異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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第五部 皇国に蒔く文化の種 1章「黄昏」
#266 求め


『──貴様を皇都内における"異教流布"および"騒乱"、また"不法侵入"。さらに"私闘"と"魔術乱用"の罪により、禁錮(きんこ)1000年の刑に処す』

 

 

 ベイリル(おれ)は魔鋼製の手枷と魔術具の首輪を()められた状態で、その判決内容に閉じた瞳をわずかに開いた。

 薄暗さの残る裁きの場にて、ほとんど一方的なそれを抗弁することなく……甘んじて受け入れる。

 

『ハーフエルフであれば二度と出ることは適うまい。神王教と皇国法を軽んじた罪を(あがな)うがいい』

 

 もはや(くつがえら)らないその結果。ヒト種の人生10回分以上に及ぶ刑期を突きつけられた俺は──

 

『速やかに"大監獄"へと移送せよ──警吏(けいり)、連れてゆけ』

 

 ──はたして俺は……達観とも諦観とも取れぬ表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 白竜イシュトと黒竜の最期を見届け、サルヴァと出会い、キャシーを()としてから──

 乾季は過ぎ去り、冬季、湿季、中庸季と巡って、今は夏季の初旬。

 俺は"ヤナギと23人の子"らを教育しながら、テクノロジートリオとサルヴァ・イオの研究・開発に協力し続けた。

 

 途中からサイジック領・北西沿岸のルクソン市に仮工房を構え、以降はそちらで魔導科学の発展に(いそ)しむ。

 おかげで色々と学べたことも多く、テクノロジーの発展に寄与できたことも素直に嬉しかった。

 

 技術系統樹(テクノロジーツリー)も色々と形に成ってきたし、他にも後に世界を牛耳る為の布石となるものは色々とある。

 

 

 年もいつの間にか18歳を(かぞ)え……今はサイジック領・南のタキオン市にある財団支部にて、俺は"三巨頭"と会っていた。

 しかして部屋の中では、最高幹部会議といった様相を(てい)していたわけではなく──

 

 ジャラジャラと軽石作りの136個もの物体が、卓の上で混ぜられ並べられていく中で俺は口を開く。

 

「振り込まないとかズルいよなぁ、シールフは」

「この距離だと流れ込んでくるんだから仕方ないも~ん」

「嘘つけ、完璧にコントロールできるくせに」

 

 指でつまめるほどの大きさに四角く統一されたその軽石には……。

 それぞれに模様が刻み込まれており、同一のものが4つずつ存在している。

 

 

「そう言うベイリルさんは、なにやら無作為の作為的な動きをしていたようですが?」

「いえいえ、カプランさん。"燕返し"くらいはしたかったですが、天眼(むいしき)で積み込みなんて……滅相もない」

「んなっ……無意識!? それはわたし対策かぁ! 猪口才(ちょこざいな)!!」

 

 それらは1から9まで(えが)かれた三種の牌と、字牌を含めて特定の役を作るゲーム──"麻雀"。

 ゲイル・オーラムから順番に、それぞれ牌山より手元へと(くば)り並べていく。

 

「ただ手が巧妙かつ速かったので、僕では捕まえられないのが残念です」

「それは……カプランさんも手元が忙しかったからでは?」

「はてさて、どうでしょうか」

 

 お互いにニヤリと笑みを浮かべ合い、シールフが苦虫を噛み潰したように口を開く。

 

「むむむっ……二人して私に読ませないよう対策しよってからにぃっ!」

「そりゃ対抗しないとシールフの独壇場になるだろうが。それでも有利なくらいで──」

 

 

 会話に興じているとそこでシールフがバッと、ゲイル・オーラムの(ほう)へ顔を勢いよく向ける。

 

「っとォ、おやおやコイツぁ──三人とも悪いネ……和了(あが)ってら」

 

 俺達が3人とも準備が完了していた最中……マイペースに牌を並び替えていたゲイル・オーラムが、(はし)からパタパタと倒し終えて一言そう告げた。

 

「"天和(てんほう)"──っ!!」

「しかも"国士無双"!? 親のダブル役満一撃で全員吹っ飛びっすか……つーかどんな確率」

「いやはやこれは……さすがに(かな)いませんね」

 

 読心(ひとよみ)のシールフ、早業(イカサマ)ベイリル(おれ)、手技師カプランをごぼう抜きにしたゲイル・オーラム。

 シールフが何も言わない上に俺もカプランさんも気付かなかった以上、何のトリックもないただただ純粋な超がいくつかわからないほどの豪運なのだろう。

 しかしそれも、彼であれば……さもありなんといった得心もどこかにあった。

 

「しゃーなし。まずはオーラム殿(どの)の勝ちということで、改めて仕切り直し──といきたいところですが……ひとまず客人ですね」

 

 

 コンコンッとノックされた扉から招き入れると、群青色の髪を二つ結びにした燕少女がいた。

 

「わぁーおぉー! みなさんお揃いでー」

「テューレ、なんか火急の用事かな?」

 

 情報部長として統括するだけでなく第一線で動き回る彼女は、もはや財団にとっての生命線の一つとなりつつあった。

 突き詰めれば世界とは情報によって成り立っていて、それらを制することは……すなわち世界を制するということ。

 

 例うるに、ラプラスの悪魔よろしく素粒子にまで至るありとあらゆる動きをあまねく知ることができたなら──宇宙の創生から終焉まで見通すことができる。

 そこまでスケールの大きい話でなくとも、物事を知ることはテクノロジーにおいても基本である。

 

「えぇ、はい……実はですねー、皇国からなんですけどぉ~。ベイリルさんの名指し宛てで封蝋(ふうろう)している手紙が届きまして」

「どこから?」

「それがですねー、わからなかったんです」

 

 そう言いながら差し出してきた手紙を、俺は受け取って観察した。

 印は俺の記憶の中にも合致せず。"三巨頭"に見せてみるも……首を振るか、(かし)げるか、肩を(すく)められるかだった。

 

 

「一応調べてみたところ、それっぽいのはあったんです。皇国にある"アーティナ"家って言うんですけどー、ただし軽く調べた限り断絶していまして」

「ふむ、俺()てなら見てみたほうが早いか」

 

 パキッと封を破った俺は、中身へと目を通す。

 

「あー……うん、なるほどね」

 

 俺は雀卓の上に手紙を広げ、金・銀・銅の指示を仰ぐように相談する。

 

「学園生時代の友人が助けを求めています。厳密に彼女(・・)は財団員でもないし、フリーマギエンスも信奉していたわけではないんですが──」

「フーン、そんじゃ無視してもいいんじゃないかね?」

「あーあの子ね」

「……僕からは特に言うことはなさそうな事案ですね」

 

 オーラムは興味なさげに、シールフは手紙ではなく俺が思い浮かべた記憶を読んで、カプランだけが手紙に視線を移し、それぞれ一言。

 俺は手紙をテューレへと手渡し、彼女も書かれた内容を読み始める。

 

「えーっと、綺麗な字ですねーはてなに。ふむふむふぅ~む──」

「まぁ個人的には放っておくのも寝覚めが悪い。もしかしたらこれも、皇国への足掛かりにできるかも知れませんし」

 

 

 前半部は学園生時代の知己(ちき)を頼る(むね)を含めた形式ばった文章。

 後半には……現在の取り巻く状況と、助けてほしい切実な訴えが書き(つづ)られていたのだった。

 

「それに()(ほう)(れっき)としたフリーマギエンス員で、一足早く卒業しましたがその際に財団にも正式に所属していますので助けないわけにも……」

 

「財団員とて一個人の進退にいちいち関わる必要はないと思うけどネ。まっ何かヤリたいってんなら、ワタシは別に止めないよォ~」

「結果としてオーラム殿(どの)の手を(わずら)わせることになっても、ですか?」

「そン時は内容によるかナ」

 

 にへらっと笑うゲイル・オーラムに俺は苦笑をもって返すと、シールフが半眼で覗き込んでくる。

 

 

「ま~たベイリルは自分から厄介事に突っ込んでくつもりぃ?」

「無論、詳しい話を聞いてからだがな。ただ旧友をあっさり見捨てられるほど、俺はまだ非情にもなりきれん」

「たまにはわたしもついてっちゃおうかな?」

「……嘘、だな」

「バレた? 面倒事はゴメンだよー」

 

 口笛を吹き出すシールフに、俺はフッと息を吹いて(はら)うような仕草を取って見せる。

 するとカプランがわずかに重心を前に身を乗り出して、丁寧に忠告をしてくれる。

 

「皇国ですと実際問題として、かなりの面倒事に巻き込まれる可能性も否めませんから……ベイリルさん、ご慎重に」

「確かに、肝に命じておきます。まぁ財団としても焦る段階にないし、無理をするつもりは毛頭ありません」

「承知しているのであれば……何か相談事があればいつでもどうぞ」

「ありがとうございます、カプランさん。その時は遠慮なく頼らせていただきます」

 

 俺は軽く(うなず)くように会釈(えしゃく)をしつつ、手紙を丸めて手の中で燃やして灰にする。

 

 

「それでそのー……"パラス"さんって一体どんな(かた)なんです?」

「ヘリオの(ほう)がよく知っているが……テューレはどちらにも会ったことないもんな」

「わたしが知ってるのは、情報部でわかることくらいですかねー」

 

 学園は戦技部冒険科にてヘリオ、グナーシャ、スズ、ルビディア、そして従者のカドマイア共々パーティを組んでいた。

 パラスとカドマイアの二人は一季早く卒業していったが、それでも4年弱も組んできた仲間である。

 

 パラスは最後までフリーマギエンスに入ることはなかったが、実質的にはほとんど部員みたいなものであった。

 特にカドマイアはロックバンドもやっていて、俺もプロデューサー気取ってマネージメントをしていたので浅からぬ交流がある。

 

 ヘリオ達のような絆まではなくとも、助けを求められれば手を貸すだけの友人には違いない。 

 

 

「パラスは既にインメル市に向かってきているようだから、暇なら一緒に行くか?」

「オトモさせていただきまーす」

 

 俺と同等以上の機動力とフットワークの軽さを持つテューレを伴い、俺は久々の有事(イベント)の予感に胸の高鳴りを覚えるのだった──

 

 

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