異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#288 企画会議

 

「さて、これより企画会議を始める──」

 

 集められた情報のすり合わせと事実の裏取りを終えたところで、改まって俺はゆっくりと開口する。

 

 部屋には俺とジェーン、情報部のテューレとスズ、そして部屋を提供しているカラフとが揃っていた。

 パラスも本来は交えたいところであるが、皇国内では手配中なので入国を控えてもらっている。

 

「──その前に、カラフ」

 

 俺はテーブルの端にいる男へと告げると、権勢投資会のカラフは腰を低く一礼する。

 

「なんでございましょう」

「お前の立場はあくまで支援者であって、本来は部外者となる。だがここに出席させた意味を理解してもらいたい」

「他言無用、でございますね。ご安心ください」

 

 本人としてはそんなつもりはないのだろうが、どこか下卑(げび)た加減の残る笑みを浮かべるカラフに対し、俺は首を横に振った。

 

 

「足りないな。これ以上"深入り"する覚悟を聞いている」

「ほほぉ……それは、つまり、ついに──」

 

「お前が今回の一件で、俺や財団のことを改めて調査した件については、こっちとしても既に調べがついている」

「シップスクラーク財団を突っ込んで調べる者は、よほどのことがない限り財団(こちら)の情報網にも引っ掛かるようになっていますからー」

 

 俺とテューレの言葉にカラフはあくまで自然体を装ったが、強化聴覚は動悸がわずかにブレるのを聞き逃すことはなかった。

 

「俺の本当の名も知ったか?」

「いえ──調べるには、いささか時間が足りず……わかってはおりません。ただ財団でもかなりの地位にいる(かた)だろうということだけ」

「俺個人の情報はかなり隠してもらっているからな。ちなみに俺の名はグルシア・ベルトランあらため"ベイリル"だ」

「承知いたしました、ベイリルさま」

 

「まっ俺たちを調べたことについては、別に(とが)めるつもりはない」

「そう、ですか……いやはや、参りました。かなり慎重にやったつもりだったのですがねえ」

 

 するとカラフは観念した様子で大きく息を吐くと、自らの緊張を解きほぐす。

 

 

(みつ)に関わる以上、相手のことを知るのは当然の権利であり……義務とも言える。むしろそこを(おこた)るようであれば、そいつは便利な(コマ)の域から脱せられない」

「個人的には使われるだけのままでも良かったのですがねえ、いささか欲が出てしまいました」

 

「お前のそういった貪欲(どんよく)さは、財団にとっても有益と判断した。だから問おうカラフ、お前は皇国や"権勢投資会"を裏切ることができるか? と──」

 

 俺は加えて「言っておくが(ウソ)は通じないぞ」と釘を刺してから、カラフの反応を待った。

 

「既に皇国法はいくつも犯しておりますし、信仰も薄い身です。"会"での立場を捨てるのは惜しいですが……財団に取り立ててもらえるということであれば、是非もありません」

 

 

 するとカラフはグッと拳を握ると、椅子から立ち上がる。

 

「むしろこちらからどう打診しようかと、毎夜考えていたくらいです!! 調べるほどに好奇心が収まらない──"未知なる未来"……素晴らしい!!」

「よし、了承と受け取った。ただいきり立つのはいいが、権勢投資会にはそのままいてもらう。そちらのほうが色々と都合が良いからな」

「あっはい、これは失礼いたしました」

 

 カラフはペコペコとお辞儀をしながら座り直し、俺は厳格な立場から一転して気を抜く。

 

「なぁに、立場が危うくなった場合も財団で保障するから安心しろ。だから存分に働いて、存分に謳歌してくれ」

「おっほほ、ありがたいお言葉です。わたくしの忠誠を、シップスクラーク財団と歌姫(ジェーン)さまにもお(ささ)げします」

 

「えっ──う、はい。よろしくおねがいします」

 

 厄介オタクかのようなカラフの唐突な言葉(ムーヴ)に、ジェーンは一瞬ドン引きするもとりあえずは(うなず)いた。

 カラフは今後とも役に立ってくれることだろう。財団とフリーマギエンスがもたらす文化そのものに魅了されているクチであるからして。

 

 

「さて部外者がこの場にいなくなったところで、本題へと移ろうか──」

 

 俺は用意していた紙束を、一部ずつ(かぜ)に乗せてそれぞれの手元まで配布した。

 

忌憚(きたん)ない意見は(つの)るつもりだが、今回は俺が主導するので基本骨子を変える気はあんまりない」

 

 俺は言いながら各人が読み進めるのを気長に待ち続け、しばらくしてそれぞれが本音を口にしていく。

 

「っ……ちょ、ベイリルこれ──ほんとのほんとに?」

「ベイリル殿(どの)ぉ、正気でござるか?」

「いや~これまた、すっごい盛りだくさんですねー」

 

 ジェーンは顔をしかめながら、俺と"ツアーのしおり"とを交互に何度も見つめる。

 素早く目を(とお)し終えたスズは、しばし目を瞑ってから半眼となって、狂人を眺めるそれを遠慮なく俺へと向けてくる。

 テューレはマイペースに最初からもう一度ぱらぱらと読み進めながら、彼女なりに脳内でまとめあげているようだった。

 

「こ……これは!? すっ、素晴らしすぎる──こんなまさに夢物語!! これほど最高の仕事に関われるなんて!!」

 

 一方でカラフは他3人と違ってテンションを爆上げに、感無量といった様子を隠そうとしなかった。

 

 

「既に財団の研究開発部門にも全面協力を(あお)いで、各種準備と輸送および段取りも進めてもらっている」

「随分と迅速な動きですねー」

「当然さテューレ、これは"文化"にとって大きな一歩となる事業だ」

 

 それにカドマイアや黄昏の姫巫女の件を考えれば、ちんたらしている余裕もない。

 

「あのねベイリル、正直に言っていい? 私こんなの困るんだけど……今までとはワケが違うよ」

 

 するとジェーンがやや恐縮した様子で、おことわりの意を示してくる。

 

「安心しろ、"リン"もとっくに呼んである」

「あぁぁああああ゛ーーー!! これベイリル本気の()だ、"絶対やってやる"のパターンのヤツだあ!!」

「せっかく兄弟姉妹(おれたち)が揃うんだから、そっちを喜ぼう」

 

 もはや抗弁しても無駄だと悟ったのか、ジェーンは頭を(かか)えるとブツブツと呟き始める。

 しかしそれは文句を言っているわけではなく、既に内容(・・)をどうするのか彼女なりに組み立てているのだった。

 

 

「でだ。スズはすぐにでも()って、もろっもろの準備をしてほしい。パラスにも必要なことがあればガンガン手伝わせちまえ」

「やれやれでござるなぁ……責任もなかなかに重大だし、なにより拙者の気風に合わんでござる」

「お前たちだって揃う(・・)んだ、懐かしいだろう?」

「ソレ、ちゃんとカドマイアを無事に助け出すのが前提でござるよ? ベイリル殿(どの)

 

 スズの半信半疑な言葉に、ジェーンも気付いたように乗っかってくる。

 

「うっ……そうだよ、ベイリルが監獄に入るなんて危なすぎない?」

「問題ない」

 

 大監獄の潜入し、予備階で探査していた際に魔力について色々と試していたことがあった。

 それは嬉しい誤算であったし、その"結果"がなければ脱獄計画はまったく違うものになっていただろう。

 

「お姉ちゃんは心配です」

「任せとけってジェーン、細工は流々仕掛けをご(ろう)じろってな」

 

 結界のために魔力を奪われる性質上、()のままでもどうにかできるのは俺を含めて適格者はそう多くはない。

 さらに脱獄のことまで視野にいれた場合に、実際的に遂行可能なのは俺だけだと自負したいところだ。

 

 

「最大の問題は、俺がちゃんと()()()()()()()()()かということだ──カラフ?」

「ええはい……そうですね、そこはわたくしがどうにかできると」

「ヨシッ、それが聞きたかった。一応は統計として収監されるだろう罪を(おか)すが、裏から手を回してもらえればより確実だ」

 

「ただあのベイリルさま、一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「わたくしの持てる(ちから)の限りを尽くしますので……このコレ、"特等席"を希望しても?」

「あ~~~はいはい、ジェーンどうだ? 別に構わないか?」

「えっ? わたしは別に問題ないけど……」

 

 ジェーンはざっくりとした絵図の(えが)かれたページを見ながら答える。

 

「だ、そうだ。とはいえ、くれぐれも気持ちが昂ぶりすぎて邪魔はするなよ。雑音(ノイズ)も流れてしまうんだからな」

「このような神事(しんじ)(けが)唾棄(だき)すべき(おこな)い──やらかした時点でわたくしは自ら身投げ(・・・)します」

「神事て……まぁいい、()(さわ)りがないならな」

 

 俺はカラフから本気でやりかねない情熱が感じられて若干だが引く。

 

 

「ちなみにサイジック領における、"新たな土地利用"と"兵器運用"の実験も兼ねている。テューレも一緒に乗っていてくれ、号外の用意もついでに」

「はいー了解しましたー。腕が鳴りますねー」

「それと俺が囚人となっている(あいだ)の指揮権もテューレに(ゆず)る」

 

「わたしですかー? 立場から考えるとジェーンさんのほうが適任かと思いますが」

「ジェーンは本番中に動けないし、身内に対して判断が(にぶ)る可能性もあるからな」

「むっ……」

 

 ──っとした表情を浮かべるジェーンだったが、それが事実だとすぐに受け入れてそのまま納得する。

 

 

「さて諸君、疑問や異論があれば受け付けよう」

 

「わたくしはもう胸がいっぱいなので言うことはありません!!」

「気持ち悪いぞカラフ。なんにせよ今後とも財団の為に(はげ)んでくれ」

 

「わたしも大任をしっかりと果たせるかが不安なくらいで、今は特にありませんねー。不都合があればまたその時にー」

「おう、頼んだテューレ。気負わなくてもいい、何かあっても()り掛かってくるのは俺だし、責任も請け負う」

 

「拙者はいい女でござるゆえ、ここは黙って殿方を立てて従うでござる」

「スズ、一応突っ込むが……口に出したら台無しだ。まぁよろしく頼んだ」

 

「私も精一杯がんばるから、ベイリルもほんっっっとうに気をつけてね?」

「もちろんだ、ジェーンも良い機会だから楽しんでくれ」

 

 俺は同意を得られたところで立ち上がる。我らが覇道に(さち)があらんことを願って──

 


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