異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
#09 成長 I
子供の成長というのは、存外凄まじいものだ──
(つくづく思い知らされるな……っと!)
ジェーンと"手作りの将棋"を指しつつ、そう心中で
昼食後の休憩時間。いつの間にか子育ての日々を思うさま
「ん、これで
「げぇっ……まじか」
一念発起し決意した日から、時間を掛けて慎重かつ大胆に……地道で
8日一週、10週一季、5季一年、かれこれ6年弱。"イアモン
こちらの種々の手解きの
そして俺自身も順当に育っている、もはや
「これでついに俺の負け越しか、ジェーンも強くなったもんだ」
「昔からの負けを取り戻すまで長かったー、これで今度からはベイリルが挑戦者側ね」
「ああ、
「ヘリオとリーティアも挑戦してよぉ」
そうジェーンは口唇を尖らせつつ、惜しむような視線を二人に送る。
しかしてヘリオとリーティアは我関せずと言った様子で返す。
「麻雀ならいいぜ」
「ウチは"人竜"がやりたいな~」
幼少期からのカルト洗脳──へ対抗する為に、俺は様々な手段を講じてきた。
"文明回華"という野望を前に、"文明を促進させる為の組織"を作った時のことを考えて……。
絶対に裏切らない仲間を作っておこう、という打算があったことも否定はしない。
だがそれ以上に、子育てに面白味と喜びを
子供の好奇心と集中力と吸収性とは、かくも恐ろしい。打てば思っていた以上に響く感覚に没頭してしまった。
(思えば……フラウと一緒にいた時からそうだった)
幼馴染だった少女もあの頃は本当に、俺の
教育という意識はなかったが、知らず知らず幼馴染も学んでいた。
少しずつ俺のやってることを理解し、時に以心伝心のように察し合うこともあった。
つるむようになって日が短いラディーアにしてもそうだった。
しかしここでは集落で過ごすのと違って、セイマールの授業と
教育にあたってまずすべきであると考えたのは、世界の広さを教えるということである。
そうは言っても俺自身、異世界については伝聞と一冊ぽっちの書物で知っている程度。
とんと知らないことばかりなので、ひとまず己の歩んだ人生から様々なことを教えた。
童話から教訓を学ばせ、歌と踊りで心身を豊かにし、芸術で創造力を高める。
さらに少人数で可能なスポーツや、将棋なども
トランプや花札にダーツや麻雀。
さらには俺が知り得る範囲での、"世界の仕組み"を教え続けた。
実体験談や記憶にある娯楽物語まで、科学世界の夢や浪漫も語り尽くしてしまうほど。
(洗脳教育に対し、洗脳し返した……と言っても過言ではないのかもな)
それを言ったら後天的教育というものは、全て当てはまってしまうかも知れない。
たとえば地球でも迫害の歴史と共にあったユダヤ人などは、非常に優秀な民族だ。
人口比で言えば圧倒的に少ないにも関わらず、ノーベル賞輩出者は異様なほどに多い。
さらに──世界に名立たるトップ企業の多くが、ユダヤ系によって占められている。
かのロスチャイルド一族なども含めると、その経済力はまさに世界を
そうした民族性は、血統や遺伝的要因よりも……やはり"ユダヤ教徒"としての実践的な教えに基づくものが多いと思われる。
(人格形成も、突き詰めると教育を含んだ環境要因だもんなぁ……)
なんにしても都合良く操る為のカルトの教義に染まることに比べれば、俺のそれは幾分マシというものだろう。
あくまで
物事の
さらに言い訳をするのであれば、ただ"楽しかった"のだ。
無垢な子供と向き合い、語って聞かせ、頭や体を動かして遊ぶということが。
精神性は肉体に引っ張られるという話も……あながち嘘ではないように思える。
公的でも私的でも、人は与えられた環境に応じた仮面であり側面であり外面と内面を持つ。
たとえば赤ちゃんには赤ちゃん言葉で話すように。
懐かしい友人と再会すれば、当時のノリのまま馬鹿話で盛り上がるように。
開き直ってしまえば、俺は童心に返り咲いていた。
裏心のない至極正直なコミュニティで、思うさま子供の身分を
ありとあらゆる
もう遥か忘却の彼方な、幼少時代の体験を改めてエンジョイした。
ついぞ元世界の人生では
(あぁそうだ……この子らの為なら、命だって惜しくない)
まさに家族──我が子のようであり、同時に兄弟姉妹でもある。我ながら"
こんな感情を得られただけでも、もう
(……脱走を
俺自身を含めてみんな着実に成長している。
一緒に行こうと言えばきっとついてきてくれるに違いない。
しっかりとした計画を練るのは大前提だが、脱出して雲隠れするのは充分狙える範囲だろう。
その後4人で生活をしていくにしても、十分なほどの
ただそれでもリスクを考えるのであれば、このまま表向き信者として解放されるまで待っても良い。
そうして
「じゃぁ
ジェーン──肉体年齢では一つ上の最年長。
子供の頃から備わっていた端正さが、より一層際立った形で育った。
藍色の髪をポニーテールに
彼女なりの正義感と誠実さ。理知で合理からくる冷静さ。不正を好まない真っ直ぐな性根。
運ではなく頭を使う戦略的なゲームを好み、運動もスポーツも戦闘も積極的にこなす。
生来もっていたそれと、この何年かで熟成された母性もとい"姉性"によって面倒見が非常に良い。
おそらく他人であっても、困っている人見れば放っておけない
まだまだ少女の
芯が一本通ったよく響く美声と、
人族でありながら鬼人にも狐人にも、ハーフエルフにも負けない
「はっいいぜ。次は魔術実践の時間なんだし、どうせなら外でなんか
ヘリオ──見た目だけなら好青年。肉体年齢では一つ上の兄。
無造作に揃えた短めの
だが口を開けばチンピラじみたところも散見され、よくよく見知っていなければ近寄りにくさもある。
少しばかり軽薄で
義理堅い一面があり、
直情的で時に不誠実だが、きっかり筋は通す心根。
本質的には勉強は好まない感覚派で、体を動かすほうをめっぽう好む。
さらには闘争にも大きな
年若くとも鬼人族らしい洗練された骨格に、鍛錬を重ねた筋肉を搭載している。
ひとたび歌い出せば、
鬼の誇りと気性を十二分に、己が道を歩んでいた。
「みんなで日向ぼっことか、どぉ~かな?」
リーティア──肉体年齢は
大きな狐耳とボリュームたっぷりの、ふかふか尻尾を生やす狐人族の少女。
美人さよりかわいげを全面に押し出しているのは、幼少期から今も変わっていない。
一本一本が細やかに風に流れ揺れるような、肩口まで伸びた金髪。
鮮やかな炎色を双瞳に宿し、常に好奇心に満ち満ちている。
その精神はいつだってアンテナを張って、楽しめる何かを探していた。
無気力・自堕落かと思えば、一転してアクティブに集中するムラの多さ。
そのメリハリこそが、彼女の資質を最も引き出している要因なのかも知れない。
少女の感受性の高さは、半端な知識を彼女なりに噛み砕き
そうやって知識群と想像を増幅させ、彼女流の"理解"にまで至らしめていた。
ギャンブル性や駆け引きのあるゲームが好きで、獣人種ゆえに運動も得意である。
正直なところ俺もジェーンもヘリオも、甘え上手な末妹に負けない為──そんな
身長を
はきはきした聞き取りやすい声音だが、テンション次第な部分がある。
歌唱よりは、絵や彫刻といったほうを好む芸術肌な一面。
親バカかも知れないが、彼女は言うなれば"天才"の域に達し得るだろう。
「まっ何をやるにせよ、とりあえず外に行くか」
着々と隠し、演じ、装い、
あとは用心し
脱走か──
俺は唇の端を上げ、心中で愉悦を浮かべる。
俺達が教義の為の踏み台じゃあない、連中こそが俺達の為の踏み台なのだと。