異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
深夜──片割星が最も近付く日であろう、最も美しく見える時間帯。しかしそこは暗い地下であった。
教徒である
4人の子は膝をついて
「ベイリル、ジェーン、ヘリオ、リーティア。
薄暗い地下空間に魔術
道士は中の物を手に取り4人へと見せる──それは"剣"であった。
「これは我らが全てを捧ぐ存在。第三代神王ディアマ様が
セイマールはその魔法具から目を離したくない衝動を抑えながらも、子供達へと説明を続ける。
──三代神王ディアマ。歴史上4人存在する神王の中で、最も在位期間が短い王。
しかして魔族が全盛期であった最も激動の暗黒時代を
魔力災害――魔力の暴走・異形化や枯渇という事態に
「この魔剣は人族には永劫達し得ぬほどの、最高純度の"
増幅・安定・循環。永劫に終わることなき魔力を用いて、ディアマ様は全てを
道士は夢を語る少年のような瞳で、"魔法具"の偉大さと素晴らしさを熱弁していた。
しかし話し終えると、そんな顔も
そして剣を改めて子供達の前で掲げる──刃と
「しかし見ての通りこれは不十分。増幅器たる"
道士はセイマールに魔剣を手渡し、子供達へ目線を合わせて一人一人の瞳をじっくりと覗き込んでいく。
「ふむ、わずかに揺らぎは見えるが……なるほどセイマールが認める通り、十分に
◇
道士と
4人を十字の
周囲には現在屋敷内にいる
(……
生徒達においては皆に祝福してもらいたかったが、それも致し方ない。
実際このわたしが道士より
つまり子供達がどうこうではなく、単にこのわたしへの当てつけでもって集まらないというだけだ。
わたしは4人を中央へ行くよう
「ジェーン、ヘリオ、ベイリル、リーティア──……
わたしは抑揚をつけることもなく、いつもの調子のままそう告げる。
それぞれ足元にある大振りなナイフと、洗礼独特の雰囲気に
ジェーンもヘリオもベイリルもリーティアも、動揺を隠せず
「わ、分けるとは……?」
「4人で
薄っすらとだがまだ意識が残っている少女。手塩に掛けて育てた子らのちょうど半分くらいの年の頃。
"
その血肉を永劫魔剣へ
次に魔術具を用いて相互意思による魔術契約を
精神と肉体の両方を
「いざ状況を目の前にすると……改めて滅ぶべきよな」
「……?」
わたしは思わず
「手前勝手な都合で、自分らの利益だけの為に、何も知らぬ無知なる者を利用する……。そんな"
誰あろう生徒であるベイリルが……状況にそぐわない言葉を発している。
今まで見たことも無いような雰囲気で、
そしてベイリルの言葉は、なによりもジェーン、ヘリオ、リーティアらに語りかけるようにも見えた。
「過言だとは……微塵にも思ってないよ。獅子身中の虫に気付かなかった、あんたらの
まるで"洗礼"が間違いであると、我々が消えるべきだと……そう言っているのか?
背信行為とも呼べるその物言いに、
優秀な我が生徒であっても、これほどの
「どういうつもりだ? ベイリル」
「
明確な敵意の言葉と共にベイリルは大きく溜息を吐いた──瞬間に
「なっ!?」
突如として周囲にいる
まるで糸の切れた人形のようにぷっつりと、一瞬で崩れ落ちていく。
立っているのはたちまち、自分と道士だけになってしまった。
その異様な状況を作り出したと
「茶番は終わりだ。セイマールさん、今までどうも」
「ベイリル……きさまッ」
「正直かなり心苦しい部分はあるけどね……でも俺は"家族"の為に容赦はしない」
わたしはたった今踏みしめていた場所から、瞬間的に飛び
反応できたのは──
ベイリルの見せたその冷え切ったその
先ほどまで隣に立っていた道士は、他の
距離を取った遠目にも既に事切れているように見えた。
今までそこに確かに存在していた筈の世界が、足元から一斉に崩れ落ちていくような気分。
「うっぐぅ……ぉおおおおああああァア!!」
我知らず手に持っていた
教義の絶対象徴たる魔法具を使うなど、本来では許されざる不敬。
しかし己のありったけの魔力を放出し、喰らわせる。
永劫魔剣は不完全ながらも、魔法具としての効力を発揮し始める。
増幅器のない中途半端な状態では、通常は起動することはない。
ただわたしは魔術具製作の専門家であり、"魔法具の調整"を心得ていたことに他ならない。
不完全な状態で使ってしまえば、また最初から"調整"に時間を掛けねばならない。
今こうして使っているだけでも……ジリジリと命が削られていく感覚がある。
それでも、今、ここで、確実に──ベイリルを殺さねばならないという使命感に満たされる。
「繋ぎ揺らげ──
少年は既に
それは風圧衝撃の魔術でも風擲斬の魔術でもない、わたしが初めて見るものだった。
教師であった己が知らない……ベイリルが
もはや子供でも生徒でもない、一人の敵である男の詠唱の終わりと同時に思考は消失する。
そうして我々の大願が成就する日は──永劫迎えられることはなくなったのだった。