異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「ふぁ……んん」
のんびりと追加のあくびを1つ、"大地の愛娘"ルルーテは地平線を見つめ始めた。
「どうしました? ルルーテさん」
「べつに。ちょっと魔軍がいるな、ってだけ」
「魔領側の軍団?」
俺も地平線を"遠視"してみるが、影も形も見当たらない。何をどうやって捕捉できているのか、まったくもって謎であった。
「
「……はい?」
次なる俺の疑問符には反応することなく、たった1人で完結しているルルーテはトンッとつまさきで地面を叩いた。
すると遠くから地鳴りのような響きが伝わってきて、
もはや絶句や呆然を通り越して、脳が理解を拒否しようとしていた。
(でも、あぁ……なんか
理解不能とは別に、頭の中で前世で見たことのあるCG映像が流れていた。そう、あれは……
"地殻津波"──めくり上げられた地深くの岩盤が天空より、質量と熱を
それを局所的に発生させ、
「それじゃ、しずかに」
シッと人差し指を口唇に当てつつ、片手間で天変地異を引き起こした五英傑ルルーテはトプンッと沈むように消えていった。
(地属
"惑星"そのものを掌握しているかの
軍団や国家はおろか、世界そのものすら滅ぼしかねない単一個人戦力。
(同時にもしも仲間にできたなら……)
建築や道路に
しばらく地響いてくる音を
この断絶壁を創ったのも
たった1人で魔領を相手に押し
そしてやはり"五英傑"は決して敵対してはいけない相手だということを、
「まっこれも日頃の
「ふんふん、そっかぁあれが"大地の愛娘"かぁ……フッフ~ン、なるほどね」
イシュトは何やら意味ありげに笑っているが、正直なところ俺も笑うしかない状況である。
とりあえずは残るロスタンをぶっ飛ばして、リウ組との交渉については帰ってから考えることにする。
「思わぬ中断だったが、再開しようか──五英傑の後じゃ型落ちもいいところだが、決着をつけよう。
どのみちロスタンは典型的な白兵戦タイプ。ルルーテにまた不快な思いをさせることはないだろう。
「チッ……なんつーか、正直どっちらけだがなあ」
「やめたいのか?」
「いや、それでも殺す」
「そうこなっきゃな」
俺は六層の"風皮膜"を
「死ね」
シンプルな一言からロスタンは脱力した状態から、
一瞬で間合いを詰めながら突き出される右腕──破れた服から覗いたのは、直接肌に
にわかに光を帯びているが、俺は
諸説あるが、闘争とは四機の奪い合いというのが自分の中で最もしっくりくる。
すなわち──
敵対者が油断ないし裏をかかれていたり、隙を見せて戦闘準備が整っていない機。
攻撃を仕掛ける上で意識が集中し、攻勢行動の為に肉体も硬直し、防御が
まさに攻撃を繰り出している瞬間の連続、防御や回避行動が不可能となる機。
敵の攻撃を
自身の意図や狙いを隠し、敵の意識と思考を掴み、その裏や虚を突いて勝を取る。
"兇人"ロスタンの掴んでくるような掌底が、文字通りその
間合いを詰めた瞬発力を含め、四肢に
それはリン・フォルスが扱う"四色炎"と同じ──魔術具ではなく己自身に刻むことで、ノータイムで発動させる珍しい魔術式。
しかし俺は
そうして回転しながら
"
その
殴られながらも掴んでこようとする、残るロスタンの左掌による追撃をしっかりと右手で
ロスタンの体躯は地面を削りながら、ボロ雑巾のように投げ出されて停止する。
(再生魔術にあかせた捨て身、ってなとこか……)
俺は闘争が終わってから冷静にロスタンを分析する。
両腕の"魔術刻印"に仕込まれた爆破で相手を滅殺し、自分は後から治癒するのが想定していた
戦法としては理に
「残念だったな」
心臓をぶち抜くつもりで放ったが、まだ生きているロスタンへと俺はそう投げ掛けた。
今後何度となく掛かってこようとも、幾度となくぶちのめしてみせるという意思を明確に。
「っが、ごふ……くっそが──」
吐血しながらもロスタンは、不発だったことで未だ無事な左腕を支えに両膝ついたまま体を起こす。
再生し始めているが……立ち上がるまでの
「ふむ、再生も限界が近いと見える。さすがに二度も致命傷たりえる攻撃を喰らえば打ち止めか」
苦渋を舐めさせられたロスタンの顔が、自らの敗北を
彼は空を仰ぐように顔を上に向けると、実にあっさりとした口調で告げてくる。
「さっさと殺せや」
「なんだ、死にたがりか?」
「殺し合い……っ、だろうが」
「無様に小便を垂れ流し、神様にお祈りしながら、部屋の
「そんな甘い奴なのかよ、てめェはよ」
「いや……状況的にお前は殺しておくべきだと思っている」
「だろうな、オレぁ今まで命乞いしてきた奴だろうが関係なく殺してきた。自分だけ助かるとは思っちゃねえ──」
意気を失っていないロスタンに対し、俺はフッと吐息と共に笑って答える。
「そうか、でも生かしてやる例外がある──それが"人的資源"になる場合だ。お前、シップスクラーク財団にこい」
「……ぁあ?」
ロスタンはその言葉に面食らった様子で、意味するところを呆然と
ともするとイシュトが近付いてきて、俺とロスタンを交互に見つめてから口を開く。
「ふっふふ~ん、けっこう
「いえいえ、利になるモノは欲張っていく精神なだけです」
「なるほどなるほど、なるほど~。人生では大事なことだね!」
「そうでしょうとも」
ギリッと歯噛みしたロスタンは、こちらを思い切り
「負けたオレに
「ソーファミリーと"
「また敵対するとは思わねえのか……」
「そうさな、あと二回までなら改めてぶちのめして勧誘する」
仏の顔もなんとやら──俺はロスタンに慈悲を
「その
「俺の守護領域を
「どーもどーも、わたしも守ってるよ!」
同じファミリーであった"混濁"のマトヴェイをあっさりと蒸発させたイシュトに、ロスタンも閉口するしかないようだった。
「ただし四度目はない、
オレは断固たる殺意を込めて威圧してから一度視線を
「あぁそれと一応な、逃げても殺すのであしからず。つまりロスタン──お前は財団職員となるか、死ぬかの二択だ」
「メチャクチャ言いやがって」
「そうだろうとも、
「チッ……」
「──というわけで、イシュトさんも手出し無用で。襲われたら殺しても構いませんが」
「はいはーい」
俺は子供達が囚われている区画を
「んじゃこれ以上は企業秘密だから、少しばかり眠っててもらおうか」
「待てや、オイ」
掛けられた声に、俺は吐きかけた息を中断する。
「……なんだ、
「いや、それはまだだ。二回も機会をくれるってんならな、利用しない手はねェ」
「興味を持ってくれているようで結構。待遇でも福利厚生でも、手短になら答えるぞ」
「どうでもいい、てめェの名前だけ教えろ……こっちは負けた身ィだがよ」
俺は偽名で濁そうかどうか一瞬だけ迷ったが、さしあたって姓の
「"空前"のベイリルだ、はァ~……」
俺はロスタンの反応を待たず、一瞬の吐息と共に昏倒させてからすぐに死域を解いた。
目覚めるまで魔領側の壁外に放置することになるが……いちいち安全な場所まで運んでやる義理まではない。
「さてっと、イシュトさんはどうします?
俺はパチンッと指を鳴らすと、区画の
「んーそだねー、ちょ~っと魔領軍の様子でも見てこよっかな」
「"大地の愛娘"の
「うんうん、そこを見ておきたい。遠目でもスゴかったからね~」
にこやかに笑うイシュトに──どことなく
「……そう言われると俺も見たくなりますね」
「一緒に行く?」
「
「そっかぁ~それじゃ、お先に見た感想は控えておくねっ」
「言葉で言い表せる惨状とも思えませんけど──」
「かもかも」
イシュトが軽やかなステップを踏む直前──まだ余裕を残していた俺は……街中ではやりにくいことを、ここぞとばかりに頼んでみる。
「別れる前に一ついいですか?」
「なーに?」
「ふゥー……──
「んっふっふ、いいよぉ」
言うや否や、息吹と共に"