異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
ゆるりとアイトエルとの会話は続く。
「なんにせよ魔王具の半分くらいは所在が知れぬのう。わかりやすいのは"
「お……おぉ、不可侵の神領にはそんなカラクリがあったとは──」
「魔法が直接使えんでも、魔力があれば使える良い見本じゃな。グラーフにとっても本望じゃろうて」
わずかばかりの郷愁に
そうして羽のような
「ちなみにこの"
「なんと、その効果は──」
俺が質問を言い切る前にアイトエルの姿が
「これは見知った場所へ"転移"できる。
アイトエルはそれでも「重宝しておる」と付け加え、ニカッと笑った。
肌で
「他にも"冠"が帝国、"耳飾り"が皇国、カエジウスも持っておるの」
(まじか、あの"無二たる"偏屈爺さん……いや、
まだ迷宮制覇特典の願いがあと一つ残ってるが、いくらなんでも譲渡してはくれないだろう。
ただ最初に無理難題として提示し、本命の願い事を叶えてもらう材料にはできるかも知れない。
どのみち魔力量というハードルがある以上は、魔法具も持て余すだけの品物になりがちである。
「他の所在は知らん。利用したくば自分で探すがよい」
「残る十つの魔王具の効果も教えていただいても?」
「そうさのう"
これ以上の取りつくしまは無さそうであった。彼女自身は無条件の味方というわけではない。
あくまで"
"永劫魔剣"──もとい"
(あんまりしつこく
心証を悪くするだけとなって、こちらに
語り尽くすには百夜でも到底足りまい──そんな歴史の生き証人。
またいずれ会う機会も得るだろう。焦る必要のないことはまた後に残しておけばいい。
「さて、いささか昔話が過ぎたかのう……何歳まで生きたとて、語るに恥ずかしいこともある」
一区切りがついたところで、俺から本題について話を戻すべく切り出すのだった。
「なかなか勉強になりました。積もる話はまたいずれ一席を設けてお聞きしたいところですが──」
さりげなく次に会う機会を意識させつつ、俺はアイトエルの反応を待たずに言葉を続ける。
「ではいったん話を戻しまして、えー……アンブラティ結社は自分とフラウの故郷を焼いただけでなく、今も活動しているわけですよね」
「いまいち
「まだ
なんだかもう情報過多すぎて、脳がオーバーフロー起こしかけているような感覚。
シールフに記憶を掘り起こしてもらった時ほどではないが、新たに入れる驚愕情報ばかり。
「まぁ良い、どのみち危機意識は明確になろう。なんせ結社は先の戦争でも一枚噛んでおったんじゃぞ」
「それは……インメル領の
アイトエルは大きく
俺とフラウの故郷を焼いたことも、まぁそれはそれで許せないが所詮は過去の話。
しかし今なお干渉をしてくるというのであれば、それは看過できないし排除すべき対象となる。
「んっははは、当然ぬしらの情報網にもまったく引っかからんかったじゃろう」
俺は眉をひそめて露骨に顔を歪めてしまっていた。
戦争をコントロールする──それは文明発展と各種勝利条件にあたって、財団も常々念頭に置くべき事項。
関知しえない部分でアンブラティ結社とやらの手が入っていたのが事実ならば、さしあたっての重大問題である。
イニシアチブを取るどころか、逆に取られて利用されているということなのだから。
「
「つまり戦争の発端である厄災を引き起こしたと? であれば伝染病も結社の計画の内……?」
「
そこらへんはアイトエルも確証が持てず、本当にただ予想として言っているだけのようだった。
(厄災と侵攻──はからずも両方とも
仮に結社が本当に存在し、何らかの目的があったとして引き起こして──財団はそれを
そうなればシップスクラーク財団それ自体が、本格的にアンブラティ結社に目をつけられていても不思議はない。
(
水面下で謀略の限りを尽くし尽くされ、血で血を洗う事態になってもそれはそれで困る。
であればむしろ表舞台に引きずり出して、
なんにしてもまずはアンブラティ結社という存在を証明し、捕捉するところから始める必要がある。
(ヴァルター・レーヴェンタール……あいつは魔薬とは無関係だったか)
論功行賞の帰りに
とはいえ……あの男がまさに結社の一員であったという可能性も
依然として調査は続けておくべきであり、より一層の警戒をもって
「聞くところによると、結社は決して一枚岩ではない。しかして、それぞれの目的を複合的に達成させる特異性を持っておる。
ゆえにこそ全容がまったくもって掴めぬし、厄介な存在なのじゃ。その数も規模も……
「規模が大きくなれば、それだけ
俺は"遮音風壁"の外にある、
「情報は聞き出せんかったが、
「それもこれも"
「うむ、あやつの
(アイトエルも"
疑えばキリがないし、何よりも現段階で五英傑と謎の情報通を無下にするリスクの
それに……少なくとも今は
自分自身が積み上げてきた直観めいた部分は、素直に信頼したいところだった。
(それに
俺の気性をそこまで計算した上での演技、などと疑っていたら水掛け論と変わらなくなる。
「結社にとって都合の良い
「つまり今後は大々的な動きはしにくくなると思われると……無論、過信は禁物ですが」
「そうじゃな、ゆめゆめ忘れるな。
「
「
「あくまで"
「んむ、小さくない借りがあったから今回で清算したまでのこと」
つまりはアイトエル自身は、アンブラティ結社をどうこうする気はないということか。
危害が加えられれば迎え討つのだろうが、能動的に潰すような真似は今後しないと。
「ダメ元でお
俺は弱味を見せるような神妙な口調でもって、そうアイトエルに告げてみるのだった。