異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「最有力候補──それが捕まったカドマイア・アーティナだったわけですか」
俺の言及にフラーナは目を伏せながら、同情と
少なくとも彼女はカドマイアが犯人ではない、と思っていることは明白であった。
「彼には悪いことをしました。わたしも証拠不十分だし、動機もないと抗弁はしたのですが……」
カドマイアが捕まった理由は、カラフから受け取った書類に詳細が書き記されてあった。
要約するに、まず事件当時のアリバイがなく一人でいたということ。
また神族に怨恨があって犯行に及んだという、根も葉もない動機が取って付けられていたということ。
そして殺害と死体遺棄に際して、地属魔術士であるカドマイアが最も適していたことが挙げられる。
(
カドマイアがメインとして使うのは泥を操作する魔術で、相手の足場を崩して引きずり込むという地味にえげつない戦法。
それが死体を消したという理由として、犯人扱いするにはおあつらえ向きだったのは運も悪かった。
(まったく"大地の愛娘"じゃあるまいし……掘り返せないほど地底深く引き込めるわけないだろうが)
実際に周辺を"
"天眼"で調査した見立て通り、死体を持ち去った人物がいるということだ。
さらに屋敷内に抜け道といった
そうなると殺害者
(まさか
可能性は
(俺とて衛兵がいくら配置されていようが、陽動して一瞬だけ気を逸らせれば……ステルスを使うまでもなく楽勝だろうし)
いずれにしても、護衛を含めた三人の神族をそれぞれ一瞬で殺したことを考えて、"伝家の宝刀"
「フラーナ
「グルシアさん! 何かわかったのですか!?」
「犯人は二人、殺害した人物と死体を処理した人物がいます」
「殺害……死体……」
犯人が別にいるということは
「残念ですがさて護衛の神族の
「そう……ですか、ではすぐに下手人の捜索を──」
「いえ、正直それは難しいでしょう。相手はその道の熟達者なのは間違いなく、時間も
それこそとっくに皇国の外に逃げているだろうし、
「それになによりも、証拠が俺だけがわかる超感覚によるものなので」
「もしかして……それが魔力の色を見極めたものですか?」
「まぁそうです。"天眼"と言って、ハーフエルフの魔力操作による超強化感覚と言ったところでしょうか」
「……あれっ? それって重要な秘密だったりしました?」
「一応は身近な人間しから知らない秘密です。まぁ知られたところでどうということもないですが」
「それじゃぁわたしもあなたの身近な人間ですね。わたしにもなんでも聞いてもらってもいいですよ?」
にこっと笑う"黄昏の姫巫女"フラーナに、俺もつられて笑みがこぼれる。
「では
「ですよ。それが"黄昏の姫巫女"の
眉をひそめる俺に対し、フラーナは穏やかな表情のまま説明をし始める。
「この眼は"初代神王ケイルヴの瞳"なのです」
「ほほぉ……」
「そんなに驚かないんですね、冗談に聞こえました?」
「いえいえ
カプランやエルメル・アルトマーといったプロフェッショナル相手でなければ、表情筋・体温・声色・心音・その他の微細な身体反応から察せられる。
「ただ俺はケイルヴ教徒ではないですし、これでもそれなりに波瀾万丈な人生を歩んでいるんで」
"五英傑"や"七色竜"と会って来たのは
歴史の生き証人たるアイトエルやイシュトの口から語られた創世神話からすれば──
驚きはすれどオーバーリアクションまではしない。単純に疲れているという一面もあるにはあるが……。
(そもそも本物だという確証がないからな)
初代神王の遺体ともなれば、確かに現存していても特に不思議はないだろう。
しかして実際にそのような貴重な存在を、人間に移植したかというと疑問符が残る。
黄昏の姫巫女にそう信じさせているだけで、実際には似て非なる
それでも魔力の色をその瞳に
「気になるお話です、グルシアさんの人生」
「そこらへんは
「はいそうです。そして"黄昏の姫巫女"の最大のお役目が……黄昏色の魔力の持ち主を探すことにありますから」
俺は「ふむ……」と右手を顎に添えて考える仕草を取る。
「フラーナ
「わたしの色は近くとも違うのです。これは瞳を受け入れる条件であるのと、自らの色と比較する為の色なんです」
そもそも魔力の色で何が変わるという話でもある。色によって使える魔術に得手不得手でも現れるのだろうか。
特定の魔力色を求める、その意味や必要性がよくわからない。神領にそうした知識があるのなら、是非知りたいところだった。
「候補者も実のところ、色が最も近い者を当代の姫巫女が選出します。輩出する家柄が決まっているのも、長年掛けて厳選されたのです──」
(魔力色は遺伝する……まっ、さもありなんな話だな)
円卓の魔術士第10席の"双術士"──彼女らは魔力を互いに受け渡すことができた。
それは双子だから
「この街には"巡礼"で皇国中から様々な人間が
「見つかったらどうなるのです?」
「神領にお
未だにお役目が続いているということは、該当者がいないのか。それとも複数人必要なのだろうか。
「神領に行った者は?」
「わたしの代では8人ほど……」
「少ないですね、およそ二年に一人くらいですか──」
「わたしは歴代の中でもかなり色を見る
「なるほど、より黄昏色に近い人間を選んでいるというわけですか。ちなみに
「"神門官"さまのお話では、神領にて
(話に聞いているだけ、か──要するに帰ってきてない。
俺は元神族であり、当然神領で過ごした時期のあるサルヴァ・イオから、ある程度の内部事情は聞き及んでいた。
なにぶんサルヴァ本人が
俺は淡々と現実を突きつけるように、真に迫った問いを黄昏の姫巫女フラーナへ投げ掛ける。
「本当に、幸せに暮らせているとお思いですか?」
それは彼女自身と、その生き様を
次にフラーナから最初に返ってきたのは、言葉ではなく柔和で