異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#229 テクノロジートリオ IV

 

「──他の五英傑も知っているが、ありゃさらに桁違いに感じたな」

「他の? あぁ……そういえば迷宮(ダンジョン)制覇してたんだったな」

 

 俺がそう言うと、ゼノも伝え聞いていたのをすぐに思い出したようだった。

 

「フラウとハルミアさんとキャシー。それとニア先輩と……お前たちの助力もあってだがな」

「自分らっすか?」

「そうだ、学園に保管されていた"大型穿孔錐(ボーリングマシン)"を使ってちょっとな──最深部までぶち抜いた」

 

 結局のところあの"科学魔術具(テクノロジー)"あってこその、攻略計画と言えよう。

 そもそもの前提をもたらしてくれたのが、テクノロジートリオに他ならない。

 

「あーアレ、ウチらで魔改造しまくったやつ!!」

「はいはいハイハイ、色々()ったのを覚えてるっすね」

「おれは関係ないぞ。リーティア、ティータ、おまえらが無茶苦茶やったもんだ」

 

「でもなんのかんの最終調整してたっすけどね、ゼノが」

「ぶつくさ言いながらね~、ゼノが」

「くっ……」

 

 

 シチューをすすりながら、振り回されるゼノの心労を思いつつも俺もつられるように笑みを浮かべる。

 

「まっそんなわけだ。詳しくは口止めされているから言えないが、そこから逆走して結局は全踏破ってなもんよ」

「逆走って……? 帰りの足がないってことは、もしかしてぶっ壊したんすか?」

「いやそれは大丈夫だ。ただ"無二たる"カエジウスに見つかって一時接収されただけ」

 

「おいおい……一時ってことは返却はしてもらったんだよな? いくら使ってないモンとはいえ──」

「無論だ、ゼノ。あれもテクノロジーの秘儀が詰まっているわけだし、ちゃんとまた学園に送り返したよ」

 

 ゼノは「ならいいが」と言った(ふう)に大きく(うなず)いた。

 

 

「あと実際に戦ったのが"折れぬ鋼の"だな」

「ぶっふッ──ベイリルおまっ……他にもかよ! しかも戦った!?」

 

「インメル領会戦の顛末(てんまつ)を聞いてないか?」

「んん、いや……そんなには。財団がかなり噛んでいて、王国軍と帝国軍がぶつかったってことくらいだよ」

「今後はテューレが情報発信をガンガンしていくだろうから、色々収集しとくといいぞ」

 

 吹き出して少しこぼれた水を、咳払いをしながらゼノは(ぬぐ)い取る。

 

「つい最近までちょっと()もることも多かったからな、かなり世俗に(うと)くなってただけだ」

「"生き急ぐ"って、ゼノの心情にして信条は理解できるけどな。少しは張っている糸を(ゆる)める時間も必要だろう」

長命種(ハーフエルフ)にわかるかよ」

「それが理解(わか)るんだな。それに結構無茶して何度か死にかけているし」

 

 転生前は普通の人間だったとは言えないので、(てい)よくお茶を濁す。

 

 

「"折れぬ鋼の"を相手にした時もちょっと自爆しそうで(あや)うかった。ただ会えたことそれ自体は、こちらから呼び込んだわけで想定内。

 "無二たる"に関しては攻略前にも一度会ってはいるけものの、迷宮制覇した以上は必ず会うわけだから嫌でも見知る。

 ただ"大地の愛娘"は……ほんっと、たまたまで正直(きも)が冷えた。そして"竜越貴人"は真意が読めんかったな」

 

「へっへぇ~? ベイリルちゃん、アイトエルに会ったんだ」

 

 なにやらもはや意地なのか半眼で(こら)えているゼノを尻目にしつつ、思わぬところで食いついてきたイシュトに俺は問い掛ける。

 

「"竜越貴人"を……呼び捨て、の仲ですか?」

「うんうん、わたしたちはぁ──そだねぇ、()()()()ってやつ」

「もう驚かん、おれは驚かんぞ」

 

 自分に言い聞かせるようなゼノはとりあえずさて置いておき、俺は軽く思考を回す。

 

 

(まぁまぁ、アイトエル殿(どの)の"昔"──というと幅が広すぎるんだよな)

 

 最古の五英傑にして、創世神話から生きる人物。

 彼女よりも年上は"七色竜"しかいないと豪語するほどで、それほど生きていても精神が磨耗していない。 

 

(俺にも二人きりの時は呼び捨てで良いと言っていたし……)

 

 彼女にとってはある意味、生きとし生ける者すべてが"馴染み"なのかも知れない。

 実際に俺も幼少期に会っていたという意味では、昔なじみである。

 

 また彼女が作ったとされる数多くの組織を含め、それ以外にもシールフのように世話になった人間は世界中に存在するのだろう。

 

「半端ないっすねー。普通の人間なら一生に一度、一人にお目に掛かるかってくらいだと聞くっす」

「ウチも戦争に出張ったり、迷宮攻略でもしよっかな~」

「少なくともカエジウス迷宮(ダンジョン)は、俺たちが制覇(クリア)したことで全面改修し始めているから……難易度はかなり上がっているぞ~」

 

 多分、きっと、いや間違いなく……"無二たる"カエジウスはさらに輪をかけて悪辣(あくらつ)な構成にしてくるに違いない。

 

 

「まぁさしあたって"竜越貴人"からは色々と面白い話を聞いた」

「どんなの! どんなの?」

「そうさな……──"永劫魔剣"について」

 

 俺はまだ財団入りたてのイシュトがいることで一瞬だけ言うのを躊躇(ためら)うが、どのみち大した情報でもないと口にする。

 保有しているのは循環器である刃の部分だけで、安定器の鍔と増幅器の柄がなければ、完成品が持つ真価とはかけ離れたモノでしかない。

 

 そしてその代替品を作れるのもまた、財団のテクノロジーの結晶であると信じる。

 

「アレの真なる名称は"無限抱擁(はてしなくとめどなく)"と呼ばれ……実は魔法具じゃない」

「どういうことだ? あれは刀身だけとはいえ、おれも見るに偽物とは思えなかったが」

「質で言えば本物だ。ただ"魔法具"って呼び名がそもそも違うって意味さ」

 

 俺は数拍(すうぱく)ほど、もったいぶってから話を続ける。

 

 

「"竜越貴人"アイトエル(いわ)く──実際には"魔王具"」

「まおーぐぅ?」

 

「そうだ……なんとその真相たるや、初代魔王が二代神王グラーフと協力して創りあげたモノだったんだよ!!」

「な、なんだってー!? って、んな信じがたいもんだが……(かつ)がれてんじゃないのかよ、ベイリル」

「まぁ少なくとも俺は信じられる。そう思わせるだけの説得力が、言葉の節々(ふしぶし)に感じられたからな」

 

「アイトエルは無意味な嘘はつかないねー、あいつが断言したらそれは事実だよん」

「ほんとかよ……」

 

 イシュトがアイトエルの信頼性について補強してくれ、懐疑的(かいぎてき)なゼノもしぶしぶ折れた様子を見せる。

 

「ところでベイリっさん、魔王具だとなんか違うんすか?」

「いや……性能(スペック)的に特段の違いがあるわけじゃない」

「ほっほー、でも実際に創るには──魔王と神王が共同製作するくらいじゃないと無理ってことすか」

「まぁそうなるな、現状だと世界で十二個しかない超稀少品だそうだ」

 

「えーーーベイリル兄ぃ、それって他の魔法具がないっていうことぉ?」

「歴史上で同等の天才が(ひそ)かに現れて作っている、なんて可能性もないとは言えないが……限りなく0(ゼロ)に近いだろうな」

「驚愕の事実だが──それはそれで開発者としては暗い現実だな、おい」

 

 ゼノのそんな率直な言葉に、俺は思わず眉をひそめて申し訳なくなる。

 

 

「勢いで言ったものの……なんか希望を削ぐような形になってしまって、すまん三人とも」

 

「いやいやおれから言っといて難だが、そこは別に構わない。できないことをあらかじめ認知することも、研究には大事なことだ」

「ゼノの言う通りっすね。不必要な徒労がなくなれば、それだけ他に注力できるんで」

「んだね~、でもウチは諦めないけどね!! 魔法具はムリでも、"魔導科学具"には無限の可能性がある!!」

 

 ドンッと胸を叩くリーティアに、イシュトがころころと笑い出す。

 

「あっはははぁ、ゼノちゃんもティータちゃんもリーティアちゃんもスゴいんだねえ」

「そうだな──その意気だ。俺はお前たちへの信頼は揺らいだことがない、大いに期待しとく」

 

 三巨頭とはまた別に、決して代替できない財団の宝たるテクノロジートリオ。

 知識と進化の系統樹における、最も重要な役割を(にな)う若き才能である。

 

 

「当たり前だ、今はまだ"大魔技師"には遠く及ばないけどな……」

 

 ゼノは新たにコップの中身をゴキュゴキュと飲み干すと、ドンッと机に叩くように置く。

 

「いずれ必ずその名を陳腐化(・・・)させてやるってもんだ。一人じゃ無理でも、三人でなら超越()えられる──」

「ゼノぉ、(くさ)い!」

「せっかくの料理の香りと相殺……いや、台無しって言ったほうがいっすかね」

「そこまでかよ!?」

 

「でもゼノの()うとーり!!」

「たしかに両の腕が鳴るっすね」

「お、おう……そうだろ、そうだろ。意識はどこまでも高く、そうあの空に輝く星々まで──」

 

 

 学遠生時代を思い出すわいのわいのとしたやりとりに俺は生暖かく笑い、イシュトもそれに便乗する。

 

「おもしろいね~、財団(ココ)

「三人はさらに特別ですけどね、それにもうイシュトさんも一員なので」

「うん……そうだねぇ、そっかそっか」

 

 かけがえのない大いなる夢の語りは、尽きることなきを思わせるように続くのだった。

 

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