異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
6つの柱が並べられた紋章が掲げられた、モーガニト領は伯爵屋敷。
俺は分相応なのかもわからない広い部屋で、4人と共に会話に興じる。
「やはり帝国の
アイヘル国立公園予定地から、さらにモーガニト領内をいくつか回った率直な感想だった。
スィリクスから土地情報や運営状況も教えてもらい、日々ぼーっと考えて至った結論。
「へ~、そんなん?」
「フラウよ、お前の功績も含めての報酬なんだからな」
ハーフヴァンパイアの少女は、特注の長椅子を1人で占有するように寝転がっている。
どうせ領地を貰うのは
「いやぁ~領主はベイリルだし」
「もっとも俺も運営はスィリクス任せなわけだが」
(戦帝としては……──)
おそらくそこまで考えてなかったようには思う。彼にとっては本当に単なる褒美のつもりだったろう。
ただまことしやかな情報によると、ヤリ手の
「まがりなりにも円卓の魔術士を倒したわけですから、そりゃもう囲い込んじゃいますよねぇ」
「ハルミアさんの言う通り、土地という
ダークエルフの彼女は、折り目正しい姿勢でベッドに腰掛けている。
特区税制の適用にしてもそうだが、つまるところ甘く見られているということに他ならない。
それもそのはず──まだ
また帝国という最強の軍事国からすれば、シップスクラーク財団は
(まぁまぁ、"文明回華"を目指す俺らから見れば──)
結果的には代え難い恩恵がいくつかあるので、これはこれで良かったのは間違いない。
確かに幾分か割を食ったし、今後も負担は
(外部からの情報はなるべく隠匿しているから、相応に突っ込んで調べないとわからないし)
調べられればこっちも気付いて、逆に調べ上げるくらいの情報網は既に張り巡らせてある。
そこに引っかからない以上は、向こうにとって気に留めるほどの存在ではないということ。
逆に言うと相手にされていないとも見ることもできるのだが……。
(そうした認識の甘さが、
俺は顔には出さずにほくそ笑みながら、不測すら好転させる財団の強い地盤に達成感を覚える。
"星典"の量産とフリーマギエンスの布教も順調に進んでいる。
シップスクラーク財団の
各所で芽吹き、花開き、結実して、種子を撒き散らし、どんどん侵食し続けようじゃあないか。
「んっなことよりもさぁ、いつまでアタシらは持て余してんだよ?」
「クゥアッ! クゥアッ!」
キャシーは柔軟するように手や足を伸ばし、灰竜アッシュの止まり木になって遊んでいる。
こうして伯爵屋敷で過ごし初めて数日ほど。
今までが
トランプや麻雀他ボードゲームなども多く持ち込んだが、そもそも学園生時代に割とやり込んでいる。
「確かに休暇も飽きてきたし、どうすっかね……」
"国立公園化事業"も、"領内資源探索"についても、とりあえずの段取りは整えた。
内政面で俺ができるのは、直接的な実務ではなく大まかな指示出しのみ。
テクノロジーにおける"知識の種"も、シールフと財団の秘匿事項として既に共有済みなのでお役御免。
仮に俺が死んだとしても、テクノロジー特許として現代知識は伝わり、財団と"文明回華"は進んでいくだろう。
「それじゃぁ……次に行くところでも決めますか?」
ハルミアの提案に、やんわりと俺達の
「んじゃ、ソディアの船に乗るってのはどうだ? 海賊やりながら色んなトコ回れんだろ」
「帝国領海はいいとしても、王国側は難しいですよねぇ」
「それって海賊やる必要ある~? 船だけ借りれば良くない?」
「俺としては割とアリだな、海賊業も」
七つの海──ではなく、あくまで内陸の湖だが……海をまたに駆ける浪漫はすごく良い。
「ただどうせ航海するなら、外海で"諸島"巡りしたほうが面白いかも知れん」
「あーしらが海賊やってもさぁ、一方的すぎてつまんないよ~」
「船医、どれくらい学べるんでしょうかねぇ。ただ環境が限られてしまいますから……」
「イマイチっか、じゃぁオマエらも案出せよな」
ほんの少しだけむくれた様子で、キャシーは俺達に意見を求める。
「俺はそうだな……風の向くまま気の向くままもいいが、今言った諸島巡りか、あとは各国の首都巡りもいいな。
帝都、王都、皇都──連邦西部なら"壁街"も一度くらい、東部は"大魔技師"が生まれた都市なんかも行きたいところだ」
("極東"も俺一人に限れば、長距離飛行でおそらく辿り着けるが……それはまぁいい)
「大陸中を巡るなら、騎獣民族の
「あーなるほど確かに。バリス
国家としても手出しできない集団。移動拠点の中心にしつつ、各所へ出張しながら見識を広げるのは良い。
「フラウはどっか行きたいとこねーんか?」
「あーしはねぇ~、"神領"とか?」
「それは相当思い切った意見だな」
キャシーにうながされて言ったフラウの提案に、俺はすかさず突っ込んだ。
「え~なんで?」
「神領への
「ほぇ~、そうなんだ」
「なんでなんだよ? あっこって確か地続きだろ?」
もっともなキャシーの疑問に、ハルミアが先に答える。
「たしか
「そうです、神族の"魔法"かなんか……原因不明の自然災害で完全に隔絶されている」
自分達の領域以外を拒絶しているかのように、何者も侵入することは不可能なのだとか。
「その唯一行ける……たそがれ? の都市からってのはダメなん~?」
「特別な権限がないと無理。皇国貴族はおろか、聖騎士でも難しいらしい」
それでも神領と唯一交流を持てる皇国の外交的権威は大きく、神族も何人か在籍しているという話。
「んじゃっ逆によ──魔領に殴り込むってのはどうよ?」
「キャシーちゃん、それアリ寄りのアリです」
「ハルミアさんからすれば故郷の土地ですもんね」
「魔領なら暴れがいはあるな~」
黄竜の撃破から、迷宮逆走を完了し、戦争まで経て、俺達もかなり強くなった。
上を見ればキリがないものの、少なくとも"伝家の宝刀"たる戦力を倒せるくらいの強度を誇る。
4人で連係するのを前提とするならば──どうにかできない生物の
「それじゃぁ魔領が第一案ってことで、他にどうするか」
「キャシーの故郷は?」
「あぁ? アタシの村はいいよ、ムカついてぶっ飛ばして回るかも知れんし」
「ぶっ飛ばすだけで済むのか」
「人柱にされた恨みこそあるが、殺して回りまではしねぇよ……
キャシーも大人になったなあなどと思っていると、ハルミアが思いついたように口を開く。
「あとは竜騎士特区なんかどうでしょう? "赤竜山"を登ってアッシュちゃんに竜の社会性を学ばせるんです」
「キュゥアァ!」
名前を呼ばれた灰竜は一声あげ、ハルミアの膝へと降りてくる。
「あそこは帝国特区でもさらに特殊だから、特別な許可が
「そこはベイリルくんの伯爵権限でなんとかしてください」
「……はい、その時はがんばります」
竜騎士特区とも呼ばれる"赤竜特区"。
領内はともかくとして──頂竜山に立ち入る際は、色々と審査を通す必要があったと記憶している。
ワーム山脈が消失した現在において世界最高峰の山脈であり、"赤竜"とその眷族竜が竜騎士と共存する土地。
(まぁたかだか四人と一匹が登頂するくらいであれば……)
そこまで厳しくもないだろうと思う。灰竜という立場を利用することもできるかも知れないと。
「そうだ、せっかくなら──」
俺は言葉途中にゾワリと……一瞬にして掻き消されかねない思考が襲った。同時に
その殺意が入り混じったような魔力が織り成したかのような圧は、黄竜と対峙した時のそれと酷似しているが──
実際的な感覚としては、ゲイル・オーラムと初めて会った時の
「真っ昼間から物騒な……」
「これってあーしらがいるって、わかっててやってるのかな~?」
「っ……私にはちょっとキツいですかねぇ」
「くっは! おもしれェ、喧嘩なら買ってやろうぜ」
四者四様の反応に、アッシュは鳴き声を発さぬまま部屋内を落ち着きなく飛び回る。
かつては死すら予感したものと同等レベルの
「顔は……俺でもよく見えないな──」
窓から外を覗いてみると、侵入者と思しき人物は隠れる様子もなく堂々と立っていた。
"遠視"するような距離ではなく、ただフードをかぶっていて角度的に顔をよく見ることができない。
「でも小柄ですねぇ、女の子のようです」
ハルミアは遠目で見るだけでも、確信をもった様子でそう言い切った。
少女の後ろには、なにやら引きずった跡が門外から続いてきている。
恐らくは隣に置いてある、"大きい麻袋"によるものであろうと推察された。
「まっタダモノじゃねぇよなアレ」
「普通の女の子が出せる殺気じゃないね~」
侵入者の少女はこちらの反応を待っているのか、まったく動こうとする様子がない。
「
そう言うと我先にキャシーとフラウが窓から飛び出し、アッシュもそれについていく。
ハルミアは医療具を手に持ち出す中で、俺は装備一式と風皮膜を