異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
見世物じゃないとわかって周囲の人間がおおよそいなくなったところで、スミレが目を細めて問うてくる。
「あなたって幹部級どころか、もしかして親玉?」
「……さてな。さしあたって俺の話をしっかりと聞く気はないか?」
「ヤダ! そうやって丸め込む気でしょ」
「やれやれだ……あまり気はすすまないが容赦ができるような実力でもなさそうだし、遠慮なくいくぞ」
聞く耳持たないのならば仕方ないとばかりに、言い終わりと同時に俺は右手の指を鳴らしていた──
その
──"スナップスタナー"。
指向性を持たせた大音量は彼女の三半規管へと直撃し、平衡感覚を喪失させ
さらに意識の波長の山にぶち当てることで、神経すらも一時的に麻痺させる術技であったが……しかして彼女は、
『──"閃き"』
そう後から言い終えたスミレ自身は動いていない、つまり回避したわけではない。
音の
今度はあまり思い出したくない部類の記憶……"
スミレが再度構えたところで、俺もやや
(当たらないハズの斬撃を当てられるなら、当たるハズの音に当てられないことも可能ってワケね……)
ならば攻略法は非常に限られる、そして俺は迷いなくそれを選択・実行する。
『"加速"──』
スミレの肉体が消失して見える神速移動。
『"必中"──』
あらゆる障害を無視して迫る絶対命中。
反射を超越した突進からの、スミレ渾身の刺突は……はたして俺のあえて受けた"
「
『"貫通"──』
瞬間、押し
スミレは反射的に
「まっ増上慢《ぞうじょうまん》になるだけの"魔導"だし、強度も大いに認める。ただなぁ、強者相手の経験値が圧倒的に不足しているようだ」
「──"不壊"、ってぅぇぇぁあああーーーッッ!? 傘が! わたしの傘がぁあああ!!」
俺は上から目線で
「間違えた! わたしじゃなく傘に付与するべきだった!! あぁぁああもうぉぉぉお! 幼なじみに初めて作ってもらった傘、ずっと大切にしてきたのにぃ!!」
「やはり一度に付与できるのは一つだけか。そして違う効果を同時に付与することもできないよう──」
「あなた! 許さないから!!」
「……」
「もぉおおおーーー、おとなしく成敗されて!!」
「へヴィってもんだぜ……」
俺はスミレを視界におさめて警戒したまま、"屋根の上から落ちてくる気配"にその場からスライドするように回避した。
「っえ……あ!?」
踏み
(──って、うぉ……
出現した男は2メートル近い長尺の巨躯。広い肩幅から下を全身
被ったヘルムの合間から見えるは、顎ヒゲを生やす老齢のそれながらも生気が
「貴様らか、往来にて私闘を
皇都に住む者で、兜の下の彼の顔を知らない人間はいないだろう。
そして知らぬ者でも、一般的な知識があれば着けている
まったくの無知な民であっても、その
「こうも
(全ての聖騎士を
早々に取り締まってもらう為に、あえての"スナップスタナー"で大音響をかました狙いもあったが、まさかのまさかでとんだ大物が出てきものだった。
(それに囲む気配は、"従騎士"ってやつか……?)
俺は避難誘導と同時に、周辺に展開していく武装兵の位置を把握する。
「おとなしく捕まるのならば良し、抵抗すれば容赦はせんぞ」
「あの! 聖騎士長さま!! 」
ともするとスミレが聖騎士長へと訴えかける。
「
「……は?」
聖騎士長は当然として、俺としてもスミレの予想外の対応に気が抜けてしまいそうになるのを
「"私闘"・"騒乱"に加え、街中での"魔術使用"容疑。さらには抜き身の刃を手にした賊が、何を
「へっ? あぁ!! いえいえいえいえ、わたしは違うんですって!!」
「
聖騎士長は後ろ腰から手枷を取り出し、慌てたスミレは納刀しようとするもすぐに気付く。
「──ってぇ、傘が折れてるから
(なんでこの状況下で"即興コント"を見せられてんだ、俺は……)
怒涛の展開に見舞われ、
「うぅぅぅうう! ──"飛翔"!!」
「っ──逃げるかァ!!」
「ダメです!! わたしはまだ使命があって、前科者になるわけにはいかないんです!!」
どうあれ私闘に及んだことは事実であり、捕まってしまえば言い訳が立たないと判断したのか……スミレは黒翼を広げて空へと舞い上がる。
「皇都における"魔術使用"!! および"領空侵犯"ッ!!」
「っっぁぁあぁぁぁああああーーー!! ごめんなさいぃぃぃいい!!」
「ったく、はァ~……」
聖騎士長が空へと追撃を掛けようとした刹那、俺は息を吐きながら"酸素濃度低下"の魔術を使った。
昏倒はしないまでも聖騎士長はその場に膝をついてしまい、なんとか
「ぬっ、う……なん──」
そして追撃の手が届かないことに不用意にも思わず振り返ったスミレに、俺は取り出していた"オルゴール"を投げて渡す。
「えっ──?」
『
しっかりキャッチしたスミレに対し、俺は笑みを浮かべて"声"を届けた。
気付いた彼女はぐぬぬと白い歯を噛みしめると……今度こそ脇目も振らず、空の彼方へと消えたのだった。
「ッッ──もう一人は……逃がすな!!」
薄い意識の中でも聖騎士長は周囲に向かって叫び、包囲が一斉に縮められていくのがわかるが……関係ない。
「
そう言い残した俺は、"