異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
(時を
魔法は全能の法なのだろうが、それにしたって限界というものがあるのは"竜越貴人"アイトエルや"七色竜"から聞いていて明らかだった。
確かに天災を操ったり、空間から空間を跳躍したり、あるいは世界を崩壊させたり──命を与えることさえもできるという。
(しかしタイムトラベルは無理だろうな。未来には行けるだろうが、過去となると……因果の逆転だ)
生命を与える──イシュトさんは死卵となっていたアッシュを蘇らせようとしていたらしいが、実際のところはどうなのだろうか。
人体はどこまで言っても化学反応の集合体であり、記憶と人格は脳内に張り巡らされたネットワークにおける電気信号によってやり取りされているに過ぎない。
真に"神の領域"と言って差し支えないことではあるものの──仮にまったく同じ配列を創り出せたなら……それは死ぬ前の人間とまったく同じであるということになる。
しかして同一空間座標における時間遡行ともなると、夢想の領域へと踏み込んでしまう。
「魔力を集める。人族から、魔族から、魔物からも……集めるには、やはり世界を支配する必要がある。そう、そうなると……一番近いのは
「ところで、もう一つよろしいですか?」
「まずは
「オルロク
「だまれ!! さっきっから何なんだ! 軽々しくクチを聞くな!!」
片腕で虚空を振り払いながら、オルロクは半狂乱となって叫ぶ。
(本格的にヤバそうだな、仕方ない──)
俺はベルトバッグの小瓶から新たなスライムカプセルを取り出そうとしたところで、興奮状態から一転してオルロクは疑問符を浮かべる。
「そもそもキサマは……一体、誰だ?」
「グルシアですって」
「グルシアぁ? 派閥は、派閥はどこだ!」
「思想は
「ああ? あぁ、ハーフエルフ……なぜ神族でもない半人がこんなところにいるのだ──」
「つべこべ、言わずにこれをどうぞ」
右往左往する話題はさて置いて、俺は手の中に持った"白スライムカプセル"をオルロクの目の前へ持っていく。
無理やりにでも口内に含ませてもよかったのだが、とりあえず穏便に差し出してみせる。
「どうぞ、幾分か落ち着いて楽になりますよ」
「断る!」
「それは残念だなぁ、とっても美味しいのに」
もはや俺は子供をあやすようにスライムカプセルを指でピンッと弾いて空中に
そんな様子を見つめるオルロクに、白スライムカプセルをもう一粒だけ取り出してやった。
「ほら、もう一個あるのでどうぞ」
「ふっ……かははッ!!
俺が
「独り占めなど! 許されざる
──と見せかけてベルトバッグへと伸ばされたオルロクの腕を、俺はガシッとあっさり
「甘い、それはもうスイーツのよう──おっ……!?」
掴んでいた腕を強引な
ハーフエルフの身なれど積み上げた身体能力と魔力強化には自信があっただけに、いささかショックを隠しきれない。
とはいえ
「あーったく、やってくれたなぁ……って──」
「もらったぞ!!」
叫んだオルロクは"黒スライムカプセル"を指先でつまみ取っていて、俺が止める
「"黒"はそのまま飲み込んでも無意味ですよ」
「アッハハ、ハハハッハハハハハハアアア!!」
「聞いちゃいねぇし……」
俺は心底からの疲労感を溜息と一緒に吐き出しつつ、バッグの中に散乱したスライムカプセルを布で包んでいく。
さしあたって"紫"以外の色であれば、多少の副作用はあっても直接の害になることはない。とりあえずこれで満足してくれたのなら、もうそれで良かった。
「ふぅーーーう、まっこれはこれで貴重な治験データにはなったか。"赤"は長寿病に対しては……──」
「ギヒッ……ケヒヒ、カハッッハッハハヘヘヘヘエアアアアハハハッッ!!」
ぐじゅぐじゅと細胞が変質するように、オルロクの肉体が無軌道に形が崩れていく。
それは"変身の魔導"ではない。魔導のそれとはまったく違った魔力圧。
そしてそれはわずかにだか、
「まさか、魔力の──"暴走"!?」
それは黒竜のそれに似ているようで違うもの。
しかしてそれ以外に考えられない、直観めいたものが俺に告げていた。
反射的に天候遮断の結界内からも飛び
(黒は通常の直接摂取では何の効力もないし、俺もロスタンもサルヴァ
副作用があったとしてもこのような事例はありえないし、それほど危険なものならば実用化以前にストップが掛かる。
黒スライムカプセルが問題だったのだろうか。赤スライムカプセルにも過剰な反応を示していたし、何が原因となってるかわかりかねる。
(いや待てよ……サルヴァ
あくまで仮説の一つとして、種族的にあらゆる人型の祖先となる
しかしながら科学者でもない俺がいくら考えたところで……ましてや比較実験とデータ集積もなしに答えが出ようはずがない。
その
『ルルルォオアアアアアア──ッッ!!』
変異オルロクは暴風圏の音すらも貫通してくるほどの咆哮をあげる。
「
放置して離脱するのは難しくないが、このまま"黄昏の都市"にでも襲来でもされたら大問題である。
俺が戦うとを心に決めたその瞬間──変異オルロクの、速く、鋭く、重い、まともに喰らえば命も危うい異形の腕が、俺へと伸びてきていた。
「真気──」
思考するよりも
「発勝」
刹那に振り抜いた"太刀風"──存在しない鞘へと納刀した瞬間──オルロクの肉体が三つに分割されていた。
腕ごと心臓部を含んだ胴体を一刀斬断されたオルロクの死体は、そのまま地面へと倒れ伏す。
同時に生体反応が魔術契約か何かの条件だったのだろうか、オルロクの周囲を取り巻いていた結界が消え失せて、
「手加減できなかったな、残念だが……」
俺は
(とはいえ"黄昏の姫巫女"のことを考えれば、どうやらロクな派閥じゃないっぽいし……別に気に
どのみちフラーナへの追求を回避する為に、最悪の場合に殺害するのは予定通りであり、少しばかりイレギュラーに見舞われたに過ぎない。
ただし、その名だけは個人的に覚えておこうと思う……オルロクという名の神族がいたということを。
また──結果として稀有な実験データを提供してくれたこと。そして
「無駄にはすまいて。未来の
俺は魔術によって"液体窒素"を作り出し、周囲の風雨もろとも急速冷凍によって状態を保全した上で、ローブで丁寧に上半身をくるんだ。
この遺体はスライムカプセル使用者の特異被検体として、また神族と、"魔力暴走"における学術研究の為に使わせてもらう。
残る下半身と腕はさすがに運搬にも困るし、放置しておくわけにもいかないので、山道から大きくはずれた場所に埋めて供養することにする。
「──埋葬、ヨシッと……。これで俺も晴れて"神族殺し"が追加か」
発見され掘り起こされぬよう、深く深く埋め立て終えたところで俺は一人ごちてから、一息に嵐の領域を飛び越える。
(神族──黄昏──ハイロード──神王──)
不明瞭な部分も多いものの、さしあたってオルロクが死んだことで時間はかなり稼げたことだろう。
今後の作戦展開において、憂慮すべき事態が一つ消したことは予定通りともいえる。
まだ体に残る
遺体を預けたらすぐ、次なる目的地は"大要塞"。
皇国最北端の"黄昏の都市"とは真逆に、最南端で魔領と接している城塞都市への期待を俺は増幅させるのだった。
第五部1章はここまで、次は2章です。
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