異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
地上生物で最大なんじゃないか、と思えるほどの超巨体を誇る黒竜の飛行速度は思ったよりも速く──
同時に緑竜が操る風は、適切なペースと相対距離を
アッシュの声もさすがにカスッカスに枯れてきていて、俺も魔力が限界に近かくなる頃……。
(ようやく見えてきた……)
それでもどうにかこうにか、誘導を続けて"断絶壁"へと到着する。
黒竜は道中にも闇黒を
さしあたって赤竜にも迷惑を掛けずに済んだことにも安堵する。とはいえまだ終わったわけではない。
「……本当にここまで、ありがとね。ベイリルちゃん」
「なんのなんの、大したことは──したつもりですけど、アッシュの為でもありますから」
いつまでも痛苦の中で生き長らえるのは、とてつもなく耐え難いものであろう。
それは言うなれば"終末医療"にも似ている。
家族が苦しんでいて、それを救済する方法がないのならば……。
母である白竜イシュトが、伴侶であった黒竜を解放してやる選択を、俺は尊重したい。
まだ完全に理解できていないであろうアッシュにとっても、それは見届けねばならぬことだろう。
「あなたが、この仔の第二の父であってくれて……本当に良かったよ」
「俺の
それは素直な気持ちであった。そして人と人とでも、人と竜とでも──巡り会いとは……本当に奇なるモノであると。
「あ──っと、グリストゥムさん! ここら辺で大丈夫です!」
俺は高空を飛ぶ緑竜グリストゥムに、声を掛ける。
「まだ壁は向こうだがー?」
「いえ! あまり壁に近付きすぎても、それはそれでマズいので!」
"壁街"からはかなり離れてはいるが、それでも"断絶壁"それ自体は魔領からの侵攻を
仮に激突で破壊されても"大地の愛娘"ルルーテであれば──すぐに直せるかも知れないが──余計な手間を掛けさせるのも忍びない。
であれば少し離れたところのほうが安全であろう。
「言っておくが、ヒトの
そう緑竜らしい一言を残し、風はゆっくりと高度を下げつつ……旋回するような軌道でもって、低空飛行に移っていく。
黒竜もそれに呼応するように、闇黒を
「ふゥー……」
俺は"
トンットンッとその場で
「誘導は無事完了──続いて第二段階」
俺は財団員ローブの内ポケットに入っている
ストックしておいた最後の補給を胃に流し込んだところで、両腕を上空へと
(体力はそこそこ、気力はそれなり、魔力も……許容範囲)
俺は魔力の流れを意識しつつ、例によって光速で隣に
そうして"大地の愛娘"を呼び出すべく、地面へと音圧振動を撃ち込む──まさにその刹那に中断し、手を半端に止めた。
「またキミ?」
「──……どうも、
まるで最初からそこに居たかのように、目的である"五英傑"が再び立っていた。
「眠りが浅かったせいで起こされた、なにあれ」
「黒竜です」
俺が答えると、"大地の愛娘"が言葉を返すよりも先に黒竜の咆哮が一帯に響き渡る。
さらに間髪入れぬまま、黒竜の口腔から"闇黒色の
(あ──喰らったら死ぬな)
到達する数秒の
すると地響きを少しばかり、岩盤が山のようにせり上がり、黒色の一切を
偉大な大地は、砕けない。その形成に魔力を介在していても、それは創り出しているわけではない。
物理的に存在する岩ならば、闇黒であろうとも減衰されることも消滅させられることもないのだろうが……その衝撃まで全て受けきるのはルルーテだからこそなのだろう。
「……もう、うるさいな」
「はっはぁ~……──!?」
俺はそれ以上言葉はおろか、思考すら止まってしまう。
赤とも黄とも白とも取れるかのような輝きが黒竜を包み込み、そのまま上空まで打ち上がる極大質量の塊。
それは
("スーパープルーム"……)
俺の心中でそんな言葉と、かつて前世で見た映像記憶が脳裏に浮かんでいた。
星の
すなわち惑星の"地核"と"マントル"。超高密度の鉄は
そんな惑星の奥深くに存在するドロドロの金属や岩石類を噴出させるという、常軌を逸するどころではない事態。
かつて地球史において最大級の絶滅被害を引き起こした、超極大災害"マントルプルーム"。
ドキュメンタリー動画で見たその光景が……局所的に眼前で繰り広げられてるのだ。
(究極の地属
あるいは自転を止めたりなんかも、あっさりとやってしまえるのでは? と思えてしまうほどに。
今まで数多くのモノを見てきたが……この世界に染まったハズの常識が、さらに塗り替えられた心地。
(なるほど……これはたった一人で世界滅ぼせるわ、うん)
白竜イシュトが、黒竜を殺しきれる──と確信するだけの強度が……ここにきてようやく理解できた。
人類が創り上げたあらゆる文明を
そしてさらに恐るべきは、これほど圧倒的な
だからこそ俺は、なけなしの気力を振り絞ってルルーテへと
"文明回華"を
「ルルーテさん、あなたの目的はなんですか?」
"大地の愛娘"はこちらへと首だけを
「……? 寝ること」
特に問い返されるようなこともなく、あっさりと……そして
「ここはわたしの
「……はい」
俺はにべもなく
彼女は魔物や魔族の侵攻を防ぐ英雄であり、それゆえに"五英傑"に
しかしその
(なら、まぁいい)
つまるところココでドンパチをやらなければ済む。刺激さえしなければ敵対されることもないのだ。
むしろ"大地の愛娘"が老いて往生するまで、魔領側から連邦側への侵攻がないというのは、
俺は視線だけでイシュトの様子を
アッシュをその胸に
彼女の心を