異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「"六枚風"──
俺は左手の人差し指と中指をピッと立てながら、天へと腕を振り上げる。
──と同時に空属魔術により圧縮された大気の盾壁が、敵影の四方上下を囲い込んで空間ごと拘束した。
"一枚風"自体の物理的強度はそこまで高いわけではなく、それを立方体の形で6枚。
本来は炎熱や氷雪など単純な現象を押し
(パーティで黄竜を打ち倒し、単独で円卓ニ席こそ討ったが……)
山の
世界は広く、上には上がいるのだ……それはよくよく身にしみて思い知らされ、心より
(今後の方針を
現代知識を保有し、様々な
それら引き出しの多さと連係が最大の持ち味であり、数ある術技の内の1つでも引っ掛かけられたならそれで良く、最適解を迅速に見極めるのが
(ただ現状では使いにくい術技や、未完成の術技もある。副次被害も考えると──)
元々は惨劇の
しかし覚えてしまえばすぐに楽しみを見出し、ライフワークの1つとして確立されていた。
異世界にしかない要素だからこそ、
「ッすぅ──! はァー……
俺は2本指を顔の前に持ってくると、ゆっくりと吐息を声に出しながら肺の空気を放出していく。
風壁の内側へと水素の割合を増加させ、大気構成の密度を調整する。
風封された結界内では、酸素よりも軽い水素も浮き散ることなく、俺は一気に爆燃させたのだった。
「
立てた2本指をそのまま結界を指差すように、ビッと振り下ろす。
爆燃の衝撃によって球型に歪んだ"六枚風"を、今度は一気に圧縮させた。
「──っし、これで死体は綺麗さっぱり
「他に取り柄がないのですから、これくらい当然ですね」
「手厳しいな、まぁ割かし事実だが」
クロアーネの
他にも液体窒素を用いたり、単純に酸素濃度を低下させたり、竜巻や
ポリ窒素結合による密閉爆発、音振衝撃や定在波による分子崩壊など、応用自体はいくつも利かせられる。
(でも……やっぱり"魔術の域"を出ることはないんだよなぁ)
こうした小手先に頼った試行錯誤も、ぼちぼち終了してもいい頃合なのかも知れない。
新たな壁を飛び越えるか──あるいは壁そのものを破壊するには、どうしたって"魔導の領域"を意識していかねばならない。
(同時に俺が持つ知識がもここまで、か)
地球で積算された科学の
現代知識とはあくまで、一つの結果に対して違った
原子の組成や化学変化を知ることで、普通に想像だけするのとはまた別途に、複数のイメージを持てる有利があるのみ。
結果的にそれが威力向上や魔力消費を抑えられたり、
逆に持っている知識やイメージによって、魔術の構成・発動が阻害されてしまうこともままあった。
俺はそうした一長一短の中で適解を模索した上で、魔術のレパートリーとして研ぎ澄ませてきた。
ただしそれが"魔導の領域"となると、もはや物理法則に全くよらない──どころか理論が、むしろ完全な邪魔にすらなりかねない。
(常識は一度捨てる……ただし)
より高みへと進化の階段を
オーラムのように
シールフのように
バルゥのように気高く
バリスのように自由に
ケイのように絶対の己を
戦帝バルドゥル・レーヴェンタールのように計算高く
"無二たる"カエジウスのようにあるがままに
"折れぬ鋼の"のように強き意志と確かな
"竜越貴人"アイトエルのように
魔導と魔術の両輪を維持し、それらも組み合わせてより高次元の術技を体現する。
「──欲張りにいこう」
「……は?」
「
「直接知っているのは、シールフ様しかいませんが」
「あとは情報部として知り得ていた人物だけか」
「えぇまぁ、魔導師は珍しいですから」
「そうなると俺でも知っている有名どころしかいないか」
各国に名が
さらに言えば天才肌ではなく、きちんと理論立てて魔導師に至った者でないと参考にできない。
(魔導を修得してもそこで終わりじゃないし、練磨し続ける必要もある)
今なおシールフが俺の知識によって新たに魔導の幅を広げているように……。
個々の感覚が異なる以上は、アイトエルの言う通り
(むしろ俺自身がシップスクラーク財団に実データとして提供し、体系化の為の一助にすべきかね)
皆が落ち着いたところで、フラウたちも巻き込み相乗効果でトライ&エラーを重ねていくのも良いだろうと。
「んん……──」
俺は強化視力に加えて"遠視"の魔術を重ねて、遥か空の彼方に見えた別の影が急速に接近してくるのを
「どうしました?」
「あれは──"竜騎士"だな。時間を浪費しても
「……仕方ないですね」
クロアーネが軽い溜息を吐いたところで、火竜を駆る騎士はあっという
「おまえたち何者だ、このような場所でいったい何をしている」
「ここは
俺はあえて
変に
「ここの領主、さま!? っこ……これは失礼しました!!」
「最近になって
俺は財団員ローブの下の服に
「こちらはディーツァ帝国、竜騎士見習い"エルンスト"と申します。ご無礼をお許しください」
人族で年齢は若そうであり、同じか下くらいだろうか。
身分をはっきりさせたことで警戒が解けたのか、
「
「っ……"クロラス"です」
ギロリと一瞬だけ睨みつけられるも、クロアーネはちゃんと話を合わせつつ、しっかり偽名で名乗った。
異世界における"誓約"とは、地球で言うところの結婚とおおむね同義。
彼女にとって不本意であると知りつつも、それが一番説明の手間がないのだから仕方ない。仕方ないのである。
「エルンスト
お互いに名乗ったところで、俺は推察していた問いを単刀直入にぶつけてみるのだった。