異世界シヴィライゼーション ～長命種だからデキる未来にきらめく文明改革～ 作：さきばめ
#01 転生
ぽかぽかと。
木々の隙間から差し込む陽光の下で、"俺"は手の平をかざすように腕を伸ばす。
「のどかだなぁ……」
ゆっくりと吐き出すように言葉にする。
【アイヘル】という名のそこそこの規模な集落。
そこが灰銀色の短い髪と碧眼、"半長耳"が特徴的な今の俺《・・・》が生きる場所だった。
「平和だよなぁ──」
パチンッと指を鳴らす。
「～～～♪」
口笛を吹く。
その曲のメロディーラインは思い出せるものの、歌詞までは思い出せないからだった。
──そう……物心がつく程度の年の頃からだったか。
徐々に"記憶"を思い出し、自己を意識できるようになったのは。
最初は
未だ信じられない気持ちも残っているが、はたして紛れもない現実なのは毎日が証明してくれている。
（あぁそうだ、まるで眠りに落ちる瞬間をどうにか知る為に意識を
自分がこうなってしまった認識は、ひどく
直前まで生きていたのか、はたまた死んでいたのかもわからない。ただいつも通りに、活力のない日々を、無為にこなしていた……ように思う。
うだつの上がらない、ただ日々を繰り返すだけの人生だった。刹那的に、その日暮らし上等で、色々な娯楽に手を出してはみるもののすぐに飽きてしまう。
自分の未来が想像できなかった。
そして今も──ある意味で、現実感がないのは変わらないと言えるだろう。
「"ベイリル"ぅ、見ぃーつけた～」
ふと、寝転んだ俺を覗き込んでくる少女。
青みがかった銀髪をに、くりっとした薄紫色の瞳と俺の碧眼とで見つめ合う。
「あぁ、"フラウ"。おはよう」
「おはよー」
俺は少女の名を呼び、朝の挨拶をすると……フラウはニコっと屈託ない笑い、その口には片犬歯が見える。
「ねーねー、いまのなに──あはっ、くすぐったいよぉベイリル」
「んーーー……なんだったかなぁ」
俺は伸ばしていた右手でフラウの耳を触り、同時に自分の耳を左手で触る。
普通の人間よりもやや長く尖った耳。それでも"本来の耳"よりは短く、フラウの耳は俺のそれよりもわずかに垂れ気味だった。
（"亜人"──）
そう、ここは他ならぬ亜人種の住む集落。
フラウは人族である父と
そして
「う～ん、ファンタジー」
「ふぁんたじぃ？ ってなまえのうた？」
「いや違う」
「なぁにそれぇー、ふふっ変なのー」
何が面白いのか、フラウはころころ笑う。俺は"
俺はフラウの耳を触っていた右手を再び広げ……"大空に浮かんだ惑星"を握り込むように閉じる。
（"片割れ星"──）
恒星である太陽とは別に存在する威容。地球から見た月の何十倍も大きく、色も淡い緑色を
それは見ているだけで言い知れぬ不安を感じるようで……。
同時に何度見ても、とても幻想的な雰囲気に圧倒されるかのようであった。
「あぁ、"異世界転生"。諸行無常の響きあり……」
今度は日本語で口にした。しかし俺の言葉を理解できるものはいない。
「ベイリル、またむずかしいこと
日本語も英語も通じない、俺自身を含めて人間ではない種族が住む土地。
恵みをもたらす太陽とは別に、
「くっはは、はっはははははは！」
「くふっ、へへー」
俺は自嘲気味に笑うと、フラウも釣られるように笑う。
時代が違うとか国家が
青天の霹靂。実に面白く、
不変とも思えた過去の日常は、
新たな
（まっ、どうせなら……）
どうせなら、何かしら特典──
しかしそんなものは何一つとして無く、いわゆる"神"のような……ありがちな上位の超常存在も未確認である。
だからまず俺を産んでくれた母が、何を言っているのかを知るところから俺の異世界生活は始まった。
歴史という大河、時代の潮流の中で広く伝わった
──ものの、この大陸はおおむね"共通言語"で浸透している。
一種類を
「|贅沢ってもんだな、欲すればキリがない」
「ぜーたく！」
「おう」
俺は今度は"
いかに世界が
（数少なくない人間が夢想し
剣と魔法の世界。魔物や竜も存在するらしい世界。
そこで種族的に長命であるハーフエルフとして
「可愛い幼馴染もいるしな」
「かわいい？ あーしかわいい？」
俺は舌っ足らずな
光源氏計画よろしく──とまで、下世話なことは考えてはいない。
まだまだ幼児に毛が生えた程度では、そうした情欲というものも
「これ以上望むべくもないさ」
俺は立ち上がると、フラウも一緒に立ち上がる。
次もまた転生できるとは限らない、あるいはもっと酷い転生に遭うかも知れない。
娯楽には
2022/6/26時点で、新たに書き直したもので更新しています。
それに伴い話数表記を少し変えています。