異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「異世界の"万里の長城"──
人領と魔領の境界線──断絶壁の頂上にて、俺は世界に自分一人しかいない感覚に酔いしれる。
ほぼ垂直に近い高壁は登ってくる人間もほとんどいない。マジノ
「飛行魔物がたまに上空を越えていく程度で済むわけだなこりゃ」
ただひたすらにド
"大地の愛娘"のスケールがいかに桁違いなのかを、再認識させられる異様さにして威容であった。
「ハズレ」
俺は
400メートル弱の壁は、地下深く埋没していたワーム
「ここも……ハズレ」
しかしワームの外郭の位置を探るのと違い、壁内部の構造把握はなかなかに骨が折れるというもの。
逆走攻略という実践にして実戦で鍛え上げ、"天眼"を経た今の己であろうとも、脳内処理と
だからまずは必要最小限の情報だけ──複数人にまとまった子供に集中して探索していく。
何度も、何度も、壁上を歩きながらひたすらに。
「ハズっ、ん──」
違和感を覚えた俺はうつ伏せに寝そべって耳を当てながら、もう一度だけ音振波を放つ。
返ってくる残響を半長耳から直に聞いて、頭の中でパースを構築する。
「っぽいな。ぽいぽい……」
小さく捉えたシルエットの数は21人、
(っし、後は
そこで俺の思考は中断され、反射的に息吹と共に魔術を発動させた。
「ふゥー……」
"
さらに
「弟ォ、アレゃなんだと思う?」
「とりあえず調べればわかるじゃねえの兄ィ」
俺は壁下から
黒い毛並みが美しい、スラリとした筋肉を備えた中背の
(獣人種は感覚が鋭いから、気付かれたとしても想定の範囲内だったが……)
今からこの区画壁の一帯をさらに多角的に精査し、内部構造の
ウロチョロされると邪魔であり、リウ組と交渉もしなくてはならないので、いなくなるまでのんびり待つというわけにもいかない。
(他に
とりあえずあの2人だけを増援を呼ぶ前に打ち倒せば、追加の人員はなくなるだろう。
「……気付いたか?」
「もちろんだ兄ィ、匂いが不自然に途切れてやがる」
すると兄弟はそれぞれが静かに、斧と長槍を構えて臨戦態勢に入る。
既に存在自体は勘付かれているようだし、俺は堂々と一層目の"歪光迷彩"を
『──っ!!』
驚愕を表情に張り付けてはいるが、互いに言葉を交わさぬまま刃先をこちらへと向けてくる黒豹兄弟。
俺は彼我戦力差を分析した上で、仮に獣身変化されようとも問題ないと判断した。
(あくまで手合わせとはいえ、バルゥ
所詮は辺境の裏組織で鳴らす程度、お山の大将の域を出ない。
似たような裏組織でも、ゲイル・オーラムがあまりに例外な"強者"だっただけである。
「こんなところで何してんだ、長耳野郎」
「お前が
兄と呼ばれていた
弟と呼ばれていた
「一応言っておく。争う必要はあるか? 俺がこれからすることも含め、全てに目を
「お断りだね」
「つーかなんでいきなり現れた? どうやった?」
俺は闘争および殺害へと完全にスイッチを切り替えると、軽い口調でのたまう。
「残念だ、それじゃぁ俺の──」
俺は続く言葉を、先んじて
『
バッと反射的に黒豹兄弟が後ろを振り向くのが見える。しかし声がしたその方向には……誰もいない。
すぐに視線を戻した
『これなら勝てそうだな』
『10秒だ』
『気楽にいこうぜ』
『俺が出るまでもないね』
『冥府巡りの片道切符は貴様らの命で買ってもらうとするか』
"
非常に
さらに俺は空気密度を調整し、"虚幻空映"による無数の
「はあァア……!?」
「なんっなんだこりゃッッ!!」
黒豹兄弟はそれぞれ虚像に攻撃するも
「
「っおらァ!!」
虚を突かれていようと反射的かつ的確に攻撃してきたのは、腐っても一組織の猛者であろう。
薙ぎ払われた炎斧は、俺の肉体へと無慈悲に襲いかかる。
しかし2層目の"風力衣"に炎を吸われ、3層目の"真空断絶層"に熱を断たれ、4層目の"液体窒素鎧"によって刃が凍り止まってしまった。
(そうそう、普通はこんなもんなんだよな)
「っぐご──!?」
俺は左手で兄の
"
密度差で光や放射線を
液体窒素で運動エネルギーを喪失させ、音圧振動による接触爆発反応で反射し、固化させた窒素および酸素で止めきる。
さらには過程で発生したあらゆる衝撃エネルギーを、自身に転嫁して加速などに用いるという超がつく高級術技。
回避行動をしたのに5層目の音振爆発をも無視して、一撃で斬り込んできた"筆頭魔剣士"テオドールの斬撃こそ異常だったのだ。
「お別れだ……」
"
さらに壁外街がある人領側ではなく、
黒豹・兄は指向性の
「シァッ──シァッ──!!」
黒豹・弟は肺から漏れるような獣声に乗せるように、超高速の槍
そうして右手で黒豹弟の首根っこを掴むと、俺は体ごと引っこ抜くように揃っ
「馬鹿ッかてめェ!!」
「毎度どうも、シップスクラーク運送です。お届け先は
俺は大気を蹴るように爆燃させると垂直落下方向へ飛び出し、電離したプラズマを
「ライッッディィィイイイイ────ーィインッ!!!」
雷光がごとき流星が地面に直撃すると同時に爆発し、魔領側の地上にはクレーターが形成されたのだった。