異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#245 避難勧告

「──というわけで、一時的に引き払ってもらうことになった」

「どういうことだよ!!」

 

 テクノロジートリオの前で端的(たんてき)な説明を終えた俺に対し、たまらずゼノが突っ込んでくる。

 

「だから"黒竜"が襲来するから、大事をとって退避をだな──」

「いやいやいやいや待て待て、なんで黒竜が来るんだって!? おかしくね!?」

「情報源については事情を考慮して秘匿事項になっている」

「ってことは、襲って来る理由をベイリル(おまえ)は知ってるんだな?」

 

邪推(じゃすい)は勘弁してくれ、ゼノ。お前たちであっても言えないことがある、少なくとも今はな」

「っあー、もうわかったよ。さすがにおまえの所為(せい)じゃないだろうしな……だろ? そうだと言ってくれ」

「そうだ」

「ならいい、必要不要と輸送の段取りを考えないと……」

 

 ()に落ちないといった表情を浮かべたままだが、ゼノはとりあえず飲み込んでくれたようだった。

 

 

(まぁ直接的ではないにせよ──)

 

 俺も協力して誘導してくる以上は、何割かは俺の所為(せい)ってことになるのだが……そこは言わないでおく。

 ここは白竜イシュトという個人を尊重するので、洗いざらいを開示して理解を求めるわけにもいかなかった。

 

「ベイリっさん、一時的(・・・)ってことは、また戻ってこれるんすか?」

断絶壁街(ここ)には"大地の愛娘"がいるからな、間違いなく迎撃はしてくれるだろう。片付いたら問題ないはずだ」

 

 ただし黒竜とのドンパチで、街そのものが壊滅しないまでも……余波に巻き込まれる可能性もなくはない。

 そしてその時の破壊規模は──余波だろうが甚大(じんだい)なものになりかねない以上、不必要なリスクは避けるに限る。

 工房は地下シェルターのような構造ではあるものの、"大地の愛娘"にとってはそんなもの関係ない。

 

 

「ちなみに"サイジック領都"もぼちぼち建設されていく予定だ。いい機会だからそっちに拠点を移すってのもアリかもな」

「ん~~~まっ、ここらでの開発もわりとやったって感じだよねぇ」

「たしかにちょっと飽きてきたっすね」

 

「ここら一帯の組織の掌握も着々と進んでいくし、非合法な知識や技術も順次送る体制も整うハズだし」

「っあー……そうか、もうここに固執する必要性がなくなるんだな。引っ越すってのも一考の余地はあるか」

 

 スッと視線を外したゼノはなにやら一人で色々と考えているようだった。

 

 

「この場に残るのは俺とイシュトさん──と、アッシュだけだ」

 

 クロアーネは既にヤナギを含めた子供らを連れていく準備をしてもらっている。

 馬車一つくらいでは足りないし、財団支部職員と護衛も含めてかなりの大所帯になる。

 

「あぁそれと、ロスタンの奴もいたな。まぁあいつは気にしなくていいだろう」

 

 仮に死んだとしても取り返しがつかない人材ではないし、まだまだ混乱している三組織をまとめる必要もある。

 

「ねーねー、ベイリル()ぃ。ウチも残っていい?」

「ダメだ、危険過ぎるからな」

「えーーーっ、ズルイ!」

「高速機動の飛空魔術士以外おことわり」

「飛行鎧を使えば!」

 

「残念っすけどリーティア、調整間に合わないっすよー」

「ぐぬぬ……」

「やめとけやめとけ、どうせロクなもんじゃねえから。魔竜とも呼ばれる歴史上で指折りの大厄災だぞ、荒事は専門家(ベイリル)に任せときゃいいんだよ」

 

 好奇心旺盛なリーティアからすれば歯痒(はがゆ)い状況であろうが、そこは諦めてもらう他なかった。

 

 

「ところでイシュトさんって飛べたんすか?」

「飛べなきゃ子供たちの護衛任務に就いてもらうところだ、戦力としても申し分ないしな」

 

「えーじゃあアッシュは!?」

「おいおいリーティア、そりゃ灰竜だからだろ。なぁベイリル?」

「あぁ、ゼノの言う通りだ。図らずも父親とされる黒竜が来るのなら、アッシュは連れていってやりたい」

 

 父親の死を見届けさせるのも(こく)な話だが、それ以上に家族でわずかな時間を──というのがイシュトの願いでもある。

 それに黒竜を誘導する場合を考えたときに、イシュトとアッシュが揃っていたほうが……あるいは都合が良いだろうとも。

 

 

「──で、飛べるとはいえ……おまえは本当に危なくないんかよ? ベイリル」

「こちとら"円卓殺し"ぞ。まがりなりにも黄竜と魔獣を討伐し、五英傑もよくよく知っている」

「さすがっすね~。戦争用の"科学魔術具"もいくつかあるんで、使えそうなのどれでも持ってっていいっすよ」

 

「助かる、ティータ。確かに念には念を入れておかないとな」

「むぅぅぅう……しょうがない、あきらめる!」

「聞き分けの良い子は好きだぞ、リーティア」

「うん、ウチもベイリル兄ぃ大好き!」

 

 よしよしと昔のように頭を撫でてやると、にまっと笑ってリーティアは告げてくる。

 

 

「だからぁ、()()()()楽しみにしてるね」

「おっいいっすね~、黄竜の次は黒竜っすか」

「なるほど、そういう計算もあったわけか。ベイリルらしいな」

 

「おいおい、(はなは)だ心外だな。まずはアッシュが第一だ、それに"大地の愛娘"相手だと死体なんて残らない可能性が高い」

「そんなにヤバイんすか、そこまで言われると自分も見てみたくなるっすね」

「こっそり見ちゃう?」

「勘弁してくれよ……」

 

「そうさな──」

 

 俺は"地殻津波"の光景を思い出しながら、極々まっとうな感想であり異見を述べる。

 

「まぁ星の裏側にまで行くならともかく、地平線の彼方くらいからなら余裕で(おが)めると思うぞ」

 

 

 

 

 財団支部にて俺はクロアーネとヤナギとで昼食を()る。

 

「──で、"断絶壁"で助けた21人の子供らは、そのままゼノたちの見学に付けてやるってことで」

「わかりました。他の子はインメル市にて"結唱会"と合流でいいんですね」

「あぁ……ただし俺たちが最初に助けた23人は刷り込みがあるから、一度シールフのところへ頼みたい」

 

 精神リセット以前に、暗闇や飢餓(きが)そのものに必要以上の恐れを抱いている可能性がある。

 面倒を掛けるものの負荷の大きいものでもないし、まぁ(こころよ)く引き受けてくれるだろう。

 

「アルグロス様に一筆(いっぴつ)()えますか?」

「そうだな、シールフならわかってくれるとは思うがきちんと書いておこう」

 

 俺の記憶と思考パターンを熟知しているが、それでも丸投げはよろしくない。

 

 

「クロアーネは諸々(もろもろ)の手配が終わったら、そのまま皆と共に待機していてくれ」

「……いつまで私をこき使うつもりですか」

生涯(・・)、かな。なぁクロアーネ、俺がこの戦いから無事生きて帰れたら……"誓約"しよう」

「くだらないこと言ってる暇があるなら、よく味わって食べることですね。最後の()餐かも知れないのですから」

 

 すげなく断られた俺も、既に慣れきった心地の良いやりとりである。

 それでも今までと違った変化を感じ取れているから、このままペースを保っていきたい。

 

「本気であり冗談はともかくとして、ヤナギと一緒に待っていてくれるとありがたい」

「くろー、いっしょ、まつ」

 

 皿から顔をあげたヤナギに、クロアーネは子供へ向ける笑みを浮かべて(うなず)く。

 そこから打って変わった半眼で、俺へと怜悧(れいり)な視線を移してくる。

 

「それは……まぁいいでしょう。ただしベイリル貴方の為ではなく、あくまでヤナギの為ということをお忘れなく」

「無論だ、俺の為には──とりあえず料理だけでいいよ」

「……えぇちゃんと用意してありますよ、一応ですが」

 

 

 "大空隙(だいくうげき)"までは、魔力消費度外視の全速力なら一日と掛からず到着するだろうが……。

 そこから断絶壁まで誘導するとなると、どの程度掛かるものか。

 それまでにエネルギーは限界まで貯め込んでおきたいし、十分な補給も欲しいところであった。

 

「カロリー食?」

(プラス)栄養食です」

「さっすが、助かるよ」

 

 こと料理に関しては至れり尽くせりといったクロアーネに、俺は何度となくお礼を言う。

 

「イシュト様の分まで食べないように」

「いくら美味しい手料理とはいえ、そこまで食い意地張っちゃあいないさ」

「どうだか」

 

 こうした普段通りのやり取りをまたする為にも、俺は強く心に留めておく。

 

「まぁまぁ、蓄えた分を無駄にはしない。だから安心して待っていてくれよ」

 

 


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