異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
聖騎士長から逃げおおせてから、既に4日ほどが経過し──俺は
半長耳を澄ませばオルゴールの音色をいくつか
("小星典"もぼちぼち見つかり始めている──)
オルゴールの二重底から出てくるばかりではなく、密かに"小星典"単品でも、街中に捨て置いて回っていた。
明らかにオルゴールの数よりも多いのだが……実際の体験談がいくつも出てくるので、それらはあくまでオルゴール由来のモノになる。
(しばらくすれば、取り締まられていくだろうが……)
神王教の"神聖書"に書かれている教義に、表立って
しかしながら熱心な神王教徒が読めば、フリーマギエンスの教義が
そうなれば"小星典"は教会などの手によって回収されるのは目に見えていて、あるいはオルゴールごと接収されることも考えられた。
(もっともそれも織り込み済み──と)
抑圧されればされるほど……人は背徳感を覚え、解放したくなるというものである。
そして教会が回収してしまうほどのモノが、一体どういうものなのか知りたくなるのが人情。
つまるところ"話題性"──炎上商法とも毛色が違うものの、いずれにしても人から人へと波紋のように拡がっていく。
ゆえにむしろ取り締まられることは前提であり、教会側とてその全てを回収することなどは現実的に不可能。
さらに回収された分についても、ある程度はカラフを通じて取引し、そのまま奴が主催のオークションや販路に流されるよう手配してある。
(そうしてフラストレーションが溜まったところで、爆発させる)
他人の目から隠れて聞く音色は……その心の奥深くにまで刻まれることだろう。
一緒に聞く者がいたなら、人には言えない絆で結ばれることだろう。
富める者も、貧しき者も、年齢も種族の
「さてっと──やるか」
皇都大聖堂を前にして自ら確認するように口にした俺は……その入口ではなく、
そうして
『傾聴せよ!! これより
道行く人は足を止め、いくつもの顔がこちらへと向いたところで俺はさらに続けていく。
『原初の
神王教で語られる神話──竜種が大陸を支配し、その抑圧から
『魔法を得た人族は増長し、竜を相手に戦争を仕掛け、大陸の一部を破壊し、遂には"崩壊"の魔法を産み出した!』
俺が語って聞かせるのは神王教にとって都合の良い作られた歴史ではなく、実際に歴史を
『そして自然を愛していた頂竜は、争うよりも自らが
地上からは神王教徒の怒号が聞こえるものの、俺の大演説を止めることはできない。
また大聖堂に向かってモノを投げつけるような不届き者も、さすがにいないようだった。
『だがしかし神王ケイルヴを責めるつもりは無い! それは生存競争であり、停滞した
竜教徒を装ってひたすらに竜を賛美するのも、"本来の目的"からすれば間違いではないが……それでは芸がない。俺の人生の大目的は
『私はただ知ってほしいのだ! ケイルヴは自らの欲望に従った単なるヒトであったし、神族も魔力に恵まれた
たとえ疑念が大いに残る話で、
『そしてそれは魔族も同じである! 魔族も、神族も、人族も、亜人も、獣人も、魔力によって分けられているだけで、同じヒトなのだ!』
集まっている民衆に動揺が走るのが、なんとなく空気でわかる。
今もなお脅威となっている魔族を、突き詰めれば同種と見ること──その意味。
『二代神王グラーフは初代魔王と協力し、魔法具を作り出した! 三代神王ディアマはその魔法具を用いて竜を打ち倒し、さらに魔族の支配からも人々を救った!』
それはケイルヴ派のみならず、グラーフ派やディアマ派にとってもあまりに
しかし真実である以上、俺は変に脚色をすることもなく語り続ける。
『争うことを否定はしない! しかし時には手を取り合うことも忘れないでほしい。競い合うことでヒトは前へと進んできたのだから!』
ザリッ──と屋根に降り立った影へと俺は振り返る。そこにいたのは……4日前にも見た"聖騎士長"の姿であった。
「許されざる蛮行なり。竜教徒がこの大聖堂を
俺はそれも想定内として、脚本通りに
『我を殺して貴様らが
その言葉で聖騎士長の瞳が見開かれたことに、俺は的確に急所を突いたのだと……仮面の内側と内心の両方とでほくそ笑んだ。
これで安易に俺を殺してしまえばすなわち
さらには俺の主張と発言を見過ごせないという立場を明確にしてしまうことで、これまでの発言に対して無用な説得力を生む結果となってしまう。
ゆえに目立つ異教徒は処刑するのではなく、大監獄へと送るのが慣例となっているのだ。罪状はあくまで騒乱罪といったもののみ。
実際に竜教団員をはじめとして、他にも数少なくない宗教犯罪人が収監されていることが、潜入時に目を
(国家と宗教が強く結びつき、大規模な収監場所も存在する皇国ならでは……──
聖騎士長の眼光が鋭くなり、彼は後ろ腰から
「──貴様の望み通りになどするものか、
瞬間、大気が動き──俺は反射的に
なんなら
今は不必要な怪我を
◇
連行されてきたそこは裁判所というわけではない──単なる公務を
目の前にいるのは裁判官に近い立場ではあろうが、弁護士や検察や陪審員といった
『被告グルシア──』
ただ事務的に罪状を確認し、そして犯罪者へと刑を
『貴様を皇都内における"異教流布"および"騒乱"、また大聖堂への"不法侵入"。さらに先だっての"私闘"と"魔術乱用"の罪により、
捕まってから仮面を
(1000年か、まぁ国家が国家として
恒久的な平和もなければ、永劫不変の国家も存在し得ない。
もしもそれを成さしめんとするならば、遥か遠く"未知なる未来"を見る──"文明回華"の果て無き
『ハーフエルフであれば二度と出ることは適うまい。神王教と皇国法を軽んじた罪を
もはや
『速やかに大監獄へと移送せよ──
(──計画通り)
はたして俺は……
次から3章となります。
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