)はのんきに会話を展開する。

 俺は頭の中で浮かんだ2人に対し、解消されぬ疑問はひとまず置いて声をかける。

 

「君ら……──」

「あーどもども、後夜祭の折にお会いしたケイです、"ケイ・ボルド"!」

「"カッファ"っす! どうもどーもお久しぶりで!!」

 

 かつて学園の"闘技祭"──前哨試合で会場を盛り上げてくれた、少女と少年がそこにいた。

 

「何故ここに?」

「プラタに会いに遊び来たんですけど、そのお師匠って人に頼まれて加勢にきました!」

「おれはケイを止める為に来ました」

「なにそれ」

「だってケイが全力になったら、止めるのも一苦労じゃん」

「ん、う~ん。聞き捨てならないけど、今は許す」

 

 

(プラタの師匠──シールフか。つまり俺が危機に(おちい)ると思われたわけか……いや事実だけど)

 

 先刻の巨大猪は騎獣の民から借り受け、ここまで乗ってきたのだろう。

 俺のところまで真っすぐ来れたのは……象、熊に次いで、犬と同等と言われる嗅覚ゆえだろうか。

 

 肝心の2人は何やら能天気にも見えるが、この状況が認識できていないとは思いたくない。

 さらには戦場がお遊び感覚ということに、一抹(いちまつ)以上の不安を覚える。

 

 闘技祭で実力の一端は見ているし、シールフが判断して増援に送ってきたのだから戦力になると信じよう。

 

「そうか、もう二人とも学園の後輩か」

「はい! それとボルド領を救ってくれた恩返しが、ほんの少しでもできればと!」

「スィリクス先輩との戦いは見ていたが……イケるのか?」

「やります、やれます、やってみせます! 露払(つゆはら)いはおまかせあれ!!」

 

 少女はガッツポーズのように両腕を胸の前に、ふんすと鼻を鳴らしてみせる。

 

「……それじゃぁ、お言葉に甘えようか。危なくなったら助太刀に入るから──」

「大丈夫です、()()()()()()

 

 にやーっと不敵な笑みを浮かべたケイは、門弟部隊に見渡すような一瞥(いちべつ)をくれただけでそう言い切った。

 

「ナメられたものだな……大口吐きを叩き斬れ」

 

 こちらの様子を(うかが)っていたテオドールの、苛立(いらだ)ちが込められた一言。

 弟子達はすぐに包囲を展開し狭めていき、一方でケイはマイペースに両腰の双剣を抜いて見せた。

 

 

「じゃっじゃーん! コレこの魔鋼剣。プラタ経由で作ってもらったティータ先輩とリーティア先輩の逸品!

 これなら()()()()使()()()()()()()()()!! フリーマギエンスってほんとすごい!!」

 

 構えた剣をくるくると何度か回しながら間合いを取り、ケイは刃の切っ先を敵となるべく相手に向ける。

 

 テオドールの門弟達はケイを囲みつつも、こちらへの警戒も一切解いていない。

 俺が攻撃や退却をすればきちんと対応してくるに違いなく……。

 

(うん、やっぱ欲しいな──こういう特殊部隊)

 

 俺がそんなことを考えた瞬間、門弟の一人が動き、波状するように二人三人と動き出す。

 改めて(はた)から観察してみると、本当に完成された動きなのが理解できる。

 

 可愛い後輩を殺させるわけにはいかないと、テオドールにも注意を払いつつ……。

 俺は肉体と精神とを適度に弛緩(しかん)させたまま、全力で動く用意を整えていた。

 

 しかしてそんな予想は、まったくもって違う形で裏切られ終わるのだった──

 

 

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