異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
俺は英語がそれほど読めるわけではないので、とりあえず"大魔技師の書いた手記のコピーの一部翻訳書"を閉じる。
「なぁゼノ、リーティアとティータはこのことを──?」
「知らない。あいつらもおまえも……おれを天才だと思っているようだが、しょせん借り物なんだよ」
「いや普通はこれを見て応用するなんてできない、やっぱりお前は"天才"だよゼノ」
少なくとも俺が方程式などを見たところで、それを工学分野などで実際的に利用するなどできはしない。
仮に理数系で優秀な人間だったら別だが、あいにくと俺は凡人であり勉強したことも多くを忘れている。
シールフに引き出してもらった記憶も、それはつまるところ難解な専門書を見ているのと同じ。
知識としては確かに脳内に存在こそしていても、実際的に馴染まないし応用できない。流し読みのような感覚なのだ。
もちろん使えそうなものはシップスクラーク財団の知的共有財産として、利用しているのも数多くある。
しかしながら興味がないことは努力しにくいし、魔術や闘争は好きだからこそモノの上手となれたのだ。
「っと、"天才"をお前の努力を否定する"
「別にそこらへんは気にするタチじゃねえって。天才だのなんだの、呼び名なんてのは所詮
「……ならいい。ニア先輩なんかにうっかり言うと、そこらへんはしっかり怒られるもんでな」
本人の必死の積算を無視して、
「もちろんおれとしても子供の頃から
それでも根底にあるのは大魔技師の借り物の……さらに劣化
「いやまぁリーティアも特別な知識による幼少期英才教育の
ジェーンやヘリオが同じように育たなかった以上、リーティアにそういう資質があったというのは間違いない。
しかし少なくともその
「それとそうそう、そこなんだベイリル。おまえが大魔技師と同じ"故郷"ってのはわかった。しかしそこ、
俺はゼノが言いたいことを察する。
「あぁーーー……だろうな。まぁ
「世界ぃ~? ハーフエルフだから、大昔に生きてたってことか? いやでもリーティアの話じゃおまえは昔、ちゃんと子供だったって……?」
「時代的な意味合いじゃない。そうだな……例えるなら──」
疑問符を
「空に浮かぶ"片割れ星"から来た、って言えばわかるか? あくまで
「つまり違う星から……?」
「あぁ、ゼノなら財団の知識で惑星や銀河の成り立ちも知っているだろ。それとは別に、
「宇宙だぁあ……?」
「星が無数にあるように、宇宙が無数にあるとでも思ってくれ。俺は別の宇宙から来た、多分」
「多分かよ!」
「もしかしたら観測できなほど遠い、遠ぉ~い違う惑星から来ただけかも知れないし。宇宙がいくつあるのかも──そこらへんは俺だってまったくの未知だ」
ゼノはトントンと自分の太ももを指で叩きながら、しばらく考えをまとめているようであった。
「大魔技師も同じところから……ってのは確かなんだな?」
「英語が共通しているから、まずもって間違いない。生きた時代は違う可能性が高いが、少なくとも
「……
「そうだ、
「大魔技師も、ベイリルおまえも……そこを"知識の源泉"としていた──と」
「そのかわり
もしかしたら広大すぎる宇宙のどこかにはあったのかも知れないが、少なくとも人智において観測されてはいない。
あるいは
「魔力がない……? 魔術具もってことか、科学だけで成り立ってたっての?」
「ゼノならテクノロジー特許で知っているだろう。蒸気機関に内燃機関、無線通信や電気や航空機──」
「あぁ知っている。だからこそ余計に思うんだ、一体どんな世界だったんだろうかってな」
「特許の中には、まだ未来の技術とされるモノもあるが──ただ人間は
地球と異世界との最大の差異──魔力というエネルギーがないからこその、創意工夫と文明の発展。
とは言っても、地球史における発展も産業革命の以前と以後による
知識を正しく継承するシステムが確立されていなければ、文明とはたやすく興亡を繰り返すものゆえに。
「"転生者"……って言ってたな、
「あぁ、前世界での記憶──
「それが"未来視"とやらの真相ってわけか」
「そういうこと。架空の"リーベ・セイラー"と財団の在り方は、言わば俺が持ち込んだ
リーティアがゆえあって口を
さらに誤魔化す為に俺が"無意識に見る未来視の魔導"ということで押し
「なんつーかようやく氷解したって感じだ。ちなみに前世? ではどんな奴だったんだ──あっいや、もしかして敬語使ったほうが……?」
「くっはははッ、確かに精神年齢じゃ俺のが上だけど今まで
「そっか。そんじゃベイリル、遠慮なくいかしてもらうわ」
「まぁまぁ以前の俺は、本当にちっぽけな人間だ。当然魔力もないからな、長命種でもない。肉体的にも今のゼノより
「なるほど……だったら生き急ぐおれの気持ちもわかるわけか」
「わかる──と
これ以上なく
「それとだな……この事実は俺とシールフ、そしてオーラム
「リーティアは知らないのか……──なんでおれには話した?」
「まぁこうして話すだけの機会が
俺はゆっくりと息を溜めてから、吐き出すように言葉を乗せる。
「そして話すに
「……買いかぶりすぎだ」
ゼノは照れ隠しをするように視線を
「まあ誰かに言いふらす趣味はない。リーティアにも話してないってんなら、おれから言うこともないし」
フラウ達やジェーンらにもまだ教えてないことだが、皆には話さなかったところで揺らぐような信頼でもない。
それにシールフの"読心の魔導"のような存在もいる以上は、不必要な情報の拡散も今はまだ好ましくない。
だからこそ打ち明ける相手は選ぶというもので、知識を持つゼノには真実を知る意義があったと判断した。
「助かるよ」
「それはおれのセリフだっての。財団に
差し出されたゼノの右手に、俺も右手をもって返す。
「あらためて言われると
「言ってろ、ベイリル」