異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#262 雷音 I

 

 ──断絶壁の頂上で、俺とフラウとキャシーは朝食後の運動代わりに体を動かす。

 そんな光景をハルミアがアッシュと共に(はた)から見守るという構図の中。

 

 俺は白竜と黒竜にまつわる顛末(てんまつ)と、灰竜(アッシュ)のことについて話し終えたのだった。

 

「──アッシュちゃんには、そんな事情があったんですねぇ」

「カァァアアウゥゥ」

 

 ハルミアに対して返事するように、アッシュは一声いななく。

 

「イシュトさんか~、あーしも会ってみたかったなぁ。なんか波長が合う気がする」

「かもな、元々人を選ばず光速で心の距離を詰めてくるような(ひと)だったけども」

 

 フラウの軽やかな胴回し(かかと)落としを、俺は皮一枚で(かわ)しつつ、その体を掴んでキャシーの方向へと投げ飛ばす。

 

「で、結局アッシュはアタシらが育てるってことでいいんだよな?」

「そうだ、まぁ今までと変わらんな。ただ俺たちは信じて託された、ということだけ覚えていてくれればいい」

 

 キャシーは投げつけられたフラウの体へと、拳を浴びせかけるように指を服へと引っ掛け、投げ返してくる。

 

 

「で、アタシらになんか土産(みやげ)はなかったんかよ?」

「アッシュが首に()げている、形見の白黒竜鱗くらいだ」

 

 俺は迫り来るフラウの体をいなしながら、可能な限り運動エネルギーを保持させたまま回転しつつ、また投擲する。

 

「ちぇっ……つーかそんな一大事(いちだいじ)があったんならアタシらも呼べよ」

「色々と()いてたからな、大空隙(だいくうげき)との往復も二日程度だったし間に合わん」

「そんならアタシ一人なら間に合ってた」

「片道ならそうかも知れんが、"使いツバメ"が届くまでの時間で遅れる。"無線通信"でも発達してたら呼べていただろうけどな」

 

 俺とキャシーは互いにフラウを投げ合い続ける。

 

「くっそぉ~、せっかくなら"大地の愛娘"も見たかったな。そんなにスゴイってんなら」

「言っとくが好奇心で()れていい相手じゃないからな? ここでまたうるさくしようものなら真剣(まじ)で潰されかねん」

「んじゃあ……赤竜はどうよ?」

「特区へ強引に入り込んで、竜騎士全員を相手にする覚悟まであるんならいいぞ」

「そりゃムリだなぁ、今の実力じゃまだ──」

 

 

 フラウが延々と俺とキャシーの(あいだ)を行き来する応酬(おうしゅう)が続き、ついには耐えかねたフラウが叫ぶ。

 

「ちょぉっと~~~ッ!! ベイリルもキャシーも、あーしで遊ばないでよ~」

「いやぁなんか流れ的になんとなく、な」

「オマエがやたらとフワフワしてっからだろ、フラウ」

 

 俺はフラウを受け止めてそのまま地面へと着地させたところで、さりげなく口にする。

 

「あぁ土産と言えば……──」

「何だ? なにかあったんか?」

「個人的に"白竜の加護"はもらった」

「ずっるっ!!」

「一応はイシュトさんの役に立てたし、俺だけの正当な報酬だ」

 

 キャシーを煽るように俺はニヤリと笑うと、ハルミアが疑問を投げ掛けてくる。

 

「ねぇベイリルくん、それはどんな効果があるんですか?」

「いやぁそれが俺にもまだわからなくて……多分使えないと思います」

 

 人の身で白竜の(ちから)を扱うには、あるいはサルヴァのように人の身を捨てる必要があるのかも知れないが──

 それでもお守りとして俺の中に存在するのであれば、それだけでも気持ちは昂揚するというものだ。

 

 

「ね~ね~ベイリル、"加護"ってのは竜が与える(ちから)なんだっけ?」

「あぁ、ただし七色竜だけな。帝国竜騎士の駆る"火竜"を代表とする眷属竜がそうだ」

「じゃあ"黄竜の加護"ってのもあるわけか?」

「当然あるだろうな──って、おいキャシーまさか……」

 

「もらいにいこうぜ?」

 

 俺もフラウもハルミアも、なんとなくその一言が直前に察しがついたというものだった。

 

「私たちってもう一回攻略していいんですかねぇ?」

「ってか二回目の制覇報酬はくれないんだっけ?」

「あぁ。そもそも次は倒せるかも怪しい、あの時も黄竜が全力だったらまったく相手にならずに消し炭にされている」

 

 "現象化の秘法"──雷になられたら、今の俺達の強度でもまったくもって相手にならない。

 

「いいんだよ別に、黄竜から加護もらいにいくだけなんだから倒す必要ねえじゃん」

「キャシーちゃんには悪いんですけど、私はちょっと……もう一回は難しいですかねぇ」

「俺もヤナギと他の子供らの教育で忙しい」

 

 今度は正当に攻略するというのも悪くはないが、今はもう暇潰し目的で行けるような立場にはない。

 

 

「じゃぁベイリルとハルミアはいいよ。フラウ行こうぜ、今度はアタシに付き合う番だ」

「えぇ~~~そりゃあーしは暇だし、セラピーに付き合ってはもらったけどさー」

「そもそもまだ改装途中だろうし、難易度も上がっているはずだ。二人だけじゃ危ないだろ」

 

「あの時よりも強くなってるし。ジェーンやバルゥのおっさんや、なんだったらソディアも誘って行くよ」

「海賊のソディアはまぁともかくとして、ジェーンは"結唱会"があるし、バルゥ殿(どの)に至っては職責があるんだが……」

 

 バルゥには数多くの奴隷達を旗頭(はたがしら)として取りまとめ、ゆくゆくは陸軍総督としても活躍してもらいたい。

 

「あとプラタを連れてくのもいいかもな、それとほら戦争の時にベイリルを助けたって後輩の奴も」

「"ケイ・ボルド"な」

「そうそう、ソイツ」

「プラタもケイちゃんも学業があるわけだが──しかし、ふむ……迷宮再攻略か」

 

 俺はなんでもかんでも切り捨てるのではなく、一度頭の中で打算的に整理してみる。

 

 

 いざ脳内で並べてみるに、確かに面子(めんつ)としては悪くない。

 

 既逆走攻略者で、あの時よりも強度もかなり上がっているキャシーとフラウ。

 基本的には冷静であり、戦術と武力のバランスが良く、汎用性の高い氷属魔術を使えるジェーン。

 俺達と同等以上の実力者で、迷宮攻略のノウハウと、冒険者としての経験も申し分なしのバルゥ。

 障害となりうる悪辣(あくらつ)なギミックも、持ち前の頭脳で攻略できるだろうソディア。

 そして接近戦(クロスレンジ)においては無類の力量を誇るケイに、多様な状況に対応できるプラタ。

 二人についてきそうなカッファも、ケイを相手に鍛錬してきた実力と、田舎で鍛えられたらしい色々と器用な特技群にも驚かされた。

 

 

「でもキャシーちゃん、加護がもらえなかったら徒労に終わっちゃいますよ?」

「そん時ぁそん時、修行にはなるだろ」

「まったく気まぐれ獅子(ネコ)だな~~~」

「フラウに同じく、まったくもってキャシーは気まぐれだが……──」

 

「うっせ」

「だがしかし俺も少し考えてみた。確かに──願い事を差っ引いても、悪くない話かも知れん」

「ぁあ……? だろ!!」

「カエジウス特区内における"浮遊石"の採掘権は、ワーム迷宮(ダンジョン)にも適用されるわけで……なにより"黄竜素材"もいくらあっても困らない。

 難癖つけられるようであれば、制覇特典の最後一回分の願いを使っちゃって問題ないわけだし──むしろアリ寄りのアリな気がしてきた」

 

 さらに持ち帰った既存(きそん)の黄竜装備を身につけていけば、道中でも多少なりと楽になることだろう。

 

 

「ただ一つだけ問題があるな」

「なんだよ? 乗り気になったと思ったら文句か?」

「俺はともかくとして、ハルミアさんがいなきゃ治療役に欠けるだろうが。俺たちもひとえに彼女の医療術あっての攻略だったのを忘れたか?」

 

「キャシーちゃんの致命傷は17回でしたねぇ、大小問わない傷は数え切れません」

「うっぐ……」

「あ~~~たしかにハルっちいないと、何かあった時に困りそ──ってか絶対に困る」

 

 ぐぬぬ顔を浮かべるキャシーは、ちらりとハルミアの(ほう)へと視線を移す。

 

「ハルミアも来ればいいだろ」

「んーーーダメ、ですねぇ。攻略するのに何季かかるかわかりませんし」

 

 ニッコリと笑って返すハルミアに、キャシーもそれ以上抗弁するだけの理由を見出せずにいた。

 

 

「でも私がいなくても、いい方法がありますよ?」

「……ホントか!?」

 

 ガバッと瞳を輝かせるように上体を前に持っていくキャシーを眺めつつ、俺も疑問符を言葉にして投げ掛ける。

 

「ハルミアさん、妙案でも?」

「"道具"で(おぎな)えばいいんですよ」

 

「あぁそうか、"スライム魔薬(ポーション)"。その手があったか──」

 

 ハルミアの一言にピンッと閃くように、俺は指を鳴らして納得するのであった。

 


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