異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
騒然とする囚人達と
(南西・魔族一党──)
俺は
囚人らの会話に耳をそばだてながら情報を集め、視線を流して軽く見定めながら歩き続ける。
(西・竜教団──)
さしあたって最初の目的にすぐ到着し、俺は
すると俺よりも一回りほど大きい、肌に鱗が見える爬人族の男が
「
やや聞き取りにくい声でそう問うてきた男に、俺はあっさりとした口調で答える。
「そりゃぁもう……"白"、かな」
決して嘘ではない、ある意味では心から信奉していると言って過言ではなかった。
最初に出会ったのは"黄"であり、死闘を超えた末のやり取りは印象深い。
俺が扱う空属魔術を考えれば、風の使い方を参考にさせてもらった"緑"を
出会いこそ不穏だったが、終わってみれば"赤"もなかなか話せたし、合理的な考え方や気質が最も似ていると感じられた。
そして
(だけど俺にとって……)
短い時間だったけれど──やはり白竜イシュトへの想いが、どうしたって強いと言わざるを得なかった。
「そうか……では、他の色の者をどう思うか」
「はて? 意図がわかりかねます」
「我々は色で分かれど、執着することを良しとしない。
(ふむ……獄内で
竜教団は教義や思想の基本骨子は同じなれど、色ごとにそれぞれのスタンスは
当然ながら七色だけでなく頂竜や、竜という種族それ自体を信仰する教徒も存在する。
しかし獄中においてそういった内部争いをしていては、外圧によって喰い荒らされかねない。
ゆえにこそ竜そのものを信奉する点で一致させ、団結するというのは自然な流れなのだろう。
「他の色の信仰を否定はしません。なんなら"紫"と"青"以外は好むところですし、その二色もあまり知らないというだけで──」
「ならばよろしい。我々は
(へぇ、"分化"のことも知っているのか……まぁ赤竜から伝わっているという可能性もあるか)
七色竜──正確には元々12色いたそうだが、神族との戦争で
いずれも頂竜の分け身という形で誕生し、"人化の秘法"によって現代まで残っている兄弟姉妹のような、不思議な存在であり関係性。
(それも既に
紫竜はサルヴァによって看取られ、白竜と黒竜は"大地の愛娘"ルルーテの手によって安らかに眠った。
あるいは灰竜アッシュが、今の5色にしてかつての8色にして、過去の13色目となりうる存在かも知れないが。
「お気持ちはありがたいですが、俺は竜教団に加わりに来たわけではないです」
「……ならば何用か」
「竜の加護についてお聞きしたいと思いまして」
爬人族のギョロリとした瞳がこちらへと向く。
「よろしければ最も詳しい
「貴公は信仰こそあれ、竜教団についてはあまり詳しくないようだな」
「えぇまぁ、そうです。白竜への
俺が
「竜教団にはいわゆる教祖はいない、竜こそが頂点なのだ。我らの立場は皆同じ──」
「あ~~~聞いた事はあります。でもまとめ役はいますよね?」
「"導き手"は存在する」
「ではその導き手の
「ワタシがそうだ」
数拍置いてから、俺はパチンッと指を鳴らした。
「なんと! なぜ自らが門番のような真似を?」
「見極めるのもワタシの役目だからだ」
「それは手間が
「"ライマー"だ」
俺が一礼をすると、ライマーと名乗った爬人族の導き手は──右手で胸元に
「もしかしてライマー
「その通りだ、よくわかったな」
「そりゃぁもう……今のは帝国"竜騎士"が
竜騎士見習いだったエルンストもやっていた──"竜と人の交差"を意味する礼式。
落ち着き払ったライマーの
「しかし竜騎士の身柄であれば、帝国から正式に身代金が出るのでは?」
「貴公……
「一応は、帝国の出なので」
「ワタシは秘匿任務中に火竜を
「……そうでしたか」
それ以上
竜騎士にとっての火竜は、騎獣民族の"絆の戦士"における相棒獣ほどでなくとも……強い結び付きがあると聞いている。
「話が
「えぇはい。過去に加護を得た人間が、どのように
「伝承によれば"青い髪の魔王"や、"雷鳴の勇者"がそうらしい」
「なるほど……それは実に興味深いですね」
「あと赤竜さまも過去に一度だけ、ヒトに与えたことがあるというのが竜騎士の
「ふむふむ、その加護の
俺の真剣味を帯びた質問に、ライマーは要領を得ない様子でわずかに首をかしげる。
サルヴァ・イオは定向進化によって自らを竜に近付けることで、紫竜の加護に付随した
だがもしも人の姿のままでも使えるというのであれば、俺にも
「たとえば飛竜は赤竜の加護をもって"火竜"と
「……貴公ほどの知見がありながら、竜教徒ではないというのが信じられぬ」
「まぁ少しだけ物知りなだけです。それでですね、同じ竜であれば加護の恩恵を容易に受けられるが……種が違うと扱うのは難しいとも聞いたのです」
「さしあたって雷鳴の勇者は竜人族と伝え聞いているが、"青い髪の魔王"は人の姿であったとされる」
「おぉ!! それはそれは良いことを聞きました」
英傑にしても魔王にしても昔話で知っている程度で、突っ込んで調べたことはない。
これを機に、今少し情報を集めるべき価値も出てくるというものだった。
(もう一度、赤竜と会うことがあれば
俺は竜騎士のような立場はないので、気兼ねなく質問することができる。
ただし……そもそも
「では俺からも一つ、竜についてとある秘密の情報をお教えしましょう」
「聞くだけ、聞こう」
「実は混じりっけなしの灰竜が目撃されているそうです。風の噂によれば、白竜と黒竜の
「なに……?」
「もしも真実ならば、七色から"八色竜"となるでしょう。既に地上では灰竜教徒も、ちらほら確認されているとか」
そうして俺は真偽を
それが実際に芽吹くかはともかくとして、あるいは未来で役に立つこともあろうかと。
「それではまた、後々に話をしに来るかも知れませんが……ひとまずは失礼させていただきます」
「んっ、ああ……」
眉をひそめて考えている様子のライマーに、俺はおまけで問い掛ける。
「っと、そうそう最後にもう一つだけ聞いておきたい」
「──なにか」
「もしも帝国へ帰れたなら、また竜騎士に戻りたいですか?」
「さてどうだろうな……この身が許され必要とされるならば、といったところか」
俺はフッと笑って背を向けつつ、
「なぁに、赤竜なら小言一つで許してくれるんじゃないですか」
なんのかんのヒト思いで身内思いな、かの竜の気質を考えれば……さもあらん。
そうして俺は