異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
亜人集落【アイヘル】──世界で最大
村と言うにはいささか広く、町と呼ぶには少しばかり狭い土地が、異世界転生した今の
「ぃよ──っと」
居住地の近くにはそのまま飲み水にできるくらい清涼な川があり、周囲は深い森に囲まれていて、まさに「亜人が住んでいるだろうな」といったような
人口は2000人を数える程度で、
まだ5歳を数えるかどうかという幼児が集落の外にでることは当然禁止されていて、小さな
「あははっ、ベイリルすごいすごい~」
俺は小さな
子供の手には少し余る大きさの"赤い果実"と、"川で見つけた手頃な石"と、"紐で結んだ一冊の本"を三つ。
片足だけでバランスを取りながらくるくると空中で回し、時に頭や肩に乗せたり、足でふんわりとキャッチして蹴り上げたり。
(人間、暇を持て余すと……
いずれ世界を巡ることを考えて、幼少期から肉体鍛錬や魔術修練に励むのを欠かしているわけではない。
しかし例えば子供の内から筋肉を付けすぎると、成長を阻害するという話も聞く。
まだまだ体ができあがっていない内から無理をしたくないという気持ちもあるので、あくまでほどほどにやっていく。
その上で有り余る暇を、遊びや学習や思考に
(一芸でも身に付けておけば、何かあった時に食いっぱぐれることもないかも知れんし)
適度に肉体を
種族、言語、大陸、植生、生態系、分布。
そして物理現象、宇宙の法則と……"魔術"という、元世界《ちきゅう》との決定的な差異。
大道芸をしばらく飽きもせずに眺めているフラウに向かって、俺は不意を突くように果実を投げて渡す。
「わっ!? なになに」
子供ながらに
一方で俺はポスッと残った本と石を、順番に頭の上に安置する。
「
「ほんと? ありがとー」
すると笑顔で返したフラウは、果実を握力のみで事も無げに真っ二つに割り、片方を俺に手渡してくる。
「はんぶんこ~」
「あぁ」
受け取りながら
状態を維持したまま、フッと真上に
そのまま落ちてくるのを見つめながら、また指先で音もなく受け止め回転を維持する。
単純な物理法則の確認。
今のところ大気組成なども、元の地球との差異は感じないものの……そもそも転生体の肉体規格が違うので詳細は不明。
重要なのは自分自身の感覚として
「……? なにしてんのー?」
シャクッと遠慮なく片犬歯を突き立ててかぶりつくフラウは、俺を見て疑問符を浮かべていた。
「まぁ……実験、かな」
「またぁ? なんのー?」
「"遠心力"、"ジャイロ効果"、"空気抵抗"、"加速度"、"重力"──"引力"と"斥力"とか」
首を
人に教えることで自分の中のおぼろげな知識も、より確かなものになっていくのは既に何度も経験済みである。
「──つまり
そう言って俺は右手に持った果実を口に含みつつ、空いた左の手の平をすっとフラウへと向けると、釣られるように右手の平を合わせてくる。
「この
「ふ~ん……?」
説明してわかるはずもないし、俺自身も明確な原理を理解しているわけじゃあない。
ただそういうものだと習って、それが常識として
本やテレビで宇宙があるものと思っているが、実際に空を見上げる程度でしか見たことはない。
たとえば目を閉じた時、
重力の違いを人の身では感じられぬ以上、存在と非存在の境界線とはなにか。
(世界とは曖昧さだ──量子力学的になんたらかんたら、仏教思想の"
常識とは、狭く……人は見たいもの見るように。今ある中で認識して生きていくしかない。
だから可能な限り見識を広げよう。思考停止せずに
("
歴史上の哲学者や科学者がそうしたように。少なくとも俺は、"今"を大切にしていきたい。
「ひきよせあうかー……きっとみんな、はなれたくないんだねぇ」
するとフラウは俺の指とぎゅっと絡めて握りつつ、純真無垢に笑った。ロマンチックな少女らいし感性。
そんな微笑ましい言葉と行為に、俺もつられて口角が上がってしまう。
「そうかもな」
「あーし達も一緒だねぇ~」
他意なく
割に孤独だった前世を想起しつつ、誰かに求められるという嬉しさに改めて
「フラウ、これも受け取ってくれ」
俺は果実を食べきった右手で、頭に置いた本の上にある"石"を幼馴染へと手渡した。
小さな手に丁度収まるくらいの、翠色の入り混じった一欠片。
「わっ! よく見るときれいだねぇ」
「多分だけど緑色だから、"エメラルド"って宝石の原石だ」
「えめらるど、げんせきー?」
「磨いたりするとキラキラ輝くようになる石だ、いつか」
その原石は以前に川の近くで見つけたものだった。
帝国各地に枝分かれした川の上流、どこか遠くの鉱山から流れてきたのかも知れない。
「ありがと! じゃあベイリルだと思って大事にする!」
「ん、あぁそうしてくれ」
何が「じゃあ」と繋がったのかはわからないが、フラウは嬉しそうにしているのでそれだけで充分だった。
フラウは握った手を離さないまま原石を眺め、俺はしばらく掛かりそうかなと自らの頭に置いた本でも読もうかと思った瞬間──
ハーフエルフの"
「うん──?」
今なにか……誰かの声が聞こえた気がした。
意識的に耳を澄ましてみると、何やら怒鳴り声のようなものが確かに聴こえてくる。
「フラウ、ちょっとあっちに」
「いいよ~」
俺は幼馴染の手を引いて、聞こえた
何かしらのトラブルであろうが、正直なところ退屈な日々を思えば好奇心が
2022/6/26時点で、新たに書き直したもので更新しています。
それに伴い話数表記を少し変えています。