異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
#257 巡り合い、紫徒 I
光輝なる白竜との別離より──2週間弱ほど経過したある日のこと──俺は断絶壁街の財団支部は屋上にて、一人の男と対峙していた。
「一目でわかったよ、"空前"のベイリル」
唐突に空から
薄黄色に紫が入り混じった長髪を
「……そういう貴方は?」
詰問するように俺は眼を細める。
男には爬虫類が
そして最も特徴的なのが……
「我が名は"サルヴァ"、姓は"イオ"と言う」
「サルヴァ・イオ──あいにくと聞いたことがない」
記憶の中を瞬時に
「ふっははははッ! 面白いな、貴様は実に面白い」
「……まだおもしろいことを言ったつもりはない、が──」
「貴様の
「はぁ……そりゃどうも」
「我はめったに人を褒めることはないから、ありがたく思うといい。少しくらい
俺は目の前の人物をいまいち図りかねる。名前はわかったものの、その素性についてはまったくもって不明のまま。
尊大ではあるが同時に自信にも満ち満ちていて、有事が起こった際に武力で制圧するにも……不確定要素が多いと判断する。
「まだ若いのに大したものよ」
「俺はハーフエルフです、貴方より年上かも知れませんよ」
「
勝手知った
「ほっほう、顔色一つ変えんとは……まっこと天晴れなり!」
「誰から聞いた」
俺は底冷えするようなトーンでもって反射的に
しかしその情報がサルヴァという名の男にとって既知であり、俺にとって彼が未知の塊であることは……いささか面白くない状況である。
「
「隙あらばとのたまっていた人が……いけしゃあしゃあと言うものだと思いますが」
「そこは気にするな──っと、あったあった」
言いながらサルヴァは二重螺旋の系統樹が描かれた、
それは確かにシップスクラーク財団のモノであり、わざわざ偽造する者も現段階ではそうはいまい。
「さてそれでは先ほどの疑問の答えだが……君の
「……シールフしかいませんね」
転生者であることを知っているのは何人かいるものの、実年齢まで知っているのは"燻銀"ただ一人しかいなかった。
「
「いえ。彼女は俺の半身ですし、シールフが秘密を教えるに
「ふっはッ!
「まぁシールフは全幅の信頼を置いた内の一人ですし。サルヴァ
ニィ……っと腕組み笑ったサルヴァは、満足気な声色で話を続ける。
「そういうことだな。彼女が我に話したのも、ひとえにまだ若かりし頃……転生者と会っていたからに他ならない」
「若い頃? 一体どなたか、お
「言っておくが、軽く百と五十年以上前のことだ。当時は狂人の
「それから150年たった今は……さしあたって転生などという話も信じられる、と?」
「極東にも過去に存在したであろう、独自の文化が継承されていたゆえな。今の我ならば理解できる」
(極東の
直接の出身ではないが、こちらの大陸へ渡って系譜が今なお続いている"ファンラン先輩"や"スズ"のことを思い出す。
紫竜による病毒汚染によって、ディアマが大陸を斬断した結果できた島国。
南側の"本土"と北側の"北土"で分かれていて、非常に少ないながらも大陸と交易が
「あの時にもう少しばかり……転生者を名乗る男の話を、まともに聞いておくべきだったと痛感したものだ」
(過去の転生者か……ゼノが大魔技師の知識の一部を持っていたように、そうした遺産も探したいところだが──)
あるいはこの世界に住む一般人には理解できずとも、財団とテクノロジーを知る人間には理解できる実践的な知識が残っているやも知れない。
「……ところで、サルヴァ
「なんだ、我のことがそんなに知りたいか」
「それはまぁ……俺ばかりが一方的に知られているのは、いささか不公平かと」
「っはは!! 確かにそれは道理。よかろう、なんなりと聞くがいい。なんでも答えてやる、ちなみに年は200と20を数えるくらいだ」
「"竜人族"ですかね?」
竜人族──人型種の中では、ハイエルフやヴァンパイアと並ぶ最高峰とも言える
300年近い寿命とそれなりの魔力操作、なによりも圧倒的な身体能力を誇るのが特徴である。
ただし獣人種などと同様に進化の
鳥のように空を飛ぶことに憧れて翼を生やす進化を経たように、竜への信仰によって進化したとされている。
「いーや違う、ただの魔族だ」
俺はいきなり肩透かしを喰らった気分になる。ただの魔族で200年を超える人生を語るには──
「ということは長命種とのハーフ?」
「でもないぞ」
「っ……となると──不老に類する魔導師か、あるいは神族の先祖返り……」
シールフのような後天的な"神族大隔世"。非常に稀有な事例ではあるが、ありえなくもない。
「惜しいな、ベイリル。
馴れ馴れしく名前を呼んでくるサルヴァの言葉に、俺は思考をさらに回転させる。
(うん……? 人から神族遺伝子を発現することの、逆。それは、つまり──)
俺はパチンッと指を鳴らして、狭まった回答へと辿り着く。
「そうか! 神族から魔力"暴走"に
「正解だ。我は神族として生まれ、薬学を
「元は極東生まれというわけではなかったと。それにしてもよく渡れましたね、"海魔獣"もいるのに」
「危険だったが、どうしても必要だったのだよ。大陸の"錬金術"だけでなく、極東本土の"練丹術"も学んでおく必要があったからな」
錬金術また練丹術──地球史においても存在した、卑金属から黄金などを作り出そうという"化学"の前身たる思想。
その実態は時の
"黄金変成"はもとより、"
果ては"
魔術の基礎である火・水・空・地も、錬金術における四大元素の考え方に
しかして錬金術は、こっちの世界でさほど学問として発達しているわけではない。
それは単純に魔術が存在することと、宗教的な問題も含んでいる。
「そこで生涯愛した
(つまりは……"化学"分野に精通した人物、ということか)
興に乗り始めた語りを
「妻も亡くなり、孫たちも自立して
「とある人物?」
「"紫竜"だ」
「はっはぁ~……紫竜って生きてたんですか」
俺はつい最近に当時を生きた者達から聞いた昔話を思い出しつつ、呆けた口調で聞き返すのであった。