異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
──この世界に俺が
宇宙と惑星との中間圏に浮かびつつ……俺はすっかり日課と化した魔導の修練に励み、研ぎ澄ましていく。
そんな星明かりだけが照らす俺だけの世界に、遠慮なく入り込んでくる人影が見える。
はたしてそれは──青みがかった銀髪をサイドテールに結んだ幼馴染。
薄紫色の瞳をわずかに潤ませ、片犬歯を口の端から覗かせたハーフヴァンパイアの"フラウ"であった。
俺は重力操作でここまでやって来た愛する女を抱き止め、自然に口付けを交わすと同時に"風皮膜"を付与する。
「あー……おかえり?」
「ん~~~ベイリルって居場所に帰ってくる意味では、ただいま?」
「ハルミアさんとキャシーは地上か」
「うん、ハルっちには悪いけど……あーしだけ先走らせてもらった」
こんな超高高度まで到達して平然とできるのは、俺を除けば重力魔術を扱うフラウくらいである。
「よく俺の位置までわかったな」
「ベイリルを探すなんてお手のモノだよ、な~んて。どうせ何かあった時の為に支部から遠く離れないのはわかってるし」
「まぁ……それもそうか」
勝手知られたるフラウには、俺の思考や行動パターンなど当たり前のように筒抜けなのであった。
「それにしてもサイジック領からだと、さすがに遠いねぇ~」
「おつかれ。俺もなかなか
「いそがしいんだ?」
「まっ成り行き上な──と言っても自分で増やした仕事だし、他にも色々と両立させていかにゃならん」
そうしてシップスクラーク財団に……少しでも貢献できていると思えばなんてことはない。
未来への投資を含めて、発展に寄与できることもまた充実感を俺に与えてくれる。
労働に
「今はフリーの時間だ、二人っきりで邪魔も入らないことだし……
「いいねぇ~、こんな綺麗でロマンチックな場所でするのなんて初めてだ」
世界でたった二人だけと錯覚してしまいそうな星空。
フラウ達と分かれてから、それなりに経っていて俺としても久し振りに人肌が恋しいところだった。
「でもぉ……その前に、ちょっとだけいい?」
「ん、フラウのペースでいいぞ。俺はお前の為ならなんでも受け入れてやる」
神妙な表情を見せ、動悸が激しくなるフラウを……俺は
"使いツバメ"の連絡ではほとんど
「ありがと。本当は言いたくない──けどベイリルなら知りたがるだろうし、知るべきだとわたしも思うから……言うね」
俺は思わず
「あの時、わたしたちの故郷が焼かれた炎と血の惨劇の日──ベイリルのお母さんが……"ヴェリリア"さんがいた」
「……っ俺の、母さんが──?」
「シールフせんせも、記憶違いの可能性はまずないって言ってた」
"読心"の魔導師シールフ・アルグロスは
捏造や勘違いによって凝り固まった記憶と、原記憶との違いをしっかり区別できるほどの超がつく一流。
だから彼女が間違いないといえば……確かにフラウがその瞳で見て、心脳の奥深くに刻まれていた記憶。
それがたとえ任意に見せられた幻覚によって記憶したものであっても、シールフは膨大な経験則から実際に見たものか、見せられたものかまで判別がつくらしい。
「ただ……実際にどうしてたかはわからない。もしかしたらベイリルを探しに来てたのかも知れないし」
フラウはそう言うが彼女自身、薄々は感じていて口にしているのはわかりきっていた。
そうした可能性は……限りなく低いということを。
「ありがとう、フラウ。つらかっただろう?」
「ん──まぁそこそこ? でも大丈夫」
フラウも俺を掴む
「どっちみち向き合わなくちゃいけないことだったもん。それに……記憶の中で
確かに
「あと可愛いかった頃のベイリルにも会えた」
「むっ──」
「こんなことなら、もっと早くにシールフせんせに記憶探訪を頼めば良かったなぁ~。正直かなり楽になったよ」
「そっか、まぁまぁなによりだ」
人間の脳は未解明な部分が多く、また記憶も曖昧なものだ。
無意識領域を含んだ深層にまで手を届かせるシールフの魔導が、いかに凄絶というものか。
こればっかりは現代科学でも不可能な領域の一つであり、異世界の魔法体系の
(……にしてもあの日、あの場に母さんが居た──意味か)
俺はもたらされた思わぬ情報から、冷静に想いを
あるいは"竜越貴人"アイトエルが既知としながらも、言葉を濁した真相がそこにあるのかも知れないとも。
少なくとも"アンブラティ結社"の
「それで……他にはねぇ、な~んもわからなかった! ごめんね」
「
「どーゆーこと?」
「アイトエル
故郷アイヘルを襲った"炎と血の惨劇"の真実──そしてアンブラティ結社についてもあるいは……。
「少しでも役に立ったのなら、あーしも
「
「ん、いる~」
そう言うとフラウは俺ごと巻き込むように無重力空間を作りだし、俺は圏内に空気を供給する。
互いに
「落ち着くなぁ~……」
「俺もだよ、久々だから止まれないかも知れん」
「なんでも受け入れたげるよ?」
「そうかそうか、子供でも?」
俺はフッとした笑みと共にそうフラウへと投げ掛ける。
「んぁ~~~……そういえば"ヤナギ"ちゃん? まだ会ってないけど育ててるんだっけ」
「明日の朝になったら起きるだろうから紹介するよ」
「んでモーガニト伯はぁ……自分の子供も欲しくなっちゃったんだ?」
「まぁ半分は冗談だけどな、ただ……ヤナギじゃなくアッシュの
「アッシュ……? が、どうしたん?」
白竜イシュトと黒竜が残した一粒種。自身らの分け身とも言った我が子に対する愛情と願い。
母ヴェリリアを想起させ、その最期を見届けた俺としては色々と考えさせられた出来事だった。
「連絡では黒竜討伐のことしか書かなかったが……色々と積もる話があるんだ」
「そっかぁ、な~んかちょっと哀しげな話っぽい?」
「まぁ、そうだ。フラウは会ってないから実感もないだろうが、明日にでもハルミアさんとキャシーを交えて話そう」
灰竜の誕生に
「おっけ~。そんで──子供作るの?」
「フラウは欲しいか?」
「デキちゃったら育てたい……と言っても、あーしら学園時代からずっとだし?」
「確かに、いつもとヤってることは変わらんな」
妊娠したらそれはそれで……という気分ではいたものの、フラウが子を宿すようなことは今までなかった。
エルフ種とヴァンパイア種──似て非なるその種族同士ではなぜだか子供ができない。
(しかしそれもまた……単に参考とするデータが極端に少ないだけかも知れない)
長命種の寿命問題にしてもそう、サルヴァ・イオに指摘されてハッとさせられたばかりである。
さらに言えば俺もフラウもハーフであり、厳密にそのまま形質が受け継がれるとは限らない。
「まっさっ、焦ることはないっしょ」
「あぁ……俺たちは長生きだし、仮に不妊問題があったとしてもテクノロジーがなんとかしてくれる」
医療分野や遺伝子工学をはじめとして、財団が創っていく未来ならば
「うんうん、どうしても今すぐにあーしを
フラウから吐息と一緒にふっと耳へ