異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#307 牢名主 II

 

「──さてここまで聞いて監獄に残りたい酔狂な奴は、もう出て行ってくれても構わんが……」

 

 俺は目線だけを動かして穴倉内を見渡すが、さしあたってこの場から去ろうとする者はいなかった。

 

「みんな聞くだけ損はないってよ、御大将」

 

 ジンの言葉に俺は「うむ」と(うなず)いて、ざっくりと脱獄計画の説明を始める。

 

 

「まず地上組と地下組に分ける。地下組は俺の救出対象と、厳選した人材を連れて行くつもりだ」

「旦那ぁ、全員が地下からは無理なんですかい?」

「俺は実力派な地属魔術士じゃないからな、穴はぶち抜けるが長々と保持することは不可能だ。空気供給も必要だし、人数が多く我先(われさき)にとなっては困る」

 

 様相としては"蜘蛛の糸"にも似ることになる。

 人が増えればそれだけリスクも増大するし、太陽を拝んでからも全員をシップスクラーク財団側で保護・退避させることはできない。

 

 

「よって地上組は真上の"搬出入口"から予備階を経て、地上部から脱出してもらう」

「無茶を言ってくれるな御大将、だいたい先刻(さっき)言ったよな? 攻略はムリだって。大要塞の内から外へ出るのもほとんど同義だと思うが?」

「なぁジン……大要塞が不落たる理由はなんだ?」

 

「動員されている兵の数、練度、防備体制──」

「そうだな、派遣される聖騎士も含めて相当な戦力を(かか)えているな」

「一見すると孤立してるようだが、しっかりと導線が確保されていて、有事に支援を受けやすい立地と何年も戦えるだけの備蓄──」

「確かに補給もしやすく、他の軍とも連携をとって作戦展開できるのも大きすぎる魅力だ」

 

「そしてあらゆる魔術や侵入を(はば)む結界──」

「さすが魔領出身の軍人だけあって、ジンは知っているか。大要塞にあって他の防衛拠点にない最大の特徴は"結界"にある。地下だけでなく地上部にまで掛けて、隙間なく球状に張り巡らされているやつがな」

「だから地下だろうと地上だろうと、脱獄なんて不可能じゃないのか」

 

普通(・・)なら不可能だ、だが俺と俺の仲間たちは()()()()()()。大要塞を一時的な機能不全に追い込む段取りは、当然つけてある」

 

 俺はあえて突っかかってくるジンと"軍議"を重ねるように、全員へと説明していく。

 

 

「まず予備階にいる連中は俺が無力化する。そして縄や鎖があれば搬出入口から(たら)らすが、一応は幾重にも寝袋を強固に繋げて"渡し"にできるよう準備しておけ」

 

 搬出入口までは百数十メートルとあり、何人もが一斉にぶら下がっても切れないようにする必要がある。

 

「自力で登れない奴は昇降装置を使わせて、とにかく人海戦術で押し切れ。結界が消失する予定だから、防壁まで一直線で逃げろ」

「結界が消失だって……?」

「仮に囚人が全員、地上まで出られたなら結界は消失する。なぜなら俺たちの魔力を使って結界を維持しているからだ」

 

 俺があっさりと曝露(ばくろ)した結界のカラクリに、多くの者が驚いたり眉をひそめたり……あるいは得心する者もいた。

 

 

「一定数が外に出た時点で弱まるのは間違いない、そうなれば結界の破壊もそう難しいことじゃない」

「それでもし大要塞から結界外へ出られたとしてだ、御大将。そこからはどうする?」

「外に最低限の支援物資を投下する予定だ」

「そりゃありがたいが……周辺には何もないし、魔領とも接している場所だ。軍が出されて追撃されることだって──」

「大規模な追っ手を出せる余裕なんかないさ。なにせ魔領軍が攻めてくる」

 

 ジンは大きく目を見開いてから、じんわりと細める。

 

「……()き付ける準備も万端、ということか。抜け目がないな」

「"陽動"は大切だ。地上組もその一端(いったん)(にな)っているし、それすらもさらに大きな流れの一部に過ぎない」

 

 脱獄だけが目的ではない。もっと重要な大義が掲げられた以上は、打てる手はすべて利用するものである。

 

「それと俺が収集できた範囲の情報から、お前たちの親族・知人・友人など──可能な限り脱獄の(むね)を連絡してある。だからこの中にも助けに来てくれている人がいるかもな」

 

 つまり日和(ひよ)って脱獄しなければ……わざわざ危険を冒して助けにきてくれるような間柄(あいだがら)の人物が、逆に危うい状況に置かれるということ。

 そうやって心理的に追い詰めることで退路を失くし、脱獄への意欲どころか、もはや脱獄するしかないという袋小路に俺は囚人達を追い込む。

 

 

「とりあえず先陣を切るのは獣人部隊が適格だろう。魔力がなくとも身体能力も高いし、潜伏や索敵にも(すぐ)れている」

「はあ? オレたちが捨て石かよ!?」

「どのみち失敗すればその時点で、首謀者らを含めて多くが殺されるぞバラン。成功率は最大限に上げてこそだ。それに武器を最優先で持てるから、生存率は高い」

「なっ……それって"長老"が貯め込んでるってやつか?」

 

 穴倉内の全員の視線が、一斉に亜人派閥の長老モンドへと集まる。

 

「モンド殿(どの)、いいですよね?」

「そうさなぁ、どのみち死蔵しているだけのものだから構わんよ」

 

 事後承諾になってしまったが、(こと)ここに及んで断るとも思っていなかった。

 

 

「であれば、ワタシも先駆けとしてこの剣技を存分に振るわせてもらうとしようか」

「……そうですか、モンド殿(どの)には地下組特権を与えようと思っていたんですが」

「亜人派閥を統率するにも上に立つ者が必要であろうよ」

「わかりました、自由意志は尊重します」

 

 俺はそう話を閉じると、モンドも納得した様子で(うなず)いた。

 

「ってかちょっと待ってくれ、オレはもう獣人部隊を率いて地上部隊は決定してるわけか?」

「そうだな、獣人たちにも(かしら)は必要だ」

 

 俺はモンドの言葉に便乗する形で、なだめるようにバランへとそう告げた。

 元々彼を財団に引き抜くつもりはなかったので、最初から地上組であるものの……はっきり言ってしまえば(カド)が立つので穏便に濁す。

 

 

(騎獣民族との人脈(コネ)はもう不要だし、バルゥ殿(どの)やバリス殿(どの)に比べれば弱すぎるからな──)

 

 はっきり言ってしまえば、助けたところで大した役にも立ちそうにない。

 他に優先すべき人材はいくらでもいるし、彼自身には獣人群団を率いてもらう役割がある。

 

「では我々も地上組として戦わせてもらおう」

 

 マティアスはセヴェリとトルスティと(うなず)き合ったかと思うと、そう主張してくるのだった。

 

「そうか……まぁ引き止めはしない。無理やり連れていくのも面倒事の種だからな」

 

 

「ストールはもちろん、俺についてくるよな?」

「旦那の(そば)が一番安全ってなもんで、当然でやしょう? 旦那が地下へ行くってんなら地下に、地上を行くなら地上にお(とも)しますよって」

 

 "煽動屋(あおりや)"ストール──獄内でも非常に役に立ってくれたこの男は、誰よりも得難(えがたい)資質を持っている。

 彼の話術はシップスクラーク財団においても有用で、フリーマギエンスにおける、ありとあらゆる布教にも有効活用できよう。

 "文明回華"という大志において、波紋を広げる為に投じる一石となりうるだけの能力と潜在性(ポテンシャル)を秘めていると言える。

 

「ジンはどうする?」

「……御大将の判断に従う。地上で陽動しろと言うのなら、オレはその命令を実行しよう」

 

 命令系統を遵守(じゅんしゅ)する、実に元軍人らしい答えであった。

 

「そうか、ならば俺の近くで俺の役に立て」

「了解した」

 

 トロルの左腕を移植された元魔族一党のボス──"女王屍(じょおうばね)"の研究成果が存在するのならば、辿って行くのに必要な付加価値を持っている。

 さらには俺に対して異議や質問をぶつけ、(とき)に賛同することで、ココにいる全員を誘導していく有能さを見せてくれた。

 

 

(本来であればストールがその役目(あおり)をする手筈(てはず)だったんだがな……)

 

 (はか)らずも魔族一党を率いる実力者であったジンが、ストールよりも先に乗っかってきたことでより円滑(スムーズ)に場を納得させられたと言って良い。

 打ち合わせもなしに、こちらの意図や思惑を察して動ける人材……手元に置いておく以外に選択肢はないというもの。

 

「さて──噛み砕いて飲み込む時間も必要だろうから、ひとまず解散としよう。保存食糧も放出し、英気を養っておけ」

 

 俺はそれらがもはや決定事項のものとして振る舞い、異論を挟ませない態度を崩さず命令するのだった。

 

 

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