異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#265 開発者会議

 俺は明晰夢ではなく、純然とした記憶の海で過去を想起していた。

 

 故郷への帰還──"竜越貴人"との密多き対話──Blue(ブルー・)Whisper(ウィスパー)──アンブラティ結社──歴史上の偉人らの真実──

 クロアーネと灰竜アッシュ、二人と一匹の旅──竜騎士見習いエルンストとの(えにし)──兄弟子アーセンを殺したこと──

 子供達を救ってヤナギを見出し──白竜イシュトと出会い──断絶壁でのテクノロジートリオとの再会──ロスタンとの闘争──

 "大地の愛娘"ルルーテの凄絶さ──同じ転生者たる"血文字(ブラッドサイン)"との邂逅──三組織の制圧と乗っ取り──

 赤竜と緑竜の二柱と相対したこと──イシュトが語った創世の時代──黒竜の最期と、イシュトとの別れ──

 サルヴァとの巡り会わせ──フラウの記憶にあった母の断片──キャシーを()としたこと──

 

 随分と濃密な時間を過ごした。インメル領会戦もかなり凝縮されていたが、それ以上だったように思える。

 それだけに得られたものも多く、大きく、そして……掛け替えのないモノも含まれる。

 

 

 そしてまた……人との繋がりだけではない。物質的にも様々な戦利品を、これまでの半生で獲得してきたものだった。

 

 "永劫魔剣"を(あが)(たてまつ)ったイアモン宗道団(しゅうどうだん)の財産と、魔術具製作の為のセイマールの遺産に始まり──

 "スライム"の原料となる生体トロル──"エレクタルサイト"の元となる黄竜の部位──カエジウス特典で得た"浮遊石"と採掘権──

 利用価値がまだ定まっていない魔獣メキリヴナの遺骸──権力者との人脈と弱味を含んだアーセン・ネットワーク──

 未来には一山いくらになるかわからないほどレアメタルを含むだろう、大地の愛娘ルルーテの置き土産──

 

 俺だけの戦果ではない……それでも俺が関わって、財団へと貢献した(あかし)であり誇らしく感じ入る。

 

 

 ゆっくりと、穏やかな心地で両のまぶたを開く。

 

「……おはようございます。"ハルミア"さん」

「はい、おはようございますベイリルくん──と言っても、まだ()(のぼ)ってないんですけど」

 

 俺は膝枕をされる形で、こちらを覗き込んでいるハルミアの瞳を見つめ返した。

 

「四人でするのも良かったですけど、やっぱりこうした二人の時間も大切ですねぇ……」

「いや~さすがの俺もアレは大変でした」

「私はあれでも抑え目にしてたんですよ?」

「……精力増強魔薬(ポーション)の開発もお願いしときます」

「はい、任されました」

 

 トロル由来物質(スライム)の応用幅を鑑みれば、様々な効用への発展が期待されるというものだった。

 いずれは"ナノテクノロジー"まで視野に、魔導科学の果てには万能の霊薬(エリクシル)の完成さえ見られるかも知れない。

 

「会議は朝一からですけど……まだ時間もあるんで──」

「ふふっ、もう一戦ですか? いいですよ」

 

 (こころよ)く受け入れてれたハルミアの包容力に、俺はより(たぎ)(ほとばし)る熱情を遠慮なくぶつけるのだった。

 

 

 

 

 朝となり、財団支部にて多種多様な主要面子が顔を揃えていた。

 

 ──半妖精種(おれ)半吸血種(フラウ)半魔妖精種(ハルミア)獅人族(キャシー)犬人族(クロアーネ)

 狐人族(リーティア)人族(ゼノ)ドワーフ族(ティータ)定向変異魔族(サルヴァ)半魔吸血種(ヤナギ)灰竜(アッシュ)

 

「──さっそくだが財団本部とも協議した結果、もうしばらくは断絶壁を中心にテクノロジーの研究・開発を進めていくことになった」

「なぁよベイリル、サイジック領じゃまだ無理なのか?」

 

 世界の人口比で言えば圧倒的だが、今この場では唯一の人族たるゼノが、律儀に手を挙げて俺へと問うてくる。

 

「既にサイジック新領都の予定地に、"仮工房"を建設する手筈(てはず)は整えてはいる。ただ移送準備など考えても時間は必要だ」

「わかった。なんか進捗(しんちょく)があったら教えてくれ、こっちも準備があるからな」

「あぁ、まっ三組織の統合も順調だしロスタンも財団色に染まってきた。(とどこお)りなくいけば、出立までは一季も掛からんのじゃないか」

 

 断絶壁も悪くはないのだが、やはり先々の見通しまで考えるとサイジック領が望ましい。

 この場所ではどうしたって情報の隠匿などにも限りがあり、本部との連絡にも時間が掛かる。また大々的な運用試験などもやりにくい。

 

 

「ってぇことはベイリルは暇だな?」

「まぁ……ヤナギを育てるくらいかな」

 

 ほくそ笑むようなゼノに、俺は片眉だけをひそめて思惑を言葉にするのを待つ。

 

「ならおれたちを手伝う時間は十分にあるわけだ」

「なにっ……直接手伝うとなると俺はモノの役にも立たんと思うが」

 

「いやいや高温・高圧環境を作れるって聞いたぞ」

「あ~~~……そういうこと」

 

 空気を圧縮してプラズマ状態を作り出す、あるいは太陽光や宇宙線を凝縮して放射性崩壊を作り出す。

 そういった粒子干渉における状態を調整すれば、確かに高温・高圧の環境を作れないこともない。

 

 

「でも十秒と()たないぞ?」

「そこはそれ、限界を超えて気張ってもらおうか」

「っまじか──でもまぁ、俺でも役に立てるならやぶさかでもない」

 

 どのみち魔術の精度を上げる意味でも、圧縮を保持する修練は必要だったし丁度いいのかも知れない。

 

「他にも音波とか使えるんだし。正直なところおまえは、テクノロジーにおける自分自身の利用価値をわかってない」

「……オーケィ、了解。確かに工業用(・・・)にしか使えなそうな開発途中の魔術もある、どんどんこき使ってくれ──ただし音波は断絶壁以外でな。"大地の愛娘"の起こしたらマズいから」

「わかってるよ。そっちはサイジック領に移ってからでいいさ。それと発想(アイデア)出しも頼むぜ」

 

 するとゼノはトントンッと人差し指で頭を叩いて見せる。

 つまりは地球における現代知識を提供しろということだろう。

 

(まったく……創作(フィクション)の中でしか存在しなかった非現実的なモノも、大いに要求してやるか。それもまた新たな発想の一助になるかも知れん)

 

 "黄竜兵装"で黒竜相手にサーマルガンをぶちかまして以来、色々と思うところがある。

 専用(ワンオフ)の魔導科学兵器は、浪漫(ロマン)のかたまりであるからして──

 

 

「フラウちゃんには各種重力環境の提供をお願いするっす」

「いいよぉ~、ティーちゃん。バッチシまかせて~」

「"浮遊石"の精錬過程で色々と試したかったんで、ほんと助かるっす」

 

 無重力だからこそ可能な比重を無視した合金、あるいは超重圧環境による特殊成形。

 学園時代から少なからずやっていたが、今のフラウならばさらに強力で洗練されている。

 

「キャシー義姉()ぇには電磁気のイロイロおねがいしていっかな?」

「あぁいいぜ、どうせ迷宮が一新(リニューアル)されるまでは暇だしな。ただ磁気? ってのはあんまわっかんねぇぞ」

「ウチも手伝うから大丈夫! これでやっと"エレクタルサイト"の調整が進められる~」

 

 科学だけでは実現できない、あるいは難しい環境も魔術であれば小さな労力でも構築できる。

 これこそが異世界におけるテクノロジー発展の、魔導科学という大いなる利点(メリット)

 

 

「フッハハハハ!! 若き才能は実に愉快だな。これは我も腕が鳴るというものだ」

「サルヴァ殿(どの)はどうしますか?」

 

 化学分野における急先鋒。薬学や錬金術にも通じたその知識と積算は、現在の財団のテクノロジーすら一部凌駕(りょうが)しうる(ふし)もある。

 

「さしあたっては"スライム"を実用段階までもっていこうか」

「ロスタンはどんな調子ですかね?」

「なかなか気骨ある若者だった。こちらが限界を見極めているというのに、無理にでも摂取しようとするのはいささか考えモノな問題児だがな」

 

 あからさま人体実験めいたことになっているようだが──本人の意向ならば何も言うまい。

 

「ハルミアさんもそっち方面への助力でいいですかね?」

「そのつもりですよ。他にも何人か、各部門で必要な研究員も呼ぶつもりです」

「となると……受け入れ態勢も整えて、新たな研究環境も構築する必要があって──クロアーネ?」

 

 

「えぇ、どうせ頼んでくるだろうと思っていました」

 

 クロアーネは()ました表情のまま、淡々とそう口にする。

 

「お見通しか」

「特に機密に関わる仕事ですから。現状、私しかできる者がいないでしょうし」

「ありがとう、助かるよ。料理に関してもみんな楽しみだろうから」

「責任をもって(うけたまわ)りました」

 

 他にも俺の手が空いていない時には、ヤナギとアッシュも任せることになるだろう。

 もはやそこらへんは言わずともやってくれるという信頼があった。

 

 

 基本方針を固めて意思統一も成ったところで、ゼノがやや恐縮した様子でサルヴァへと尋ねる。

 

「あのーところでサルヴァさん、このあと少しばかり時間もらえます……?」

「いくらでもいいぞ、我こそキミたちから大いに学ばせてもらっている。今後は我からも、ちょくちょく顔を出させてもらうつもりだ」

「いや~それはありがたいっすねー、自分らも新たな刺激が欲しかったとこっす」

「ウチも教わる! 教える!」

 

 新参な身であり、年も相当離れている。それでもサルヴァは既にかなり馴染んでいる様子だった。

 やはり知識人は知識人同士、シンパシーのようなものでもあるのか。あるいはサルヴァの人柄も含めてか。

 

 

(テクノロジー万歳(バンザイ)

 

 未来を担う偉人達を眺めながら、俺は今後の発展を願い祈るように、心中で三唱するのであった。




第四部はこれにて了。
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