異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
俺とクロアーネは溶け落ちたロウソクが乗る石台を見つけ、目的の建屋の中へ入ると屈強そうな男が2人いた。
おそらくは護衛も兼ねているのだろう。木札を渡すと、まずは武器を預けることとなった。
元々まともに取引するつもりもないので、"酸素濃度低下"でまとめて用心棒を昏倒させる。
案内されるまでもなく"
俺とクロアーネはお互いに索敵をしながら、一定の速度で続く階段を降りて行く。
「これも地属魔術で作ってるわけだよなぁ」
「……? それはそうでしょう」
魔術のない世界のことを知らないクロアーネには、当然だがわかるまい。
地下室1つ作るのにも
しかし卓越した地属魔術士であればリアルタイムで作りつつ、ヤバそうな部分も適時補強できる。
強化された肉体は重機いらずの
それこそが異世界の人材にしてマンパワーであり、地球と違ってあらゆる作業の効率化が図れるのだ。
当初予定していた500箇年計画も、そうした基礎能力の違いから大幅な短縮・修正と相成った。
(まっ……あまりにも個人の振り幅が大きすぎて、五英傑みたいなのまでいるのが厄介極まりないわけだが)
好き放題に推し進められない要因もまた、"人"によるものなのであるのが悩ましい。
階段を
建屋は本当に入り口に過ぎず、奥に見える扉までは50メートルくらいはあろうか。
換気などはどうしているのだろうと思いつつ、2人で歩を進める。
「……段取りは?」
「俺はモーガニト領の
「わかりました。"性根の腐った伯爵"とその"従者"で」
俺は肩をすくめながら笑みを浮かべ、それ以上クロアーネには踏み込まなかった。
「とりあえず機を見て制圧する、てきとうに話を合わせてくれ」
クロアーネからはそれ以上の反応はなかったが、特に異議はないのだと解釈する。
扉を開けると魔術具による
「どなたのご紹介ですか?」
掛けられた声に俺は感覚を総動員しつつ、おぼろげな記憶にある男と照合する。
年を重ねているが、間違いない──"アーセン"その人であった。
「紹介は特にありません。ただ評判を聞いて、ツテから調べてこちらへと参りました」
「調べて……?」
「我が主人である伯爵さまが、従順な子をご所望でしたので」
俺が先手を打って妻だと紹介するよりも早く、クロアーネが自分の立ち位置を明確に示す。
「ほう、伯爵……失礼ですがお名前を
「モーガニト──"グルシア・モーガニト"だ。そしてこっちが──」
「従者のクロラスです」
俺は
もしも面影から気付かれたり、モーガニト新領主の"本当の名"を既に知っている様子を見せれば……。
すぐにでもリボルバーで抜き撃ちするつもりだった──が、はたしてそれは
アーセンはこちらを値踏みするように見るも、顔色や心音などに変化は一切感じられなかった。
やはり顔を合わせたのが幼少期だったということもあり、声変わりもしているので一切気付いた様子はない。
「……これは失礼、名乗るのが遅れました。わたしは"オルセニク"と申します」
(もはや疑う余地は皆無と言っていいな)
アーセンが名乗ったそれは、彼が本来
「管理者であるわたしが直接いる時に来られるとは幸運です」
「それはどういう意味か?」
「ここ以外にも管轄する場所が複数ありますので、点々としているのです」
「なるほどな、この出会いに感謝しよう」
俺は帝国貴族らしく偉そうな声音で、
とりあえず情報を引き出せる内に、あらかた吐き出させるとしようかと。
「
「実際に見て確かめたいのだが、よろしいか」
「えぇ構いませんよ、さあどうぞ」
簡易灯火の魔術具を手に、アーセンは俺達をさらに奥へと案内する。
すると最初に通ってきた三倍
「これは独房か?」
「はい、厳選した子らを個別に管理しています」
「
「適性のある子供を集めて、さらに一度
歩きながら話し続け、一つの部屋の前で立ち止まる。どの扉にも小窓1つとして付いていなかった。
「中は……"暗闇"か」
「よくおわかりに。それとも噂で聞いていましたか?」
「あぁ──
「それでは詳しい説明は必要なさそうですね」
よくよくもってアーセンのやり方を理解した。これらはつまり……"俺達がやられたのと同じモノ"である。
無明・無音の飢餓状態の中で精神を
(今は亡き"セイマール"と同じやり方──)
資金源にならなかった子供が、一体どういう風に利用されるのかといった部分まで。
「ただ実際に完全な暗闇にするのは、お客さまとの契約が済んでからです」
「つまり
「現在は七人ほど売約済みですので、それ以外の子であればすぐにでも準備できます」
「……期間は?」
「個人差はありますが……おおむね一日か二日もあれば。万全な状態をご所望でしたら、三日ほどいただいております。ただ──」
「ただ?」
「いいえ、手間が掛かっているのが一人ばかし……」
あからさまに言葉を
厄介な商品をどうにか売りつけられればそれで良し、そうでなくても他の商品を印象差で良く見せられると。
「ほう、面白そうだ」
「それでは、こちらへ」
俺はあえて興味を
通路のさらに一番奥の扉まで到着し、扉の鍵を開けるとゆっくりと開けられていく
「ぅ……ぁ──」
もはや
何日もまともな食事を
「っ──」
しかし瞳にはまだ光が残っていた。わずかな明かりに照らされる中で、身をよじり壁際へと移動する。
そのまま座り込んで、こちらを睨みつけるように歯を剥き出しにした。
(エルフとも違う平たくわずかな尖り耳に、片側だけの犬歯──)
それはよく知る
(
さらによくよく観察すると、左の肩甲骨あたりからコウモリのような小さい片翼と、金属質のような連節尾が
控えめな異形は、同じく愛するダークエルフのハルミアの髪に隠れた身体的特徴である、
(つまり魔族と吸血種の混血──"ダークヴァンパイア"か)