異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
──"契約魔術"の起源や原理には謎が多く、わからないけど使えるから使っているという認識が現状正しい。
そもそも魔術と魔力からして不明なことばかりではあるものの、さらに複雑なのが契約魔術である。
根本的に魔術は、"相手の体内に直接作用しない"のが大原則。それは血液と共に流れる魔力同士が干渉する為である。
そういった効果を強引に行使する場合は、アイトエルが言うところの魔導師級の色の固定化が
しかし命令によって行動を縛ることができる
神族が使ったとか、竜族が使ったとか──異形化が止まらぬ同族を抑制する為に、魔族らが編み出したとも一説には言われる。
その場合の契約魔術とは……あるいは魔族同士で相互契約による、"対等"なモノだったのかも知れない。
それが人と人との
奴隷と契約の歴史と、またその文化自体も長い。それに
また大魔技師による魔術具革命によって、奴隷文化はさらなる
大魔技師本人はあくまで、生活において便利な魔術具しか造らなかったと伝えられている。
よって奴隷契約の魔術具は、高弟を含む後に続いた者達がより改良を
「──大丈夫か?」
「……っ」
はっきりと意識を取り戻した子は、グッと目をつぶり反射的に腕で顔を
「落ち着くんだ」
俺は試しに意思と魔力を込めると、小さな体の震えが
するとゆっくりと腕を下ろして、開いた瞳をぱちくりとさせたのを見るに……契約魔術は無事に結ばれているようだった。
「もう安心していい」
言葉が通じるかわからないが、俺はゆっくりと抱きしめて敵意がないことを伝える。
かつてジェーンやヘリオやリーティアにそうしてやったように、ハルミアのような無償なる
(とりあえず魔力の流動も安定した感じだな)
俺はゆっくりと体を離すと、きょとんとしてる子に微笑みかけながら荒れ放題の髪の毛を
「クロアーネ、干し肉くれ」
「……は? 子供にそのまま与える気ですか」
「こっちの手を握ってくる強さはかなりのもんだった。鋭い片牙も生えてるし大丈夫だろう」
与えられた水と干し肉を一心不乱に
「他の子はどうするのです?」
「
「それで……
「いや……食事を用意して、自分から出て来させる」
「なるほど、私は香りの強い流動食を作れば良いわけですね」
「理解が早くて助かる、すぐにでも作れそうか?」
「物色した時に食料がありましたし、調味料に関しては一式持っていますので」
俺達2人で今後を話していると、ダークヴァンパイアの子が食べ終わったかと思うと立ち上がる。
するとトテトテと走り出し、倒れ込んでいるアーセンの前へと立った。
「……ッ! ……ッ!」
すると
「……よほど酷い目に
「いいね、強い感情は生きる活力だ」
(この子は肉体も精神も強い。これも何かの
実質的に俺が育てたジェーンとヘリオとリーティアを思い出す。
さらには三巨頭が育てたプラタを思い出す。
(子飼いでも作る、か──)
感性が鈍化しがちな長命種なりに、色々な生き方をしてみる──良い機会なのかも知れない。
「"
スッと顔がこちらへと向くと、澄んだ双瞳が子供ながらに確かな意思を秘めていた。
「
俺はゆっくりと歩いていき、低い目線を合わせるようにしゃがんで"リボルバー"を抜いた。
「
俺は銃口をアーセンへと向けると、ゆっくりと
小さな瞳は発砲の一瞬だけは閉じられたものの……恐れる様子はまったく見せず、その
アーセンの腹が撃ち抜かれ、血が
「さぁ、自らの手で選び取れ」
それでもなお光を失わぬ瞳に、俺は
しっかりと固定させた両手を、さらに俺の手で包み込んでやり……銃口をアーセンの心臓へと再度向けさせた。
"コルト
その異名には最も有名であろう、"
"
それは銃と技量の前に
シップスクラーク財団が有する、
全ての人間がその恩恵を
「……いいんですか?」
クロアーネがただ一言だけ、そう告げてきた。
「このまま待てば失血死だが、どうせなら有効利用しないとな。それにあくまで選び取るのはこの子自身だ。
世界は未知満ちていて……そして残酷だ。
生き抜く
俺とフラウと故郷アイヘルがそうだったように、いつなんどき悲劇に見舞われるかはわからないのだ。
「後悔がないのであれば別に構いません」
「ははっ、ありがとうクロアーネ。この子と財団と、そして俺自身の為に
そうして火薬の破裂音がもう一度、地下空間に反響し……アーセンの命も残響として消えていったのだった──
俺は兄弟子だった男の絶命を確認し、見開いた目に手をやって閉じさせたところで、新たに決意を前へと向ける。
これでもう"イアモン
「よくやった、偉いぞ」
俺はしっかり褒めてやると……わかってかわからいでか、子供は
さすがは幼くもダークヴァンパイア種なだけあり、しっかりと自分の
アーセンとしてもこの子を洗脳するのに難航していた理由は、魔力量だけでなく……こうした強靭さと精神力もあったのだろう。
心身も落ち着き、意思疎通もできるようになったところで、俺は問いかける。
「きみの名前は? おなまえ」
ゆっくりはっきりとした
「こういった奴隷には、元の名があっても捨てられるものですよ」
「新しい主人が名付ける需要もあるってか……クロアーネはなんか案あるか?」
「貴方が助けたのです。今後も責任を持つのであれば、自分で名付けるべきでしょう」
「名付け親ってのも悪くないだろ、二人の子みたいで」
「死ねとは言いません、オーラム様の盟友ですから。息絶えろ」
「あぁ……
「貴方のそういう部分は五百年掛けても治らないのでしょうね、ベイリル」
「是非とも見届けてくれよ、クロアーネ。延命技術もテクノロジーの
ああ言えばこう言うやり取りが、たまらなく新鮮で楽しく……そして愛おしく感じる。
料理の腕もさることながら、彼女のいろんな魅力が俺をよくよく刺激してくれるのだった。
「さて
「めお……?」
「ふぅ~む……」
ボロ布に汚れてはいるが、子供ながらに端正な顔立ちをしていてジェーンの幼少時を思い出す。
灰がかった緑色の髪がボサついていて、少し吊り上がった目元から覗く黄緑色の眼には芯があった。
「"
俺の脳裏には直近で見ていた故郷アイヘルの、
その中に日本でも見たことのあった、垂れ下がるような特徴的な木とのイメージが合致する。
「よしっ、これからお前の名前は"ヤナギ"だ」