異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
皇国と魔領をまたぐ"
魔術で音の壁を突破してソニックブームすらも巻き込んで推進力に変える音速飛行と、ローブを広げて硬化させた慣性による滑空飛行の繰り返し。
エコ運転ではあるが、それでも並大抵の飛空魔術士でも追いつけない速度である。
しかして光が
「一人ならすぐ到着してたんでしょうね、"光速移動"」
「まっ──ねぇ──」
俺の
音速はおろか雷速ですら
転移の魔王具を用いるアイトエルでようやく同等以上と言えるが、魔力消費を考えればイシュトの圧勝であろう。
(光速で動けるなら……きっと世界が止まって見えるんかな)
相対的に自分だけが動けるようなものであり、刹那の時間を
"時を止める"──いつまでもこのままでいたい──この時間がずっと続けばいいのに──
それもまた一つの憧れであり、多くの人類が
そんなことを考えていると、俺は空腹を感じてやむなく口を開く。
「すみませんイシュトさん、食事休憩していいですか」
するとイシュトは言葉ではなく、やや離れた位置から両腕で大きく丸を描いたジェスチャーで返してくるのだった。
◇
地平線に山々を望む
「
「別にいいよー、もしも"大地の愛娘"が現れなかった時には協力してもらうわけだし」
いっそのこと俺は"断絶壁"で
このまま
そこらへんも見越しての早めの栄養補給ではあるが、ペース配分を考えると現地でもまた休ませてもらわねばなるまい。
「それにアッシュを連れてくのに、ベイリルちゃんのほうが負担少ないしね」
「クゥゥゥ?」
首を
よく使う簡単な人語は解すだけの頭の良さはあるが、多様な概念までを認識しているかは定かではない。
白竜イシュトが母親であるということ、そして父である黒竜の死を見届けることになるその意味を。
(……まぁいいか、どのみちイシュトさんを死なせなければ済む話だ)
俺は調理肉を
このまま学び、成長したいつか──これから起きる出来事も含めて、真実を理解できる日がこよう。
その時は母の愛情としたたかさをもって、アッシュも受け入れられるだろうと。
「アッシュは
「まかせたよ」
俺は最後の一口をかっこんでから、ふとした疑問をイシュトへ投げ掛ける。
「ところで黒竜の速度っていかほどでしょう? 逃げ切れないと……ですよね」
「さっきまでの速度維持できるならだいじょぶダイジョブ。巨体なのを考えても、普通の竜よりは速い程度だと思う」
「"現象化の秘法"を使っても?」
「"闇黒化"したらむしろ遅くなるかな。"現象化"して速くなるのは……半分もいないね」
言われた俺は頭の中で七柱を並べて、単純に考えて口にする。
「光輝の"白"。雷霆の"黄"。豪嵐の"緑"──ですか」
「そだねぇ、割と普通に飛行するほうが速いし楽なもんだから」
(いやほんっと……"黄竜"が
あの大きさの"雷化"に太刀打ちできる
ワーム
目の前にいる"光子化"できるイシュトも含めて、つくづく神話や伝説の中の存在であると認識させられる。
「でも速いからなんでも思い通りになる、ってわけじゃぁないんだよねぇ」
「……と、言いますと?」
「たとえば"青"が本気で領域を展開したら、どんな動きも
(う~ん……"絶対零度"かな?)
氷雪を司る"青竜"──同じ七色竜の一柱であれば、あらゆる分子運動を停止させることもさもありなん。
「ん……?」
「あっ──」
その時だった。俺は微妙な空気の変化を感じ取り、同時にイシュトも何かに気付いた様子を見せる。
さながら絶対零度の逆──
(っ……いやそうか、失念していた。ここらへんで見える山っつったら──)
遥か遠くからでも視認できた"赤いシルエット"は、どんどん大きくなっていく。
それに比例するように熱量もグングン上がっていき、俺はアッシュを
かの山は──"竜騎士特区"とも呼ばれる──世界第2位の標高を誇り、唯一
『こんなところで何をしている、"白"』
俺は現れた巨影に対し、
火をそのまま閉じ込めたような
上下で整然と並んだ鋭い牙。両翼を広げ、はばたく差し渡しは……いつか見た時と同じ100メートルにはなろう。
足と前腕は"黄色"よりはやや小さく、俺の記憶の中にある"前世における原型"により近いイメージと重なった。
眼前の存在こそ"赤竜特区"の
(炎熱を
ただ目の前にいるだけで弁当箱が融解し、固化空気の足場も消失するほどの熱。
俺はそのままアッシュと共に空中に浮遊しながら、"光子化"もせずに平然としているイシュトの
「そんなことよりも"赤"。まず暑いからさ、引っ込めてくれるかな?」
『……』
赤竜は
「なになに、
『幾筋も光跡が見えた。貴様が何度も見えるということは、何かを
「失敬だなあ」
『貴様が遠く過ぎ去りし
すると赤竜の視線が一瞬だけこちらへと向けられ、俺は
黄竜と闘ったという経験があるからか、自分でも存外落ち着けているのが少し驚きでもあった。
『
その言葉に呼応するかのようにアッシュが
『"灰"色……だと』
「
『その程度はわかる──そうか白、貴様……そういうことか』
「名前は"アッシュ"って言うの」
『聞いてはおらん。方角からしても、白よ……黒を眠りから起こすつもりだな』
「ふっふん、だったらなぁに?」
『あれを目覚めさせることは
赤竜の口元から
『今すぐに考え直すのならば、見逃してやる」
「みのがすぅ……? 随分と甘くみられたものだーねぇ!」
地上最強クラスたる存在そのものの
『黒き厄災はあらゆるものを
「遅かれ早かれ覚醒するよ、黒は」
『だからと言って、自らの手で
「
一度は抑えたはずの熱がまた噴き出してきているのか、実際に大気ごと空間が歪むような錯覚すら覚える。
「
「まったく昔っから
「──了解です」
俺はアッシュを抱きかかえたまま距離を取る。
そして"炎熱"は竜の姿のまま牙を剥き出しに瞳孔を開かせ、"光輝"は自らを光へと変えながら不敵に笑ったのだった。