異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「ひさしぶりでござるね。パラス
学園は戦技部冒険科にて、同パーティを4年弱組んでいたパラスは、思わぬ来訪に驚きと嬉しさを入り混じった表情を見せる。
「スズさん!? いつの間にいらしてたんですの!」
「どもどもー」
「こんにちは、スズさん」
「おひさしゅうジェーン
「自分たちは情報部でよく会いますからねー」
スズ──極東北土の和風な忍者ルックをその身に
学園卒業後しばらくは生家のほうで過ごし、情報部の本格稼動後は優秀な諜報員として働いてもらっていた。
「しかし完全に気配は絶っていたはずなのに、よくわかったでござるねベイリル
「確かにスズのは凄い技術だよ。心音を最小限に、呼吸音も止め、俺とジェーンが来る前から潜伏していたからか
「今まで誰にも
「それと"調香"による自然な意識
特に"天眼"に覚醒して以降は、平時の強化感覚すらより鋭敏になったような気がする。
「残念無念──」
「というかなんで身内相手に隠れてたんだよ?」
「遠目にパラス
「それは……その、なんだ。水差して悪かったな」
「構わぬでござるよ。パラス
かつての仲間にパラスも幾分か緊張の
「相変わらずイイ性格してますわね、スズさんは」
「パラス
「それは良い意味ですの? 悪い意味ですの?」
「良い意味でござるよ。誠実なのは昔と変わらず、今はさらに融通が利くようになったと会話の
「でしたら……いいんですけれど」
大概はからかい役に回るスズに素直に褒められ、拍子抜けしたような表情をパラスは見せる。
「……ジェーンは誠実だけど頑固なままだからな、パラスだけの美徳だよ」
「失敬だよ、ベイリル。ただまぁ……私も否定はできないんだけど」
「自分もこういう仕事をやってると、なかなか難しいところですねー」
俺は転生前の人生を少しだけ思い出す。我ながら本当に色々と経験して、人格も変貌したものだと。
「──さて、なんにせよスズがすぐに動ける状態なのは
「スズさん……そんなに有能なんですの?」
「もちろん超がつく優秀さでござるよ」
「優秀なのは確かだが、それ以上に特務慣れしているし、タイミングが良かった」
首を
「──"文化的侵略"をする時に、注意をしなくっちゃあいけないことがある」
「……??? いったい何の話ですの?」
「まぁとりあえず聞け。注意すべきは"相手の文化を否定してはいけない"、ということだ」
当然だが強引に塗り潰すやり方もある……が、それはまだやるべき時ではなかった。
風土が自由な"共和国"や"連邦"ならまだしも、"王国"・"帝国"・"皇国"といった大国で
それらは危険因子と見なされ排除される可能性すらある──
「はい、それで……?」
「ヘリオたちの"ロックバンド"──革新的な歌唱は人民の新たな娯楽となり、文化と心に刻まれる」
「つまり拙者はヘリオ
「えーっと、申し訳ありません。いまいち話がどう繋がってるのか、まだわかっておりません」
「極端な例を挙げると……皇都でケイルヴを
「当たり前ですわ」
「でもそれが仮に田舎だったら? 騒乱行為に問われようと、思いっきり熱唱し終えてから十分に逃走できるわけだ」
派手な逃走劇を含めてロックバンドは風聞となって、人々の
世界中でそうした点と点を繋げることで、より効率的により広く
「拙者の仕事はいわゆる"隙間"──ライブに適した時と場所を見つけることにあるのでござる」
「ははぁ……なるほど、ですわ」
「ヘリオ
ロックバンドは大陸を逆時計周りに巡業してきている。
ただし勝手気ままにゲリラライブも
それでも安心して任せていられるのは、スズと財団員による
「つまり次は皇国にもライブをしに来るわけで、その為の事前調査も進めている……よな?」
「
連邦や共和国では都市国家ごとに法や文化が
王国は貴族領ごとに権限も武力もまちまちではあるが、人族優位なので傾向としてはまとまっている。
帝国は種々族雑多で中央集権的ではあるものの、気風そのものは自由なことが多く、特定文化だけに注意しておけばよい。
しかし皇国は強い宗教的文化が国政に関わっていて、王国や帝国と同じく基本は貴族領で統治されていても、深く国教で結びついている。
特に各地に存在する"教区"と、それを管理する司教などの権限も強いので、他国よりも数段上の配慮が必要なのであった。
「スズさんは……はからずもヘリオさんたちの為に動いていたから皇国内に詳しい、というわけですのね」
「左様でござい。むしろもうちょっと時間があれば、今少し"根"を張り巡らせられたんでござるがね」
「そういう意味じゃ……タイミングは良くはなかったのか」
「まっまっ、何事も上手く進むとは限らんでござる。あとはカドマイア
まだ事件に干渉することすら正式決定してはいないものの、少なくともスズの中では確定事項のようだった。
「……そうだな。迅速に
俺は少しだけ頭の中で考えてから、口に出していく。
「まずテューレは情報統括と、特に"大要塞"と付随する"大監獄"のことも突っ込んで調べてくれ」
「はいー」
「スズは現場員として、より精細な情報収集」
「ういー」
「パラスは──皇国内にいたらまずいか?」
「手配されていてもおかしくありませんわ」
「身を切る覚悟はあるわけだよな」
「もちろんです」
「ならとりあえずはテューレと一緒に、情報を取りまとめていてくれ。手が必要になったら召集する」
「わかりましたわ、いつでも呼んでくださいまし」
一方的に頼った立場をわきまえ、パラスは感情を飲み込んで大人しく従う。
背もたれに体重を預けながら俺はさらに色々な方策を考えつつ、姉へと視線を移す。
「俺はジェーンと皇都へ飛ぶことにする」
「えっ──私が!? というかベイリル皇国に行くの?」
「あぁ、行く。なに、ほんの数週間だから頼むよ。ちょいとジェーンの
「それは別に構わないけど……私も多少過ごしていたくらいで、そんなに詳しくないよ?」
「"とある
「私で役に立てるかな」
「どのみち物事を考える時は、一人よりも二人がいいもんだ。話す相手がいることで、自分の中でも整理ができるからな」
「うん……そうだね、たしかに。結唱会の子たちに教えると、より深く理解できることがある──」
ただ
そこから自ら応用したり、誰かに
「情報は財団支部を
「ベイリル
「そういうわけでもないが……まぁ
俺はそう思わせぶりに口にしながら──ポキポキと指を鳴らして、心を揺り動かすのであった。